NETWORK租税史料

 ここに紹介するのは、大正3年2月16日の、衆議院を包囲する警官隊の絵はがきです(史料1)。絵はがきの説明には、「営業税廃止案討議の当日」と記されています。
 大正3年2月16日は、衆議院において政府の営業税改正案と野党の営業税廃止案が採決される日でした。衆議院での審議が始まる2月14日には、日比谷公園で廃税問題国民大会が開催され、営業税廃止案に賛成する人々が多数詰め掛けました。そのため、2月16日の採決の日にも多くの人々が国会周辺に詰め掛けることが予想され、警官隊が不測の事態に備えて規制に乗り出したのです。警官隊が守る衆議院は画面の左側にあると思われます。
 このとき提出された政府の営業税改正案は、負担の権衡を図ると同時に、約300万円の減税を行うものでした。衆議院は、多数党である政友会が政府与党なので、営業税の減税は確実視されていました。野党の一部からは営業税廃止案が出されましたが、実現可能な法案とは言えませんでした。
 しかし、このとき海軍の軍艦購入をめぐる贈収賄事件が起こっており、それが営業税廃止運動を加速させた「悪税廃止」運動に発展していきます。全国各地で内閣批判の集会が開かれ、野党政治家を中心に政府弾劾・悪税廃止等の演説がなされています。2月10日には野党による内閣不信任案が衆議院に上程されますが、これは与党多数で否決されます。しかし、同日、日比谷公園で内閣弾劾の国民大会が開催され、そこに集まった数万の民衆が国会議事堂を包囲したと報じられています。
 このときの様子が、(史料2)の絵はがきです。この絵はがきには、「市民ノ包囲セル衆議院、内閣不信任案論議ノ当日」と記されています。中央の電柱後方の建物が衆議院です。 そのため与党議員は警官隊に護られて国会議事堂を後にするほどでした。その後、参加者の一部と警官隊との衝突事件が発生し、与党寄りの新聞社も襲撃対象となるなど混乱が続きました。そして遂に、軍隊が出動して鎮静化する事態となったのです。これと、2月16日の絵はがきを比較すると、国会周辺の様子はかなり違うことがわかります。2月10日のような混乱を避けるため、多数の警官隊を配置して規制に当たったわけですが、これが功を奏したといってよいと思います。
 絵はがきというと、観光用のお土産という印象がありますが、このような報道写真をもとにしたニュース性の高い絵はがきも発売されていたのです。

(研究調査員 牛米 努)