問い

 近年、ドラマ化の影響もあり、司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』やその主人公の秋山兄弟が人気です。この作品は、日清日露戦争をトピックに日本の近代化の過程をダイナミックに描いています。
 小説にも描かれていますが明治10年代後半の日本は、朝鮮半島をめぐって清国と緊張関係にあり、軍備増強、特に海軍力の強化が急務となりました。明治15年12月、政府は軍拡8ヵ年計画を決定し、翌16年度から軍事費は国家歳出額の2割以上を占めるようになったため、ある身近な調味料への課税が復活しました。その調味料とは、何でしょうか。

答え

醤油(しょうゆ)

解説

 江戸時代、醤油については、清酒、濁酒(だくしゅ(にごり酒のこと))とともに「三造」(みつくり)の一つとして、幕府等が株を発行して製造者を限定し、冥加金(みょうがきん)という税を課していました。明治維新後も新政府はそれを踏襲しますが、明治4年7月の清酒濁酒醤油鑑札収与並収税方法規則(せいしゅだくしゅしょうゆかんさつしゅうよならびにしゅうぜいほうほうきそく)により、旧幕府時代からの醤油造株(ぞうかぶ)鑑札(免許状の一種)を廃止して免許料1両1分で新規に免許鑑札を交付し、新たに免許税(稼ぎ人一人につき毎年3分)と醸造税(毎年醤油代金の0.5%)を課税するようになります。しかし、明治8年、醤油は酒とは違い日用の生活必需品であり、ぜいたく品ではないことから、課税するのは不当であるという意見により、醤油税は廃止されました。
 ところが、日清関係の緊張により軍備拡張が急務となったため、明治18年に醤油税は復活し、醤油の製造所1箇所につき5円及び製造高1石(約180リットル)につき1円の税金が課されるようになりました。
 日清戦争後、日本の財政は急激に膨張し、さまざまな税目で臨時増税が行われましたが、醤油税は日用必需品への課税という観点から、増税は低く抑えられました。たとえば、日露戦争の戦費調達を目的とした非常特別税法では、酒造税の場合は明治37年4月と翌38年1月と2度の増税が図られ、清酒1石につき15円から17円に引き上げられたのに対して、醤油に課される税は明治37年4月に1石につき2円の税率が2円50銭に引き上げられたのみで第2次の増税は見送られています。
 さらに醤油税は、日常必需品への課税のため、廃止すべきという意見が明治末ごろから起こります。そして、大正15年の税制の抜本改革に伴い、廃止されました。