堺澤 良

税務大学校
研究部教授


はじめに

 所得税法181条から223条までに定められている所得税源泉徴収制度は、金員の支払者その他経済的利益の供与者を徴収義務者とし、この者に所得税額を天引徴収させた上、これを国に納税させることを目的とするものであり、所得税の負担者である納税義務者が直接に納付する関係には立たない建前がとられている点に大きな特徴がある。従って、この制度には、他の租税徴収手続のように説の負担者が納税義務者として租税債権者たる国に対して法律関係を持つことになるのかどうか問題の存するところである。
すなわち、源泉徴収制度は、国と納税義務者との直線的二面関係に徴収義務者が介在する仕組となっている関係上、国と徴収義務者、徴収義務者と納税義務者、納税義務者と国とのそれぞれの関係をどのように評価するかは種々議論の存するところであるが、実定法上徴収義務者を納税者として国との間に位置づける構成(国税通則法(以下「通則法」という。) 2条5号)がとられる以上、右納税者と国との間は、他の租税徴収手続の場合と同様に考えるのが相当であり、従って、納税義務者(以下「納税者」との紛別及び「徴収義務者」との関係を考慮して「受給者」と呼ぶこととする。) は、国との間における手続形成に何等の関係を持たない立場にあるとし、かつ、受給者は、申告納税の段階においては国との間に租税法律関係を持つという或る意味では割り切った法律関係に立つとみることができるのかどうか、この制度の本質に係る問題として十分に検討されなければならない。
本稿では、右制度の本質の分析を通じて、それと深いかかわりを持つ受給者及び徴収義務者の権利救済手続の範囲及び方法を探ろうとするものである。

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