NETWORK租税史料 税務情報センター(租税史料室) 土地の測量と地租 -測坂式測量器具-
測板式測量器具の写真

測板式測量器具

  今回は金沢税務署で使用されていた土地の測量器具を紹介する。明治22年(1889)の地券廃止と土地台帳規則公布により、地租は土地台帳の記載内容をもとに課税徴収されることになった。そして土地台帳の記載内容を訂正する必要が生じた場合には、改めて土地の測量が行われたのである。つまり、土地の測量は地租を担当する税務職員の重要な任務であった。
 大正3年(1914)の地租事務規程(東京税務監督局訓令20号)には、土地検査を行う時期や、検査に携わる職員の人数などが規定されている。検査の内容は測量だけではなく、地目変換や、水害などによる被害状況の調査も含んだが、それ以外にも「土地検査ノ傍、可成(なるべく)左ノ事項ニ注意」として、無届異動地の有無や農作物収穫の状況・小作慣例などを調べて記録することが定められている。また、昭和6年(1931)に制定された地租法でも、新たに土地台帳に登録すべき土地が生じたときや、無租地が有租地となったときに、土地の測量を行うことが規定されている。
 では、写真の測量器具について見ていこう。この器具は「測板(平板)測量法」と呼ばれる測量に用いるものである。測板測量法とは、測量したい場所一帯の平面地形を図面上に投影する方法で、簡易な測量法として現在も用いられている。江戸時代の検地で用いられていた十字法や、地租改正の際に多く用いられた三斜法のように、直接土地の面積を求める方法ではなく、その前段階として縮図を作製する方法である。具体的には、写真の器具を据えた場所を基点として、その点を測板上の紙に記入し、そこから地上の測点に立てたポールを照準儀で覗いて、基点から測点までの線を記入する、という手順によって行われる。
 三脚の上に木製の板が載っているが、これが「測板」で、この板が地面に対して水平になるように三脚を据え付ける必要がある。また、測板の上に載っている左端の器具は「方筺羅針(ほうきょうらしん)」である。これは長方形の箱に入った方位磁針で、測板の方向を定めるために利用する。測板の手前に掛けられている金属の棒は「求心器(きゅうしんき)」、その先に下がっているものは「垂球(すいきゅう)」と呼ばれる。求心器の下端部に垂球をつり下げることにより、垂球が指し示す地面上の点(基点)と、求心器の頭端部が測板上に指し示す点の位置が一致するようにできているのである。そして、測板の中心に置かれた器具が「測斜照準儀(そくしゃしょうじゅんぎ)」(アリダード)である。この器具の用途は多様であり、測板を水平に据えるための水準器、測量線を描くための定規、測量に際し測点を見つめるための視孔(覗き穴)などの機能がある。
 前掲の地租事務規程に、「丈量ノ方法ハ測板式ニ依ルヘシ」と記載されていることから、この当時、測板測量法が主要な土地測量方法であったことが分かる。もちろん、このような測量を行うためには税務職員が専門の知識・技術を習得することが必要で、そのための講習会が行われた。また、町村吏員などを対象にした測量法講習会が税務署の主催で行われたり、平易な測量法解説書が刊行されたりした。これは、土地異動の申告の際、土地の実測図を添付する必要があったためである。
 なお、土地台帳は昭和22年(1947)に地租が地方へ移譲された後も税務署によって管理されたが、昭和25年に登記所へ移管された。したがって、ここで紹介した測量器具はそれより以前に使用していたということができる。地租と土地台帳の歴史を伝える貴重な史料と言えるだろう。

(研究調査員 宮坂 新)