佐々木 一憲
税務大学校
研究部教授

要約

1 研究の目的(問題の所在)

法人税法上、宗教法人は公益法人等に該当し、法人税法2条13号所定の収益事業を行う場合に限って、法人税の納税義務を負うこととされる一方、宗教活動によって献納される喜捨金などを収入する行為は、その収益事業に当たらないと解される。ところで、最近の報道等によると、葬祭を仲介する民間業者等による宗教行為の商品化という動きが見受けられる。たとえば、僧侶紹介サービス、永代供養寺院紹介サービスなどの葬祭関係(当該サービスの運営は、葬儀社紹介サイト運営事業者)では、宗旨・宗派不問とした上で、「お布施」の名の下に価格設定するなど、そのウェブサイト上での販売窓口開設による宣伝効果もあいまって、益々多様な状況にある。このような宗教ビジネスについて、それらが、法人税法上の収益事業に該当しないとされる行為に対してどのような位置にあるのか、宗教法人に新たな課税上の問題を生じさせるものなのかなど、宗教法人法など関係法令を踏まえた検証の必要がある。
 本研究は、社会情勢の変化や個人的価値観の多様化などの要請によって生み出されたビジネスモデルの下、宗教的相談をもつ依頼者へ販売・提供される宗教的なサービスについて、その収益事業該当性の検討を目的とする。

2 研究の概要

(1)宗教ビジネス

イ 宗教法人と公益性
 我が国の公益法人制度は、明治29(1896)年制定の民法の中に明文の規定をもって公益法人制度が形成されたといえる。これ以前、明文規定をもたないその前史において、最も古く著しい公益活動の事例は寺院や神社とされる。これらの宗教団体は、宗法や宗儀により独立的な組織として運営され、宗教的行事のほかにも社会的ニーズに応える活動を行っていたようである。
 そして、現在、聖俗分離の原則からその活動に二面性を有する宗教法人については、その根拠法において、礼拝の施設を備える団体(単位団体)とこれらの団体を包括する団体(包括団体)とに大別され、この両者に共通する性質として、「1宗教の教義の宣布、2儀式行事の執行、3信者の教化教育を主目的とする」ことが定められている(宗教法人法2条)。目的ということばの意味からすれば、これら宗教団体の本来の活動によってもたらされる高次な目的が考えられるところ、法律上の目的としては、具体性・客観性を必要とするのでこれらを主目的としたものであり、要するに宗教団体の行為であり活動そのものである。このように解されるものをここでは宗教性と呼ぶこととするが、それは、一般的な公益性とは異質と解される一方で、宗教団体の性質上、宗教団体の利益、構成員の利益と見なされやすいという背景もある。
 このような宗教法人の行う事業については、その主たる目的に沿って行われることを前提とした上で、その公共的性格からいって、それにふさわしい内容・方法とともに適正な規模であることが期待されており、そして当然、宗教法人が主体的に行うことを大原則としたものでなければならないと考えられる。

ロ 宗教ビジネスによって提供される宗教的サービス
 ここでいう宗教ビジネスとは、営利性のあるビジネスモデルであって、宗教的相談をもつ依頼者(以下、「依頼者」という。)、宗教ビジネスのモデル構築・運営を行う事業者(以下、「運営事業者」という。)、そして、その事業を通じて依頼者に対して直接サービス提供する宗教家の三者を基本構造としつつ、これに販売窓口としてポータルサイト運営事業者が加わるなど、いわば一連のサービス提供システムである。宗教ビジネスでは、原則として依頼者へ提供すべき行為は宗教家が主体となって執り行われ、その行為以外のすべてを運営事業者が行うことを基本に、宗教的側面で行われてきた宗教行為と外見上同様のものを商品化(以下、「宗教的サービス」という。)し、世俗的市場で行われている販売形態に馴染ませた、一定価格を設定した料金連動型のサービスシステム(以下、「料金連動型サービスシステム」という。)を通じて販売する。
 このような宗教的サービスについて概括的にいうと、「伝統的に宗教的側面で行われてきた行為(宗教活動)がその特徴の一部を欠く新たな形態や営利性のある事業と一体を成して、世俗的市場に登場したもの」であり、料金連動型サービスシステムによってその依頼者が行う財貨移転行為の任意性に疑義が生じているものである。
 なお、「宗教人は、その属する宗教法人が行うその事業、すなわち宗教活動によってうる収入は、すべてその属する宗教法人に帰属するものであることに留意すべきであり、わたくしすべきものでないのである。」このような考えに基づき、本稿でいう「宗教家」とは、宗教法人又は僧籍等が確認されている宗教法人に所属する僧侶等をいうものとする。

(2)宗教的サービスの法的性質に着目した収益事業判定と問題点

イ 法令解釈
 公益法人等については、法人税法上、収益事業から生じた所得についてのみ納税義務を負うとされ、非収益事業から生じた所得に対しては課税しないこととしている(法法41、7)。また、ここでいう公益法人等は、法人税法2条6号で定義する法人税法別表第二に掲げられているところ、その法人格の成立要件については非営利性を建前とする。その制度趣旨について、沿革的にはシャウプ勧告に基づくところ、その一つとして「同種の事業を行うその他の内国法人との競争条件の平等を図り、課税の公平を確保するなどの観点からこれを課税の対象としている」。
 その収益事業の範囲については、法人税法2条13号の委任を受け、現在、政令に34の事業種として限定的に列挙されている(法令51。以下、「特掲事業」という。)。それぞれの事業の意義及び範囲については、必ずしもその本質を明確に定められているとはいえず、その解釈に当たっては個別的に合理的な解釈に委ねることとなるが、そこでは法人税法2条13号及び同法7条の趣旨をも斟酌した上で、その文言を解釈すべきと解されている。
 たとえば、法人税法上、法人税法施行令5条1項10号の収益事業である「請負業」について、ここでいう請負は法人税法及び関係法令に特に定義規定がなく、その範囲をどのように解すべきかという点がしばしば問題とされてきた。法人税法上の「請負業」は、「事務処理の委託を受ける業」を含むと規定されていることから、民法632条所定の請負を反復継続して業として行うものに限定されず、委任(民法643条)あるいは準委任(民法656条)を反復継続して業として行うものをも含み、その範囲は広義のものと解される。
 また、契約とは、通常、一方の当事者からの申込みに対してそれに対応すべき承諾がなされて合意成立という形をとる。請負契約は双務契約であるから、双務契約による債務の一方が金銭債務である場合、一方の仕事の内容は確定されていても、その対価たる報酬につきまったく取り決めがない場合は、請負契約は未成立となる。つまり、その契約の成立要件は、金額の確定まではされていなくとも、対価の支払の確定的合意の有無によって決せられるものと解されるから、一方の当事者からの仕事の結果に対してその相手方がその報酬を支払うことを約することとなる。したがって、その成立要件を充足すると解されるものは、外形的に「請負業」に該当するものと考えられる。

ロ 宗教的サービスの法的性質に着目した収益事業判定
 宗教ビジネスにおいて、運営事業者の運営規則等に列挙されているサービス等商品に対して設定される一定価格については、その支払い方法等が示されていることからみて、当該商品に対する対価という趣旨で定められていると解すことが自然であり、また、依頼者が負担する金銭等については、運営事業者の管理の下、依頼者と宗教家の間の自由な意思によってその負担の有無や金額の多寡等を決められないことなどから、宗教家が行う行為を受けることを含む対価として依頼者から運営事業者に対して支払われたものとみるのが合理的であると考える。このように依頼者が金銭を負担して手に入れた「宗教的サービスを受ける権利」は、他の私法上の明示された権利にも該当しないことから、第一義的には当事者間の契約に基づく債権と解される。さらに、依頼者と運営事業者との間で結ばれているその契約は、上記(1)ロから、運営事業者が料金連動型サービスシステムによって広く一般に依頼を募り、依頼者からの申込みに対して、運営事業者と宗教法人との委託等の合意が前提となっている売買の形式とみることができる。
 以上のことから、このようなビジネスモデルにおける運営事業者と宗教法人との関係については、前記イにおける請負等契約の成立要件を充足し得るものであって、民法上の請負又は準委任の性質と何ら変わらない。したがって、宗教法人が宗教的サービスを提供して金員を収入する行為は、その料金連動型サービスシステムによって反復継続的に行われる事業であり、請負業又は事務処理の委託を受ける業として法人税法上の「請負業」に該当するものと考えられる。

ハ 問題点

(イ)宗教行為に対する財貨移転行為の建前と本音
 宗教的サービスについて、その法的性質に基づいて収益事業該当性を判断する場合、当事者の一方(依頼者)の財貨移転行為の性格やその行為と相手方(宗教家)の行為との関係性などに着目するも、これを非収益事業の側へ傾け得る確定的な要素は見当たらない。また、宗教行為に対する建前に立った場合、宗教的理念に基づく喜捨が単なる外形的な価格の無表示にあらず、金員の多寡によらない不特定多数に対する一般的な公益性とは異質な宗教性の実現にあるとすれば、依頼者の行う財貨移転行為が金銭的債務とみられる宗教的サービスについては、確かにその部分を欠いているのかもしれない。
 他方、宗教法人においてもその組織(集団)の維持・存続のためには、変化する社会情勢や多様化する個人的価値観にまったく無関係でいることは厳しく、そこには伝統的、典型的なものが形成された時点とは異なった事情が察せられる。そして、人の供養などにおいても相場が存在し、通常はこの相場の金額を「出さざるを得ない」と考えて宗教家に手渡し、宗教家もまたこの相場の金額が支払われるものと期待しているのが現実と思われ、それは社会一般の認識ないし本音にも妥当するものと考えられる。宗教的サービスのような一定価格の設定されたものについて、直ちに伝統的な宗教行為と区分し、課税上、その法的性質に従って営利行為と判断すべきかどうかは見解の分かれるところでもある。

(ロ)公益法人等が行う行為の公益性や宗教性と課税上の取扱い
 「公益」自体の定義もあいまいであるところ、宗教法人を含めた公益法人等の公益性に関しては、一律の仕組み又は規律はなく、相対的に濃淡があるものとなっている。しかし、公益性や宗教性といった抽象的であって定量化が極めて困難なものついては、実務上も主観性が入り込む余地が見込まれるなど、税制上の優遇措置を与えることの基礎とはし得ないものと解される。もっとも、法人税法2条13号所定の収益事業の概念からは、その団体やその活動が高い公益性や宗教性を有していることを理由に、直ちに収益事業該当性が否定されるものではない。その結果として、宗教的意義のある行為として公知の事実である「人の葬儀」や「読経等」というものであったとしても、法人税が非課税となる宗教活動に当たるのかどうかについては、「明確な典拠を見出すことが困難な法環境にある」ことも否定できない。
 このように考えてくると、宗教的サービスのような宗教的意義を否定し得ず、かつ、環境変化が生み出す新たな形態の事業については、その法的性質に基づいて判断することに一定の合理性はあって妥当なものであるとも考えられる。

(3)判例理論とその射程

  公益法人等が行う行為の収益事業判定について、現在の判例理論を整理すれば、1外形的判断、2実質的判断における基底的枠組み及び3その個別判断要素で構成されるものと解される。最高裁平成20年9月12日第二小法廷判決(いわゆるペット葬祭業事件。以下、「平成20年最高裁判決」という。)では、収益事業課税制度の趣旨について、「同種の事業を行うその他の内国法人との競争条件の平等を図り、課税の公平を確保するなどの観点からこれを課税の対象としている」という一般的な解釈を前置として、「宗教法人が死亡したペットの飼い主から依頼を受けて葬儀等を行う事業」(以下「本件事業」という。)の収益事業該当性について、まずは1法律的取扱いを行う特掲事業の形態を有するものの外形的な括り出しがあり、その特掲事業に当たるかどうかの実質的判断において、通常、2「当該事業の目的、内容、態様等の諸事情を社会通念に照らし総合的に検討し判断すべき」という基底的な枠組みがあって、その行為が「課税の公平を確保するなどの観点からこれを課税の対象としている」ものに該当するかどうかについて、3具体的な判断要素として「対価性」、「競合可能性」が存在し、それぞれを個別独立に判定しこれを踏まえるものと判示した。
 ところで、宗教的サービスについて、その法的性質に基づいて収益事業該当性を判断する場合、宗教法人の行う行為に一定価格の設定があるものや価格相場があるものなどが存在するという「宗教行為に対する財貨移転行為の建前と本音」(上記(2)ハ(イ))に問題を残していた。宗教法人の行う行為に一定価格の設定があるものや価格相場があるものなどについては、平成20年最高裁判決において、原審及び第一審の判断を指示しつつも、「競合可能性」を個別判断要素に加えた判断枠組みを示しているところからみて、課税上の説明として、宗教法人以外の課税法人が行う同種の事業との違いを「対価性」のみで明確にすることは厳しいものと推察される。このような事案を例として、公益法人等の行う行為の課税上の判断を巡る争いにおいては、その行為を客観的にみれば、公益的や宗教的な側面とは別に営利法人と競合している側面があって、争点の中核にはそのいずれを重視するかという点があったとみられる。平成20年最高裁判決においても、原告たる宗教法人は争いのある行為が有する宗教的側面の性質をとらえこれを重視したのに対し、本件最高裁は、宗教法人の行う行為がその性質上宗教的意義のある行為であること自体は否定せず、事案に即して個別具体的にその行為の競合可能性について判断しこれを重視したものとみられる。
 したがって、少なくとも宗教的サービスのような依頼者が行う財貨移転行為の任意性に疑義が生じているものの収益事業該当性の判定においては、本件最高裁が判示した判断枠組みが当てはまるものと解され、「競合可能性」を個別判断要素に据えた意図にも妥当するものと考える。このような理解に立てば、宗教的サービスについて仮に収益事業性非該当と判定されるならば、その理由は伝統的な宗教行為とは別なものであるとも考えられる。

(4)宗教ビジネスを巡る収益事業課税に関する考察

イ 実質的な経済活動を重視した課税上の取扱い
 宗教的サービスは、もともと「伝統的に宗教的側面で行われてきた行為(宗教活動)がその特徴の一部を欠く新たな形態や営利性のある事業と一体を成して、世俗的市場に登場したもの」であることから、宗教ビジネス上にあってもその行為の実質的な性格が「伝統的に宗教的側面で行われてきた行為」と変わらないものであるならば、社会通念上も崇敬の対象として認識されている本来の宗教活動の一部として、営利性や一般的な公益性に対しても異質であると判断され得るものと考えられる。しかし、「本来の宗教活動の一部」という基準は、観念的に理解できるものであったとして、課税上の基準という意味では客観性が十分とはいえないところ、たとえば宗教的意義のある葬儀(以下、「宗教的葬儀」という。)の中核にある読経等は無体なものであり、その本質を判断すべきという要請に対して、これまでのメルクマールの単純な適用は難しい場面が想定される。このように考えてくると、公益性や宗教性とは無関係とする課税上の判断とはいえ、宗教的サービスであっても法人税が非課税となる本来の宗教活動の一部とその本質が変わらないものと解される場合においてまで、運営事業者と宗教法人との間の委託等の法的性質の有無が課税の要否に影響を与えるとするならば、課税の公平維持の観点からは問題がないとはいえないのではなかろうか。
 宗教ビジネスでは、依頼者と宗教法人との間には料金連動型サービスシステムが介在し、それぞれが運営事業者と結ぶ契約によって間接的に結びついている。宗教的サービスについて、その登場に至った背景などは別としても、「伝統的に宗教的側面で行われてきた行為(宗教活動)がその特徴の一部を欠く新たな形態や営利性のある事業と一体を成して、世俗的市場に登場したもの」であることから、一定価格の設定による財貨移転行為の任意性の有無のみをもってその収益事業性を判断することは必ずしも適当とはいえず、むしろ、一定価格の設定を含めた料金連動型サービスシステムを手段として、何が行われているか、宗教法人にもたらされる効果はどのようなものかなど、その経済的実質に基づく検討が必要と考える。
 たとえば上記(1)ロを具体例とすると、依頼者の金銭的負担の決済は運営事業者が指定する方法のみによって行われ、運営事業者が具体的な日時・場所等を調整して商品内容の確認票を作成発行し、これに基づいて宗教家による宗教的サービスが依頼者に対して提供されるなど、本件事業におけるサービス提供に伴う手続はすべて運営事業者が主体となって行われていると認められる。その一方で、依頼者に施される行為自体は、一定の範囲において宗教法人の裁量と判断で行われるものであるならば、運営事業者から委託されるものというよりも、むしろ宗教法人自らが行うものという性質が強いものといえなくもない。
 これに対して、たとえば運営事業者が定める運営規則等にその行為に関して儀式形式等まで一方的に定められ、これに従って宗教法人がサービス提供するものなどについては、その行為が宗教家によって行われるものであっても、その行為の主体にあるとはいえず、宗教法人が自ら行う宗教的意義のある行為と同質のものとは考え難い。なお、仮にそのような外見上の類似性のみを有する宗教的なサービスがあったとするならば、その事業は、先に概観してきた宗教活動の沿革や宗教法人の根拠法からみて、宗教法人の行う事業としてふさわしいかどうかという問題とは別としても、課税上の判断において非課税とされる本来の宗教活動の一部とは異なる需要に対して提供されるものと判断され得ると考える。

ロ 特殊性の考慮
 公益法人等の行う事業が法人税法上の収益事業に該当するかどうかは、その制度趣旨の一つであるイコール・フッティング論に基づき判断がなされてきたところである。
 たとえば、宗教法人の行う物品頒布行為は、一般的な物品販売との形態的な特徴の類似性により法人税法上の「物品販売業」として収益事業課税の対象となり得るところ、その売価利潤等からみて実質的におさい銭や喜捨金と同質のものと認められるものは、課税実務上、「物品販売業」に該当しないものとして取り扱うことが明らかにされている。このような判断については、その基準とすべきものとして販売価格や売買利潤などの財貨移転行為に着目していることからみて対価性に重心を置いた判断の枠組みにおいて許容しているものと考えられなくもないが、他方において、外形的に法人税法上の「物品販売業」の形態的な特徴を有するものについてその実質的な経済活動を重視した判断の枠組みにおいて競合可能性を個別要素に加え総合勘案された結果とも矛盾しないものと考えられる。
 ところで、「請負業」と他の特掲事業との関係において、公益法人等の行う事業が委託等の性質を有するものあっても、その実質的な性格が「請負業」以外の他の特掲事業として収益事業の判定をなすべきものであるときは、課税実務上、その事業は「請負業」には該当しないものとする旨の取扱いを明らかにしている。そこで、たとえば宗教的サービスとして提供される読経等のケースを本取扱いに当てはめてみると、宗教法人が依頼者に対して行う読経等が、運営事業者からの委託等によってなされる世俗法的な性質のものであったとしても、宗教法人自らが行う読経等と実質的に同じ性格と解せるならば、「請負業」以外の特掲事業に該当するかどうかにより判定をなすべきものであることから、その読経等は「請負業」に該当しないものとして、収益事業性非該当と判定されなければならないこととなる。すなわち、「依頼者に提供する宗教的サービス(読経等)」を「宗教法人自らが行う宗教的意義のある行為(読経等)」と解せるか否かの判断は、その委託等の法的性質への着目とは別に行わなければならないこととなる。
 以上のことから、宗教的サービスが仮に収益事業性非該当とする判断に傾くとすれば、その理由は、喜捨という通常事業とはいわないものに該当する以外に、法人税法上の「請負業」との外形的類似性をもつ事業の収益事業判定の実質的な判断枠組みにおいて「競合可能性」に重心を移して明らかにされるものと考えられる。この場合、その実質的な判定によって法的性質のみに着目した収益事業判定を行う意義は失われるものと解される。

ハ 料金連動型サービスシステムが当事者に生じさせる実質的効果
 宗教的サービスの収益事業該当性の判定においては、宗教ビジネスの下、依頼者と宗教法人を結び付ける料金連動型サービスシステムに着目し、当事者に生じさせる実質的な効果を検討すべきと考える。具体的には、運営事業者と宗教法人との間の取り決め内容を分析し、宗教的サービスにおいて宗教法人が行う行為の目的・内容・態様等から判断する必要がある。

ⅰ  目的
 宗教法人の行う行為は、それが公序良俗に反せず、他の強行法規に抵触するものでなければ、「法文上は、宗教の教義を広めることなどを主目的とする団体が、その目的に応じた行為を行う限り、およそそこに宗教行為が行われているものと解釈することができる」。
 一方、宗教的サービスにおいて前段の目的は維持されつつもその宗教的な特徴の一部を欠くことに至った理由について、前述のようなものがその背景にあったとしても、営利性を求めたビジネスモデルの構築又は活用目的等のみによって説明されるものであるとすれば、本来の宗教活動の一部がもつ特殊性と営利性との取捨選択であったと考えられる。したがって、その行為の実質的な目的として加わった営利性が問題となる。

ⅱ  内容
 宗教的サービスは、もともと「伝統的に宗教的側面で行われてきた行為(宗教活動)がその特徴の一部を欠く新たな形態や営利性のある事業と一体を成して、世俗的市場に登場したもの」であることから、運営事業者と宗教法人がその事業上の役割を明確に分けているものと考えられる。たとえば、運営事業者が依頼者に対して宗教家を派遣する又は手配する等のケースにおいて、運営事業者はその事業に関する提携者である宗教法人に対して、その契約範囲内で直接依頼者による指示を受けながら宗教的サービスを提供することの包括的な委託とみることができる場合、基本的に宗教法人は儀式等の主体であって独立的に行われるものと推察される。他方、運営事業者が依頼者に対して宗教家による宗教的サービスを請負うようなケースについては、宗教家の行う行為の外見上は前記ケースと同じにみえるとしても、宗教家は、一般的に運営事業者を債務者としてその補助にあたる役割とみるのが自然であるところ、運営事業者と宗教法人との間に雇用関係がないとすると、運営事業者の債務について履行補助者として行為にあたる等、原則として、運営事業者の指示に従い、その管理の下にサービス提供に協力しているものと考えられる。つまり、宗教家が運営事業者の指示を受けずに、全く独立の立場でサービス提供を行っているとは認められないと判断され得る。

ⅲ  態様等
 運営事業者の行う事業が宗教法人にもたらす実質的な効果について、具体的には、依頼者と宗教法人との結び付け、依頼者の金銭等負担額及び支払手段等の決定経緯、そして、その周知・広報等のしかたなどを検討すべきと考える。すなわち、料金連動型サービスシステムによって、課税上の問題と考えられるのは、具体的には一定価格の設定というより、むしろ、運営事業者によって行われる周知・広報等のしかたによる依頼者獲得又は事業拡張手段が営利法人の本質に極めて類似していると考えられることなど、諸点において宗教法人にもたらされる営利性に近接する実質的効果にあると考える。

3 結論(まとめ)

一定価格の設定がなされた料金連動型のビジネスモデルによって提供される宗教法人が「宗教の教義の宣布、儀式行事の執行、信者の教化教育」を目的に行う行為が特掲事業に該当するかどうかは、対価性及び競合可能性の観点での検討を踏まえた上で、当該事業の目的、内容、態様等の諸事情を社会通念に照らし総合的に検討し判断すべきところ、対価性が否定し得ない場合、本稿においてはその該当性は基本的に競合可能性に重心を移して判断されるものと解すべきとの立場を採り、その行為の宗教的意義は、事業の性質としてその対価性および競合可能性の判断に取り込まれ、すなわち、宗教法人以外の法人が行う外見上同種の事業に対するその行為の異質性の判断に解消するものとの考えに至った。
 たとえば宗教的サービス(読経等)が法人税が非課税となる宗教法人自らが行う読経等と実質的に同じ性格と解せるかどうかは、その法律的取扱いを行う特掲事業として括り出されたものについて、料金連動型サービスシステムよる実質的効果に着目し、主として以下の影響を考慮した上で判断する必要があるといえる。

ⅰ  宗教法人の行う宗教的意義のある行為の独立性(個別性)の保持

ⅱ  運営事業者によって行われる周知・広報・販売等のしかたによってもたらされる営利性に近接する効果


目次

項目 ページ
はじめに291
第1章 公益法人法制と宗教ビジネス293
第1節 宗教法人と公益性293
1 信教自由と政教分離原則293
2 公益法人法制296
3 宗教法人制度と公益性298
第2節 宗教ビジネス305
1 宗教法人の事業と会計処理305
2 宗教法人と社会の高度化309
3 宗教ビジネスによって提供される宗教的サービス311
4 伝統的な宗教行為と宗教的サービス311
第3節 小括314
第2章 宗教法人に対する課税制度316
第1節 沿革316
1 創設期316
2 現行制度の創設319
第2節 現行制度の概要324
1 公益法人等の納税義務及び課税所得の範囲 324
2 収益事業の意義及び範囲324
第3節 聖俗二面性をもつ行為と収益事業課税333
1 世俗法的な性質に着目した収益事業判定333
2 問題点334
第4節 小括336
第3章 収益事業該当性が争われた裁判例339
第1節 裁判例からみた収益事業該当性340
1 東京高裁平成16年3月30日判決【裁判例1340
2 東京高裁平成16年11月17日判決【裁判例2343
3 最高裁平成20年9月12日第二小法廷判決【裁判例3348
4 東京高裁平成23年2月24日判決【裁判例4356
第2節 小括359
第4章 宗教ビジネスを巡る収益事業課税に関する考察361
第1節 一般的な事業分類と法人税法上の収益事業361
1 事業分類等の齟齬361
2 実質的な経済活動を重視した収益事業判定370
第2節 宗教的サービスの「請負業」該当性373
1 宗教的サービスの特殊性373
2 「請負業」との境界線376
3 料金連動型サービスシステムが当事者に生じさせる実質的効果377
4 小括(まとめ)379
結びに代えて381