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池本 征男

税務大学校
研究部教育官


はしがき

 申告納税制度が誕生して30数年を経た今日、税務行政の使命は民主的な租税制度として定着した申告納税制度を崩壊させてはならないということであろう。申告納税制度の創草期においては、新制度になじめない納税者の著しい無申告、過少申告−大量の更正決定−異議申立− の繰返しにより、戦後という特殊事情の下ではあったが、税務行政が混乱したことは周知のとおりである。その後、税務行政に対する信頼回復に長い道程を要したことを忘れてはならない。
申告納税制度の定着、安定については、国民(納税者) の税務行政に対する理解、協力によることが大きいことはいうまでもないが、右制度の確保のための法的措置が果たした役割をも見逃すことはできない。その法的措置の一つが青色申告制度であり、更正決定のための質問検査権の制度であるが、本稿で論ずる各種加算税制度もその中に含まれるであろう。
加算税制度については、その前身である追徴税制度の時代から罰金と追徴税(加算税)の併科が憲法39条に規定する二重問責に抵触しないかという議論があるが、青色申告制度や質問検査権の問題ほどに充分な理論的解明が尽くされていない。その理由の一つには、加算税制度が時代と共に国民の納税意識、納税者感情に左右して変遷せざるを得ない点にもあるのではなかろうか。
本稿は、近年の航空機疑惑を巡る使途不明金の課税問題に当たって懲罰税率を課する制度が論議されていること(注1)を機会に、加算税制度のあり方を検討しようとするものである。加算税制度の検討に当たっては、国民の納税意識の分析や申告納税制度に及ぼす効果等についての実証的な考察が不可欠であろうが、この点については他日のこととし、本稿では、加算税制度の変遷をたどり加算税の賦課要件の解釈論を展開することによって、加算税制度の問題点を抽出することにとどめる。


(注1) サンケイ新聞54年4月1日(朝刊)は、懲罰税率の検討について次のとおり報道している。
「企業が損を承知で使い道を隠し、支払い先の税金をも肩代わりしているのは、よほどの理由があるわけだが、それでも年々増えているのは、重加算税をかけられても税金は全支出額の約60%でおさまるため、『税金さえ払えば文句はないはず』といった開き直りで堂々と使途を明かさないケースが増えているからだという。大蔵省、国税庁はこうした不正な支出は『企業のモラルの問題で是正するのは困難』(磯辺国税庁長官)としながらも、増加傾向にブレーキをかけるのにはある程度重いペナルティーを課す必要がある、として使途不明金に対し厳しい措置を講じているフランスなど各国の例を参考にして課税強化に踏み切るという。」 本文に戻る

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