若林 孝三

国税庁法人税課
税大研究科3期生


はじめに

 本稿は、わが国の法人税法第132条同族会社等の行為計算否認規定の解釈適用に関する諸問題のうち次の諸点について検討しようとするものである。
問題点1 否認規定と実質課税の原則との関係
これは、この否認規定の立法主旨は何かの問題である。
この規定は、同族会社の社員の合法的脱税を防止し、同族会社と一般の会社の間の租税負担の公平を図るために、大正12年にはじめて法制化されたものである。その後、この規定の立法主旨については、「租税回避行為の否認」、「かくれたる利益処分の否認」、「実質課税の原則にもとづく否認」などのような表現でも説明されてきている。これらの主張は、いずれも租税負担の公平を実現するために、実質課税の原則にもとづいて租税回避行為を否認するという共通の基盤に立っているものと考えられるが、この考え方が妥当であるか否かを検証することによって、この否認規定の立法主旨を明らかにしてみたい。このことは、とりもなおさず、この否認規定の解釈適用について重大な指針を与えると考えるからである。
問題点2 否認の対象となる課税主体
これは、否認の対象となるべき課税主体は、同族会社のみなのか、あるいは同族会社に限らずすべての法人であるかの問題である。
この規定の創設当時においては、否認の対象となるのは同族会社のみであるとされ、この考え方は、その後引き継がれて現在に至っている。しかし最近になって、同族会社に限らず非同族会社であっても、また会社に限らず会社以外の法人であっても、この規定の立法主旨に反するような行為計算がなされた場合には、この規定を適用して否認し得るとする考え方や、また、かりにこの規定の適用がないとしても、租税負担は経済的負担であるから課税標準は取引の経済的効果によって評価されるという法人税法全体の考え方から、その行為計算を否認することができるとする考え方もでてきている。これは、従来の考え方によると、同一の行為計算について、一方では同族会社なるが故に否認されながら、他方では単に同族会社ではないという理由だけで否認されないという不公平、不合理が生ずるために主張されたものである。
この不公平、不合理を是正するために、現行規定の解釈論によってすべての課税主体の行為計算を否認することが可能であるとする根拠は何か、また解釈論が許されないとすれはどのような立法が必要であるかについて検討する
問題点3 不当と判断する基準は何か
この否認規定は、法人税の負担をダブルクォーテーション不当″に減少させるような行為計算を否認し得るとしているが、この不当性はどのような基準によって判断し、また、その基準は誰れがどのようにして決定し、その内容はどのようなものなのかの問題である。
ここでは、これらの一般的な考え方について検討する。
以上のような問題点について、わが国の学説、判例等を整理することにより検討していくことにする。
外国における行為計算否認の考え方、とくに米法におけるダブルクォーテーション正常取引″、ダブルクォーテーション事業目的の検定″などについては、ドイツにおけるダブルクォーテーションかくれたる利益処分″の考え方ほどには紹介されておらず、ましてや、わが国の判決にもまだ取り入れられていないのが現状であるので、これらについての研究は必要かつ興味のある問題である。
そこで、わが国の問題点との対比による検討を意図したのであるが、時間的、能力的限度のためまさに単なる異なった種類の法の並列に終る可能性が大であったので米法の考え方を紹介するにとどめた。したがって、米法の考え方をわが国にとり入れる可能性の有無およびその是否についてはまったく未開決の問題として残されているのである。
なお本稿は、昭和43年度税大研究科論文集に登載された拙稿「法人税法における同族会社の行為計算否認規定の研究(米国内国歳入法482条との対比を中心にして)」の一部を要約および補正したものである。

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