佐々木 一憲
税務大学校
研究部教授


要約

1 研究の目的(問題の所在)

ICT産業では、情報通信技術の高度化に伴って、通信と情報の伝達・提供を融合するインターネット附随サービス業と呼ばれる分野の広がりが見られ、中でもプラットフォーム事業の登場によってデジタルコンテンツを提供する事業などはその参入障壁が低くなったことから、営利企業に限らず公益法人等においても多様なビジネスモデルが展開されている。
 法人税法上、公益法人等については、営利企業との競合性、課税の公平等を考慮して、収益事業から生ずる所得に対してのみ課税することとしているが、その意義や判断基準については曖昧な点が多く存在しており、公益法人等が行うデジタルコンテンツを提供する事業等は新しい分野であることから、これらの事業に係る収益事業の判定には更なる困難が伴う。これまで、公益法人等が行う電子商取引としては、例えば、物品販売の受発注等をネット上で行うなど、物理空間とネット空間の両方を用いる従来型の電子商取引がその主たるものであり、これらは明確に「物品販売業」等に当たると判定できたことから、収益事業の判定上問題となる場面は少なかった。しかしながら、近年多様化しているデジタルコンテンツを提供する事業等に関しては、例えば、いわゆる電子書籍は紙の書籍と作成する方法も異なるところ、その法的性質はどのようなものであるか、これを出版する事業は従来の「出版業」に当たるのかなど、ネット空間で取引されるその特性を見極め、収益事業該当性を個別に判断していく必要がある。
 本研究では、物理空間ではみられないデジタルコンテンツ取引の特性に焦点を当て、その特性を有する事業の収益事業該当性について、34種の収益事業の範囲内にあるのか否かを中心に検討する。
 昨今、デジタルコンテンツを配信するウェブサイト上の事業も大きく変化し、無料視聴可能なインターネット上の放送と呼ばれるものも登場している。このような状況に対して、インターネット上の違法な拡散防止を目的とした著作権法、不正競争防止法等の法令整備とともに、関係省庁によるガイドライン策定も進んでいる。デジタルコンテンツを提供するサービスは、電子端末等の普及拡大及びメディア接触時間の増大を背景に更なる活性化が見込まれることから、その取引を巡る法人税法上の取扱いを研究し、明確にしていくことには意義があると考える。

2 研究の概要

(1)デジタルコンテンツ提供事業等の基礎的モデル

公益法人等が行っているデジタルコンテンツ提供に関連する事業の中から、現実に事業として存在し、共通の理解の下に検討できる基礎的なモデルを想定する。なお、コンテンツの種類等によって関係法令上の取扱いが異なる場合があることから、本稿ではその種類を特定する場合、文字・静止画によって構成される電子書籍を想定することとする。

(2)デジタルコンテンツの取引に用いられる契約形態

コンテンツは多くの場合、著作権法が保護すべき著作物であり、その利用に関しては著作権法上の権利処理を要する。したがって、デジタルコンテンツの取引に際しては、売買契約とは別に著作権に関する契約が結ばれていることが想定される。以下、電子書籍の例による。

イ 著作権者と電子書籍制作事業者間の契約
 著作権者と電子書籍制作事業者の間で用いられる典型的な契約形態は、著作権譲渡契約又は電子出版権設定契約である。

ロ 電子書籍制作事業者と流通事業者間の契約
 現在のところ、電子書籍については著作物の再販適用除外制度の適用外とされており、その流通過程においては柔軟な再販価格の設定が可能であることから、事業者間の取引では大きく二つの契約形態が存在する。一つは、委託販売に類似するエージェンシー契約であり、もう一つは、卸売からの転売販売に類似するホールセール契約である。また、デジタルコンテンツの利用に関しては、著作権法を基礎とする利用許諾契約の締結により、二次出版のような法形式が用いられていることも想定されるが、契約自由の原則により、その内容にどのような権利をどのような条件で設定するかは当事者間で定められることから、事業者間は必ずしも画一的な権利関係にはない。

ハ 配信サービス提供事業者と消費者間の利用契約
 配信サービス提供事業者と消費者との間では、デジタルコンテンツの利用に関して、利用規約又は使用許諾契約等(以下「利用契約」という。)が結ばれている。利用契約の内容は、サービス及び権利処理等の内容によって必ずしも一律ではないものの、著作物の所有権は著作権者に留保した状態でコンテンツの閲覧・視聴等のみを目的とした著作物の複製物を使用する権利(以下「使用する権利」という。)を付与するという点で共通している。また、そのサービス提供が著作物の複製物の売買(譲渡)の法形式で行われているものであっても、利用契約において制限的な条件が付されているなど、直ちに著作権法上の利用許諾に当たるとは言い切れない場合がままある。

(3)デジタルコンテンツ取引の法的性質

コンテンツの多くは著作物であり、抽象的なもの(情報)である。コンテンツを利用する行為に関して、著作権法が直接的に関与しているわけではなく、あくまで当事者間の諾成契約によってその利用方法は定められる。また、その著作権契約の性質については、利用契約等による形式的な検討に留まらず、実際に著作物を利用する行為に著作権法上の利用行為(以下「法定利用行為」という。)があるか否かが一次的に判断され、その利用の目的や享受する便益など当事者に生じる効果から判断することとなる。
 デジタルコンテンツ取引の場合、事業者間において用いられる利用許諾契約は、著作権法によって保護されているコンテンツに関する権利の解除とともに、当事者間の契約に沿った一定条件の下での法定利用行為に対して、著作権者が有するその損害賠償請求権等を行使しないという不作為義務を約する債権付与を内容とするものと考えられる。つまり、デジタルコンテンツの取引を目的とした当事者間における法的安定を図るための権利処理であって、いわゆる版権ビジネスと呼ばれるような、商品の製造販売を行う権利(商品化権)の提供によって経済的利益を得るものとはその性格を異にしている。したがって、デジタルコンテンツの取引では、当事者間で自由に設定される権利とこれに用いられる契約形態によって事業の性質を別異に解すべきではないと考える。
一方、公衆向けの配信サービスにおいては、配信サービス提供事業者と消費者の間で利用契約が結ばれており、基本的に当該契約によって、その事業の性質を判断することとなる。例えば、電子書籍の場合、当事者間で結ばれる利用契約の多くは、「使用する権利」を付与するものとされており、消費者が対価を支払って得た権利ではあるが、著作権法が保護すべき利用方法に該当しないと考えられる。そのような「使用する権利」は他の私法上の明示された権利にも該当せず、第一義的には当事者間の契約に基づく債権と解される。

(4)デジタルコンテンツ提供事業等の収益事業判定の問題点

昭和25年の法人税法改正までその事業が非課税とされてきた公益法人に対して、収益事業課税を行うに至った理由が公益法人等と他の営利企業との競争条件の平等化、つまり、課税の公平維持であったことを踏まえれば、収益事業の判定に際しては、公益法人等が行う事業の実質的な経済活動がどのようなものであるのかが重視されてしかるべきである。しかしながら、公益法人等が行う経済活動は多種多様であり、配信サービスのようにネットワーク通信を介して無体物を公衆向けに提供するという行為自体が、従来の事業分類の枠に収まらず分類不能な中間領域的な産業と呼ばれるものもある。このようなネット空間の行為は、技術的なハードルに加えて、その法的性質がどのようなものであるのかといった問題により、さらに事業の性質をわかり難くさせており、そのまま、法人税法上、収益事業判定の難しさとなっている可能性がある。

イ 法人税法施行令5条1項1号及びに同項4号の「通常物品といわないもの」とは
 収益事業として掲げられている「物品販売業」(法令51一)及び「物品貸付業」(法令51四)の物品の範囲については、動植物その他通常物品といわないものも含む(法令51一括弧書、同項四括弧書)とされる。
 「物品販売業」は、販売形態に着目した場合、その販売の仕方が不特定又は多数の者に物品を販売する行為であって、小売、卸売などの別を問わないものと概括的にいえる。公益法人等の行為について、物品の販売形態によって対価を得るものである限り、原則として「物品販売業」に該当することとなるが、その行為によって生じる経済的実質が明らかに「物品販売業」と異なるものである場合にまで、法形式に従って課税の対象とすることは適当とはいえない。また、販売客体に着目すると、その範囲に「通常物品といわないもの」が含まれるとされているが、文理解釈上、そもそも物品とは有体動産であって、不動産が除かれていることから考えると同様に無体であるものも除かれているといえなくもない。
 一方、「物品貸付業」における「通常物品といわないもの」の範囲は、上記「物品販売業」におけるその範囲と同様と考えることが妥当であるが、著作権等のいわゆる無体財産権を取り扱う行為は含まれないことが、課税実務上、明らかにされている。
 これらを踏まえ、「通常物品といわないもの」の範囲を広く解した上で、「物品販売業」又は「物品貸付業」は、その範囲から著作権等の無体財産権の提供等に当たる行為を除いた上でもなお、その範囲に無体なものが含まれないとは言い切れず、無体なものを不特定又は多数に販売する又は貸付けるような行為が内在していると考えられる。そして、法律制定時に、そのような無体なものを販売する又は貸付ける事業は存在しておらず、具体的に想定することも難しいものであったとすれば、他の事業と区分する必要もなかったと理解できる。
 したがって、配信サービスのように有形媒体に固定されていない無体物を取り扱う行為については、その客体は物とは異なる法的性質であるものの、それを小売する又は卸売するような販売形態に着目した場合、法律が想定する物品販売業若しくは物品貸付業の延長線上にあると考えられることから、ここでいう「通常物品といわないもの」にデジタルコンテンツを含めて読み込む余地はあると考える。

ロ デジタルコンテンツを貸付ける行為とは
 無体状態にあるコンテンツについて、物(民法85)における所有、占有又は貸与等と同様に考えることが困難な場合がある。例えば、所有権(民法206)は有体物を客体として排他的に支配する権利であり、また、著作物に働く貸与権(著作権法26の3)も有体物に固定された状態を対象としていることから、デジタルコンテンツを配信提供する場合、その所有等の概念とこれを販売する行為をどのように解するかが問題となる。一般に物品の貸付ける行為とは、物品をその利用者の管理下に移して利用させる行為を指し、対象物の移転が伴う行為である。一方、配信サービスにおいて提供されるデジタルコンテンツは無体物であることから、貸付けるという行為に直接的にはなじまない。しかし、当該無体物の利用に関しては、利用契約に基づき物理空間に持ち出すことなくこれを利用することが前提となっているだけであって、利用者は実質的にネット空間でこれを管理できる状態となることから、当事者に生じる経済的効果は物の貸付けと異なるものではないと考えられる。

ハ 「通信業」と他の収益事業との関係
 収益事業に該当する「通信業」(法令51七)は、その範囲に「放送業」を含むものとされていることから、「他人の通信を媒介若しくは介助し、又は通信設備を他人の通信の用に供する事業及び多数の者によって直接受信される通信の送信を行う事業」と概括的にいえる。
 インターネットとコンテンツを融合したデジタルコンテンツ関連事業は、多くの事業が通信行為又は放送行為によって情報を流通させていることから、共通的に「通信業」の性格を有している。このような中間領域的な事業については、法人税法上の収益事業の判定を行う際、その複数有している事業の性質をどのように判断すべきか。この点に関しては、「請負業」と他の事業との関係において、請負等の性質を有するものであっても、その事業がその性格からみて、請負業以外の特掲事業に該当する場合、当該判定すべき収益事業において非課税事業に該当する場合に、「請負業」にて再度判定を行うのではなく、当該事業は請負業には該当しないものとして取り扱うことが、課税実務上、明確に整理されている。そのような取扱いが為されなければ、制度として34種の収益事業を特掲していることも、個別の事業ごとに置いた非課税規定の意味も失われる。このような考え方からは、通信と情報サービスの中間領域的な事業について、これを一律に通信業と判定することには首肯しがたく、「通信業」と他の事業との関係を考慮する必要があると考えられる。
 具体的には、インターネット等の通信環境への接続媒介を主たる目的とする事業と、公衆向けにデジタルコンテンツを視聴・閲覧させる事業は、いずれも通信業としての性格を有していると考えられる。前者は「他人の通信を媒介若しくは介助し、又は通信設備を他人の通信の用に供する事業」であり、従来の通信行為の延長上にあると考えられるが、後者については、法的性質は放送行為そのものには当たらないが、「多数の者によって直接受信される」公衆送信権によるコンテンツの提供事業であり、従来の通信又は放送の概念とも異なっており、その販売形態などによって法人税法上の「通信業」以外の事業に該当する可能性が考えられる。

ニ 広告モデル型サービスの収益構造

(イ) 収益と効用が単純に比例しない構造を持つビジネスモデル
 ウェブサイトの特徴の一つは、目的の異なった複数の参加者から成り立っていることであり、ウェブサイト参加者は、サービス等提供者、消費者及び運営事業者の三者を基本とし、これに広告主等が加わることで、収益と効用が単純に比例しない構造と分析されるビジネスモデルが存在している。具体的には、一般的にサービス提供による収益は、サービス提供時、これを享受する者から直接的に対価として支払われるが、サービスを享受する消費者へ課金せず、広告主からの広告収入によって運営を行うビジネスモデル(広告モデル型サービス)である。従来、通信と呼ばれるものの特性は限定性であり、そのような通信と広告の親和性は、公然性を有する放送に比して決して高くないと考えられるが、インターネットはすでに公然性を有しており、そこで展開されるすべてのウェブサイト(情報伝達媒体)に、そのような概念を当てはめることには違和感がある。明らかに課金モデル型サービスとは異なる利用料金体系を実現可能とする広告モデル型サービスの経済的合理性は、次のように考えられる。
 総務省情報通信政策研究所によると、インターネット上のサービスには無償で提供されているため収益と効用が単純に比例しないという構造のものが存在しているが、サービスを無償提供することにある程度の合理性が存在している場合があるとされる。具体的には、消費者に無償でサービス提供するウェブサイトの構造に多面性がある場合に、ウェブサイトの集客性は規模拡大に伴って逓増するから、集客性の増大が消費者にもたらす効用以上に他のウェブサイト参加者への価値がより高くなることがあると分析している。このような分析に基づき、広告モデル型サービスの経済的合理性を考えてみると、ウェブサイト参加者である広告主は、ウェブサイトを広告媒体として評価しており、その実質的な価値は利用者数やアクセス数などの集客性にあるから、ウェブサイト運営事業者にとって広告収入の増収のためには、情報伝達媒体と広告媒体の一体性をもったビジネスモデルとして計画・構築する必要があるものと考えられる。

(ロ) 「広告モデル型サービス」における事業一体性
 法人税法上の収益事業は対価性を要件としており、公益法人等が対価を得ずに行う事業は課税対象とはならないと解されている。法人税法上の収益事業が、「継続して事業場を設けて行われるもの」(法法2十三)を基礎的な要件とされているのは、継続企業から生じた所得、すなわち「事業所得」について課税するという趣旨と解される。ここでいう事業とは、「自己の計算と危険において営利を目的とし対価を得て継続的に行う経済活動」をいい、その事業性については、最終的にはその経済活動の態様等の諸事情を参考として、社会通念によって決定するしかないと考えられる。
 つまり、収益事業とは収益性のある事業として当初から計画され、そのような目的をもって継続される経済活動であり、その計画性については客観的に判断されるべきとされる。当初の計画が収益性を無視したといっても、客観的に見て収益性の見込まれるものはこの要件を満たすものであり、また、原価にも満たない対価を得ているような収益の出ない構造の場合についても、対価性の要件に所得の安定性までを含むものと解することには難があるといえなくもないが、その行為が収益性をもった目的で計画され継続して行われているかどうかについて、客観性を有した判断が為されることは前段と同様と考えられる。
 広告モデル型サービスの場合、収益が上がる構造を持つならば、集客性を高めるサービスの無償提供を継続しなければ、広告収入も自ずと途絶えてしまうことから、これら一体的活動が同種の行為として継続されることで事業性を有することは明らかである。そのような広告型サービスは、直接の対価性がない収入であっても他の一体性を持つ行為とともに、全体の収益で全体の経費を賄うという収益構造にあることから、その一体性のある収益構造によって収益性の有無が認識できるといえる。したがって、広告モデル型サービスは、その経済活動に明確な関連性が認められる収益構造を持つものから直接対価性のない部分を除外すると、その事業の実質が不明確になり、これをもって収益事業として課税すべきか否かの判定を行う場合、税負担の公平性などの原則に合致しない面も考えられることから、単に有償又は無償で行われるサービスと同視することはできず、一体不可分な事業と考えられる。

(5)まとめ

電子書籍関連事業は、公益法人等が行うデジタルコンテンツ提供事業の典型的な例である。それら事業の収益事業判定に当たっては、コンテンツ制作事業者、流通事業者及び配信サービス提供事業者を経由する電子書籍流通の大動脈に従って、その事業ごとの検討を行った。
 収益事業の判定に当たっては、公益法人等が行う事業の実質的な経済活動がどのようなものであるのかが重視されてしかるべきであり、1ネット空間で展開する事業が共通的に有する通信業的性格から、一律に「通信業」とすることは適当ではなく、むしろ、これを手段として何が行われているか、その経済的実質に基づく考察が必要である。また、2ネット空間では取引の対象物が無体のままであることが必然であって、物に働く権利と同様に考えることに無理が生じている場合があることを念頭に、3デジタルコンテンツの取引では、売買契約のほかに交わされる著作権に関する契約等が当事者間にどのような経済的効果が生じさせているかによって、その事業の性質を判断すべきと考える。
 これらを踏まえた基礎的モデルの収益事業の判定は次の通りである。

イ 電子書籍を制作する行為(電子出版)
 自ら出版する電子出版行為は、文字・図画を構成要素とする著作物を公衆に伝達することを事業目的とし、その制作過程は出版行為と重なるものも多く、デジタル化技術及びネット環境の向上によって、そもそも有形媒体に固定し公衆伝達していた著作物等を無体のまま流通させることが可能になったのであって、その行為が外形的にみて「出版業」に含まれないとする特段の理由は見当たらず、「出版業」に該当するものと考えられる。

ロ 電子書籍の流通過程において事業者間を媒介する行為(電子取次)
 事業者間では売買契約とともに結ばれている著作権の利用許諾契約は、書籍の二次出版のような権利関係を構成するが、事業者間の取引において利用許諾契約が用いられる理由は、上記(3)のように取引上の法的安定を図るための債権の付与であるとすれば、これらの契約形態が事業の本質までを変えるものでない限り、二次出版とは別異に解すべきと考える。したがって、その契約によって当事者に生じる経済的効果で事業の性質を判断すべきであり、電子取次に関しては、他の者のために商行為の代理を行う事業、又は、自己の名をもって他の者のために売買を行う事業であるから、法人税法上の「代理業」又は「問屋業」に該当すると考えられる。

ハ 公衆向け配信サービスの収益事業

(イ) 消費者の手元に複製物が作成される配信サービス
 ダウンロード方式によるデジタルコンテンツを配信するサービスは、消費者の手元でデジタルコンテンツの有形的再製を行い、有体物となった状態のデジタルコンテンツを配信サービスシステムと分離し、その消費者の管理下に移して一定条件で閲覧させるものである。そのような行為については、上記(4)イ・ロの「通常物品といわないもの」の検討を踏まえ、物品を消費者の管理のもとに移して利用をさせる物品の貸付け又は物品の譲渡といえることから、「物品貸付業」又は「物品販売業」に該当すると考えられる。

(ロ) 消費者の手元に複製物が作成されない配信サービス
 消費者の手元に複製物が作成されないデジタルコンテンツ配信サービスは、そこで用いられる契約が売買の形式であったとしても、配信サービス提供事業者等の著作権者は何らの権利を失うことなく、サービスの継続性をもって、消費者に一定条件の下でデジタルコンテンツを使用させるものである。そのような行為は、上記(4)ロのとおり、実質的には物の貸付けとしての性質を有するから、「物品貸付業」に該当すると考えられる。

(ハ) 事業者自らはコンテンツを提供しないロッカー型クラウドサービス
 ロッカー型クラウドサービスは、消費者の利用方法を私的複製の範囲内を越えない範囲に限定した上で、その提供するサービスシステムを通じて自社の通信設備の一部(ストレージ等)を論理的に構成したロッカーを貸付けるものであるから、上記(4)ハを踏まえ、単なる通信行為とはその性格を異にしている。サービス提供事業者と消費者の間で用いられる契約形態は準委任契約が多いと考えられており、仮に契約に明文規定がないような場合であっても、消費者契約法等によって事業者は消費者に対してその預かった情報について善管注意義務を負っていると考えられることから、物理的な貸金庫や貸ロッカーなどを利用させる行為とも異なる性質を有している。以上のことから、サービス提供事業者自らはコンテンツを提供しないロッカー型クラウドサービスは、公衆向けにクラウド上のロッカーの利用を一定条件で提供し、消費者の委託に基づいて無体である情報の入出力を行うものであり、「事務処理の委託を受ける業」を継続して行うものとして、法人税法上の「請負業」に該当すると考えられる。

(ニ) データベースサービスによるデジタルコンテンツの提供
 基礎的モデルで想定するデータベースサービスは、インターネットを通じて自社システムへのアクセスを許可する方法により、消費者からの要求に基づき、データベースを構成する情報の検索結果、編集した情報又は有償・無償のコンテンツなどを提供する。
 データベースサービスは、単に通信を媒介する目的の事業ではなく、保有する情報と体系的構成による創作性のあるデータベースシステムを通じた情報伝達方式であるが、そのサービス提供事業者の活動には、情報収集、加工、蓄積といった、書籍等を制作する事業と類似する経済的活動も多く、これらによって得られた情報を構成要素に含んだ創作性のあるデータベースシステムの維持管理を目的として、運営事業者が消費者等からサービス利用料金を徴収していると考えられる。一方、消費者がデータベースサービスを利用する目的は、検索結果(コンテンツ)の取得(閲覧)に他ならないから、消費者が支払う対価の性質は情報提供料としての性格を有しており、通信回線使用料、インターネット接続料など通信行為に対するものとは性質を異にしているといえる。以上のことから、データベースサービスがデジタルコンテンツ提供事業の付随行為として行われる場合を除いては、他の者の委託に基づいて行う情報の収集及び提供等を行う「請負業」に該当すると考えられる。

  事業内容 特掲事業
デジタルコンテンツ提供事業等 1デジタルコンテンツ制作事業
(電子書籍の例で判定)
出版業
コンテンツ制作を行わない事業 2デジタルコンテンツの流通過程において、事業者間の媒介を行う事業
(電子取次ぎの例で判定)
代理業
又は
問屋業
公衆向け配信等サービス(付随行為に該当する場合を除く) 3デジタルコンテンツ配信サービス
(ダウンロード又はストリーミング方式の例で判定)
物品販売業
又は
物品貸付業
4クラウドサービス
(ロッカー型クラウドサービスの例で判定)
請負業
5検索型サービス
(自ら情報収集等を行い、これを編集したデータベースサービスの例で判定)
請負業

目次

項目 ページ
はじめに205
第1章 デジタルコンテンツ提供事業等208
第1節 コンテンツ配信を可能とする土壌208
1 通信環境等の変遷208
2 デジタルコンテンツを提供(配信)するウェブサイト210
3 多様化する配信サービスの分類211
第2節 デジタルコンテンツの法的性質214
1 デジタルコンテンツ提供事業の基礎的モデル214
2 デジタルコンテンツ取引の契約形態及び法的性質に関する考察220
第3節 小括236
第2章 収益事業課税制度238
第1節 公益法人等に対する課税制度の沿革238
1 シャウプ勧告以前(昭和24年以前)238
2 収益事業課税制度の創設(昭和25年)240
3 制度創設後の改正(昭和26年以降)242
4 公益法人制度の改革(平成20年)243
第2節 現行の収益事業課税制度245
1 公益法人等の範囲245
2 公益法人等の納税義務及び課税所得の範囲246
3 収益事業判定に関する課税実務上の基本的な取扱い250
4 日本標準産業分類における情報通信業262
第3節 小括264
第3章 デジタルコンテンツ提供事業等の収益 事業判定に関する考察265
第1節 ウェブサイトの特性から収益事業判定において問題となる事項265
1 法人税法施行令5条1項1号及びに同項4号の「通常物品といわないもの」の範囲266
2 有形媒体に固定されないデジタルコンテンツを使用させる行為267
3 法人税法施行令5条1項7号の「通信業」と他の収益事業との関係269
4 広告モデル型サービスの収益構造270
第2節 デジタルコンテンツの提供事業等の性質に応じた収益事業の判定275
1 電子書籍を制作する行為(電子出版)276
2 電子書籍の流通過程において事業者間を媒介する行為(電子取次)277
3 公衆向け配信サービスの収益事業279
第3節 まとめ288
1 電子書籍を制作する行為(電子出版)289
2 電子書籍の流通過程において取次行為(電子取次)289
3 配信サービスの収益事業289
結びに代えて292

Adobe Readerのダウンロードページへ

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。Adobe Readerをお持ちでない方は、Adobeのダウンロードサイトからダウンロードしてください。