NETWORK租税史料 税務情報センター(租税史料室) 申告納税制度と広報
租税収入済額五ヶ年対照表

第三者通報制度のポスター
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 昭和22年3月の税制改正により、所得税に申告納税制度が採用された。所得税導入時から設置されていた所得調査委員会は廃止され、納税者の自主的な申告と納税に依拠した税務運営がなされるようになった。しかし「租税の民主化」を掲げた申告納税制度であるが、当時の社会情勢のもとでは多難なスタートとならざるを得なかった。
 当時の申告納税制度は、年間の所得を見積もって、四期に分けて納税する予算申告納税制であるから、確定申告を待たずに国庫収入が期待できるものであった。しかし実際の所得税納入額は、収入予算額と比較して、8月段階で17%、12月末になっても34%程度に過ぎず、「租税の危機」が叫ばれるに至った。申告者数は予測通りであったが、申告額には大きな開きがあったのである。
 そのため国会で租税完納決議がなされ、都道府県を地方本部とする全国的な運動が展開されることになった。民主国家としての日本再建のためには、健全財政の確立が必須であり、その命運を握る申告納税制度は、国民の充分な理解なしには機能しない。こうして昭和22年分所得税の確定申告期に、「経費を惜しまない」未曽有の納税宣伝活動が展開されることになったのである。
 ここで紹介する史料は、3枚組の所得税の確定申告ポスターである。そのうち1枚は、昭和23年1月31日の確定申告期限を知らせる内容である。もう1枚は、会社など源泉徴収義務者が、徴収した税金を流用して国庫に納付しなかった場合の罰則である。加算税(現在の延滞税に相当)が日歩10銭で、流用金額の3倍以下の罰金、若しくは3年以下の懲役に処すとある。
 写真を掲載した最後の1枚は、第三者通報制度と過少申告の追徴税に関するもので、不正に25万円を脱税した場合の罰則がイラストで示されている。すなわち、不足税額の25%(62,500円)以内の追徴税が課され、意図的な脱税の場合には懲役3年以下または脱税額の3倍(75万円)以下の罰金に処せられるとある。そして申告納税制度の適正な運営を図るため、第三者通報制度が設けられたことが描かれている。これは不正申告などの通報者に、脱税額に応じた報償金を交付する制度で、「国民同志が、新しい社会正義観に立って、不正申告を通報しませう」と、その趣旨が書かれている。
 大蔵省主税局管理第二課の「納税宣伝日誌」によれば、1月の確定申告は予定申告の不振を挽回する最後の手段と位置付けられた。そして大蔵省内に、報道・映画関係者などの専門家による緊急納税対策委員会を設置し、強力な納税宣伝が実施された。新聞・雑誌やラジオでの広報とともに、12月下旬にはポスター30万枚が全国に送付された。ポスターは、源泉徴収・確定申告期限(2種類、1種類は車内吊)・第三者通報制度の4種類である。サイズは、農村向けが半切、都会向けが四切とある。このポスターは、まさしくこの30万枚のうちの農村向けの3枚であることがわかるのである。
 申告納税制度以前は、所得税などは市町村へ徴収委託されていたため、国税機関による納税の広報はあまり行われなかったようである。しかし申告納税制度の導入により、国税機関における納税に関する広報の重要性が認識されることになったのである。

(研究調査員 牛米努)