横川 幸司
税務大学校
研究部教授

要約

1 研究の目的(問題の所在)

相続税法34条の相続税及び贈与税の連帯納付義務は、主たる納税義務(本来の納税義務者の納税義務をいう。以下同じ。)の確定という事実に照応して、法律上当然に生ずるものと解されており(最高裁判所昭和55年7月1日第三小法廷判決・民集34巻4号535頁)、主たる納税義務が確定すれば、他の相続人等は直ちに連帯納付義務を負う(徴収される地位に立たされる)こととなる。
 連帯納付義務者は、主たる納税義務の不存在・無効については、連帯納付の徴収手続の段階において違法の主張をすることができると考えられているが、主たる納税義務に係る課税処分(以下「主たる課税処分」という。)の取消原因たる違法性について、連帯納付義務者が不服申立てや訴訟提起を行うことができるか否かについては判然としない。
 そこで、主たる課税処分の取消原因たる違法性について、連帯納付義務者が不服申立適格や原告適格を有するか否か等について検討する必要がある。

2 研究の概要

(1)徴収処分における主張

イ 徴収処分における課税処分の無効の主張の可否
 課税処分が不存在あるいは無効であるのであれば、これに基づく連帯納付義務の追及としてされた徴収処分も当然に無効となることから、相続税法34条1項及び4項の連帯納付義務者は、本来の納税義務者の租税債務の不存在・無効について、連帯納付の徴収手続の段階において違法の主張をすることができる。

ロ 徴収処分における申告無効の主張の可否

(イ) 民法95条(錯誤)に関し、最高裁判所昭和40年9月10日第二小法廷判決・民集19巻6号1512頁(以下「最高裁昭和40年9月判決」という。)は、「表意者自身において、その意思表示に何らの瑕疵も認めず、錯誤を理由として意思表示の無効を主張する意思がないにもかかわらず、第三者において錯誤に基づく意思表示の無効を主張することは、原則として許されない」とし、この「原則として許されない」とする部分について安倍正三『最高裁判所判例解説民事篇昭和40年度(315頁)』316頁において、「いかなる場合を例外として予想しているのか、判文上は窺い知ることができないけれども、表意者が無効を主張しないことが第三者にとって信義則上まことに不当である場合などを考慮しているのではないかと推測される。」と説明されている。
 また、最高裁判所昭和45年3月26日第一小法廷判決・民集24巻3号151頁(以下「最高裁昭和45年判決」という。)は、「第三者において表意者に対する債権を保全するため必要がある場合において、表意者が意思表示の瑕疵を認めているときは、表意者みずからは当該意思表示の無効を主張する意思がなくても、第三者たる債権者は表意者の意思表示の錯誤による無効を主張することが許される」としている。
 したがって、連帯納付義務者などの第三者は、最高裁昭和45年判決の事例に該当しないことから、「表意者が無効を主張しないことが第三者にとって信義則上まことに不当である場合など」を除き、原則として本来の納税義務者の行った申告について錯誤無効を主張することは、許されないものと考えられる。

(ロ) 本来の納税義務者が申告無効を主張し得る最高裁判所昭和39年10月22日第一小法廷判決・民集18巻8号1762頁(以下「最高裁昭和39年判決」という。)における「錯誤が客観的に明白且つ重大であつて、……税法の定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を蓍しく害すると認められる特段の事情」として、@納税者以外の無権限者が勝手に申告書を提出した場合や、A十分な資料の提示を受けた税務職員が法令解釈等を誤り、当該税務職員から申告書提出に係る強いしょうようなどを受けた納税者が、錯誤に陥り、当該税務職員の誤った解釈に基づき指導するがままに申告書を提出した場合で、かつ、当該指導を信じたことに納税者に過失がない場合が考えられる。

(ハ) @については、(「錯誤」の主張ではなく、)申告権限を有しないものが行ったものであることからすると当然無効であり、連帯納付義務者が無効の主張をすることは可能と考えられる。
 また、Aについては、「錯誤」の主張であり、本来の納税義務者が錯誤に陥った原因が税務当局側にあることからすれば、当該税務当局に対し本来の納税義務者が無効の主張しないことは、最高裁昭和40年9月判決に係る最高裁判所判例解説の「表意者が無効を主張しないことが第三者にとって信義則上まことに不当である場合」に該当し得るものと考えられる。

(ニ) 以上のことから、連帯納付義務者が申告無効を主張し得る場合としては、@納税者以外の無権限者が勝手に申告書を提出した場合やA十分な資料の提示を受けた税務職員が法令解釈等を誤り、当該税務職員から申告書提出に係る強いしょうようなどを受けた納税者が、錯誤に陥り、当該税務職員の誤った解釈に基づき指導するがままに申告書を提出した場合で、かつ、当該指導を信じたことに納税者に過失がない場合であると考えられる。

ハ 徴収処分における課税処分の取消原因たる違法性の主張
 確定処分の違法性は徴収処分には承継されないことから、主たる納税義務に係る課税処分の取消原因たる違法性について、連帯納付義務者が徴収手続の段階において主張することはできないと考えられる。

(2)主たる課税処分の取消しを求めることの可否
 主たる課税処分の取消原因たる違法性について、連帯納付義務者が不服申立適格を有するか否かについては判然としない。
 そこで、第三者に納税義務を課すという点で連帯納付義務と類似する制度である第二次納税義務に関し不服申立適格を認めた最高裁判所平成18年1月19日第一小法廷判決・民集60巻1号65頁(以下「最高裁平成18年判決」という。)を分析した上で、主たる課税処分に係る連帯納付義務者の不服申立適格等の有無を検討する。

イ 最高裁平成18年判決において不服申立適格を認めた判断基準
 最高裁平成18年判決は、徴収法39条の第二次納税義務者が本来の納税義務者に対する課税処分について通則法75条に基づく不服申立てをすることができる理由として、

@ 「第三者に対して補充的に課される義務であって」

A 「主たる納税義務が主たる課税処分によって確定されるときには、第二次納税義務の基本的内容は主たる課税処分において定められるのであり、違法な主たる課税処分によって主たる納税義務の税額が過大に確定されれば、本来の納税義務者からの徴収不足額は当然に大きくなり、第二次納税義務の範囲も過大となって、第二次納税義務者は直接具体的な不利益を被るおそれがある。他方、主たる課税処分の全部又は一部がその違法を理由に取り消されれば、本来の納税義務者からの徴収不足額が消滅し又は減少することになり、第二次納税義務は消滅するか又はその額が減少し得る関係にあるのであるから、第二次納税義務者は、主たる課税処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによってこれを回復すべき法律上の利益を有するというべきである」

 ことを挙げ、さらに、「国税徴収法上第二次納税義務者として予定されるのは、本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別な関係にある者であるということができるが、」

B 「納付告知によって自ら独立した納税義務を負うことになる」

C 「第二次納税義務者の人的独立性を、すべての場面において完全に否定し去ることは相当ではな」く、「特に、本件で問題となっている国税徴収法39条所定の第二次納税義務者は、本来の納税義務者から無償又は著しく低い額の対価による財産譲渡等を受けたという取引相手にとどまり、常に本来の納税義務者と一体性又は親近性のある関係にあるということはできないのであって、譲渡等による利益を受けていることもって、当然に、本来の納税義務者との一体性を肯定して両者を同一に取り扱うことが合理的であるということができない」

ことと

D 「本来の納税義務者は、滞納者であるから、自己に対する主たる課税処分に瑕疵があり、これに不服があるとしても、必ずしも時間や費用の負担をしてまで主たる課税処分に対する不服申立て等の争訟に及ぶとは限らないのであり、本来の納税義務者によって第二次納税義務者の訴権が十分に代理されているとみることは困難である」

ことを挙げている。以下、これらを判断基準として検討する。

  なお、Aについては、@及びBからDによる検討の結果、連帯納付義務者に争訟における人的独立性を認めないことが合理的であるということができない場合について検討すべきものであると考えられる。

ロ 相続税法34条1項(相続税)の連帯納付義務についての検討

(イ) 補充性の有無及び確定手続の要否(上記イの@及びB)
 相続税法34条1項の連帯納付義務に補充性はなく、また、確定手続を要しない。

(ロ) 本来の納税義務者との一体性又は親近性の有無等(上記イのC)

A 一般に親族は親近性が強いのものと考えられる。確かに、相続人間の人間関係は様々であり、共同申告を行っていない場合や遺言認知における被認知者と他の相続人の場合など、親近性があると整理できる共同相続人間においても緊密な間柄にあるとはいえない場合もあるものと考えられる。しかし、最高裁平成18年判決における判断基準を「本来の納税義務者との一体性又は親近性の有無等」とする限りにおいては、相続人間の個別の関係(緊密な間柄か否か)まで考慮する必要はないと考えられる。

B 本来の納税義務者又は連帯納付義務者が親族以外の受遺者である場合などについても、連帯納付義務者は本来の納税義務者と同じ原因に基づき納税義務者となる共同相続人という身分関係者に限られ、また、現行相続税が、遺産全体を民法の相続分に応じて取得したと仮定した取得財産に税率を適用して税額を算定し、その税額の総額を各財産取得者に取得財産額に応じて案分する仕組であり、連帯納付義務者が本来の納税義務者の相続税額を知り得ることからすれば、両者の一体性を肯定して両者を同一に取り扱うことが合理的であるということができるものと考えられる。

C したがって、相続税法34条1項の連帯納付義務者は、本来の納税義務者との一体性を肯定して両者を同一に取り扱うことが合理的であるということができるものと考えられる。

(ハ) 訴権代理性の確保(上記イのD)

A 本来の納税義務者の滞納により連帯納付義務者に対する徴収処分が行われたという結果からみれば、本来の納税義務者は、自己に対する主たる課税処分に瑕疵があり、これに不服があるとしても、必ずしも時間や費用の負担をしてまで主たる課税処分に対する不服申立て等の争訟に及ぶとは限らないという点を否定することはできない。

B しかし、現行相続税が、遺産全体を民法の相続分に応じて取得したと仮定した取得財産に税率を適用して税額を算定し、その税額の総額を各財産取得者に取得財産額に応じて案分する仕組であることからすれば、本来の納税義務者における相続税額が変動すれば(主たる課税処分が行われれば)、多くの場合において連帯納付義務者固有の相続税額も変動する(連帯納付義務者に対する課税処分も行われる)のであり、仮に本来の納税義務者が課税処分に対する不服申立てを行わなかったとしても、課税処分の原因事実は、連帯納付義務者は自身に対する課税処分の原因事実と少なからず共通するのであり、連帯納付義務者が自身に対する課税処分について不服申立てを行うことにより、本来の納税義務者に対する課税処分における瑕疵を争うことと同様の効果を期待できる。

C 主たる課税処分のみが行われる可能性としては、本来の納税義務者のみが申告をしていない場合の決定処分、本来の納税義務者と連帯納付義務者が異なる申告を行い、本来の納税義務者についてのみ課税処分が行われる場合、本来の納税義務者のみが期限後申告した場合又は相続税の決定処分を受けた場合における無申告加算税の賦課決定処分などが考えられる。
 上記又はについては、主たる課税処分の内容が連帯納付義務者自らが申告した相続財産の合計額や各相続人が取得する財産の価額と一致することが想定され、そのような課税処分に瑕疵があると連帯納付義務者が主張することは、連帯納付義務者自身のした申告内容と異なる主張をするものであり、信義則の点で許されないものと考えられる。連帯納付義務者が自身の申告した相続財産の価額に瑕疵があるのであれば、自身の申告について更正の請求を行うべきであり、当該更正の請求が認められれば本来の納税義務者に対する課税処分についても是正し得るものと考えられる。
 上記については、通則法66条1項ただし書の「期限内申告書の提出がなかったことについての正当な理由」を主張することが考えられるが、相続税については、上記のとおり、本来の納税義務者が相続により財産を取得し、納税義務(申告義務)を有することを知り得る。また、連帯納付義務に補充性がなく、確定手続を要しないことからすれば、相続税の法定申告期限以降、本来の納税義務者が滞納すればいつでも連帯納付義務の履行を求められる状況にあるといえるのである(ただし、納税義務者が十分な資力をもっている場合に、連帯納付義務者から徴収することは、権利の濫用に当たり違法になると解される。)。

D そうすると、共同相続人という人的関係及び各相続人の申告・課税状況や納付状況を把握できる立場にあることを捉えれば、本来の納税義務者により訴権が代理されていると見ることも可能であると考えられる。

(ニ) まとめ
 以上のとおり、相続税法34条1項の連帯納付義務者と本来の納税義務者との一体性を肯定して両者を同一に取り扱うことが合理的であり、また、本来の納税義務者により訴権が代理されていると見ることも可能であることから、相続税法34条1項の連帯納付義務者には不服申立適格を認める必要はないものと考えられる。

ハ 相続税法34条4項(贈与税)の連帯納付義務についての検討

(イ) 補充性の有無及び確定手続の要否(上記イの@及びB)
 相続税法34条4項の連帯納付義務に補充性はなく、また、確定手続を要しない。

(ロ) 本来の納税義務者との一体性又は親近性の有無等(上記イのC)
 相続税法34条4項の連帯納付義務者は、親族間であれば一般に親近性が強く、また、贈与者が親族以外の場合においても、通常、受贈者との間に密接な人的関係を有することからすれば、本来の納税義務者との一体性を肯定して両者を同一に取り扱うことが合理的であるということができるものと考えられる。
 ただし、相続税法5条から9条の5などの規定により贈与したものとみなされる場合においては、「贈与者とみなされる者」と「受贈者とみなされる者」との間に親近性が認められない場合があるものと考えられる。

(ハ) 訴権代理性の確保(上記イのD)

A 本来の納税義務者の滞納により連帯納付義務者に対する徴収処分が行われたという結果からみれば、本来の納税義務者は、自己に対する主たる課税処分に瑕疵があり、これに不服があるとしても、必ずしも時間や費用の負担をしてまで主たる課税処分に対する不服申立て等の争訟に及ぶとは限らないという点を否定することはできない。

B しかし、贈与者は、制度的に税務当局との関係において申告や課税処分に関与することは予定されていなくとも、贈与するという人的関係及び受贈者から申告・課税状況や納付状況を把握できる立場にあることを捉えれば、受贈者を介して実質的に課税処分や納付に関与し得るのであり、本来の納税義務者(受贈者)により訴権が代理されていると見ることも可能であると考えられる。

C ただし、少なくとも「同法7条から9条により贈与者とみなされる者と受贈者とみなされる者」との間に親近性が認められず、両者が取引相手としての関係である場合においては、受贈者を介して実質的に課税処分や納付に関与することを肯定することはできず、本来の納税義務者(受贈者)により訴権が代理されていると見ることは困難であると考えられる。

(ニ) 連帯納付義務者に争訟における人的独立性を認めないことの合理性
 上記(イ)から(ハ)の検討結果から、原則として相続税法34条4項の連帯納付義務者に不服申立適格を認める必要はないが、少なくとも「同法7条から9条により贈与者とみなされる者と受贈者とみなされる者」との間に親近性が認められない(両者が取引相手としての関係である)場合においては、連帯納付義務者に人的独立性を認めないことが合理的であるということはできないものと考えられる。

(ホ) 取消しにより回復すべき法律上の利益の有無(上記イのA)
 そこで、「同法7条から9条により贈与者とみなされる者と受贈者とみなされる者」との間に親近性が認められない(両者が取引相手としての関係である)場合における上記イのAについて検討する。
 主たる納税義務が主たる課税処分によって確定されるときには、相続税法34条4項の連帯納付義務の基本的内容は主たる課税処分において定められるのであり、違法な主たる課税処分によって主たる納税義務の税額が過大に確定されれば、本来の納税義務者からの徴収不足額は当然に大きくなり、連帯納付義務の範囲も過大となって、連帯納付義務者は直接具体的な不利益を被るおそれがある。他方、主たる課税処分の全部又は一部がその違法を理由に取り消されれば、本来の納税義務者からの徴収不足額が消滅し又は減少することになり、連帯納付義務は消滅するか又はその額が減少し得る関係にあるのであるから、相続税法34条4項の連帯納付義務者(同法7条から9条により贈与者とみなされる者と受贈者とみなされる者との間に親近性が認められない場合などに限る。)は、主たる課税処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによってこれを回復すべき法律上の利益を有するといえる。

(へ) まとめ
 以上のことから、原則として相続税法34条4項の連帯納付義務者に不服申立適格を認める必要はないが、少なくとも「同法7条から9条により贈与者とみなされる者と受贈者とみなされる者」との間に親近性が認められず、両者が取引相手としての関係である場合においては、不服申立適格を認める必要性がある場合もあるものと考えられる。

(3)相続税法34条4項の連帯納付義務において不服申立適格を認める場合の不服申立期間の起算日
 補充性を有せず、確定手続を要しない相続税法34条4項の連帯納付義務においては、連帯納付義務者から徴収する場合の手続として「連帯納付責任のお知らせ」が送付される。そうすると、同法7条から9条により贈与者とみなされる者と受贈者とみなされる者との間に親近性が認められない場合における当該連帯納付義務者は、「連帯納付責任のお知らせ」を受けることにより「本来の納税義務者に対する課税処分」があったことを知り得ることとなり、「連帯納付責任のお知らせ」を受けた日が通則法77条1項の「処分があったことを知った日」、すなわち、不服申立期間の起算日となるものと考えられる。
 なお、それ以前に連帯納付義務者が「本来の納税義務者に対する課税処分の存在を知った」ことを税務当局が立証した場合は、当該日が、不服申立期間の起算日となるものと考えられる。

(4)主たる課税処分に対する取消訴訟の原告適格
 不服申立制度における「処分について不服がある者」(当該処分について不服申立てをする法律上の利益がある者)と取消訴訟提起における「法律上の利益を有する者」とは、いずれも「処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」となり、行訴法8条1項ただし書及び通則法115条により不服申立(裁決)前置が取消訴訟提起の要件とされている前提においては、相続税法34条4項の連帯納付義務者について行訴法9条1項の原告適格が認められるのは、不服申立適格を認められる者であると考えられる。
 したがって、相続税法第7条から9条により贈与したとみなされる者が相続税法34条4項の連帯納付義務者である場合において、本来の納税義務者(受贈者)に対する課税処分について当該連帯納付義務者に不服申立適格を認める場合は当然に取消訴訟における原告適格が認められる。そして、当該連帯納付義務者が主たる課税処分に対する審査請求について裁決を経ること(又は通則法115条1項ただし書に該当すること)を前提として、取消訴訟を提起することができるものと考えられる。

3 結論

相続税及び贈与税の連帯納付義務者については、本来の納税義務者との一体性を肯定して両者を同一に取り扱うことの合理性があり、原則として不服申立適格を認める必要はないものと考えられる。
 ただし、相続税法7条から9条などの規定により贈与した者とみなされる者と贈与を受けた者とみなされる者との間に親近性が認められず、両者が取引相手としての関係である場合においては、不服申立適格を認める必要性がある場合もあるものと考えられる。
 そして、当該者に不服申立適格を認める場合の不服申立期間の起算日は、原則として「連帯納付責任のお知らせ」を受けた日である。当該不服申立適格を有する者は、原告適格を有し、主たる課税処分に対する審査請求について裁決を経ること(又は通則法115条1項ただし書に該当すること)を前提として、取消訴訟を提起することができるものと考えられる。


目次

項目 ページ
はじめに 127
第1章 相続税等の連帯納付義務の概要等 129
第1節 相続税等の概要 129
1 相続税の概要 129
2 贈与税の概要 133
第2節 相続税等の連帯納付義務の概要 137
1 連帯納税義務 137
2 相続税法34条(相続税等)の連帯納付義務 141
第3節 不服申立制度 151
1 不服申立て 151
2 処分の取消しの訴え 153
第2章 連帯納付義務に係る判例 157
第1節 課税処分に係る判例 157
1 課税処分の不存在・無効に関するもの 157
2 取消事由たる違法性に関するもの 164
第2節 連帯納付義務者に対する徴収処分に係る判例の状況 168
1 連帯納付義務の確定手続の要否 168
2 納税告知の要否 171
3 連帯納付義務の補充性の有無 174
4 信義則違反・権利の濫用による処分の取消し 174
第3章 連帯納付義務に関する検討(その1) 176
第1節 徴収処分における主張 176
1 徴収処分における課税処分等の無効の主張 176
2 徴収処分における課税処分の取消原因たる違法性の主張 191
第2節 主たる課税処分の取消しを求めることの可否等 192
1 主たる課税処分の取消しを求めることの可否 192
2 本来の納税義務者に係る申告分に対する不服申立ての可否 193
3 本来の納税義務者に係る申告分に対する更正の請求の可否 194
第4章 第二次納税義務制度の整理 196
第1節 第二次納税義務制度の概要 196
1 第二次納税義務の趣旨・意義 196
2 主たる納税者の納税義務と第二次納税義務者の納税義務との関係 203
3 第二次納税義務の徴収手続 206
第2節 第二次納税義務者の不服申立て等に関する判例 206
1 最高裁昭和50年判決 206
2 大阪高裁平成元年2月22日判決 209
3 最高裁平成18年判決 215
第3節 徴収訴訟における主たる課税処分の違法性の主張の可否 221
1 学説 221
2 最高裁昭和50年判決の考え方 223
3 近時の学説等(積極説) 224
第4節 第二次納税義務者が主たる課税処分を直接争うことの可否 227
第1款 学説等 227
1 学説 227
2 最高裁平成18年判決の考え方 230
第2款 第二次納税義務者の主たる課税処分に係る不服申立適格
(最高裁平成18年判決の射程等)
232
1 最高裁平成18年判決の射程の判断基準等 232
2 他の第二次納税義務に対する射程内外の検討 238
3 まとめ 248
第3款 第二次納税義務者の主たる課税処分に係る原告適格等 249
1 原告適格 249
2 不服申立前置 250
第5章 連帯納付義務に関する検討(その2)
(第二次納税義務との比較)
255
1 制定趣旨(立法の沿革) 255
2 附従性 256
3 補充性 257
4 確定手続(納税告知)の要否 258
5 第二次納税義務との相違点(まとめ) 262
第6章 連帯納付義務者の争訟方法の検討 264
1 主たる課税処分に対する不服申立適格 264
2 不服申立期間の起算日 272
3 主たる課税処分に対する取消訴訟の原告適格 274
第7章 おわりに 275