近藤 一久

東京局直税部所得税課
税大研究科第5期生


はじめに

 国税庁は、昭和43年7月から44年6月まで、全国約99万の法人のうち、脱税の疑いがある約14万9千を選んで実地調査をした結果を発表したが、申告もれのうち、故意の不正計算など明らかに脱税をはかったとみられるものは4万7千件余りで、金額にして1千31億円に達し、これに対する追徴金額は重加算税を含めて392億円で、不正申告や計算違いが発見されたのは約11万2千件で、申告もれの総額は2千656億円、法人税額にして782億円を追徴したことを明らかにしている。脱税者の割合は実に31.5%に及び、調査を受けたものは何らかの追徴を受けたことになっている。まさに全法人総脱税者の感さえあるのである。このように脱税行為は今日では実に一般化しており、その結果、それに参加しない者は競争に負ける危険があるほどだとさえいわれている。このような風潮の中にあって、税法の予定している微税の目的達成を不可能ならしめ、これを妨げる行動に出た者に対しては税法上の違反として、その悪質な者に刑事責任を問い、課税の公平を期すことが要請されるわけである。この意味においても租税刑法のはたす役割は重大であり、問題点を多く提供する。たとえば、質問検査権をめぐる罰則の問題について、課税権行使の上で最も重要な事項につき、従来ややもすればその研究が放置されて来たうらみがあり、また、コンピューターの開発とともにその企業会計部門への導入によって従来の帳簿概念では、電子計算会計の税務上の取扱いにつき十分な処理ができなくなるおそれが生じて来ており、法人に対する課税、その犯罪能力等今日ほど租税刑法を多角的に検討しなければならない時はないであろう。このような問題について若干でも触れようとするのが本稿の目的である。

Adobe Readerのダウンロードページへ

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。Adobe Readerをお持ちでない方は、Adobeのダウンロードサイトからダウンロードしてください。

論叢本文(PDF)・・・・・・4.01MB