鍋谷 彰男
税務大学校
研究部教授


要約

1 研究の目的(問題の所在)

消費税法上その譲渡が非課税とされる「物品切手等」(消法別表一4号ハ、消令11条)には、ビール券、楽天Edy等の電子マネー、Amazonギフト券などが含まれ、これらは、一般に、金銭と引き換えに発行され、商品購入等の決済の際に利用される。
 一方、消費者が商品購入等の決済の際に利用するケースが非常に増えている「ポイント」については、自社又はグループを越えた企業間の提携が進み、「共通ポイント」の普及・拡大、銀行口座の開設・利用、アンケートへの回答等に応じたポイントの付与など商品購入等に伴わない付与の増加、電子マネーや現金、他のポイントとの交換など様々な形での還元といった拡大・多様化が進んでいる。
 本稿は、このような共通ポイントの普及・拡大及び付与事由・還元形態の多様化を踏まえ、ポイントプログラムに関する消費税の取扱いについて、共通ポイントを中心に体系的な整理を行うことを目的とする。

2 研究の概要

(1)ポイントプログラムの概要

イ ポイントプログラムを巡る動向
 民間シンクタンクの調査によれば、国内11業界の主要企業によるポイントの年間最少発行額は、2013年度で8,506億円と推計され、2020年度には1兆円を突破することが見込まれている。最近の動向の特徴として、次の3点を挙げることができる。

(イ) 共通ポイントの普及・拡大

(ロ) 商品購入等以外の事由により付与されるポイントの増加

(ハ) ポイントの還元方法の多様化

ロ ポイントプログラムの分類
 ポイントプログラムは、使用条件(蓄積型、即時使用可能型)、発行主体(自社発行型、共同発行型、他社買取発行型(第三者型))、原資負担者等によって分類されることがあるが、特に事業者間の提携拡大による多様化が著しく、一つのポイントプログラムをこのような分類の中で一つの類型に当てはめて他と区別することは必ずしもできなくなっている。
 一方、ポイントは、顧客の囲い込み、相互送客等といった自社又は提携事業者の商品及びサービスの販売促進を主な目的としたものが一般的であると考えられるが、このほかにも、消費者によるポイントの利便性を高めるためのポイント交換を主たる目的としたプログラム等、様々な目的のプログラムがあり、その目的による分類も考えられよう。

(2)ポイントの法律関係

イ 法的性質に関する議論
 経済産業省に設置された研究会が、消費者契約法等における消費者保護に関する議論をとりまとめ、2009年に公表した報告書において、ポイントプログラムは、「事業者と消費者との間の民法上の契約」と評価され、ポイントの権利性や法的性質は当事者間の合意によって決定されるが、行使できる時期、場所、方法等の条件には相当の幅があり、一律に権利性を論じることは必ずしも妥当ではないとの整理をしている。

ロ ポイントに係る規約
 ポイントに係る規約は、通常、事業者が一律に定め、消費者がこれに合意するか否かにより、当事者間の契約が成立することになるが、規約にポイントの権利性に関する明確な記述を掲載している事業者は極僅かであるとされる。また、多くの規約においては、プログラムを提供する事業者が規約若しくはポイントの利用条件の変更又はプログラムの終了・中止を行えることが定められている。

ハ 資金決済法等における取扱い
 ポイントが資金決済法に規定する前払式支払手段に該当するか否かについては、特に対価性要件(対価を得て発行されるものか)との関係で、次のように考えられている。

(イ) 前払式支払手段発行者が、発行した前払式支払手段の未使用残高の2分の1以上相当額の発行保証金の供託(資産保全)を義務付けられることを踏まえた発行者の破綻による利用者の損失との関係から、1回ごとの発行ではなく、1つの種類の発行総額について、有償割合が50%を超す場合に対価性があると判断される。

(ロ) ポイントは、その原資を販売促進費や広告宣伝費など事業者が負担するものであるから、前払式支払手段とは異なり、利用者(消費者)保護という資金決済法の立法趣旨に照らし、消費者が全く財産上の利益を支払うことなく発行されるものについては、前払式支払手段に該当しないものと解することが許される。

(ハ) ただし、ポイントには一定の財産的価値(何らかの請求権)があるため、ポイント交換の場合、利用者がその財産的価値を手離して別のポイントを得ることから、対価性があり、マーケティング等の手段としての思惑や販売促進費等の制約を受けずに発行することが可能であり、他のポイントとは異質のものである。ただし、ポイント交換の割合が高くない(発行額の50%以下)のであれば、前払式支払手段に当たらない。
 また、外為法における「支払手段」の定義、解釈及び趣旨からは、ポイントは「支払手段」に該当しないと言える。

(3)ポイントプログラムの会計処理

イ 会計処理基準

(イ) 金融庁による整理
 金融庁が2008年に公表した資料によれば、具体的な会計処理は、ポイントを発行する事業者等の事業内容や、個別のポイントの性質・内容などにより異なっているが、実務上、ポイント使用時点で費用処理、期末に未使用ポイント残高に係る引当金計上という会計処理が多くなっているとされている。

(ロ) 国際会計基準審議会(IASB)による基準
 IASBが2014年に公表した収益認識に関する新しい基準であるIFRS15号「顧客との契約から生じる収益」では、一定の場合に、顧客のオプションに対応する部分(ポイントの公正価値分)の収益をポイント使用時まで繰り延べることとされているが、我が国企業の会計処理の実態は上記(イ)のとおりであることから、IFRS15号の強制適用を踏まえた我が国における収益認識に関する包括的な会計基準の開発に向けた検討における論点の一つとされている。

ロ 会計処理に関する先行研究
 上記イのポイントプログラムの会計処理に関する国内での整理及び国際的な基準は、主に「独立型ポイントプログラム」が対象とされ、我が国で共通ポイントのような「提携型ポイントプログラム」を運営している会社によるポイントを通じたビジネスモデルの違いに応じて、付与ポイントの対価について収益計上又は預り金(負債)計上といった異なる会計処理が採用されていることが、ポイントプログラムの会計処理に関する先行研究において明らかにされている。

(4)ポイントプログラムに係る裁判例等

イ 裁判例及び裁決事例

(イ) 会員制リゾートクラブの入会時にその主宰会社に支払われた金員は物品切手等に該当する宿泊ポイントの原始発行に対する対価(不課税)に該当するとされた裁判例がある。

(ロ) 請求人が組合員のための販売促進活動事業の一環として行うポイントカードの作成等に関して組合員から徴収する共同事業費の一部は販売促進事業の業務委託対価として課税売上げに該当する一方、顧客が使用した買物券相当額の組合員への支払は引換え済みの物品切手等の代金決済として課税仕入れに該当しないとされた裁決例がある。

(ハ) 請求人がポイントの販売先である加盟店から使用済みのお買物券を引き取る際に支払った金額は物品の給付等の際に顧客が負担しなかった支払債務を請求人が精算したもの等として課税仕入れ又は売上対価の返還等に該当しないとされた裁決例がある。

ロ 先行研究及び質疑応答事例

(イ) ポイントの性格等から考察すると、企業通貨としてのポイントは支払手段に準ずるもの、景品交換型のポイントは物品切手等に準ずるものであり、いろいろな性格が混在しているため、その発生、流通、利用等の各取引時点における対価性の有無とその取引の性格から消費税の課否判定をすべきであるとする先行研究がある。

(ロ) 共通ポイントの仕組みは、加盟店がポイント運営会社から共通ポイントを買い取り、これを商品購入額等に応じて顧客に無償で交付し、顧客からそのポイントの還元請求を受けた加盟店がその還元額を運営会社に請求するもの(ポイントの有償取得・有償還元)を意味することから、商店会が発行するスタンプ券の事例におけるスタンプ券の発行を運営会社の共通ポイントの発行権の付与と置き換えれば、この事例と同様の課税関係になるとする質疑応答事例がある。

(5)消費税の取扱いに関する具体的考察

イ 共通ポイントについて想定される基本的な法律関係
 共通ポイントについて、公表されている規約等の情報から一定の法律関係を想定すると、共通ポイントの付与・還元は運営会社と会員との間で直接的に法律関係が生じるものであり、提携事業者と会員との間でポイントの付与・還元についての直接的な法律関係が生じるものではないということが、共通ポイントに係る基本的な法律関係であると考えられ、このような法律関係に基づき、消費税の課税要件に則して共通ポイントに関する消費税の取扱いを考察する。

ロ 運営会社と会員との間の取扱い

(イ) ポイントの付与

A ポイントの規約又は商品購入等に関する提携事業者と会員との間の売買契約等において、ポイントの対価の支払について合意があるとは考え難く、対価性はないと考えられる。また、ポイント交換による交換先ポイントの付与についても、会員がその運営会社に対価を支払うものではないから、対価性はないと考えられる。

B ポイントの付与は、通常、いわゆる原始発行によるため、「資産の譲渡」、「資産の貸付け」又は「役務の提供」には該当しないと考えられる。

C 消費税法の定義及び資金決済法における前払式支払手段に係るポイントの取扱いによれば、ポイントは、通常、物品切手等には該当しない。消費税法の定義及び外為法における支払手段の定義等からは、ポイントは支払手段又は支払手段に類するもののいずれにも該当しない。消費税法の規定振り及び還元方法の多様化からは、特定の還元方法のみに着目して物品切手等又は支払手段に準ずるものと解することは困難である。

(ロ) ポイントの還元

A ポイントの還元は、契約に基づき、会員が運営会社に対し一定の債務の履行を請求し、運営会社がその請求に従ってその債務を履行するものであるから、対価性はないと考えられる。

B 上記Aと同じ理由により、ポイントの還元は、「資産の譲渡」、「資産の貸付け」又は「役務の提供」には該当しないと考えられる。

ハ 運営会社と提携事業者との間の取扱い

(イ) 付与ポイントの原資
 会計の先行研究等を踏まえると、1運営会社と提携事業者との間の売買又は発行権の付与、2運営会社から提携事業者に対する役務提供又は3会員への還元のための預り金・未払金という考え方・法律関係が考えられるが、主に次の理由から、2の役務提供の対価と捉えることが適当であると思われる。なお、役務提供の内容からは、非課税取引には該当しないと考えられる。

A 共通ポイントは、運営会社が主体となってポイントの付与・還元、各提携事業者に係る付与条件等の決定、ポイントの管理等を行うものであり、提携事業者が主体となる法律関係は想定し難い。

B 共通ポイントは、販売促進等を目的として、ポイントを介した運営会社から提携事業者に対する役務提供であり、仕事の完成を目的とする「請負」ではなく、継続的な事務的行為の委任という「準委任」に該当するものであると考えられる。

C 会計に関する先行研究で示されている付与のみでは役務提供未完了であることを理由とした負債処理は、上記Bの点から疑問があり、負債処理をするビジネスモデルの場合であっても、運営会社から提携事業者に対して役務提供が行われていることに変わりはなく、単に収益計上時期の違いに過ぎないと言える。また、付与のみでは債務(法的義務)は確定していないという運営会社の考えとも矛盾するように思われる。

(ロ) システム使用料等
 運営会社が開発・保有するシステムの使用や関連する機器の使用は、役務提供又は資産の貸付けに該当し、役務提供等の内容からは、非課税取引には該当しないと考えられる。

(ハ) 還元ポイントの原資
 裁決事例の争点等を踏まえると、1運営会社から提携事業者に対する役務提供又は2会員へのポイント還元に伴って提携事業者と運営会社との間に生じた債権債務の精算という考え方・法律関係が考えられるが、主に次の理由から、2の債権債務の精算のための支払と捉えることが適当であると思われる。

A 自社又は提携事業者の販売促進等というポイントプログラムの目的、それに則した各種サービスの内容等から、提携事業者から運営会社に対する役務提供を認定することは難しい。

B 共通ポイントにおける会員への還元に係る債務は運営会社が負うものである。

(6)まとめ

共通ポイントについて想定される基本的な法律関係に基づく消費税の取扱いは、次のとおりとなる。

イ 運営会社と会員との間の取扱い

(イ) 運営会社から会員へのポイントの付与
 原始発行又は無償取引により不課税。

(ロ) 運営会社から会員へのポイントの還元
 会員によるポイントの使用自体は、資産の譲渡等に該当しないため、不課税。なお、ポイントの還元の態様ごとの消費税の取扱いは、次のとおりである。

A 商品購入等の代金の支払に充てられる場合には、商品又は役務の提供が非課税取引に係るものでない限り、その商品等の全額について課税。

B 商品等の値引きがされる場合には、商品等の対価からポイントに係る金額を控除した後の金額について課税。

C 商品、商品券、電子マネー、現金等と交換される場合には、無償の取引として不課税。

D 他のポイントと交換される場合には、交換先ポイントの運営会社による原始発行又は無償取引として不課税。

ロ 運営会社と提携事業者との間の取扱い

(イ) 付与ポイントの原資 役務提供として課税。

(ロ) システム使用料等 役務提供又は資産の貸付けとして課税。

(ハ) 還元ポイントの原資 債権債務の精算として不課税。

なお、この結論は、個々の契約等に基づく実際の法律関係に基づいたものではないため、各ポイントプログラムに関する消費税の取扱いを具体的に判定するに当たっては、個々の契約等に基づく法律関係に関する事実認定が必要であり、それによって上記の取扱いとは異なる取扱いとなる場合がある。


目次

項目 ページ
はじめに399
第1章 ポイントプログラムの概要401
第1節 ポイントプログラムを巡る動向401
1 ポイントプログラムの歴史401
2 最近の動向402
第2節 ポイントプログラムの分類407
1 従来の分類例407
2 多様化したポイントプログラムの分類408
第3節 小括410
第2章 ポイントの法律関係411
第1節 ポイントの法的性質に関する議論411
1 検討の対象とされたポイントの範囲411
2 ポイントの法的性質に関する整理412
第2節 ポイントに係る規約413
第3節 資金決済法等におけるポイントの取扱い415
1 金融庁金融審議会金融分科会第二部会報告書415
2 資金決済法に規定する前払式支払手段415
3 外為法に規定する支払手段421
第4節 小括423
1 事業者と消費者との間の法律関係423
2 事業者間の法律関係424
第3章 ポイントプログラムの会計処理426
第1節 ポイントプログラムの会計処理基準426
1 金融庁による整理427
2 国際会計基準審議会による基準428
第2節 ポイントプログラムの会計処理に関する先行研究429
1 先行研究の概要429
2 国内のビジネスモデルと会計処理の具体例430
第3節 小括434
第4章 ポイントプログラムに係る裁判例等437
第1節 ポイントプログラムに係る裁判例及び裁決事例437
1 裁判例437
2 裁決事例439
第2節 ポイントプログラムに係る消費税に関する先行研究等441
1 先行研究の概要441
2 ポイント及び類似取引に係る質疑応答事例442
第3節 小括447
1 裁判例及び裁決事例を踏まえた論点447
2 先行研究及び質疑応答事例を踏まえた論点449
第5章 消費税の取扱いに関する具体的考察450
第1節 共通ポイントについて想定される基本的な法律関係450
第2節 消費税の課税要件451
第3節 運営会社と会員との間の取扱い453
1 ポイントの付与453
2 ポイントの還元461
第4節 運営会社と提携事業者との間の取扱い466
1 付与ポイントの原資466
2 システム使用料等470
3 還元ポイントの原資471
第5節 まとめ474
1 運営会社と会員との間の取扱い475
2 運営会社と提携事業者との間の取扱い475
結びに代えて477

Adobe Readerのダウンロードページへ

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。Adobe Readerをお持ちでない方は、Adobeのダウンロードサイトからダウンロードしてください。