NETWORK租税史料 税務情報センター(租税史料室) 生命保険料控除、始まる

所得金額申告注意書(大正13年)
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 今回紹介する史料は、大正13年分(1924)の第3種所得金額申告書の注意書である。この注意書には、老人・子供・障害者に対する特別控除とともに生命保険料の特別控除に関する記載が見られる。所得税は、大正12年の改正で生命保険料控除が導入され、翌年から適用された。これを受けて、平石村(現栃木県宇都宮市)では、大正13年4月18日に平石村長から納税者に対して、大正13年分の第3種所得注意書を送付した旨と申告書を村役場へ4月29日迄に提出する旨を通知するとともに、大正12年4月の法律改正に基づき生命保険料控除が導入されたので注意するよう伝えている。
  これに先立つ大正2年(1913)の税制改正で、所得税に初めて勤労所得の控除、少額所得者の特別控除などが導入された。こうした流れは、これ以前の明治39年(1906)の税法審査委員会、明治40年税法整理案審査会ですでに議論の対象となっていた。例えば、税法審査委員会では、所得税負担の軽重・各種所得負担の均衡が調査されており、第3種所得については資産から生じる所得と勤労所得との間の租税の負担の問題や生命保険料の控除が取り上げられている。この後、明治44年には、内閣に臨時制度整理局が設置されたが、その所得税整理案でも第3種所得に対して勤労所得控除の他、保険料の控除が検討されている。明治時代の終わりから大正時代には会社企業の発達がめざましく、大正5年度から10年度にかけて、法人所得税額が個人所得税額を上回った。これを受けて、大正7年には大蔵省による最初の税務講習会として法人事務講習会が行われている。しかし、その反面で勤労所得者なども増加したため、大正時代にはこうした人々にも配慮された税制がとられるようになったのである。
 現在、税務情報センター(租税史料室)では、「所得税のあゆみー創設から申告納税制度導入までー」と題した特別展示を行っており、今回紹介した大正13年分の第3種所得金額申告書の注意書をはじめとした様々な史料やグラフを用いて所得税の導入と成長(明治期)、社会政策的税制と所得税(大正期)、所得税と戦時税制(昭和15年)、申告納税制度の導入(昭和22年)について紹介している。所得税は、明治20年(1887)に導入されたが、当初は国税の税収の1%〜2%程度に過ぎなかった。この後、明治32年の全面改正で、所得税は第1種(法人の所得)・第2種(公債・社債の利子)・第3種(個人の所得)に分かれ、法人にも課税されることになった。所得税は、大正6年度には地租を抜き酒税に続いて第2位の税収になり、翌年には第1位になっている。その後所得税は、国税の中心に位置することとなったが、大正時代には、社会政策的な税制改正が行われている。この後、昭和15年(1940)の税制改正では、所得税から法人税が独立し、さらに所得税は分類所得税と綜合所得税に分かれることになった。そして太平洋戦争終了後の昭和22年にはこれまでの賦課課税制度に代わり申告納税制度が導入されている。
 今回の特別展示では、こうした明治20年の創設から昭和22年の申告納税制度の導入までを取り上げ、所得税の改正とその時代背景について紹介している。是非一度来館し、本物の史料に触れていただきたい(展示は本年9月まで)。