助川 樹
税務大学校
研究部教育官


要約

1 研究の目的(問題の所在)

学校法人は、教育基本法第6条第1項において「公の性質をもつ」と規定されている学校の設置主体であり、その設立の根拠法である私立学校法の定めにより、自主性及び公共性を有する法人である。
 学校法人の法人税法上の取扱いは、公益法人等と位置付けられており、普通法人が行う事業と競合する事業、すなわち収益事業から生ずる所得に対してのみ課税される。しかし、法人税法に定められた収益事業に関する規定や取扱いについては、その意義や判断基準が不明なために、収益事業判定に当たり疑義が生ずる場面も少なくない。
 こうした中、少子化等の進展により学校法人が厳しい競争環境にさらされており、様々な性質、種類、規模の付随事業等を行う例が見受けられるようになっている。これに伴い、近年、学校法人が収受する授業料、付随事業等に係る所得に対して多額の申告漏れが指摘された事例が見受けられることから、学校法人は、自らが行う事業の収益事業判定を適正に行い、申告しているかどうか懸念される。
 学校法人に対して税務調査等を実施するに当たっては、1学校法人は、文部科学大臣が定める学校法人会計基準に従い、企業会計とは異なる勘定科目や固有の会計処理により、財務諸表を作成していること及び2学校法人が行う事業においては、想定される法人税法上の収益事業の種類が物品販売業や技芸教授業等多岐にわたる上、それぞれの事業に学校法人固有の非課税となる規定等が存在すること等が原因で、申告内容の検討に時間を要する。
 そこで、学校法人に係る法制度や学校法人会計基準の取扱いを整理した上で、それらと学校法人に係る法人税法上の規定等との関係を整理し、学校法人が行う教育事業及び付随事業において収益事業課税の対象となるものを明らかにすることを目的として本研究を行う。

2 研究の概要

(1)学校法人に係る法制度

イ 学校及び学校法人の法的位置付け
 教育基本法第6条第1項において、法律に定める学校は、「公の性質を有するもの」であり、国、地方公共団体及び法律に定める法人のみが設置することができる旨規定されている。この規定は、学校が公の性質を有するとともに、またその設置者も公あるいはそれに同等と考えられるものに限定している。「法律に定める学校」には、学校教育法第1条で定められた幼稚園、小学校、中学校、高等学校、大学等があり、その他教育施設である専修学校及び各種学校がある。これら学校等の設置に当たっては、所轄庁の認可が必要であり、学校等ごとに教員数、設置施設、校地及び校舎面積等が定められた設置基準を満たしていなければならない。
 また、これら学校等の設置主体である学校法人は、国及び地方公共団体と同等なものと考えられている。学校法人の設立の根拠法である私立学校法において、その自主性を重んじ、公共性を高めるための規定が置かれており、その設立に当たっては、所轄庁の認可が必要となる。

ロ 学校等における教育事業

(イ)正規教育

A 学校及び専修学校
 学校及び専修学校で行われる正規教育は、両者とも1修業期間が1年以上であること、21年にわたる授業時間数が800時間以上であること、3生徒の平素の成績を評価し、成績考査に関する表簿を備えること、4課程の修了者には卒業証書を授与すること等学校教育法、設置基準等に定められた規定に従って編成されることとなる。
 なお、専修学校の通信制の学科については、専修学校設置基準において、対面授業の授業時間数が120時間以上とされている。

B 各種学校
 各種学校が行う正規教育は、設置基準である各種学校規程において、修業期間が1年以上であり、1年間にわたり680時間以上を基準とするとされているが、簡易に習得することができる技術、技芸等の課程については、修業期間を3月以上1年未満とすることができるとともに、授業時間数においても、修業期間に応じて、授業時間を減らして定めることもでき、その他の規定がないため、千差万別の教育内容を行うことができる。

(ロ)附帯教育
 専修学校及び各種学校が行う附帯教育については、学校教育法等に規定がなく、各都道府県が定める専修学校及び各種学校の設置審査基準において、正規教育以外の教育を1か月以上継続して行うもの等とされており、授業時間数等の規定もないため、各種学校の正規教育と同様、千差万別の教育内容を行うことができる。
 なお、学校については、附帯教育に関する規定がないことから、附帯教育を行うことが予定されていないものと考えられる。

ハ 私立学校法上の収益事業と付随事業
 学校法人は、その設置する学校等の教育に支障がない限り、その収益を学校等の経営に充てるため収益を目的とする収益事業を行うことができる。学校法人が行うことのできる収益事業の種類については、文部科学省告示において、農業、林業、漁業、鉱業、採石業、砂利採取業、建設業等の業種が掲げられている。学校法人が私立学校法上の収益事業を行う場合には、その収益事業の種類を当該学校法人の寄附行為に記載し、所轄庁の認可を受ける必要がある。
 一方で、学校法人は、本来事業である教育研究活動のほか、付随事業を行うことができる。付随事業は、収益を目的とせず、教育研究活動と密接に関連する事業目的を有しており、主たる対象者が在学者又は教職員及び役員に限られ、実施に当たっては、所轄庁の認可を受ける必要がない。学校法人が行うことのできる付随事業の種類は、上記の収益事業の種類と同じである。

(2)学校法人会計基準

学校法人が学校法人会計基準に従い作成する事業活動収支計算書は、教育活動収支、教育活動外収支及び特別収支に区分されている。教育活動外収支には、受取利息・配当金、私立学校法上の収益事業等の収支が計上され、特別収支には、資産売却差額等の一時的に発生した臨時的な収支が計上される。教育活動収支には、教育活動外収支及び特別収支に計上される収支以外のもの全てが計上されることとなる。すなわち、学校法人会計基準において、授業料、入学金、付随事業収入、雑収入等は、教育活動として位置付けられている。

(3)収益事業課税制度

イ 収益事業課税制度の概要
 公益法人等の課税の対象となる収益事業とは、法人税法施行令第5条第1項各号に規定された34の特掲事業であり、継続して事業場を設けて営まれるものとされている。特掲事業は、いずれも一般私企業との競争関係の有無など、専ら税制固有の理由から収益事業として規定されているものであることから、公益法人等が特掲事業のいずれかに該当する事業を行う場合には、たとえその行う事業が当該公益法人等の本来の目的たる事業であるときであっても、当該事業から生ずる所得については法人税が課税されることとなる。
 また、公益法人等が特掲事業を行うに当たり行われる付随行為もそれぞれ収益事業に含まれるとされている。ここでいう付随行為とは、例えば、技芸教授業を行う公益法人等が行うその技芸の教授に係る教科書その他これに類する教材の販売及びバザーの開催がこれに当たる。

ロ 学校法人の収益事業に係る法人税法の規定等
 34の特掲事業には、学校法人固有の規定及び取扱いが存在しており、例えば、技芸教授業から除外されるものの範囲として、学校等で行われる技芸の教授については、法人税法施行規則第7条各号に定められた要件全てに該当する課程とされている。また、学校等で行われる学力の教授についても、同規則第7条の2に定められた要件のいずれかに該当する課程とされている。しかし、これらが具体的に学校法人が行うどのような教育課程が該当するのか明らかではない。
 その他にも、学校法人固有の規定等として、学校法人がその主たる目的とする業務に関連して行う席貸業、学校法人が行う医療保健業等は、法人税法施行令第5条第1項各号によって収益事業に該当しない旨規定されるとともに、法人税基本通達において、収益事業に該当するものとして、学生を対象として、学校等の授業において用いる教科書等の販売、学校法人が行う文房具、制服、制帽等の販売等が明らかにされており、収益事業に該当しないものとして、学校法人が専ら在学生を宿泊させるための寄宿舎の経営、学校法人が学校給食法等に基づいて行う学校給食事業等が明らかにされている。

ハ 裁判例に見る収益事業判定

(イ)宗教法人が行うペット葬祭業等
 宗教法人がペットの飼い主から料金表等で定められた料金を受け取ることにより行う葬儀等が収益事業に該当するかどうかが争われた平成20年最高裁判決において、「事業に伴う財貨の移転が役務等の対価の支払として行われるものか、それとも喜捨等の性格を有するものか、当該事業が宗教法人以外の法人の一般に行う事業と競合するものか否か等を踏まえた上で、当該事業の目的、内容、態様等の諸事情を社会通念に照らして総合的に判断すべき」と判示された(最小二判平成20年9月12日判決(判タ1281号166頁))。

(ロ)学校法人が行う不動産賃貸業等
 私立学校法上の収益事業に当たらず、学校法人会計基準上も教育活動に分類される補助活動収入となる学校法人が行う食堂、電柱等敷地の賃貸借事業等が法人税法上の収益事業に該当するかが争われた平成21年岡山地裁判決において、「私立学校法上、認可等を必要とするのは『収益を目的とする事業』であり、法人税法に定める『収益事業』とは異なる。また、学校法人会計基準上、当該事業による収入が補助活動収入に当たることも、当該事業が法人税法上の収益事業に該当することを妨げない。」とされ、当該事業が法人税法上の収益事業に該当すると判示された(岡山地裁判平成21年3月19日(税資259号順号11163))。

(4)学校法人に対する法人課税

(イ)技芸教授業から除外されるものの範囲

A 正規教育に係る収益事業該当性
 学校及び専修学校が行う通信制の学科を除く正規教育に関する学校教育法等の規定を法人税法施行規則第7条及び同規則第7条の2に当てはめると、それぞれに規定された要件を満たすこととなることから、収益事業課税の対象とならいないと言える。専修学校の通信制の学科については、対面授業の授業時間数が120時間以上とされているため、法人税法上の収益事業に該当する可能性があることから、実際の教育内容を同規則第7条又は同規則第7条の2に当てはめる必要がある。
 一方、各種学校が行う正規教育については、修業期間を1年未満とする課程や、1年間にわたる授業時間数が680時間を下回る課程等を行うことが可能であることから、同規則第7条又は同規則第7条の2を満たさない可能性がある。そのため、各種学校が行う正規教育は、法人税法上の収益事業に該当する可能性があることから、同規則第7条又は同規則第7条の2に当てはめる必要がある。

B 附帯教育に係る収益事業該当性
 技芸教授業を行う専修学校及び各種学校の附帯教育については、各種学校の正規教育と同様に、修業期間や授業時間数等、専修学校及び各種学校によって法人税法施行規則第7条及び同規則第7条の2に掲げる要件に満たさない可能性がある。そのため、専修学校及び各種学校が行う附帯教育については、実際の教育内容を同規則第7条又は同規則第7条の2に当てはめる必要がある。

C 技芸教授業から除外されるものの範囲
 上記A及びBから、法人税法は、学校の正規教育及び専修学校の通信制の学科を除く正規教育だけでなく、専修学校が行う通信制の学科及び附帯教育並びに各種学校が行う教育事業全般のうち、学校の正規教育及び専修学校の通信制の学科を除く正規教育と実質的に異ならないものを収益事業課税の対象から除外していると解される。そのため、専修学校の通信制の学科及び附帯教育並びに各種学校が行う教育事業全般については、その内容を法人税法施行規則第7条及び同規則第7条の2に当てはめて、法人税法上の収益事業である技芸教授業に該当するかどうかの判定が必要となる。

(ロ)付随事業等における収益事業該当性
 学校法人が行う付随事業等は、私立学校法上の収益事業には該当せず、学校法人会計基準上も教育活動に位置付けられているものである。当該付随事業が法人税法上の収益事業等に該当するかどうかについては、収益事業課税の趣旨、平成21年岡山地裁判決での判示事項等からすれば、たとえ教育事業と密接に関連する目的を有するものであったとしても、特掲事業に該当すれば、収益事業課税の対象となる。しかし、法人税法には、学校法人固有の規定等が存在することから、これらの規定等を類型化すると、政策的理由、競合可能性及び技芸教授業固有の付随性の観点から定められたものと整理することができる。
 したがって、学校法人が行う付随事業等の収益事業判定に当たっては、平成20年最高裁判決により判示された1対価性があるか及び2競合可能性があるかのほか、上記のとおり3政策的理由がないか、4技芸教授業固有の付随性がないか並びに収益事業の要件である5反復継続性があるかにより判断する必要があると整理することができる。学校法人が行う事業について、1から5までの全てに該当すれば、法人税法上の収益事業に該当すると考える。
 ただし、学校法人が行う付随事業等に技芸教授業固有の付随性がある場合には、当該事業を行う学校等の教育事業が法人税法上の収益事業である技芸教授業に該当するかどうかによることとなる。

3 結論

学校法人は、公益性の高い教育を行っているものの、学校法人が行う事業の収益事業判定に当たっては、教育であることに着目して、当該事業が収益事業に該当しないと判断することは適当ではない。学校法人が行う教育事業であったとしても、適正に法令に当てはめ、収益事業判定を行う必要がある。


目次

項目 ページ
はじめに200
1 問題の所在(研究の目的)200
2 論文の構成201
第1章 学校法人の法制度と実態203
第1節 学校法人制度203
1 学校及び学校法人の法的位置付け203
2 学校法人における自主性と公共性206
3 学校等の数の推移208
第2節 学校法人の設立及び学校等の設置209
1 学校法人の設立210
2 学校等の設置211
3 学校等の設置基準の概要211
4 学校等が備える表簿216
第3節 学校等における教育事業216
1 学校教育法上の教育課程216
2 附帯教育224
第4節 私立学校法上の収益事業と付随事業226
1 私立学校法上の収益事業226
2 付随事業229
第5節 小括231
第2章 学校法人会計基準233
第1節 学校法人会計基準の概要等233
1 学校法人会計基準の沿革233
2 学校法人会計基準の概要等235
第2節 学校法人会計基準における固有の会計処理239
1 基本金制度239
2 固定資産の評価243
3 減価償却の方法244
4 有価証券の評価245
5 退職金の見積り246
6 小規模法人における会計処理の簡略化247
第3節 事業活動収支計算書の概要247
1 事業活動収支計算書の計算構造等247
2 用語の定義250
3 事業活動収支計算書における記載科目252
第4節 小括257
1 学校法人会計基準固有の会計処理257
2 学校法人会計基準上の教育事業258
第3章 収益事業課税制度261
第1節 収益事業課税の概要261
1 収益事業課税制度261
2 収益事業課税制度の経緯及び導入趣旨263
3 収益事業判定に関する取扱い265
第2節 学校法人に対する固有の規定等268
1 各特掲事業の規定等268
2 幼稚園が行う各種事業の取扱い276
第3節 裁判例から見た収益事業該当性276
1 宗教法人のペット葬祭業等276
2 学校法人が行う不動産賃貸等279
第4節 公益法人等に対する課税の現状280
1 公益法人等による申告数の推移280
2 公益法人等に対する実地調査の状況282
3 会計検査院による特別検査283
第5節 小括284
第4章 学校法人に対する法人課税286
第一節 学校法人に対する課税上の問題の所在286
1 法令等の解釈の問題286
2 私立学校法及び法人税法における収益事業の認識287
第二節 教育事業における収益事業該当性288
1 学校等が行う技芸の教授に係る収益事業課税の対象288
2 学校等が行う学力の教授に係る収益事業課税の対象294
第三節 付随事業等における収益事業該当性296
1 付随事業等に係る収益事業課税の対象296
2 学校法人固有の規定等の類型化297
3 学校法人が行う付随事業等の収益事業該当性299
第四節 小括301
1 学校法人が行う事業の収益事業該当性301
2 学校法人が行う事業の収益事業判定例303
結びに代えて305

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