NETWORK租税史料

 こちらの史料は昭和25(1950)年に国税庁が作成した密造酒防止の紙芝居です。発足直後の国税庁は連合国軍総司令部(GHQ)の指示で広報活動に力を入れることになり、様々な媒体での広報活動を行いました。その媒体の一つがこの紙芝居です。Network租税史料では同様の試みとしてかつて幻灯機用フィルム(2017年11月)や納税演劇用脚本(2020年9月)を紹介してきましたが、この紙芝居はより身近な媒体であったと言えます。
 国税庁が作成した紙芝居はいくつかありますが、この紙芝居の特筆すべき点は原版が所蔵されていることです(写真1)。そのため紙芝居を作る過程の一端を見ることができます。
 原版と完成品を比べてみると、原版は手書きであり、文章も原稿用紙に様々なメモが書き込まれているなど試作段階であることが見て取れます(写真2)(写真3)。

 本作の内容としては、村祭りの日に税務署長と署員たちが有力者の家へ密造酒の捜査に行くというシンプルな構成です。しかし、井戸の中に密造酒製造用の部屋があったり、有力者があの手この手でやり込めようとしたりとわずかなコマ数の中で税務職員と密造者の攻防を見ることができます(写真4)。
 税務職員たちが密造酒の隠し場所を推理するくだりや、有力者と税務署長の会話などで行われるやり取りはリアリティのあるやや硬い言葉が使われています。大人が見れば意図もわかりますが、現在一般的に目にする紙芝居では、このような大人同士で話すような言葉遣いはあまりないように思えます。
 紙芝居は日本で発達した独自の娯楽で、大正時代から昭和20年代ごろまで広く子供たちの娯楽として親しまれてきました。しかし、本作はテーマが酒の密造であり、かつ、言葉遣いも難しいため、子供向けではないと思われます。同時期に作られた他の紙芝居が概ね納税を啓蒙する子供向けの内容であったので、この紙芝居は他作品とは違うコンセプトで企画されたものと言えるでしょう。
 密造酒製造は明治時代から続く問題ですが、この紙芝居が作られた昭和20年代は戦後の混乱期であり、大きな社会問題となっていました。そのため密造酒の摘発と合わせて、様々な形で密造酒防止の広報活動を行っていました。税務署や関係民間団体などが協力し、様々なグッズを制作したり、イベントで密造酒防止のプラカードを持って参加するなど全国で密造酒防止キャンペーンが行われていました。この紙芝居はそのようなイベントなどでの公演が想定されていたのかもしれません。紙芝居は映画や幻灯と違い、持ち運びも簡単で設備も必要ないため、イベントなどへ気軽に持っていくことができ、使い勝手は良さそうに思えます。しかし、テレビの登場によって紙芝居という媒体自体が減少し、国税庁の紙芝居も数作品が登場したにとどまりました。

(2024年1月 研究調査員 菅沼 明弘)