下村 芳夫

税務大学校
租税理論研究室助教授


はじめに

 租税法律関係は、租税債権者たる国または地方公共団体と租税債務者たる国民との間の法律関係である。租税法律関係のうち租税債権債務関係は、各個別の租税実体法が定める課税要件の充足によって、特定の租税債務者たる国民と租税債権者たる国または地方公共団体との間に成立することになる。いわゆる租税法律主義の考え方は、この租税債権債務関係を発生せしめる課税要件を法律によって規定し、もって租税法律関係の明確性と予測可能性を与えんとするものである。
租税債権債務は、租税実体法の定める課税要件の充足によって法律上当然に成立するが、すべての租税について、その具体的内容が確定するわけではない。国税通則法(昭和47・4・2法第66号、以下「通則法」という。)は、成立と同時に確定し、なんら確定のために特別の手続を要しない国税以外の国税について、抽象的に成立した租税債権が具体的に確定するための時期および確定の方式を規定している。
ところで、このようにして成立・確定した租税債権は、基本的には租税債務者たる国民の租税債務の履行によって消滅することを原則とする。しかし、租税債権は、租税債務者の履行以外にも、免除、滞納処分の停止、消滅時効等によっても消滅する。
本稿は、上述したような租税法律関係の中で、租税債権の消滅事由の一つである徴収権の消滅時効について若干の検討を行なわんとするものである。
従来、徴収権の消滅時効に関しては、徴収権の意義そのもの解釈が確定されておらず、それが租税実体法上の租税債権そのものを意味するのか、それとも租税手続法上の徴収権を意味するのか議論の存するところであった。
また、消滅時効は、権利を行使することができる時より起算されるが、徴収権の消滅時効については、それはいつを基準とすべきかが問題となる。
さらに、徴収権の時効中断事由については、徴収権の意義をいかに解釈するかとの問題とも関連し、時効中断事由とされている各処分の性質、また、各処分を時効中断事由としたことの是非等、検討すべき事項が残されているといえよう。
  そこで本稿では、まず第一に、徴収権の意義について、通則法が規定する除斥期間との関係等からみていかに考えるのが最も合理的な解釈であるかについて検討を加えることにする。
次に、時効制度の本旨からみて、徴収権の消滅時効はいかに考えられるべきかを、私法上の時効制度との対比において考察する。また、徴収権の消滅時効の起算点は、徴収権の意義をいかに解するかにより異ならざるを得ないが、現行通則法上の建前からみてその起算点をいつとするべきかについて述べてみることにする。
そして、最後に、徴収権の時効中断事由として掲げられている各種の処分について、それが徴収権の時効中断事由とされた理由、およびそれらの処分の法的性質の究明を通じて、それらの処分が時効中断事由とされたことの合理性について検討を加えることとする。また、通則性が徴収権の消滅時効については、通則法が規定するものを除き民法の規定を準用するとしているところから、民法準用規定との関係から問題となる時効中断事由についてもあわせてこの部分で述べてみたい。
なお、徴収権の消滅時効を考察するにあたっては、附帯税および第二次納税義務の消滅時効の問題がある。これらの消滅時効については、上記の諸問題の外になお附帯税及び第二次納税義務そのものの法的性質が検討されなければ結論を下し得ない部分があると解せられるので、各々独立の節を設けて論じることにした。

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