【答え】

正解は、3.の軍馬です。

【解説】

士官クラス以上の軍人の中には「乗馬本分」と乗馬が義務付けられていた者がいて、この乗馬用の軍馬の飼育料が課税対象となっていたのです。中でも上級軍人は自馬を使用することとされ、それ以外の士官は陸軍省より馬が貸与されました。どちらの馬の飼育料(陸軍給与令では「馬糧代金及馬匹繁畜料」と呼んでいました。)も陸軍省から支給されましたが、大蔵省は、自馬の飼育料は所得税の課税対象であるとしました。
 しかしながら、自馬を使用する軍人たちの多くがこれを不服とし、審査請求を申し立てたのです。
 この時の審査請求がどのように判断されたのかは、残念ながら史料が残っていないため不明ですが、明治39(1906)年に、税務監督局が税務署に対し自馬の「馬糧代金及馬匹繁畜料」には必ず課税するよう通達を出しており、軍人たちの審査請求後も自馬の飼育料は所得税の課税対象とされていたと考えられます。おりしも、日露戦争後の税制整理のため明治39年に大蔵省内に税法審査委員会が設置され、所得税の減税も議論されました。その中でこの「馬糧代金及馬匹繁畜料」に対する課税問題も検討されました。税法審査委員会は、本来「馬糧代金及馬匹繁畜料」は、政府が馬匹を飼育して軍人に乗用させるべきものを、政府の飼育の煩を避ける「便宜手段」として交付しているものなので課税対象とするべきではないと提言しました。
 この提言をもとに、税制整理法案の一部として減税・負担権衡を目的とした所得税改正法案が帝国議会に提出されましたが、米価の低落や大規模水害などと重なり、所得税改正法案は何度も否決されたのです。その後、大正2(1913)年に所得税改正法案が成立し、この結果、ようやく「乗馬ヲ有スル義務アル軍人カ政府ヨリ受クル馬糧・繁畜料及馬匹保続料」は全て非課税となったのです。
 ところで、現在、国税に関する不服申立制度の専門機関として国税不服審判所があります。
 昨年、令和2(2020)年は、国税不服審判所が設置されて50周年にあたる大きな節目となる年でした。
租税史料室では、昨年10月から本年9月の間、「審査請求制度の変遷」と題した特別展示を開催しております。審査委員会制度を中心に、当室所蔵の史料の中から関わりの深い史料、例えば徳冨蘆花氏が行った審査請求、あるいは森繁久彌氏主演の協議団PRビデオなど、ユニークなものも含めて展示しております。

(研究調査員 今村千文)