平成10年11月17日

(その2 デフォルト状態にない不良債権の担保不動産)

I 評価対象

1. 評価対象
本留意事項の対象は、「デフォルト状態にない不良債権の担保となっている不動産」であり、不良債権そのものではない。また、今回デフォルト状態にない不良債権の担保不動産の鑑定評価の留意事項としてとりまとめるのは、次の範囲のものとする。

1 不良債権の早期処理という社会的要請に基づいて、担保不動産を評価するに当たり、債務の返済に懸念があり、安全性を考慮することが特に要請されている不良債権(現在時点においてはデフォルト状態にないもの)の担保不動産を、不良債権の早期処理のための債権回収の中で早期に任意売却する場合の鑑定評価。

2 前記1と同様の不良債権を、前記要請に基づいて不良債権処理のために債権を売却等する場合の担保としての不動産の鑑定評価。

2. 基本姿勢
 この場合の評価の基本的姿勢としては、1対象不動産が有している収益力を的確に価格に反映させることを基本とし、2詳細な調査に基づくより確実なデータを前提とした合理的なものとすることが必要不可欠であるとともに、3早期売却の必要(売却の場合)、換価困難といった減価の必要性を的確に価格に反映させ、4調査によって判明しない部分については、原則として価格に対して保守的な評価、すなわち判明しない部分をリスクとして評価し、結果として早期売却の必要性の程度に応じた、または担保としての安全性を考慮した対象不動産が有する収益力を的確に反映した価格を求めて評価することとなるものである。

3. その他
 本留意事項で対象としているデフォルト状態にない不良債権における、債権の状態等による対象不動産の早期売却の必要性の程度等の判断については、依頼者(債権者等)に委ねることとし、必要に応じて公認会計士の判断を求めて決定することとする。

II 調査統括表

 本評価に当たって必要となる調査事項については、前回の留意事項と同様の調査統括表により作成する。
 調査事項によっては、弁護士、公認会計士、建築士等他の専門職業家の調査・判断を要する場合には、その意見を尊重し、その意見書等を添付する。
 なお、依頼者の意向(調査期間、費用による制約も含む)により、調査項目や、その精度が制約される場合は、該当項目にその旨を記載する。

III 適用手法

1. 原則
 担保としての評価に当たっては、対象不動産が有している的確な収益力を価格に反映させることを基本とする前記の評価の基本姿勢から、原則として、買い主側の価値判断としての、対象不動産の生み出す収益に基づく手法である収益還元法を採用する必要がある。
 一方、地域の特性として一般に収益性を前提としないで取引されており、適切な賃料等の収益把握が困難と判断される戸建住宅等については、市場性等の減価要素を十分織り込んだ取引事例比較法等によることが適当である。
 なお、収益還元法を原則として採用する場合においても、他の手法から求めた価格による験証および調査資料として、取引事例比較法または原価法等による試算も行うこととする。
 また任意売却のための評価は、評価に当たっての基本的姿勢が早期売却を除き共通している本留意事項による担保としての評価の場合の適用手法、適用数値等を準用してこれを標準とし、正常価格およびデフォルト状態の不良債権の場合の特定価格を求める場合のそれぞれの適用手法、適用数値等を勘案して、早期売却の必要性の程度(対象不動産の通常成約に必要な期間と債権等の状態等により許容される(前提としている)市場滞留期間との関係等)に応じて評価することとする。

(1) 有期還元手法
 本評価で用いる収益還元法は、前者の期間を保有期間とし、各年度毎の現実のキャッシュフローを分析した有期還元手法(ディスカウンティッドキャッシュフロー法(DCF法))とする。
有期還元手法の算式

(2) 転売予測価格
 担保としての安全性考慮という観点から、収益性を重視し、原則として次のiおよびiiの方法による価格を標準とし、iiiの方法による価格を参考として求める。

i n+1年以降の純収益の現在価値の総和として求める方法

ii 求める価格(未知数)に予測価格変動率を乗じて求める方法

iii 収益還元法以外で求められた価格時点の価格に、n+1年までの予測価格変動率を乗じて求める方法

2. 本手法適用上の留意事項 

(1) 評価条件
 原則として現況を所与の条件として評価し、想定条件はつけないものとする。関係当事者等の他者との合意を必要とせず、保有期間や対象不動産の価格からみて許容しうる一定の期間とコストをかければほぼ確実に達成できるものについては想定が可能であるが、虫食い土地等での隣地等との併合や一体開発は原則として想定しないものとする。

(2) 保有コストに見合う収入の得られない不動産の評価
 現況で通常想定できる収入が保有コストを下回る場合には、市場性、収益性に劣るので、担保価値がないものとして評価することとする。この場合、評価額の欄に「担保価値なし」と記載する。なお、比準価格等も比較考量する低・未利用地は、個別的要因を中心に担保適格性を判断して決定する。

3. 類型別の評価上の留意事項

(1) 商業用賃貸不動産(オフィスビル等) 

1 期間
 各年度のキャッシュフローの査定期間は、現在の日本の不動産市況(賃貸借期間が短期、先行き不透明等)を考慮し、5年程度を標準として対象不動産の収支等の予測確実性により判断する。(正常価格を求める場合より予測の確実性を厳しくみて予測確実性の高い期間は短めとする。)

2 還元利回り
 当分の間、社団法人日本不動産鑑定協会において、個別に検討された数値に基づき決定する。早期売却部分はないが、種々の減価要因によるリスク程度はデフォルト状態の債権の場合と同程度のものを適用する。

(2) 事業用不動産
 原則として、現状の業種の継続経営による企業収益に基づいて不動産に帰属する純収入を求め、収益還元法(DCF法)(不動産残余法)により求めるものとする。

(3) 住宅
 戸建住宅や郊外のファミリー型マンション等では、最終的な購入者として、近傍類似の取引価格を取引指標とする自己使用目的の最終需要者が多数想定され、地域の特性として一般に収益性を前提としないで取引されており、合理的な市場での賃貸を想定することが困難な不動産が多いので、原則として担保としての安全性(市場性、および価格の変動リスク等)の観点から市場性の減価要素を十分織り込んだ取引事例比較法等により求める。ただし賃貸が想定できるとき、および現に賃貸中であるときは、前記(1)「商業用賃貸不動産」の手法による。 

(4) 現状は低・未利用の状態にある不動産

1 追加投資により、そのままで建物建築や用途変更が可能なもの
 建物建築が可能な低・未利用地は、建物建築後転売することを想定したDCF法により求めた収益価格を標準として、比準価格等を比較考量して求める。また住宅地については対象不動産の市場性の減価要因を十分に考慮した比準価格等により求める。

2 当面、有効な建物建築想定が困難なもの
 立地条件や画地条件等により、建物建築が困難または建築しない方が収益性があると判断できるものは、駐車場や資材置き場等の土地の賃貸を想定して収益還元法(DCF法)を適用する。

IV 減価要因

1. 減価要因の評価への反映方法
 本評価においては、対象不動産自体が持つ減価要因のほか、対象不動産をめぐる各種事情による減価要因を広く把握し、これを適切に評価に反映させる必要がある。
 各種減価要因を評価に反映させるに当たっては、できる限り個別に数値化して評価することとする。個別に数値化できない減価要因は、還元利回りを構成するリスクプレミアム(危険性、流動性、管理の困難性等)の中で勘案して反映させる。
 本評価において通常の鑑定評価と比べ特に考慮すべき減価要因は、権利関係錯綜等の換価困難性ある場合(短期賃借権の存在、関係者間での紛争の存在等)が考えられる。また、売り主(所有者)は現在時点では通常瑕疵担保責任負担能力を必ずしも失ってはおらず、売り主の瑕疵担保責任負担能力による減価は原則として行わないが、依頼者(債権者等)より現所有者に瑕疵担保責任負担能力がないと判断されている場合は、減価要因として考慮する。
 なお、担保としての評価を行う場合はデフォルト債権の場合ほどの換価の緊急性はないので、早期売却による減価の験証は行わない。
 一方、任意売却のための評価の場合は、デフォルト状態にある不良債権の担保不動産と同様に、債権者にとって合理的な価格であることの験証のため、競落想定時点における予想最低売却価額を、保有リスク等を織り込んだ還元利回りで割り戻した価格から管理コストの現価を差し引いた価格との比較を行う。

2. 換価困難性についての評価 

(1) 減価の考え方
 換価困難性のある不動産については、最悪でも法的整理による強制的手段により解決できることを前提として、それに要する期間とコストを考慮して減価額を判定する方法を採用する。

(2) 減価額の算定
 事実上の障害および法律上の障害に基づく減価額は、解決するのにかかるコストおよび期間をもとに、キャッシュフローの算定上反映させるが、それが困難な場合はランクに応じた減価を一括して行う。

3. 類型別減価要因
 担保としての安全性(市場性、価格および収益の変動リスク等)確保の観点から、対象不動産の類型、用途に応じ、調査統括表に基づいて各種減価要因を把握し、その内容により、市場性の減価を十分に配慮して適切に減価額または減価率あるいは利回り格差を査定する。

4. 調査によって明らかにできない事項があるときの減価の取り扱い
 調査・確認できない事項については、担保としての安全性(市場性、価格および収益の変動リスク等)確保の観点から、最低・最悪の状態を想定する。さらにこの想定によっても、なおさらなる負担が懸念される減価可能性があるときには、適切な一定率の減価もしくはリスクプレミアムの加算により減価を行うこととする。

V 評価額の決定

1 担保として評価する場合
 鑑定評価額は、対象不動産が賃貸用不動産および事業用不動産である場合には、原則としてキャッシュフローを重視した収益還元法による収益価格から求めた価格(各種減価要因による減価後)を評価額として決定する。
 また、地域の特性として一般に収益性を前提としないで取引されており、適切な賃貸等の収益把握が困難と判断される戸建住宅等および同用途の住宅地については、比準価格および積算価格等から求めた価格(各種減価要因による減価後)を評価額として決定する。
 低・未利用地等については、追加投資により、そのままで建物建築や用途変更が可能なもの(前記住宅地を除く)は収益価格を標準とし、比準価格等を比較考量して決定するものとし、建物建築が想定できないものは、収益価格を評価額として決定する。

2 任意売却の場合
 鑑定評価額は、前記III1で述べたように、評価に当たっての基本的姿勢が早期売却を除き共通している前記1の担保として評価する場合の適用手法、適用数値等を準用してこれを標準とし、早期売却の必要性の程度に応じて、正常価格およびデフォルト状態の不良債権の場合の特定価格を求める場合のそれぞれの適用手法、適用数値等を勘案した、適切な手法や数値等を適用して評価し決定することとする。

以上


 適正評価手続に基づいて算定される債権及び不良債権担保不動産の価額の税務上の取扱いについて(10.12)

  1. 日本公認会計士協会、日本不動産鑑定協会からの照会に対する回答
  2. 日本公認会計士協会からの照会
  3. 日本不動産鑑定協会からの照会(その1)
  4. 日本不動産鑑定協会からの照会(その2)