伊東 稔博

税務大学校
研究部教授


はじめに

 所得税法、法人税法では、その課税の対象とする所得を規定するにあたり「資産」という概念を用いている。又相続税法では、その課税対象を「財産」という概念で規定している。しかし、いずれの税法においても、その「資産」とか「財産」の性格や範囲については、何らの限定もしていない。したがって、税法上のこれらの概念規定は、それぞれの税法の解釈に委ねられているものであるといわなければならない。
一般の社会生活関係において「資産」とか「財産」とかという場合には、ある人に属している不動産や動産あるいは有価証券などの集合している状態を意味するものであって、そこに資産家や財産家を想定するのであるが、それでは財産とは何か、資産とは何か、その両者にはどのような異同があるのかという問題になるとはっきりしない面が多い。
ところで、われわれの生活関係は、所有権の自由や契約自由の原則を基礎とする市民法秩序のもとで構成されているが、社会経済の進展につれて社会法的な見地等からする規制が必要となるに伴ない、その「自由」なる権利行使に対する各種の制限が行なわれることになる。そして、その結果としての保護の利益がいわゆる権利として認められることになる。例えば、借地、借家法上の権利や行政上の許可、認可等に伴なう事実上の権利あるいは日照権といわれるような生活環境上の権利などは、そのようなものとして理解することができる。
そして、これらのいわゆる権利については、近時、その消滅に伴なう補償をめぐる問題が多くなるとともに、その補償に対する所得税の課税に関し、その資産性が問題となっている。
本稿は、これらの課税上の問題を念頭において、所得税法における「資産」の概念について検討を行ない、その資産性をめぐる問題について借家権を中心として考察を試みようとするものである。

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