中村 利雄

税務大学校
研究部主任教授


はじめに

 法人税の課税標準の一つである各事業年度の所得の金額(以下「課税所得」という。) は、商法や公正妥当な企業会計の慣行により計算され株主総会の承認等を経て「確定した決算」 (法人税法74条1項)における当期純利益又は当期純損失(以下「企業利益」という。) を基礎とし、これに法人税に関する法令の「別段の定め」による一定の調整を加えて誘導的に算出することになっている。
法人税法は、所得税法等と異なり、課税所得の計算原理ないし計算方法を税法だけで完結的、網羅的に規定することはせずに、むしろ、その相当部分は適正な企業会計の慣行に委ねている。そして、法人税法関係法令に規定のない、いわゆる白地部分は、法人の経理が適正な企業会計の慣行に従っておれば、そのまま課税所得の計算に受け入れられることとなるのである。
これを法人税法の規定について見ると、まず、課税所得は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とされ(法人税法22条1項)、次いで、この益金の額には別段の定めがあるものを除き当該事業年度の資本等取引以外の取引(いわゆる損益取引)による収益の額を、損金の額には別段の定めがあるものを除き当該事業年度の収益に対応する原価、期間費用及び損益取引による損失の額を算入することとし(同2項、3項)、そして、この収益の額及び損費(注1)の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(以下「公正処理基準」という。)に従って計算するものとされている(同4項)。すなわち、別段の定めがあるものを除き、課税所得計算上の益金の額には損益取引による収益の額を、損金の額には損益取引による損費の額を算入することとされているので、益金の額及び損金の額の中味は、原則として企業会計によって確定した収益の額及び損費の額によることとなるのである。
このように、課税所得は、公正処理基準に従って計算された企業会計上の収益の額及び損費の額ないしその差額である企業利益を基礎として、これに税法特有の規定(別段の定め)による所定の調整を施して計算されるものであるから、課税所得の概念も企業利益から誘導されたものであるということができよう。
ところで、法人が支出した費用又は損失が課税所得の計算上損金の額に算入されるかどうかの判断基準として、一般に、「通常かつ必要性」及び「事業関連性」が挙げられることが多いが、これが右のような課税所得の計算構造を採用する現行法人税法の解釈として妥当であるかどうか甚だ疑問である。、また、租税回避行為に関連して使用される法人税法固有の法的概念である「隠れたる利益処分」について、隠れたる利益処分イコール資本等取引的な用法で、「隠れたる利益処分によるものはすべて損金不算入とされている。」といった論説が多く見受けられるが、これが現行法人税法上資本等取引とされる「利益又は剰余金の分配」の解釈として妥当であるかどうかも疑問である。さらに、違法ないし不法所得が課税所得を構成することについては学説・判例ともほぼ一致しているのに対し、違法ないし不法支出金の損金性については、学説・判例とも必ずしも統一されておらず、その損金性を否定する論説には、アメリカ法にいう「公序の理論」を援用しているものが多いが、これも前述のような課税所得の計算構造を採用する現行法人税法の解釈として妥当であるかどうか疑問である。
そこで、本稿では、まず、法人税法上の損金概念と企業会計上の費用概念、債務確定基準及び資本等取引として損金不算入とされる「利益又は剰余金の分配」の範囲について概観したうえ、右の諸点を中心として費用又は損失の損金性について考察することとする。
なお、前稿(注2)では、企業利益と課税所得との関係をその積極的な構成要素である収益の額と益金の額との関係の面から考察したのに対し、本稿では、これを消極的な構成要素である費用及び損失と損金の額との関係の面から考察しょうとするものである。


(注1) 「損費」とは、一定期間に消費され又は消滅した価値量のうち、収益獲得のための諸活動に関連し、直接的あるいは間接的にその期の収益と因果関係のあるもの(費用)と収益獲得のための諸活動になんら役立たず、収益と因果関係のないもの(損失)との総称である。(編集代表番場嘉一郎「新版会計学大辞典」638頁参照) 本文に戻る

(注2) 「法人の課税所得計算と企業会計−無償譲渡等と法人税法22条2項−」税務大学校論叢11号169頁以下 本文に戻る

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