平成10年9月22日

不良債権担保不動産の適正評価手続における不動産の鑑定評価に際して特に留意すべき事項について(概要)

I 評価対象

 本留意事項の対象は、「デフォルト状態にある不良債権の担保となっている不動産」であり、不良債権そのものではない。
 デフォルト状態にある不良債権の担保不動産の評価に当たっては、対象不動産を市場で早期に換価することにより、確実に回収できる額を見積り査定することが必要になる。この場合の評価の基本的姿勢としては、1対象不動産が有している収益力を価格に的確に反映させることを基本とし、2詳細な調査に基づくより確実なデータを前提とした合理的なものとすることが必要不可欠であるとともに、3早期売却の必要、換価困難といった減価の必要性を的確に価格に反映させ、4調査によって判明しない部分については、原則として価格に対して保守的な評価、すなわち判明しない部分をリスクとして評価し、結果として対象不動産が確実に有する収益力を反映した、いわば最低価格を求めて評価することとなる。

II 調査統括表

 本評価に当たって必要となる調査事項については、別紙の調査統括表により作成する。
 調査事項によっては、弁護士、公認会計士、建築士等他の専門職業家の調査・判断を要する場合には、その意見を尊重し、その意見書等を添付する。 
 なお、依頼者の意向(調査期間、費用による制約も含む)により、調査項目や、その精度が制約される場合は、該当項目にその旨を記載する。

III 適用手法

 前記の評価目的から、買い主は、自己利用を目的とする最終需要者ではなく、比較的短期間での転売を予定する限られた投資家が想定される。したがって、採用する収益還元法の手法としては、特にこのような投資家の価値判断に沿った、予測可能な将来のキャッシュフローを重視した手法が適切である。 
 一方、地域の特性として一般に収益性を前提としないで取引されており、適切な賃料等の収益把握が困難と判断される戸建住宅等については、取引事例比較法等(転売前提)による。
 なお、収益還元法を採用する場合においても、他の手法から求めた価格による検証および調査資料として、取引事例比較法または原価法等による試算も行うこととする。

1. 原則

(1) 有期還元手法
 本評価で用いる収益還元法は、各年度毎の現実のキャッシュフローを分析した還元手法(ディスカウンティッドキャッシュフロー法;DCF法)とする。

(2) 転売予測価格の求め方
 転売予測価格の求め方としては、本評価においては、投資価値判断という観点から、次の二つの方法を原則とする。
i 求める価格(未知数)に予測価格変動率を乗じて求める方法
ii n+1年以降の純収入の現在価値の総和として求める方法

2. 本手法適用上の留意事項 

(1) 評価条件
 原則として現況を所与の条件として評価し、想定条件はつけないものとする。関係当事者等の他者との合意を必要とせず、投資期間や対象不動産の価格からみて許容しうる一定の期間とコストをかければほぼ確実に達成できるものについては想定が可能であるが、虫食い土地等での隣地等との併合や一体開発は原則として想定しないものとする。

(2) 保有コストに見合う収入の得られない不動産の評価
 現況で通常想定できる収入が保有コストを下回る場合には、投資価値がないものとして評価することとする。この場合、評価額の欄に「投資価値なし」と記載する。

3. 類型別の評価上の留意事項

(1) 商業用賃貸不動産(オフィスビル等) 

1 投資期間
 各年度のキャッシュフローの査定期間は、現在の日本の不動産をめぐる状況(賃貸借期間が短期、先行き不透明等)と不良債権担保不動産であること(買い主の投資期間が比較的短期等)を考慮し、2〜5年程度とする。

2 還元利回り
 当分の間、社団法人日本不動産鑑定協会において、個別に検討された数値に基づき決定する。 

(2) 事業用不動産
 賃貸用不動産を除く収益用不動産すべてが含まれる(ホテル、デパート、パチンコ店等)。原則として、現状の業種の継続経営による企業収益に基づいて不動産に帰属する純収入を求め、収益還元法(DCF法;不動産残余法)により求めるものとする。

(3) 住宅
戸建住宅や郊外のファミリー型マンション等では、最終的な購入者として、近傍類似の取引価格を取引指標とする自己使用目的の最終需要者が多数想定され、地域の特性として一般に収益性を前提としないで取引されており、合理的な市場での賃貸を想定することが困難な不動産が多いので、原則として取引事例比較法等を適用して求めるものとする。ただし賃貸が想定できるとき、および現に賃貸中であるときは、前記(1)「商業用賃貸不動産」の手法による。 

(4) 現状は低未利用の状態にある不動産

1 追加投資により、そのままで建物建築や用途変更が可能なもの
 対象不動産の最有効使用に応じ、建築後転売することを想定して各手法を適用する。

2 当面、有効な建物建築想定が困難なもの
 立地条件や画地条件等により、建物建築が困難または建築しないほうが収益性があると判断できるものは、駐車場や資材置き場等の土地の賃貸を想定して収益還元法(DCF法)を適用する。

3 不整形地等
 分割が容易な不整形地で、分割して使用収益したほうがよいと判断できる場合は、分割後の最有効使用に応じ、前記1または2に区分して、それぞれの手法を適用し、求められた評価額を合計して評価する。

IV 減価要因

1. 減価要因の評価への反映方法
 本評価においては、対象不動産自体がもつ減価要因のほか、対象不動産をめぐる各種事情による減価要因を広く把握し、これを適切に評価に反映させる必要がある。
 各種減価要因を評価に反映させるに当たっては、できるかぎり個別に数値化して評価することとする。個別に数値化できない減価要因は、還元利回りを構成するリスクプレミアム(投資対象としての危険性、流動性、管理の困難性等)の中で勘案して反映させる。
 本評価において、通常の鑑定評価と異なる考慮すべき減価要因は、次に掲げるものが考えられる。

イ 債権者(売り主)にとって早期売却の必要性があること

ロ 売り主の状況を考慮しなければならないこと(瑕疵担保責任の負担能力を喪失していること等)

ハ 権利関係錯綜等の換価困難性がある場合(短期賃借権の存在、関係者間での紛争の存在等)

2. 早期売却の必要性についての評価
 競落予想時点の予想最低売却価額を現在価値に割り戻した価格および通常の取引価格(正常価格)から早期売却による減価をした価格との験証を行う。

3. 所有者(売り主)の状況による減価についての評価
 所有者に瑕疵担保責任の実質的な保証能力がないことによる減価を考慮する。

4. 換価困難性についての評価 

(1) 減価の考え方
 換価困難性のある不動産については、最悪でも法的整理による強制的手段により解決できることを前提として、それに要する期間とコストを考慮して減価額を判定する方法を採用する。

(2) 換価困難性の内容 

イ 対象不動産の全部または一部に対して不法占拠者が存在している

ロ 対象不動産に用益権等が(妨害意図をもって)付着せしめられている

ハ 暴力団関係者による、買受人に対抗可能な賃借権による占有等がある 

ニ 留置権、詐害的短期賃借権、仮装の賃貸借等がある

(3) 減価額の算定
 事実上の障害および法律上の障害に基づく減価額は、解決するのにかかるコストおよび期間をもとに、キャッシュフローの算定上反映させるが、それが困難な場合はランクに応じた減価を一括して行う。

5. 類型別減価要因
 対象不動産の類型、用途に応じ、調査統括表に基づいて各種減価要因を把握し、その内容に応じて適切に減価額または減価率、あるいは利回り格差を査定する。

6. 調査によって明らかにできない事項があるときの減価の取り扱い
 調査・確認できない事項については、合法性、合理性を有する現実的な最低、最悪の場合を想定した(たとえば収支の査定においては「最小限の収入、最大限の支出」)条件を設定したうえで評価する。さらにこの想定によっても、なおさらなる負担が懸念される減価可能性があるときには、適切な一定率の減価もしくはリスクプレミアムの加算により減価を行うこととする。

V 評価額の決定

1. 原則
 対象不動産が賃貸用不動産および事業用不動産である場合の評価額は、原則としてキャッシュフローを重視した収益還元法による収益価格から求めた価格(各種減価要因による減価後)を評価額として決定する。
 また、地域の特性として一般に収益性を前提としないで取引されており、適切な賃貸等の収益把握が困難と判断される戸建住宅等については、比準価格または積算価格等から求めた価格(各種減価要因による減価後)を評価額として決定する。

2. 例外
 収益価格を評価額として決定するに際しては、験証手段として求めた比準価格、積算価格等との比較を行い、収益価格よりも比準価格または積算価格等が低い価格となる場合は、いずれか低いほうの価格をもって評価額とする。


 適正評価手続に基づいて算定される債権及び不良債権担保不動産の価額の税務上の取扱いについて(10.12)

  1. 日本公認会計士協会、日本不動産鑑定協会からの照会に対する回答
  2. 日本公認会計士協会からの照会
  3. 日本不動産鑑定協会からの照会(その1)
  4. 日本不動産鑑定協会からの照会(その2)