今回、紹介する史料は関東信越国税局の研修所から移管された1枚のポスターである。
 この史料は上部に「1月31日まで」とあるように、何かの期限を示したポスターである。ポスターの上端には不自然な断面があり、おそらく、「1月31日まで」の上に主語に該当する言葉があったと思われるが、現況では何の期限かわからない。しかし、幸いなことに、このポスターのデザインによって推測が可能であることがわかった。
 デザインは、馬を引いた農夫が掲示板のポスターを見るというものである。掲示板の中のポスターに記された「所得税」、「贈与税」、「非戦災者税・非戦災家屋税」がすべて1月31日期限のものであることから、これらがPRの対象だったことがわかる。また、これらの税はすべて申告納税制度を採用していたことから、おそらく〈申告と納税は1月31日まで〉という言葉が書かれていたと推測される。
 また、史料の作成された年を考えてみると、まず、「所得税の確定申告と第四期分納税は1月31日迄」と書かれた所得税であるが、納期が1月31日だったのは、申告納税制度の導入初期にあたる昭和22年分から同24年分であり、この期間が史料の作成年代の目安となる。次に「贈与税 申告と納税 1月31日迄」とある贈与税は、日本国憲法の制定に伴って改正された相続税法にもとづいて、昭和22年に新設されたものである。その後、贈与税は昭和25年3月の相続税法全文改正によって廃止され、相続税に統合される。つまり、本史料の作成年は、昭和22年から同24年までの期間に絞られたことになる。
 そして、最終的に年代を特定する材料となったのが「非戦災者税 非戦災家屋税 申告と納税は一月三十一日迄」の文である。
 非戦災者税・非戦災家屋税は、昭和22年11月に成立、12月に施行された非戦災者特別税法によって課税された税である。終戦直後から昭和22年7月までに家屋を所有していた者を対象者として、1回限りで導入された。これらの非戦災者特別税の納期は昭和23年1月31日であり、ポスターが事前に周知するために使用されることを考慮すると、本史料の作成年を昭和22年12月と断定することができる。
 租税史料室では、ポスター類は比較的多く所蔵しているが、昭和20年代前半のものは10数点しかなく、大変貴重である。特に、非戦災者特別税について記したポスターは初めての所蔵である。
 昭和22年の税務行政は、ネットワーク租税史料No.129「申告納税制度と広報」に取り上げられているように、所得税の納入額が収入予算額と比較して大幅に少なく、「租税の危機」が叫ばれた年であった。この状況に対して、12月上旬には国会で租税完納決議がなされ、早速、「経費を惜しまない」未曾有の納税宣伝活動が行なわれ、全国的な租税完納運動が展開されたのであった。
 本史料でも、農夫が覗き込んでいる掲示板に「再建の火を消すな 大蔵省」と書かれたロウソクの火が灯る一際大きなポスターが貼られている。しかし、ネットワーク租税史料No.129で紹介したポスターと見比べていただきたいが、第三者通報制度と過少申告の追徴税の内容を全面的にPRするポスターと対比すると、全体的に緊張感を欠くポスターであるといえる。同じ昭和22年に作成されたポスターであり、租税完納運動が強力に推進された12月以降の史料であるが、この違いは何であろうか。
 No.129で紹介したポスターは、所得税の確定申告に不正申告があった場合の第三者通報制度とその場合の罰則をPRしたものである。それに対して、本史料は「1月31日まで」を期日とする税目を通知することに主眼があるように思われる。デザインからいって、前者は都市向け、後者は農村向けとでもいえるだろうか。昭和22年のポスターは、対象とする地域によってデザインの違いがあることがうかがえる。

 

(研究調査員 片桐廣美)