梅田 高樹

元税務大学校
研究部教授


はじめに

 昭和56年11月7日付の新聞(注1)によると、フランスのミッテラン大統領は、1982年度から富裕税を施行することとし、国民議会の可決を経て、現在は上院の通過をまっていると報道されている。
それによると、創設される富裕税は、課税最低限度を300万フラン(1億2千万円、1フランは約40円)とし、税率は、資産評価額が、1300万フランから500万フランまでは0.5パーセント、2500万フランから1000万フランまでは1パーセント、31000万フランを超えるものについては1.5パーセントの3段階に分けて課税するとしている。
また、工場設備・農地など生産に必要な財産については、500万フラン(2億円)まで控除するとしている。この新税創設により課税対象となる納税者数は約20万世帯と推定されており全納税者数の2パーセント以下といわれている。
非課税資産にはお国柄を反映してか美術品も含まれるとしており、このほか永年にわたって貯蔵されてきた年代物のワインや山林についても課税緩和の措置がとられ、特に山林については、評価額の75パーセントを控除した後の25パーセントについて課税するとしている。
ちなみに、フランスでは100万フラン(4000万円)以上の資産を持つ資産階級は全体の10パーセント程度といわれておりこれらの人々の所有する資産は、国内全資産の57パーセントを占め、依然として階級制度が残っているといわれている。
現在、国連加盟諸国のうち、富裕税が施行されている国々は、1900年代の初期に施行されたデンマーク・スエーデン・ノルウエーを始め、オランダ・西ドイツ (州税)・オーストリヤ・フィンランド・ルクセンブルグ・スイスのほかアジアにおいては、インド・スリランカ・パキスタンの12ケ国が数えられ、いづれも税率は、0.2パーセントから3パーセントといった低率で所得税の補完税としての役割を持たされている。
我国においても、昭和24年(1949年)9月の「シャウプ勧告」によって昭和25年度から導入され、施行後僅か3年にして、28年には廃止されている。その後、いく度か政治の場においても富裕税の創設について議論されてきたが、前例を踏まえた政府側の答弁によって議論がかみ合わないまま今日に至っている。
55年11月小倉武一税制調査会長から内閣へ答申された「財政体質を改善するために税制上とるべき方策について答申」によると「富裕税については、財産の評価や把握等の執行面における困難が大きく、徴税コストの高い税とならざるを得ないとする意見、現行所得税の税率構造からみて、これを導入するとしても所得税の補完税として機能する範囲はおのずから限定されたものとならざるを得ず、多くの税収を期待することは困難であるとする意見(中略)したがって富裕税については、今後の税制のあり方等との関連において引き続き検討を重ねていくことが適当であろう。」と答申されている。富裕税が廃止されてから30年になんなんとする今日、占領下という困難な時期に富裕税の執行に国税当局がいかに対処し、どのような執行が行われたのか先人の足跡を本稿とともにたどり「温故知新」の実証としてみたい。


(注1) 読売新聞(夕刊) 本文に戻る

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