佐藤 孝一

国税庁直税部
審理室訴訟係長


 現行租税法は、法人でない社団で代表者の定めのあるもの(人格のない社団)を、法人(又は個人)とみなして、その団体を巡る課税関係を律することとしており(所法4、法法3、相法661等)、したがって、ある団体が租税法上の人格のない社団であるか否かということは、こと納税義務の主体に関する事柄であり、その判断規準の明確化は、重要な課題の一つであると考えられる。
しかるところ、この判断規準に関しては、法人でない社団の意義につき、「多数の者が一定の目的を達成するために結合した団体のうち、法人格を有しないもので、単なる個人の集合体でなく、団体としての組織を有し統一された意思の下に、その構成員の個性を超越して活動を行うものをいい」、民法の規定による組合及び商法の規定による匿名組合のようなものは含まれない、旨の示達がなされ(1)、その具体的な適用に際しては、1共同の目的のために結集した人的結合体であるか、2団体としての組織を備えているか、3多数決の原理が行われているか、4構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続することとされているか、5その組織によって、代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているか、の諸点を総合勘案すべき旨の考え方が示されているものの(2)、その総合勘案の視点、換言すれば、各要件の優先劣後ないし相互阻係が明確であるとは、必ずしもいい難い現状にある(例えば、124及び5の要件は満たすが、3に反して、その意思決定は全員一致による、としている団体が存在する場合、これを人格のない社団として納税義務の主体となし得るか、という問題がある。)ように思われる。
加えて、いわゆる熊本ネズミ講の第一審判決(熊本地裁昭59・2・27)は、構成員の範囲を確定できないとの一事をもって、天下一家の会・第一相研は人格のない社団ではないとし、第一相研に対する課税処分を取り消した(本件は、現在、福岡高裁に係属中である。)。
しかしながら、仮に、租税法上の人格のない社団たりうるためには、前記15の要件のすべてを、厳格な程度において充足しなければならないとした場合には、要件の一部が欠落し、あるいは不十分な団体は、納税義務の主体たる地位を免れることとなる。このような事態は、租税の使命たる負担の公平という見地から、看過し得ない。
そこで、本稿においでは、いわば中間者(例えば、典型的な組合と典型的な社団との中間に存する、ぬえ的存在の団体)を法律の体系に秩序づけることは、伝統的な概念的方法論では不能ないし困難であるとの問題意識から、近時、法律適用における一つの方法論として唱えられている「類型論」に依拠し、租税法上の人格のない社団の成立要件について、考察することとしたものである。

〔注〕

(1) 所基通2−5、法基通15−1−1本文に戻る

(2) 冨尾一郎監「所得税基本通達遂条解説」昭60・3 20・21頁、渡辺祐資監「コメンタール法人税基本通達」昭57・53頁、各参照本文に戻る

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