【答え】

1.法人の所得に対する第1種所得税

【解説】

 減免の対象から外されたのは、1の法人の所得に対する第1種所得税です。
 この関東大震災が起きた時期は、法人税法がまだ存在せず、所得税法の中で、法人の所得に対する第1種所得税、利子の支払に対する第2種所得税及び個人の所得に対する第3種所得税が別個に規定され、それぞれの所得税が別々に課税されていました。
 そのうち、当時の個人の所得に対する第3種所得税は、前年以前の収入、経費を参考とした見込みの所得金額を基に課税する制度であったため、災害が発生した年分において災害による損害額を控除する仕組みはなく、住宅、家財の損害に係る現在の雑損控除のような規定もありませんでした。
 また、営業税(のちの事業税)は、前年の外形標準に基づき賦課課税され、納期はその年の6月、11月の2回であり、第一期の6月分は既に納税されていましたので、営業上非常な打撃を被った納税者に対しては、第二期分を全免する、あるいは、それを超える損害を被った納税者に対しては、第一期分の税金を還付する必要もありました。
 そのため、第3種所得税と営業税は、臨時の特別立法を行って、特別に控除を認めることにしたのです。つまり、震災発生からわずか11日後の9月12日には、緊急勅令により第3種所得税と営業税について減免する概括的な方針が示され(勅令第410号)、その後の9月30日には、施行勅令(勅令第433号)により、初めて第3種所得税と営業税の減免に関する特例が設けられました。ここでは、三つの所得税のうち関東大震災による被災者の救済手段の対象となったのは、個人の所得に対する第3種所得税だけでした。
 法人の所得に対する第1種所得税は、個人の所得に対する第3種所得税や営業税と異なり、事業年度ごとの純利益に対する課税でしたので、実質的に所得税法自体に損害額の控除が備わっているとして、特例の対象から外されたのです。また。利子の支払に対する第2種所得税は、納税者の他の所得と合算せずに利子が支払われる際に源泉徴収される仕組みであったため特例の対象とすることは見送られました。
 その後、災害を受けた場合の税金の減免に関する法令が整えられていきました。昭和14(1939)年には、災害減免法が公布され、税目を個別に指定して適用するのではなく、全ての国税及び地方税が適用範囲になりました。この法律により、その都度必要であった特別立法(及び国会審議)という手続を待たずに、政府の命令によって対象となる災害の指定や減免する範囲などを定めることが可能になりました。さらに、災害減免法は、昭和22(1947)年に全文改正され、減免などの特例が法律自体に組み込まれ、被災者へのより迅速な対応が可能になりました。
 また、昭和25(1950)年の所得税法の改正で、雑損控除の規定が加わり、被災者は、災害減免法の適用と所得税法の雑損控除の適用のうち、自分に有利な方を選択することが可能になりました。

(研究調査員 舟橋明宏)