平成10年10月28日
日本公認会計士協会

本報告書の目的

1. 本報告書は、銀行等金融機関等が不良債権等を流動化(売却、証券化等)する際の、貸出金等債権(以下「債権」という。)の売買価値を適正に評価する方法とそれを担保する手続に関する実務上の指針を提供するものである。

銀行等金融機関の貸倒引当金等の設定との関係

2. 銀行等監査特別委員会報告第4号「銀行等金融機関の資産の自己査定に係る内部統制の検証並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針」(平成9年4月15日 日本公認会計士協会)(以下「報告第4号」という。)は、銀行等金融機関の貸倒償却及び貸倒引当金の計上に関する監査上の取扱いを示している。報告第4号は、銀行等金融機関の保有する債権に対する会計上の見積もりである貸倒償却及び貸倒引当金を対象としており、取得原価主義を基礎としている。
 一方、本報告書は、財務諸表作成のための会計基準とは異なり、債権の流動化のための評価を目的としている。したがって、債権の売買価値は、流動化によってもたらされるキャッシュ・フローの現在価値によって測定される。

適正評価方法の対象となる債権

3. 本報告書が対象とする債権は、銀行等金融機関の資産の自己査定により分類された不動産担保付債権が中心となるが、それに限らずその他担保・保証付債権及び無担保債権も含まれる。
 対象となる債権は一契約毎の債権金額全体を一体として扱ったものであり、債権の資産分類別の評価を行うものではない。


債権の評価方法

4. 流動化目的の債権の適正な売買価値は、流動化目的の債権が主として投資対象として取得されることや、投資採算の測定が債権から得られる将来のキャッシュ・フローのみによるところから、流動化によってもたらされるキャッシュ・フローの割引現在価値によって測定される。割引現在価値の算定にあたっては、将来キャッシュ・フローに対しての評価日から回収日までの時間の経過と回収の不確実性を考慮するのが適当であるとの立場から、評価日現在の市場金利水準に一定の信用スプレッドを加えた利率で割引を行う。なお、将来のキャッシュ・フローは、合理的で最善の見積もりにより算出されなければならない。

他の評価方法との関係

5. 本報告書において不動産収益還元評価法としているのは、日本不動産鑑定協会のとりまとめた適正評価方法を指す。当該方法は、流動化目的の不動産の適正評価、又は、もっぱら担保不動産からの収入しかキャッシュ・フローがない債権の適正評価に使用する。

正常先債権の適正評価

6. 正常先債権を流動化する場合の適正評価は、当該債権の契約条件に従って元利金の返済スケジュールを満期日まで見積もり、債権キャッシュ・フロー割引法(以下「債権CF割引法」という。)により適切な割引率で割引現在価値を計算することによって行う(債権CF割引法は、付録2及び付録3参照)。
 割引率は、評価日現在の債権の満期日までの期間に対応する国債の利回り等適切な指標に信用スプレッドを上乗せした利率を使用する。
 なお、割引率は経済環境及び金融、不動産市場環境の変化に対応して変更される。

正常先債権以外の債権の適正評価

7. 正常先債権以外の債権を流動化する場合の適正評価は、元利払いの履行状況、債務者の財務内容、担保の状況等を勘案し、次のステップにより実施する。

元利払履行継続テスト

8. 次の条件をすべて満たす債権は、元利払履行中として扱う。

(1) 債権の元利金の支払遅延は30日未満で、その他の契約条件が遵守されていること

(2) 財務上の事由により、過去に金利減免・棚上げ等貸出条件の緩和は行われたことがないこと

 上記条件を満たし、次の将来履行懸念テストに問題のない債権は、債権CF割引法により評価する。

将来履行懸念テスト

9. 将来の元利金の返済履行を確実に行わなくなる原因となる事象(例えば、将来の巨額一括返済に必要なキャッシュ・フローの不足)が存在するか、又は、将来債務不履行になる可能性があるかを検討する。

債務者テスト

10. 元利払履行継続テストを満たさない場合は、債務者テストを実施する。
 債務者テストでは、債権の担保として提供されている資産以外を原資として元利金を返済する能力があるか否かを検討する。事業収益により生み出される営業キャッシュ・フロー、担保に提供していない金融資産、不動産、投資等、又は第三者からの資金提供があれば、債務者が元利金の返済を履行できる可能性がある。
 債務者テストを満たし、将来履行懸念テストに問題がない場合は、債権CF割引法を使って評価する。債務者テストを満たさない場合、又は債務者テストは満たすが将来履行懸念テストを満たさない場合は、再建計画の有無により評価方法を決定する。

再建計画

11. 債務者が再建計画をもっている場合は、その再建計画の合理性及び実行可能性を検討し、再建計画によるキャッシュ・フローに基づく債権CF割引法を使って評価する。
 再建計画があっても、当事者(取締役会、金融機関、債権者等)の合意が得られていない場合や再建計画に合理性及び実行可能性がない場合は、再建計画はないものとして扱う。
 再建計画がない場合は、債権の担保として不動産が提供されているかどうかによって適用する評価方法が異なる。

複合評価法

12. 再建計画に問題がある場合、あるいは再建計画が存在しない場合は、将来債務不履行となることを仮定した上で、下記の複合評価法により評価する。採用する仮定については、債権の売買当事者間で合意することが望まれる。

(1) 評価日から債務不履行の日までは、債権のキャッシュ・フローがあれば債権CF割引法を使う。

(2) 債務不履行の日から担保不動産の取得日までは、担保権行使シナリオ評価法を使う(担保権行使シナリオ評価法は、付録4参照)。

不動産収益還元評価法

13. 不動産担保貸出金のうち、もっぱら担保不動産からの収入又はその処分収入しか返済原資が見込めないものについては、不動産収益還元評価法を使用して評価する。この方法の適用が適当である債権は、不動産担保貸出金が実質的に担保不動産を所有していることと同じである場合である。

保証及び不動産以外の担保

14. 不動産担保貸出金以外の債権については、その債権に対する保証及び不動産以外の担保がある場合、当該保証の価値及び当該担保の処分による回収見込額により評価する。
 保証履行は、保証人の履行能力に疑問があることが多い。
 優良保証を除けば、保証の価値は、次のいずれかの小さい金額の10%として計算するが、実状にあわせて増減できるものとする。

(1) 債権残高・未収利息残高及び法的費用の合計金額から不動産以外の担保の評価額を控除した金額

(2) 最高保証金額

 不動産以外の担保の評価は、市場における時価から処分のための費用を控除して計算する。
 時価のないものについては、処分により回収できる金額を合理的に見積もる。

無担保又は無保証の債権

15. 担保又は保証が付されていない債権は、担保、保証付債権及び法律上の優先債権(税金、労働債権等)の返済に充当するキャッシュ・フロー以外のキャッシュ・フローによってしか弁済を受けることができない。
 法的整理が行われる場合は、その形態によって回収できる金額を見積もる。

債権の適正評価の担保手続

16. 債権の適正評価が確実な基礎資料に基づいて行われているかを担保する手続として、債権関係、債務者関係、保証人関係及び担保資産関係等の法的関係の確認又は内容の分析等を行う必要がある。

債権関係

17. 流動化対象債権について、流動化を実施する時点において、当該債権の保全手続が適法に行われていることを金銭消費貸借契約書及び関連原始資料を閲覧することにより確かめる。その際、当初貸付残高、貸付日、返済期日、利率、現在における延滞元本残高合計額、延滞利息合計額、延滞日、根抵当権、抵当権の設定日、設定者、資産所有者、債務者及び設定額等を確認する。
 過去12か月における債務者による返済状況を把握し、最終元利金支払日から5年近く経過している場合は、時効の成立を中断する手続が適切に行われていることを確認する。

債務者関係

18. 直近の財務諸表その他の資料を使用して債務者の返済能力を分析する。
 債務者が破綻先である場合は、法的手続(会社整理、破産、和議、会社更生法、清算、特別清算)又は、任意整理手続がどのように進められているかを関連書類から把握し、担保以外による債権回収の可能性を検討する。更に、債務者の債権者との対応が協力的か否か、また、反社会的勢力との関係の有無を債権者が保管する文書ファイル等で確認する。

保証人関係

19. 保証の有効性を確かめるため、保証約定書を査閲する。また、保証人の返済能力の有無を直近の財務諸表等を使用して分析する。

担保資産関係

20. 不動産担保の場合は、不動産収益還元評価法を用いた不動産鑑定士による評価書を入手し、査閲する。
 不動産登記簿謄本にて下記の事項を確認し、抵当権及び根抵当権が適法に成立していることを確かめる。なお、登記簿謄本は、すべてのページが揃っていること、及び最新に取り寄せられたものであることを確認する。

(甲区) 所有者名、所有権移転日、破産・差押・更生手続開始の有無(日付)

(乙区) 抵当権者(各順位)、抵当権設定日、設定額・極度額、債務者名、共同担保設定の有無、先順位優先額、同順位債権者の有無、後順位債権者数、賃借権・地上権等の設定の有無

(その他) 敷地権の設定の有無

合意の上確認する事項

21. 担保物件の価値に影響を与える事項の有無を確かめるため、依頼者と合意した手続を実施する。確認事項の例としては、以下のものがある。
 なお、弁護士、不動産鑑定士等他の専門家と分担して手続を実施することが適切な場合が多いことに留意する。

・ 公図等を参照し、地番等の不整合の有無

・ 写真・地図により登記簿上の記載の正しいことの確認

・ 写真・地図により未登記建物(例えば、プレハブ小屋)がないことの確認(未登記建物が担保権設定日よりも先に建てられたケースでは、地上権が発生する可能性がある。)

・ 借地権等登記簿に登記されていない権利を含め建物の敷地利用権の確認

・ 先順位の抵当権者がいる場合の抵当権の金額の把握

・ 抵当権の実行及び担保物件の処分を制限する事項の有無(短期賃借権の設定、農地法や都市計画法などの法令上の規制等)

・ 優先滞納税の金額の把握

・ 抵当物件に関する賃貸借契約書を入手し当該賃借権の内容の把握、賃借人との係争関係の有無及び占有者との関連の調査

・ 賃借料及び敷金の一覧表を入手し、著しく相場からかけ離れた金額にて賃貸借されているもの及び賃借料滞納の有無

・ 賃料の差押の可否

・ 抵当物件が賃貸以外の特定の事業用不動産(例えば、ゴルフ場、ホテル等)として使用されている場合には、その事業の収益状況の把握

競売の場合

22. 担保物件についての競売申立がなされている場合、競売関連資料を入手し、競売開始決定日・入札期限・競売回数・最低入札価格の情報を確認する。こうした情報から物件が競売によりいつ処分されるか検討する。

任意売却の場合

23. 仲介業者の価格の妥当性(例えば、債務者が自己と関係がある仲介業者の利用を主張したかに留意する。)及び任意売却がいつ成立するかを検討する。また、売却価額から減額される下記の事項についても留意する。

・ 後順位者が要求したハンコ代の把握

・ 任意売却の場合と競売の場合との売却価格の比較

・ 債務者が任意売却に協力的か否かに関する情報の入手

・ 各担保物件ごとに過去の買取り提示の実績を調べ、物件自体の市場性の確認


 適正評価手続に基づいて算定される債権及び不良債権担保不動産の価額の税務上の取扱いについて(10.12)

  1. 日本公認会計士協会、日本不動産鑑定協会からの照会に対する回答
  2. 日本公認会計士協会からの照会
  3. 日本不動産鑑定協会からの照会(その1)
  4. 日本不動産鑑定協会からの照会(その2)