居波 邦泰
税務大学校
研究部教育官


要約

1 研究の目的(問題の所在)

BEPSとは一般的に「多国籍企業等が、グループ関連者間における国際取引により、その所得を高課税の法的管轄から無税又は低課税の法的管轄に移転させることで、国際的二重非課税を生じさせるもの」といわれるものであり、これに対するBEPSへの取組みは、2012年後半からOECDを中心として始まったもので、BEPSによる国際的二重非課税を防ごうとする国際的なプロジェクトである。
 BEPSプロジェクトでは、2013年2月にOECDからBEPS報告書である「税源浸食と利益移転への対応(Addressing Base Erosion and Profit Shifting)」が公表され、このなかで「多くのBEPSの手法は合法であり、国際課税原則を見直す必要性がある」とされた。これを受けて、2013年7月に「税源浸食と利益移転に係る行動計画(Action Plan on Base Erosion and Profit Shifting)」(以下「BEPS行動計画」という。)が公表され、このなかで15の行動計画が示された。
 このBEPS行動計画では、2014年9月を第一次、2015年9月を第二次、2015年12月を第三次として、その勧告等の期限を定めて検討が進められており、2014年9月には、行動計画2〔ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントの無効化〕、行動計画6〔租税条約濫用防止〕、行動計画8〔移転価格−無形資産〕、行動計画13「移転価格−文書化及びCbC Reporting」等に係る7つの第一次〔Deliverables〕が公表され、こられにより勧告等が示された。
 2015年9月には、行動計画7「恒久的施設(PE)認定の回避」、行動計画4「過大利子税制」、行動計画3「タックス・ヘイブン対策税制」、行動計画12「タックス・プランニングの報告義務の創設」等の第二次〔Deliverables〕の公表を予定している。
 今後、OECDの勧告等を受けて、現行の国際課税原則に変更を加えることも視野に入れて、国際課税の制度及び執行の改正がなされることが予想されるところであるが、本研究は、OECDからの勧告等を踏まえ、これまでの国際的二重非課税である事案・取引等に対しては、どのような制度及び執行の改正を行うことで、国際的二重非課税に対し課税が可能になるのか(つまり、国際的課税権を確保ができるか)について検討を行い、そのために必要とされる提言を行うものである。

2 研究の概要

(1)国際的な立証責任の在り方について

イ 国際的な税務訴訟における立証責任の一般的な在り方
 我が国における税務訴訟における立証責任の一般的な在り方としては、これまですべての立証責任を税務当局が負うことを一般的な在り方と行政側、実務家側、学者側と三者とも、認識されてきたきらいがあるが、これを国際的に各国の状況と比較・確認してみると、以下のような実態が覗えるところであり、決して我が国の在り方が国際的なスタンダードとは言い難い事実が明らかにされるとことである。

1 米国(一定の要件を満たす場合は納税者から税務当局に移行)
 原則は、租税裁判所規則142条により、納税者が負うこととされているが、1998年IRS改革法により、納税者が税務調査(資料収集等)に十分な協力を行う等、一定の要件を満たす場合は納税者からIRSへの立証責任の転換が規定された。(内国歳入法7491条)

2 英国(一般的に納税者)
 行政審判所における立証責任は、一般的に納税者にある(租税管理法TMA1970,判例)。

3 フランス(一般的に税務当局)
 委員会(行政仲裁機関)における紛争について訴訟が提起された場合、行政庁が指摘した重大な不備についての立証責任は、常に税務当局にある。

4 ドイツ(税額増加については税務当局、税額軽減については納税者)
 租税通則法(AO)88条コンメンタール
 なお、親子会社間等の金融取引に関する移転価格ガイドラインを策定(2015年12月)

5 イタリア(一般的に提訴・上訴人で、納税者とされる)

6 カナダ(一般的に納税者)
 自主申告制度の下で、税務当局の査定が間違っていることの立証責任は、納税者にある。ただし、罰則が課された場合におけるその根拠の事実の証明は、税務当局が負う。(判例 Supreme Court of Canada in Johnston v. M.N.R. (1948)3 DCT1182)

7 オーストラリア(一般的に納税者)
 税務当局による過大な査定額又は誤った決定事項等に関し、納税者が不服を申し立てる場合等の立証責任は、納税者にある(1953年租税管理法第14ZZK(b))。

国際的な立証責任の在り方は、税務当局・納税者に分配されているとはいえ、上記の各国の税務訴訟における立証責任を見てみると、原則的には、納税者側に置かれることがより一般的な姿であると認められるところである。
 2011年にヨーロッパで開催されたEATLP Congressでは、「租税法における立証責任」がそのテーマとして置かれたが、そのジェネラルレポートを見てみると、以下のことがわかるところである。

  • EATLP Congressで認められた国際的にもっとも一般的であるとされる税務訴訟の立証責任の在り方は、「税務当局と納税者に分割されること」であると報告された。その意味が、ドイツの立証責任の在り方のように「税額増加については税務当局、税額軽減については納税者」であったとしても、やはり税務当局が一方的に負うとされる我が国の立証責任の在り方は、国際的に一般的ではないものと言える。
  • EATLP Congressによると、立証責任の在り方の基本的な考え方は、「証拠に近い者が証明責任を負うべきである」ということである。

ロ 納税者に立証責任を置く一般的理由
 この「証拠に近い(確実に証拠を把握している)者が証明責任を負うべきである」ということは、訴訟における立証は、一方の訴訟当事者にとっての有利・不利という観点で捉えるものではなく、裁判官の的確な判断を可能にするためのものであり、司法に対する訴訟当事者に対する訴訟責任であるということである。
 この観点からは、立証責任とは「もっとも証拠に近い(確実に証拠を把握している)者」が誠意をもって証明責任を負うものであるのであれば、税務訴訟において「もっとも証拠に近い者」は、「税務当局ではなく納税者」であることから、また、上記の国で見ると、米国や英国が立証責任を訴訟法規定等で納税者に負わしているが、このことからも、国際的により一般的な税務訴訟における立証責任は納税者に置かれているようであり、我が国の税務当局に一方的に負わせるということは、論理的とは言えない取り扱いであると思われる。

ハ 最近の立証責任に係る動き

  • 英国の迂回利益税(Diverted Profits Tax)の導入
    迂回利益税は、英国に納めるべき税金を他国に迂回(diverted)させたと、税務当局から主張された場合には、その25%を速やかに国庫に納付することを義務付けた税制であり、2015年4月から導入された罰則税である(英国はこれは法人税ではないと説明している)。ただし、迂回の事実がないことを立証すれば、納めた金額は、利子をつけて全額返還されるという制度である。

(2)我が国の立証責任の現状等

イ 法律要件分類説(規範説)
 規範説とは、ローゼンベルグの主張したところであり、わが国では倉田判事が代表的論者である。法律要件分類説という名称を使用したのは、兼子教授や岩松判事であり、内容的には法規不適用の法則を説く点で、規範説と同じである。法律要件分類説による証明責任の分配は、以下の通りである。

1 権利の発生を定める法条(権利根拠規定)の要件事実は、その権利を主張する者が証明責任を負う。

2 いったん発生した権利関係の消滅を規定する法条(権利消滅規定)の要件事実については、権利を否認する者に証明責任がある。

3 権利根拠規定に基づく法律効果の発生を障害する法条(権利障害規定)の要件事実は、その法律効果の発生を争う者に証明責任がある。

4 以上の各場合につき、本文と但吾が組み合わされている法条では、本文に掲げられた事実が法規適用の前提要件であって、但書で除外された事実は不適用の要件となるから、後者の事実については、法条の適用を免れようとする相手方に証明責任がある。

ロ 個別具体説

(イ) 法律の親定が明確に立証責任の分配を定めていればそれによる。

(ロ) 法律の規定が明確でない場合は、(a)証拠との距離、(b)立証の難易、(c)蓋然性によって立証責任の分配を行う。ただし、以上による分配が信義則や実体法の立法趣旨に反する場合には修正され、信義則は実体法の立法趣旨に優先する、とされる。

(ハ) 新堂教授は、(イ)当事者間の公平の観点と、回法親の立法趣旨、の二点を、分配を決定する基準とされ、前者については、国立証の難易、(有)証拠との距離、(代)経験則の蓋然性、の三つの因子を挙げられる。

(3)我が国の司法当局の国際課税に係る立証責任上への認識

イ 「所得税更正処分取消請求控訴事件 東京高等裁判所平成24年(行コ)第421号(平成25年5月29日第17民事部判決)」での司法判断
 「シンガポール税務当局から情報を収集したように,国には,外国との間の租税条約や租税協定によって,相手国の税務当局を通じて納税者の国外の子会社等の情報を収集する手段が用意されている。したがって,課税庁にとって,国外に所在する子会社等の実態を把握することが困難であるとはいい難い。

ロ この司法当局の認識の妥当性
 この司法当局の認識については、以下の理由により、妥当な判断ではない。

  • その前提として、「証拠との距離」を立証責任の判断に関して軽視していること
    • この理由には「納税者側の事情が主張立証の対象となることが多い(国の事情や純然たる第三者の事情が主張立証の対象となることは,通常は,想定されない。)」ことがその根拠とされているが、これは意味不明のように思われ、理解に苦しむところである。
  • 特定の情報(例えば、銀行機密とした情報)へのアクセスが認められないことを相手国が決められること
  • 租税条約26条に一般的に提供拒否が認められている項目として、以下の規定が置かれており、相手国の判断で提供拒否がなされること
    • 国内法令及び行政慣習に抵触する行政上の措置(相互主義)
    • 国内法令下又は行政の通常の運営で入手できない情報の提供(相互主義)
    • 営業上の・事業上の秘密、公開が公の秩序に反する情報の提供

(4)我が国におけるBEPSによる国際的二重非課税の事例等

イ 「日愛租税条約の利用による匿名組合事案」
 匿名組合員であるアイルランド法人に対する匿名組合契約に係る利益分配金の支払(その99%をバミューダLPSに移転)について、日愛租税条約23条(「その他所得」への非課税)の適用により、源泉所得税を納付していなかったもの
(争点等)匿名組合員であるアイルランド法人は、日愛租税条約の特典を享受できるか

⇒ 第一審及び第二審国側敗訴(最高裁:上告不受理)

  • 有効性が想定されるBEPS勧告:行動計画6〔租税条約濫用の防止〕での対応

ロ 「アドビ事案」
 国際的事業再編により、日本子会社が親会社から仕入れて国内販売する方式から、親会社が海外から直接販売し、日本子会社がその支援をする方式に変更することにより、日本子会社の利益をその売上の10%⇒1.5%としたもの
(争点等)再販売取引と役務提供取引の比較可能性の有無。無形資産は争点にならず。

⇒ 第一審国側勝訴、第二審国側敗訴(確定)

  • 有効性が想定されるBEPS勧告:行動計画8〔移転価格税制−無形資産〕での対応

ハ 「アマゾン事案」
 国内には「準備的・補助的」な倉庫しかなくPEは存在しないとして、通販事業からの所得の課税権は日本にないとし無申告。当局は140億円の決定処分(銀行供託)。
(争点等)アマゾンの倉庫は「準備的・補助的」であり、PEへの該当性はないのか。

⇒ アマゾンは米国との相互協議を申請。その結果140億を大幅減額。(報道から)

  • 有効性が想定されるBEPS勧告:行動計画7〔PE認定の人為的回避の防止〕での対応

ニ 「コミッショネアによる所得移転」
 シンガポール等の低課税国に統括会社を設立し、日本子会社等をコミッショネアに転換して取引する(取引実態には変更なし)ことで、所得の大半を統括会社に移転。
(争点等)法形式は変更されるが、取引実態には変更がないため国際的にも問題視。

⇒ コミッショネアはPEに該当しないため源泉地国は課税できず。(事案にならず)

  • 有効性が想定されるBEPS勧告:行動計画7〔PE認定の人為的回避の防止〕での対応

ホ 「ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントに係る取引」
 ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントとは、二国間の課税制度の相違を利用している取引(裁定取引)を利用した金融商品等で、合法的に国際的二重非課税を創出。
(争点等)国際的に合法的な取引であるが、これまで国際的にも問題視。

⇒ ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントは、合法的なため課税できず。(事案にならず)

  • 有効性が想定されるBEPS勧告:行動計画2〔ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントの効果の無効化〕での対応

○ なお、今回のBEPSへの対応で、すべての国際的二重非課税が排除されるわけではない。

(5)BEPSに対する第一次〔Deliverables〕に係る勧告等

OECDが2014年9月16日に公表した〔Deliverables〕のうち、勧告としての内容を持つ以下の4つについて、その内容を詳しくみた。
 AP 2 〔Neutralising the Effects of Hybrid Mismatch Arrangements〕
 AP 6 〔Preventing the Granting of Treaty Benefits in Inappropriate Circumstances〕
 AP 8 〔Guidance on Transfer Pricing Aspects of Intangibles〕
 AP 13〔Guidance on Transfer Pricing Documentation and Country- by-Country Reporting〕

(6)BEPSに対する第二次〔Deliverables〕に係るドラフト等

OECDでは、BEPS行動計画に係る更なる取組みとして、第二次〔Deliverables〕の公表を2015年の秋(9月頃)に予定しており、それに向けて2014年10月から2015年5月までの間に、各行動計画に関して以下の10以上のディスカッション・ドラフトや第一次〔Deliverables〕の追加報告書等を公表してきており、これらについて系統立てて整理をし、それらの内容について確認をした。

《2015年9月の第二次〔Deliverables〕のディスカッション・ドラフト》
2014.10.31公表 「BEPS ACTION 7: Preventing the Artificial Avoidance of PE Status」
2014.11.03公表 「BEPS ACTION 10: Proposed Modifications to Chapter VII of the Transfer Pricing Guidelines Relating to Low Value-adding Intra-group Services」
2014.12.16公表 「BEPS Action 10: Discussion Draft on the Transfer Pricing Aspect of Cross-Border Commodity Transactions」
2014.12.16公表 「BEPS Action 10: Discussion Draft on the Use of Profit Splits in the Context of Global Value Chains」
2014.12.18公表 「BEPS Action 4: Interest Deductions and Other Financial Payments」
2014.12.18公表 「BEPS Action 14: Make Dispute Resolution Mechanisms More Effective」
2014.12.19公表 「BEPS Actions 8, 9 and 10: Discussion Draft on Revisions to Chapter I of the Transfer Pricing Guidelines(Including Risk, Recharacterisation, and Special Measures)」
2015.03.31公表 「BEPS Action 12: Mandatory Disclosure Rules」
2015.04.03公表 「BEPS Action 3: Strengthening CFC Rules」
2015.04.29公表 「BEPS Action 8: Revisions to Chapter VIII of the Transfer Pricing Guidelines on Cost Contribution Arrangements(CCAs)」

(7)BEPS勧告等への税制改正要望や執行の改善に係る提言

我が国におけるBEPSによる国際的二重非課税の事例等として、以下のものを取り上げ、これらについて、国際的二重課税の防止等に効果があると見込まれるBEPS勧告等を下記のように指摘をし、これらの勧告の内容から、将来的に我が国において正式に税制改正が行われる際に、税務執行の現場からの視点で必要となる又は望ましい改正要望及び執行上の改善について提言を行った。

我が国のBEPSによる国際的二重非課税の事例等 有効と見込まれるOECD勧告
  • 「日愛租税条約の利用による匿名組合事案」
  • 「アドビ事案」
  • 「アマゾン事案」
  • 「コミッショネアの利用」
  • 「ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメント」
  • 行動計画6〔勧告〕
  • 行動計画8〔勧告〕、13〔勧告〕
  • 行動計画7(ドラフト)
  • 行動計画7(ドラフト)
  • 行動計画2〔勧告〕

3 結論

(1)GAARにおける立証責任

GAAR事案についての立証上の問題としては、立証困難度の高さから税務当局にとって立証不可能であることも想定されていることもあり、その内心の意図の証明については、納税者に転換すべきかと考慮する。

(2)上記事案等の立証上の問題点と解決策の想定

ここで課税取引スキームの具体的事例ごとに立証上の問題点とその解決策について、以下のように示す。

具体的事例ごとの立証責任上の問題点 その解決策案
1「日愛租税条約の利用による匿名組合事案」
 本件スワップ契約の当事者が、アイルランド法人やバミューダLPSという我が国の調査権限外の事業体であり、調査法人の全面的な協力を得ることなしでは調査に必要な情報を得ることは困難である。  調査対象の日本法人に対して、事件の事実認定が可能なまでの情報提供義務等(調査協力義務を含む)を課し、それが履行されないときには、立証責任が転換されることとする。
2「アドビ事案」
 この取引は、国際的事業再編であり、外部の第三者からは取引内容や当事者の意図等を把握することが極めて困難であるという性質を帯びる取引であり(ドイツでは、まずは当事者に説明責任を負わしている。)、調査法人の全面的な協力を得ることなしでは調査に必要な情報を得ることは困難であること。  ドイツと同様に「移転パッケージ」について説明させ(情報提供義務等(調査協力義務を含む)を課す)、それが履行されないときには、立証責任が転換されることとする。情報提供義務等の履行の程度については、通常の税務調査に基づき、第一義的に税務当局に判定をさせる。
3「アマゾン事案」
 この事案の解決策としてPE除外への認定にそれが「準備的」なものであることを法定することが勧告されているが、「準備的」であるかどうかを立証することについては、その倉庫を利用した取引から収益を計上しているかどうかで判断されると思われることから、これまでの通常調査により対応は可能だと考える。  税務当局の通常調査により「準備的」でなくPEとの判定に対し、納税者が強硬にこれは「準備的」であり、PEに該当しないと主張してきた場合には、立証責任が転換されるものと考える。しかし、この場合に、納税者が何をどのように立証をすればよいのかが問題となると思われる。
4「コミッショネアの利用」
 この場合の立証責任は、「コミッショネアが法的にプリンシパルを拘束しているかどうか」を証明することであるが、この場合にも、コミッショネア又はプリンシパルが海外の事業体であり、我が国の調査権外の事業体であるならば、調査法人の全面的な協力を得ることなしでは調査に必要な情報を得ることは困難であることになる。  この場合にも、調査対象の日本法人に対して、事件の事実認定が可能なまでの情報提供義務等(調査協力義務を含む)を課し、それが履行されないときには、立証責任が転換されることとする。情報提供義務等の履行の程度については、通常の税務調査に基づき、第一義的に税務当局に判定をさせる。
BEPS事案への立証責任上の一般的問題点
 BEPSに関する事案は、通常、国際事案であり、我が国の調査権外の事業体が関与することが在り得ており、税務当局が立証不可能であることも想定されるところである。  その場合には、調査対象の日本法人に対して、事件の事実認定が可能なまでの情報提供義務等(調査協力義務を含む)を課し、それが履行されないときには、立証責任が転換されることとする。
GAAR事案への立証責任上の一般的問題点
 GAAR(一般的租税回避否認規定)事案の場合には、納税者の内心の意図やそのスキームの経済的合理性に係る立証責任の困難度は一般的に高いものとされており、この観点から、立証責任が一方的に税務当局側とされることで、税務当局が立証不可能であることも想定されるところである。ドイツではGAARが有効に機能してこなかった理由として聞くところでもある。  納税者の内心の意図やそのスキームの経済的合理性に係る説明責任を納税者に課し、それが履行されないときには、立証責任が転換されることとする。そのスキームの経済的合理性に係る立証責任は、税務当局がスキームの引き直しをした場合(否認した場合)には、税務当局がその合理性を立証することになる。

(3)我が国でのBEPSの体制下における立証責任論の在り方

我が国の立証責任の在り方としては、法律要件分類説:規範説を原則としてとりつつ、個別具体説で言う「証拠との距離」及び「立証の難易」の観点から、証拠に近い者が立証責任を負うことで、今後、立証責任については制度的な調整が図られるべきではないかと考える。

イ BEPS事案(GAAR事案を含む)への立証責任上の一般的問題点

  • BEPSに関する事案は、通常、国際事案であり、我が国の調査権外の事業体が関与することが在り得ており、税務当局が立証不可能であることも想定されるところである。
  • GAAR事案についての立証上の問題としては、納税者の内心の意図やそのスキームの経済的合理性に係る立証の困難度は一般的にかなり高い。

ロ これへの対応策

  • この場合には、調査対象の日本法人に対して、事件の事実認定が可能なまでの情報提供義務等(調査協力義務を含む)を課し、それが履行されないときには、立証責任が転換されることとする。
  • 則法等に情報提供が不十分な場合の推計課税ができる旨の規定をおくことで、立証責任を転換することも一案になるのではと思慮する。

目次

項目 ページ
はじめに261
第1章 国際的な税務訴訟における立証責任の一般的な在り方265
第1節 国際的な税務訴訟における立証責任の在り方について265
1 国際的な税務訴訟における立証責任の一般的な在り方265
1 米国265
2 英国265
3 フランス265
4 ドイツ265
5 イタリア266
6 カナダ266
7 オーストラリア266
2 一般的に納税者に立証責任を置く理由267
第2節 英国のDiverted Profits Taxの導入267
1 迂回利益税の導入の背景268
2 迂回利益税の概要269
(1)迂回利益税の概要269
(2)迂回利益税の法的性格270
(3)迂回利益税のトリガーになり得る3つの状況270
(4)迂回利益税の入口へのカテゴリー271
(5)迂回利益税と2つの条件(テスト)272
〔事例1:PE認定回避のケース(直接取引)〕273
〔事例2:PE認定回避のケース(間接取引)〕275
〔事例3:セクション3のケース(低課税の取引又は低課税の事業体を含む取引)〕277
5 迂回利益税とリキャラクタライゼイション279
6 迂回利益税と事前確認制度(APA)280
7 BEPSに関する立証責任の在り方280
第2章 我が国におけるBEPSの課税取引スキーム事例282
第1節 「日愛租税条約の利用による匿名組合事案」284
1 事実の概要284
〔取引概要図〕285
【日愛租税条約の「その他所得」とは】285
2 裁判所の判断286
〔第一審:平成25年11月1日東京地裁判決国側敗訴(国側控訴)〕286
〔第二審:平成26年10月29日東京高裁判決国側敗訴(国側上告⇒最高裁不受理)〕286
〔裁判所判断への私見〕287
3 この事例の課税に参考となる外国の事例287
〔韓国最高裁判決に係る取引図〕289
第2節 「アドビ事案」への課税に有効と思われるOECD勧告と立証責任291
1 事実の概要292
〔取引概要図〕293
【争点】293
2 裁判所の判断294
〔第一審:平成19年12月7日東京地裁判決国側勝訴(納税者控訴)〕294
〔第二審:平成20年10月30日東京高裁判決国側敗訴(確定)〕294
〔裁判所判断への私見〕294
3 この事例への課税に有効なOECDの〔Deliverables〕の勧告等296
(1)行動計画8〔移転価格−無形資産〕のDCF法による独立企業間価格の算定296
(2)行動計画13〔移転価格−文書化及びCbC Reporting〕の新たな文書化297
第3節 「アマゾン事案」とその課税に有効と思われるOECD勧告298
1 事実関係(新聞報道から)298
(1)相互協議の申請当時の新聞報道298
〔2009年7月6日 日経新聞朝刊からの抜粋〕298
【アマゾンに140億円追徴 国税局処分不服と日米で協議】299
〔2009年7月5日 朝日新聞朝刊からの抜粋〕299
【アマゾンに140億円追徴 国税局日本事業分に課税−アマゾン側不服二国間で協議】300
〔上記記事からの取引想定図〕301
(2)相互協議の結果301
2 この事例への課税に有効なOECDの〔Deliverables〕の勧告等302
第4節 「コミッショネア利用」の所得の国外移転とその防止に有効なOECD勧告303
1 コミッショネア取引の概要303
(1)コミッショネア取引とは303
〔取引図〕304
(2)これまでのコミッショネアのPE該当性の判例等304
2 この取引への課税に有効なOECDの〔Deliverables〕の勧告等306
3 コミッショネアのPE化への取り扱いの変更と立証責任306
〔OECDモデル条約5条5項の改正案〕306
第5節 BEPSにおける課税取引スキーム事例とGAARの立証責任307
第3章 我が国の課税における立証責任の現状と国際課税に係る司法当局の認識308
第1節 我が国の課税における立証責任の現状308
1 法律要件分類説(規範説)308
2 利益考量説(個別具体説)309
3 各証明責任論の妥当性への考察310
第2節 本裁判例における司法判断とその妥当性311
1 本件の事案の概要311
第3節 本裁判例の争点312
1 1「実態基準」関する当事者の主張の要旨313
第4節 本判決に係る先行研究334
第5節 我が国の司法当局の国際調査に係る認識の検討335
1 国外に所在する子会社等の実態の把握について335
≪妥当な判断ではないとする理由≫335
第4章 BEPSに対する〔Deliverables〕による勧告等と立証責任339
第1節 AP 2〔ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントの効果の無効化〕339
1 ハイブリッド・ミスマッチ・ドラフトからの主な変更点340
(1)ハイブリッド・ミスマッチ・ルールの分類を「ミスマッチの態様」をベースにしたものへ変更340
(2)ミスマッチ・ルールの対象範囲に係る定義の明確化341
(3)「ハイブリッド・ミスマッチ・ルールに係る〔勧告の概要〕の一覧表」の変更344
2 本報告書のハイブリッド・ミスマッチ・ルールに係る勧告347
(1)D/NI(支払者所得控除+受取者益金不算入)に係る勧告347
1 ハイブリッド金融商品に係る勧告347
2 ハイブリッドによって無視される支払(Disregarded Payment)に係る勧告351
3リバース・ハイブリッド(Reverse Hybrid)に対する支払に係る勧告353
(2)D/D(異なる法的管轄での重複所得控除)に係る勧告354
4 ハイブリッドによって二重控除可能な支払に係る勧告355
5 二重居住者によって二重控除可能な支払に係る勧告357
(3)Indirect D/NI(間接的なD/NI)に係る勧告359
6 インポーテッド・ミスマッチ・アレンジメントに係る勧告359
(4)執行と相互調整に係る勧告360
3 「ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントの無効化」と立証責任への影響について361
第2節 AP 6〔租税条約濫用の防止〕362
1 租税条約濫用防止ドラフトからの主な変更点362
(1)ドラフトからの主な加筆及び変更点362
(2)「主要目的テスト」の表記(英語)の変更363
2 本報告書のOECDモデル租税条約の改訂案の構成363
〔BEPSに係る租税条約濫用の防止に関する本報告書の目次(構成)〕364
3 「LOB条項」及び「主要目的テスト」の導入365
(1)租税条約自体により規定された制限の回避に係る対応365
4 租税条約濫用への国内税法での対応及び「セービング・クローズ」の導入375
5 「タイトル」及び「前文」の改訂376
6 「序論」の改訂378
7 「租税条約濫用防止」に係る制度改正と立証責任への影響について378
第3節 AP 8〔移転価格税制1無形資産〕379
1 OECDにおける無形資産に係る移転価格税制上の取組み379
2 本報告書のOECD移転価格ガイドライン第6章の未確定部分380
(1)本文における未確定部分380
(2)事例に係る主な変更点及び未確定部分382
3 本報告書のOECD移転価格ガイドライン第6章の概要382
〔本報告書のOECD移転価格ガイドライン第6章の構成〕382
A.無形資産の特定382
B.無形資産の所有及び無形資産の開発、改良、維持と保護に関する取引382
C.無形資産の使用又は移転が関わる取引382
D.無形資産が関わる事例に係る独立企業条件の決定における補足ガイダンス382
付属文書 無形資産に対する特別の配慮に関する指針を説明する事例(33事例)382
1 A.無形資産の特定383
2 B.無形資産の所有及び無形資産の開発、改良、維持、保護及び利用を伴う取引383
3 C.無形資産の使用及び移転を含む取引383
4 D.無形資産が関わる事例に係る独立企業条件の決定における補足ガイダンス383
4 B節の仮訳384
5 付属文書「無形資産に対する特別の配慮」に関する事例(33事例の図解)384
5 「無形資産に係る移転価格上の制度改正」と立証責任への影響について388
第4節 AP 13〔移転価格関連の文書化の再検討とCbC Reporting〕389
1 文書化とCbC Reportingドラフトからの主な変更点390
(1)移転価格文書化のアプローチの三層構造化390
(2)CbC Reportingの記載項目の大幅な変更390
(3)CbC Reportingへの「構成事業体リスト」の新規追加391
2 本報告書のOECD移転価格ガイドライン第5章の概要391
(1)第5章の構成391
〔本報告書のOECD移転価格ガイドライン第5章の構成〕391
A.イントロダクション391
B.移転価格文書化の目的391
C.移転価格文書化の三層構造アプローチ391
D.コンプライアンスに関する論点391
E.執行及び再検討391
別添1:マスターファイル391
別添2:ローカルファイル391
別添3:CbC Reporting‐納税地別の所得・税額・事業活動の配分の概況391
CbC Reporting‐納税地別の国籍企業グループの構成事業体のリスト391
(2)「B.移転価格文書化の目的」の内容392
(3)「D.コンプライアンスに関する論点」の内容392
(4)「E.執行及び再検討」について394
3 マスターファイル・ローカルファイル・CbC Reportingの様式395
(1)マスターファイル395
別添1 マスターファイル396
別添2 ローカルファイル398
5 「移転価格関連の文書化の再検討とCbC Report」が立証責任への影響について403
第5節 BEPSに対する第二次〔Deliverables〕に係るドラフト等403
第1節 PEに関する行動計画に係るドラフト406
行動計画7:〔恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止〕に係るドラフト406
(1)PEドラフトの構成406
(2)コミッショネア契約及び類似の方策について406
(3)特例の活動に係る例外について409
(4)建設PEにおける契約の分割について410
(5)保険の取扱いについて411
行動計画7:〔恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止〕に係る修正ドラフト411
(1)修正PEドラフトの構成411
(2)コミッショネア契約及び類似の方策によるPE認定の人為的回避について412
(3)特例の活動に係る例外によるPE認定の人為的回避について413
(4)関連者間における活動の細分化413
(5)建設PEにおける契約の分割について414
(6)保険の取扱いについて414
(7)「PE認定の人為的回避の防止に係る制度改正」の立証責任への影響について415
第2節 移転価格に関する行動計画に係るドラフト等415
行動計画10:IGSに関する移転価格ガイドライン第7章の改訂案に係るドラフト416
(1)IGSドラフトの構成417
(2)IGSが提供されたかの判定418
(3)独立企業間負担金の決定419
(4)低付加価値IGSの定義419
(5)低付加価値IGSの独立企業間負担金の簡易算定420
行動計画10:国境を超えるコモディティ取引の移転価格の側面に係るドラフト421
(1)コモディティ取引ドラフトの構成421
(2)コモディティ取引へのCUP法の適用と相場価格の利用422
(3)コモディティ取引のみなし値付け日422
行動計画10:グローバル・バリューチェーンにおける利益分割法の使用に係るドラフト422
(1)9つのシナリオの概要と32の質問423
行動計画8、9及び10:〔移転価格ガイドライン第1章の改訂案等〕に係るドラフト430
〔第T部〕430
(1)移転価格ガイドライン第1章の改訂案の構成430
(2)D.2.商業上又は金融上の関係におけるリスクの特定432
(3)D.4.否認(Non-recognition)435
(4)「移転価格ガイドライン第1章D.独立企業原則の適用のためのガイドラインの改正」の立証責任への影響について437
〔第U部〕438
(1)「潜在的な特別な措置」の構成438
(2)オプション1:評価困難な無形資産438
(3)オプション2:独立投資家439
(4)オプション3:過大資本439
(5)オプション4:最小機能事業体439
(6)オプション5:超過収益への適切課税の確保440
(7)「潜在的な特別な措置」の立証責任への影響について441
行動計画8:〔費用分担取極に関する移転価格ガイドライン第8章の改訂案〕に係るドラフト441
(1)CCAドラフトの構成442
(2)CCAの取扱いに関する主な変更点等442
(3)CCAの関連者間での構築及び文書化に関する勧告443
(4)「CCA」の立証責任への影響について445
行動計画13:移転価格文書化とCbC Reportingの執行のためのガイドライン〔報告書〕446
(1)CbC Reporting追加ガイドラインの構成446
(2)CbC Reporting追加ガイドラインの追加的合意事項446
(3)「CbC Reportingの提出」の立証責任への影響について447
第3節 利子控除に関する行動計画に係るドラフト等448
行動計画4:〔利子等の損金算入を通じた税源浸食の制限〕に係るドラフト448
1 利子控除ドラフトの構成448
2 グループの特性に基づく損金算入限度額の設定について449
(1)「グループの特性に基づく損金算入制限」に対するOECDのスタンス450
(2)「グループ全体テスト」450
3)「グループの特性に基づく損金算入制限」を行っている国451
3 固定比率の設定に基づく損金算入限度額の設定について452
(1)「固定比率の設定に基づく損金算入制限」に対するOECDのスタンス452
(2)グループ全体テストと固定比率テストの組合せ453
第4節 外国子会社合算税制に関する行動計画に係るドラフト等453
行動計画3:〔外国子会社合算税制(CFC税制)の強化〕に係るドラフト453
1 CFCドラフトの構成454
2 CFCドラフトでの勧告事項454
1 「CFCの定義」に係る勧告454
2 「課税対象の要件基準」に係る勧告454
3 「管理支配の定義」に係る勧告454
4 「所得の計算ルール」に係る勧告455
5 「所得の帰属ルール」に係る勧告455
6 「二重課税の防止又は排除ルール」に係る勧告456
3 第5章「CFC所得の定義」に関する検討456
(1)CFCルールで取り扱う所得のタイプ456
(2)CFC所得を定義する一般アプローチ457
(3)「カテゴリー別アプローチ」によるCFC所得の定義458
(4)「超過利潤アプローチ」によるCFC所得の定義458
(5)CFCルールの適用は企業単位か又は取引単位か459
4 「CFCの強化」の立証責任への影響について459
第5節 その他の行動計画に係るドラフト等460
1 行動計画5:IPレジームに係る「修正ネクサス・アプローチ」の合意〔報告書〕460
(1)IPレジーム報告書の構成460
(2)A)修正ネクサス・アプローチ−概念的問題460
(3)B)タイミング、既得権条項及び報告に係る問題461
2 行動計画12:義務的ディスクロージャー・ルールに係るドラフト461
(1)義務的ディスクロージャー・ドラフトの構成462
(2)義務的ディスクロージャーの概観463
((3)モデル義務的ディスクロージャー・ルールに係るオプション463
第5章 BEPS勧告に係る税制改正や執行改善と新たなる国際課税原則と立証責任471
第1節 BEPSに関する我が国の税制改正471
第2節 事例スキームに係る立証上の問題点と解決策の想定471
1 我が国でのBEPSの体制下における立証責任論の在り方474
(1)BEPS事案(GAAR事案を含む)への立証責任上の一般的問題点474
(2)これへの対応策474
2 上記解決策に必要と思われる立証責任の転換の基準に係る提言事項474
(1)移転価格に関する場合の立証責任の転換の基準475
(2)「租税条約の濫用」の指摘がなされた場合の立証責任の転換の基準475
(3)BEPSが生じているとの指摘がなされた場合の立証責任の転換の基準476
結びに代えて478

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