西住 憲祐
税務大学校
研究部教育官

要約

1 研究の目的(問題の所在)

平成22年にOECD租税委員会が「重大な犯罪と闘うために税法執行当局と他の法執行当局との協力を促す勧告」を行ったのを始めとして、税務当局がマネー・ロンダリング対策に積極的に関与し、他の捜査機関との情報共有や協力して取り組む体制整備が国際社会の潮流である。我が国のマネー・ロンダリング対策としては、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という。)にマネー・ロンダリング行為の処罰規定を置いており、同法は、犯罪収益の前提犯罪を暴力団等の組織的犯罪や薬物犯罪等の犯罪に限定していたが、平成29年の同法改正により、前提犯罪が「長期4年以上の懲役刑が定められている罪」等とされたことにより、犯罪収益の前提犯罪に一部の租税犯が含まれることとなった。
 このような動きの中、同法改正には、租税犯を前提犯罪とする犯罪収益については、逋脱犯は一般に正当な経済活動から得られた収益について納税を免れる行為であることから、犯罪収益を構成しないのではないか、また、脱税によるマネー・ロンダリング罪は脱税犯に付随する犯罪であり、税務当局の犯則調査の対象となるのかといった論点がある。
 本研究では、上記の国際社会の潮流や論点等を整理するとともに、租税犯を前提犯罪とする犯罪収益の概念やマネー・ロンダリング罪に対する犯則調査権限等について研究する。その上で、我が国の税務当局が担うべきマネー・ロンダリング対策の方向性について言及する。

2 研究の概要

(1)逋脱犯とその罪質
 逋脱犯は、「偽りその他不正の行為」により、租税を免れたことを構成要件とする犯罪であり、詐欺利得罪(刑法246条2項)と同じ性質の罪であると解されている。詐欺利得罪の客体は「財産上の利益」であるが、通説・判例によれば、「財産上の利益」とは財物以外の財産的利益の一切をいい、債権や担保権の取得、労務・サービスを提供させる等の積極的利益のほか、債務免除を受けた(債務の支払を免れた)ことによる利益のような消極的利益も含まれることから、逋脱により租税債務の支払を免れたことによる利益も「財産上の利益」に当たると考えられる。

(2)組織的犯罪処罰法における「犯罪行為により得た財産」の意義
 組織的犯罪処罰法は、犯罪収益について2条2項1号から5号に定めており、1号は「財産上の不正な利益を得る目的で犯した次に掲げる罪の犯罪行為(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならばこれらの罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)により生じ、若しくは当該犯罪行為により得た財産又は当該犯罪行為の報酬として得た財産」と規定し、同号イにおいて「死刑又は無期若しくは長期四年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪(ロに掲げる罪及び国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号。以下「麻薬特例法」という。)第二条第二項各号に掲げる罪を除く。)」、同号ロにおいて「別表第一(第三号を除く。)又は別表第二に掲げる罪」を掲げている。
 ここで、「財産」とは「社会通念上経済的価値が認められる利益一般をいう」(1)とされているところ、刑法における利益の概念を検討すると、刑法197条の収賄、受託収賄及び事前収賄の規定における賄賂について、判例は「賄賂ハ財物ノミニ限ラス又有形タルト無形タルトヲ問ハス、苟モ人ノ需用若クハ欲望ヲ充タスニ足ルヘキ一切ノ利益ヲ包含スル」(大判明治44年5月19日刑録17輯879頁)と判示している(下線筆者)。そして、賄賂に当たるものとして、金銭、物品、不動産などの有体物のほか、債務を肩代わりして弁済すること、金融の利益、芸者の花代などを含む饗応接待、ゴルフクラブの会員権、値上がり確実な未公開株式を公開価格で取得できる権利などの財産上の利益のほか、就職のあっせんの約束、異性間の情交なども賄賂たりうると解されていることから、「一切の利益」とは、@財物、A財産上の利益、Bその他の利益(就職のあっせんの約束、異性間の情交等、社会通念上経済的価値が認められないもの)の3つの類型に大別されると考えられる。したがって、「犯罪行為により得た財産」とは、「犯罪行為により得た社会通念上経済的価値が認められる利益一般」、すなわち「犯罪行為により犯人が取得した社会通念上経済的価値が認められる財物、財産上の利益」をいうと考える(上記Bは経済的価値が認められないため除かれる)。

(3)マネー・ロンダリング罪及び租税犯の保護法益
 組織的犯罪処罰法1条は、「この法律は、組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく害し、及び犯罪による収益がこの種の犯罪を助長するとともに、これを用いた事業活動への干渉が健全な経済活動に重大な悪影響を与えることに鑑み、並びに国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を実施するため、組織的に行われた殺人等の行為に対する処罰を強化し、犯罪による収益の隠匿及び収受並びにこれを用いた法人等の事業経営の支配を目的とする行為を処罰するとともに、犯罪による収益に係る没収及び追徴の特例等について定めることを目的とする。」と規定している(下線筆者)。したがって、マネー・ロンダリング罪の保護法益は、@組織的犯罪の助長を防ぐこと(犯罪組織の維持・拡大への利用、将来の犯罪活動への再投資を防ぐこと)、A健全な経済活動(事業活動に投資されることによる、合法的な経済活動への悪影響を防ぐこと)であると解される。
 また、租税犯について、東京大学の金子宏名誉教授は「租税犯は、国家の租税債権を直接侵害する脱税犯(Steuerhinterziehung)と、国家の租税確定権および徴収権の正常な行使を阻害する危険があるため可罰的であるとされる租税危害犯(Steuergefahrdung)とに大別される。」(2)と述べられる。したがって、租税犯のうち脱税犯の保護法益は国家の租税債権、租税危害犯の保護法益は国家の租税確定権及び徴収権の正常な行使であると考えられる。

(4)国税庁等の当該職員の犯則調査の対象
 国税通則法131条1項は、国税庁等の当該職員の犯則調査について、「国税庁等の当該職員(以下第百五十二条(調書の作成)まで及び第百五十五条(間接国税以外の国税に関する犯則事件等についての告発)において「当該職員」という。)は、国税に関する犯則事件(第百三十五条(現行犯事件の臨検、捜索又は差押え)及び第百五十三条第二項(調査の管轄及び引継ぎ)を除き、以下この節において「犯則事件」という。)を調査するため必要があるときは、犯則嫌疑者若しくは参考人(以下この項及び次条第一項において「犯則嫌疑者等」という。)に対して出頭を求め、犯則嫌疑者等に対して質問し、犯則嫌疑者等が所持し、若しくは置き去つた物件を検査し、又は犯則嫌疑者等が任意に提出し、若しくは置き去つた物件を領置することができる。」と規定している。ここで、犯則調査の範囲については条文上明示されていないが、「国税の納付、賦課、徴収に直接的な犯則事件」に限るものと解されている(3)

(5)国税庁等の当該職員に犯則調査権限を認める意義
 財務省設置法19条は、国税庁の任務について「国税庁は、内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現、酒類業の健全な発達及び税理士業務の適正な運営の確保を図ることを任務とする。」と規定している。
 国税庁等の当該職員に犯則調査権限を認める意義について、慶応義塾大学の佐藤英明教授は、「逋脱罪等の刑事処罰は、申告納税制度への国民の信頼を維持するための、いわば最後の砦であるから、その対象は、国税の適正かつ公平な賦課、ないしは、申告納税制度の維持の観点から、悪質と認められるものが選ばれなければならない。他方、このような観点からの判断を最も適切に行ないうるのは、『内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現』(参照、国税庁の任務に関する財務省設置法19条)を任務とする国税庁の組織に属する職員であると考えることには理由がある。ここに、ある具体的な逋脱事案を告発し、刑事処罰の対象とすべきか否かの判断をするための犯則調査手続が、国税庁に属する組織で行なわれていることの意義がある。」(4)と述べられる。

(6)税務当局によるマネー・ロンダリング対策と法的問題

イ OECDによる勧告(5)
 OECDは平成10年以降G7の要請に応え、FATF(金融活動作業部会)と共に税務当局とマネー・ロンダリング規制当局の協力を促進する方法を検討してきた。
 OECDはマネー・ロンダリングを含む金融犯罪対策においては「政府一体アプローチ」(whole of government approach)により取り組むべきとし、各対策機関が孤立して活動すべきではないこと、及び、政府一体アプローチにおいては、法律上の障壁(各機関の情報共有の制限又は禁止)、運用上の障壁(手順の非効率性、他機関が必要とする情報が何かについての認識不足等)、政策上の障壁(政府が法律上、運用上の障壁の削減に消極的なこと)が存在するとしている。
 そして、政府一体アプローチにおいて税務当局には重大犯罪(脱税、贈収賄、腐敗、マネー・ロンダリング及びテロ資金供与等)の発見、報告における大きな役割が認められることから、その役割を果たすために他機関との情報共有を可能にすることが必要であり、特にFIUの保有する「疑わしい取引の報告」については、税務当局がそれを最大限有効利用することができる法的枠組みを提供することはもとより、「疑わしい取引の報告」の最大限の有効活用を促進する運用上の構造や手順にも目を向けるべきであること、また、重大犯罪(腐敗、マネー・ロンダリング及びテロ資金供与等)の嫌疑については、税務当局から関係法執行機関又はFIUに対する報告を義務化することなどを勧告している。

ロ 政府一体アプローチの例
 政府一体アプローチの例として、オーストラリアにおけるウィッケンビー・プロジェクト(project wickenby)が挙げられる。ウィッケンビー・プロジェクトはオフショアの秘密保持契約の濫用の促進又は参加を防止することにより、オーストラリアの金融及び規制制度の健全性を保護することを目的として平成18年に設立されたタスクフォースである。オーストラリア国税庁がプロジェクト全体の主導機関であり、他にオーストラリア犯罪委員会(平成28年7月1日にオーストラリア刑事諜報委員会となった)、オーストラリア連邦警察、オーストラリア証券投資委員会、連邦検察庁、AUSTRAC(FIU)、司法省、オーストラリア政府弁護士などが参加し、国内及び国際機関と協力し、結果として76人が告発され46人が有罪判決を受け、9億8,567万豪ドルが回収され、平成27年6月30日に終了した。ウィッケンビー・プロジェクトに関し、1953年税務行政法において、オーストラリア国税庁が保有する納税者情報のウィッケンビー・プロジェクトに対する開示を一定の場合に認める法改正が行われた。
 なお、ウィッケンビー・プロジェクトの成功を基盤に、平成27年7月1日に重大な金融犯罪を対象とした複数機関によるタスクフォースである重大金融犯罪タスクフォース(Serious Financial Crimes Taskforce)が始動している。

ハ 守秘義務と告発義務
 情報の共有について、名古屋経済大学の本庄資名誉教授は、「『守秘義務』と『告発義務』の法的義務の衝突をめぐる法解釈について学説が対立し、これによって各省庁間の『連絡』『情報の共有』が妨げられている。」(6)と述べられる。
 守秘義務について、国家公務員法100条1項は「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。」と規定し、さらに国税通則法127条は「国税に関する調査(不服申立てに係る事件の審理のための調査及び第百三十一条第一項(質問、検査又は領置等)に規定する犯則事件の調査を含む。)若しくは租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の規定に基づいて行う情報の提供のための調査に関する事務又は国税の徴収若しくは同法の規定に基づいて行う相手国等の租税の徴収に関する事務に従事している者又は従事していた者が、これらの事務に関して知ることのできた秘密を漏らし、又は盗用したときは、これを二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。」と規定している。
 これに対し、告発義務について、刑事訴訟法239条2項は「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」と規定している。
 両者の関係につき、慶應義塾大学の安冨潔名誉教授は「公務員が職務上知り得た秘密に属する事項については、103条、144条との均衡上、告発の義務を負わないものと解される。しかし、その事項を告発して犯人の処罰を求めることについての公益上の要請が強い場合には、告発を行っても、法令による正当な行為として国家公務員法100条等の守秘義務に関する規定に違反するものではないと解される。」(7)と述べられる。  刑事訴訟法103条は「公務員又は公務員であつた者が保管し、又は所持する物について、本人又は当該公務所から職務上の秘密に関するものであることを申し立てたときは、当該監督官庁の承諾がなければ、押収をすることはできない。但し、当該監督官庁は、国の重大な利益を害する場合を除いては、承諾を拒むことができない。」と規定し、刑事訴訟法144条は「公務員又は公務員であつた者が知り得た事実について、本人又は当該公務所から職務上の秘密に関するものであることを申し立てたときは、当該監督官庁の承諾がなければ証人としてこれを尋問することはできない。但し、当該監督官庁は、国の重大な利益を害する場合を除いては、承諾を拒むことができない。」と規定している。そして、「国の重大な利益を害する場合」については、「国の重大な利益を害するかどうかは、監督官庁にその認定権がある。その事実が公開されることによって国の安全又は外交上の利益に重大な支障が及ぶ可能性のある場合、公安の維持に重大な支障を生ずるおそれがある場合、その他各種行政の運営上著しい支障を生ずるおそれのある場合等がこれにあたる」(8)と解されている。
 ここで、東京高裁平成7年7月19日判決・税資213号193頁は、「税務職員の守秘義務は、税務職員が税務調査等の税務事務に関して知り得た納税者自身や取引先等の第三者の秘密を保護するということにとどまらず、そうした秘密を保護することにより、納税者が税務当局に対して事業内容や収支の状況を自主的に開示・申告しても、また、税務調査等に納税者や取引先等の第三者が協力しても、税務職員によってこれが公開されないことを保障して、税務調査等の税務事務への信頼や協力を確保し、納税者や第三者の真実の開示を担保して、申告納税制度の下での税務行政の適正な執行を確保することを目的とするものである」と判示していることからすれば、納税者等の秘密を漏らすことは刑事訴訟法103条、144条の「国の重大な利益を害する場合」にあたると考えられ、原則的に告発義務より守秘義務が優先すると考えられる。ただし、そのような納税者等の秘密を関係政府機関に情報提供しなければ国の安全又は外交上の利益に重大な支障が及ぶ可能性のある場合、公安の維持に重大な支障を生ずるおそれがある場合にあっては、公益上の要請がきわめて強いと考えられることから、守秘義務より告発義務が優先すると解すべきである。


  1. (1) 三浦守ほか『組織的犯罪対策関連三法の解説』71頁(法曹会、2001)。
  2. (2) 金子宏『租税法〔第23版〕』1119頁(弘文堂、2019)。
  3. (3) 臼井滋夫『国税犯則取締法』101頁(信山社出版、1990)。
  4. (4) 佐藤英明『脱税と制裁[増補版]』456-457頁(弘文堂、2018)。
  5. (5) OECD. (2017). "Effective Inter-Agency Co-Operation in Fighting Tax Crimes and Other Financial Crimes -Third Edition" OECD Publishing, Paris, pp.28-30, available at
    http://www.oecd.org/tax/crime/effective-inter-agency-co-operation-in-fighting-tax-crimes-and-other-financial-crimes.htm, last visited June 17, 2019.
  6. (6) 本庄資『国際租税法―概論―〔第4版〕』788頁(大蔵財務協会、2018)。
  7. (7) 安冨潔『刑事訴訟法 第2版』 80-81頁(三省堂、2013)。
  8. (8) 松尾浩也監修・松本時夫ほか編著『条解刑事訴訟法〔第4版増補版〕』 214頁(弘文堂、2016)。

3 結論(まとめ)

(1)組織的犯罪処罰法の平成29年改正に伴い生じる論点

イ 逋脱により納税を免れることにより得られた利益は組織的犯罪処罰法における「犯罪収益」に当たるか
 組織的犯罪処罰法2条2項1号の「犯罪収益」の定義における「犯罪行為により得た財産」とは、「犯罪行為により犯人が取得した社会通念上経済的価値が認められる利益一般」をいい、これには「財産上の利益」も含まれる。「財産上の利益」には、詐欺利得罪(刑法246条2項)における、詐欺により債務免除を受けた(債務の支払を免れた)ことによる利益のような消極的利益も含まれることから、逋脱により租税債務の支払を免れたことによる利益もこれに当たると考えられる。したがって、逋脱により租税債務の支払を免れたことによる利益は、組織的犯罪処罰法における「犯罪収益」に該当する。
 また、逋脱によって納税を免れたことによる利益は、犯罪組織の維持・拡大に利用されたり、将来の犯罪活動に再投資されたり、事業活動に投資されることによって合法的な経済活動に悪影響を及ぼす恐れがあるにもかかわらず、それを犯罪収益に含めないとすることは、組織的犯罪処罰法の趣旨に鑑みても不合理である。

ロ マネー・ロンダリングの調査は国税通則法131条1項に定める犯則調査の対象となるか
 国税通則法は、国税庁の当該職員による国税の犯則調査の対象について明示していないが、犯則調査の対象は国税の納付・賦課・徴収に直接的な犯則事件に限ると解されており、マネー・ロンダリング罪は国税の納付・賦課・徴収に直接的な犯則事件とはいえないと考えられる。また、マネー・ロンダリング罪と租税犯では、保護法益が異なり、それぞれの保護法益、及び、財務省設置法19条において定められる国税庁の任務を鑑みると、各犯罪について刑事罰の対象とすべきか否かを適切に判断し得るのは、マネー・ロンダリング罪については警察官及び検察官であり、租税犯については国税庁等の当該職員であると考えられる。したがって、税務当局の犯則調査対象にマネー・ロンダリング罪の調査は含まれない。

(2)税務当局によるマネー・ロンダリング対策の方向性
 マネー・ロンダリング、テロ資金供与、腐敗などの重大な金融犯罪の調査には、複数の関係法執行機関が協力して取り組む政府一体アプローチが求められ、さらには外国当局との協力も必要とされる。したがって、これらに対する取組については、複数の関係政府機関によるタスクフォースを設立し、必要に応じて守秘義務の解除を検討していくという方向性が考えられる。
 また、刑事訴訟法239条2項(公務員の告発義務)を根拠に関係政府機関へ一律的な情報提供を行うことは困難であり、個々の犯罪について公務員の告発義務と守秘義務の関係を検討し、相対する公益を比較衡量すべきである。比較衡量に当たっては、マネー・ロンダリング罪の趣旨、保護法益(@組織的犯罪の助長を防ぐこと(犯罪組織の維持・拡大への利用、将来の犯罪活動への再投資を防ぐこと)、A健全な経済活動(事業活動に投資されることによる、合法的な経済活動への悪影響を防ぐこと))に鑑み真に情報提供が必要なものかを検討する必要があるとともに、その検討等を行う専門部署を税務当局内に設けることなどを検討すべきと考える。情報提供すべきものとしては、国の安全又は外交上の利益に重大な支障が及ぶ可能性のあるもの、公安の維持に重大な支障を生ずるおそれがあるもの、組織的な犯罪集団が関連する犯罪や、国際組織犯罪防止条約において犯罪化が義務付けられている罪、例えば公務員、外国公務員の贈収賄等に係る情報は提供すべきと考えるが、犯罪収益が個人的な遊興費として費消されていた場合などは組織的犯罪処罰法の趣旨になじまないと考えられることから情報提供対象から除外すべきと考える。


目次

項目 ページ
はじめに 121
第1章 マネー・ロンダリング対策の国際的潮流 123
第1節 沿革 123
第2節 国際的な連携 126
1 FATF(Financial Action Task Force) 126
2 エグモント・グループ(Egmont Group) 132
3 J5(Joint Chiefs of Global Tax Enforcement) 133
4 ウォルフスバーグ・グループ(Wolfsberg Group) 134
第3節 マネー・ロンダリングの手法と対策 140
1 一般的なマネー・ロンダリング 140
2 プロフェッショナル・マネー・ロンダリング 141
3 マネー・ロンダリングの手法等 144
第4節 小括 151
第2章 日本におけるマネー・ロンダリングと法制度 152
第1節 マネー・ロンダリングに関する法制度の概要 152
1 麻薬特例法 152
2 組織的犯罪処罰法 153
3 犯罪収益移転防止法 166
第2節 組織的犯罪処罰法に係るマネー・ロンダリング事件の概要 168
1 マネー・ロンダリング事件の検挙状況 168
2 検挙されたマネー・ロンダリングの手口 170
3 暴力団構成員等及び来日外国人の関与 171
第3節 組織的犯罪処罰法及び国税通則法等の諸論点 173
1 逋脱により納税を免れたことによる利益は組織的犯罪処罰法における犯罪収益を構成するか 173
2 税務当局の犯則調査権限にマネー・ロンダリング罪の調査は含まれるか 188
3 脱税の実行行為(虚偽の確定申告書提出等)より前に行われた仮装・隠蔽行為をもって、組織的犯罪処罰法10条犯罪収益等取得事実仮装罪等の実行行為と認定することができるか 194
第3章 税務当局によるマネー・ロンダリング対策の方向性 197
第1節 各国の金融犯罪に対する取組状況等 197
1 租税犯罪及びその他の金融犯罪と闘う組織モデル 197
2 情報の共有 206
3 協力強化モデル 208
第2節 OECD勧告 217
1 概要 217
2 OECD勧告と諸外国の取組 218
第3節 守秘義務と告発義務 219
1 告発義務 220
2 守秘義務 221
3 告発義務と守秘義務の関係 222
4 考察 224
結びに代えて 226