茂木 繁一

税務大学校
租税理論研究室教授


まえがき

 租税原則にいう公平な租税とは、換言すれば担税力に応じて課された租税ということである。そして、この担税力をもっともよくあらわすものとして、所得というものがとらえられていることについては異論がないであろう。わが国の国税収入の大半(48年度予算で約70パーセント弱)が、個人や法人の所得を課税標準とする所得税、法人税で占められているのも、この担税力を直接把握して課税することが、公平への道の最短距離であると考えられているからに相違ない。とすれば、所得税法や法人税法において、所得の概念はまさに基本的概念であるといえよう。
他方一般に所得という文言については、通常それは特別な専門用語としてでなく、儲け、利得、利益等を意味する常識的用語としても使われており、この所得なる概念が学問的に問題になり、厳密な概念の確立を要するのは、経済学の分野と税法の分野とであろう。
したがって、他の分野はどうであれ、所得を課税標準とする税法において独自に定義規定をおいていれば問題もないわけであるか、税法においても、たとえば所得税法では所得の種類の分類(いわば所得概念の外延)とその計算方法は明規されている(所23〜35)が、一体いかなるものを所得というべきかという所得そのものの性質(いわば所得概念の内包)については規定がない。この点については、各国の税法とも同様であるようであるが(注1)、所得概念のこのいわば内包について明らかにすることは、いかなる収入あるいは収益が所得を構成するものであるかという基準となるものであり、この定立いかんによって、たとえば横領等による利得が所得になりうるか、無効な行為等によって生じる利得も所得になりうるか、実現された利得のみが所得であるのか等というような問題についても見解が分かれてくるのである。
本稿では、所得の概念について全面的に検討し理論構成をしようとするものではなく、観点を不法原因等による利得(窃盗、横領等の違法行為による利得、無効または取消しうる行為により生じた利得等)に対する課税の問題に絞って、この面から考察を加えることによって、所得の概念についてより明確な把握をしたいものと試みるものである。

(注1) 金子宏「租税法における所得概念の構成(一)」法学協会雑誌83巻9、10号 1251頁

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