NETWORK租税史料
 今回は、明治21(1888)年に創刊された『醸造雑誌』の附録うち、税に関わるものをいくつかご紹介します。同誌は、栃木県の酒造家である海老原幸二郎によって創刊された雑誌であり、酒造業者への新技術の紹介や酒造技術の指導に資することを主眼としており、一部には附録が付いていました。『醸造雑誌』そのものも、租税史料室以外では国立国会図書館や東京大学などの限られた機関で閲覧できる貴重な雑誌ですが、その附録は付随品であるため散逸の可能性が高く、残存していること自体が貴重です。
 『醸造雑誌』は酒造に関わる雑誌ですが、税にかかわる政治の動向や法規則の改正などにも対応しており、附録では国会における税制の議論や提出された税法に対する同誌の立場が見られます。
図1 【写真1】
図2 【写真2】
図3 【写真3】
 【写真1】は「大江代議士の間税法案」と題する明治24(1891)年11月に発行された『醸造雑誌』第74号の附録です。同附録は、第二回帝国議会に自由党の大江卓が提出した間税法案を『醸造雑誌』上で取り上げたにもかかわらず、関係業者のなかから「未だ嘗て何等の意見を報道し来りたる者」がなく「対岸の火災視」していると、大江案に関係業者が賛否の態度を示さないことに不満を吐露しています。大江案の主眼は、国庫の実収入の増加を図るべく、徴税手続きを簡略化してコストを減少させるために、酒造税や煙草税の営業人組合を結成させ、同組合に徴税を負担させることにありました。さらには滞納に関しても同組合に連帯責任を負わせることで、徴税を確実なものにすることも企図していました。
 続けて同附録は、「此法案を熟読含味」したうえで、「右法案大体の賛否理由及び其各條項の賛否理由をして通報せられよ」と、大江案について関係業者が賛否の態度を表明することを求めています。このように、附録は単に税制の紹介などにとどまることなく、税に関わる政界の動きにもフォーカスしながら、関係業界の議論を喚起する役割を果たそうともしていました。
 【写真2】は、「注意!!!去る六日の衆議院」と題された、明治30(1897)年3月発行の『醸造雑誌』第243号の附録です。同附録では酒造税法の改正案、さらには自家用酒造税法の改正案が提出された同月の衆議院における動向に焦点が当てられます。前者は、新たに濁酒の酒造免許を受けようとする者の条件を厳格化し、後者は自家用酒の製造を行う者に毎年度二円の製造税を課し、一石を超える自家用酒の製造を禁じようとする内容でした。もっとも両法案については、第一読会で提出議員が十分な趣旨説明をする時間を与えられずに委員会審議に付託されたようです。それゆえ、附録は同法案が十分に議論されないことを懸念しながら、「委員の調査を了りて再び花々しく衆議院の演壇に上りて論戦幾もみ勝鬨を挙ぐるの日を待つて読者に報道せん」と述べており、再び改正案につき喧々諤々の議論がなされることを期待している様子がうかがえます。
 そのほかにも、明治26(1893)年6月発行の『醸造雑誌』第114号附録【写真3】にみられるように、税法の解釈に関して巷間で混乱が見られるものにつき、注意喚起を行っているものもあります。同附録では、同年に成立した酒精営業税法(酒精とはエチルアルコールを指す)について、同法施行以前に買い入れた酒精については課税を免れるという議論が流布しているとしたうえで、同法施行前に入手した酒精でも課税対象となり得る例があることを示しています。このように、税の細部につき巷間で混乱を招くと考えられたものには、正確な解釈を提供することも行われていました。

(2026年3月 研究調査員 玉木寛輝)