古谷 勇二
税務大学校
研究部教育官


要約

1 研究の目的(問題の所在)

贈与税は、贈与によって財産が移転する機会に、その財産に対して課される租税であり、原則として民法上の贈与契約を前提とするものである。相続税法においては、法律的には贈与により取得したとはいえないが、財産を取得した事実や経済的な利益を受けた事実によって、実質的に贈与と同様の経済効果が生ずる場合には、税負担の公平の見地から、その取得した財産を贈与により取得したものとみなして贈与税の課税財産とする旨規定されている(相続税5条から9条の5)。
 この「みなし贈与」については、相続税法に財産等に応じて個別的に規定されている。特に、同法9条では、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額について、当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなす旨規定している。当該規定は、相続税法の他のみなし贈与課税を包括する規定であり、その内容は必ずしも明確ではないことから、本稿において、当該規定の適用範囲等について考察する。特に、増資や新株発行などの法人の資本取引等により株価や出資持分の価額が増加する場合等については、利益を受けた者、利益を受けさせた者が間接的な関係であり、どのような場合において利益を享受したといえるのか整理する必要がある。

2 研究の概要

(1)相続税法9条の趣旨

相続税法9条の規定については前述のとおりであるが、その趣旨は、贈与税の負担の適正を期するためには、法律的にそれが贈与による取得財産に該当しないものであっても、実質的にそれが贈与により取得したものと同じ効果を持つものについては、これを贈与による取得財産とみなして贈与税を課すべきことが要請されることにある。例えば、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けたとすると、個人であれば、相続税法7条により財産の時価とその対価との差額について贈与税が課され、法人であれば、受贈益として法人税が課税される。また、法人である場合、この低額譲渡で当該法人の株主は、株式の価額の増加という利益を得ているのであるが、もし、これに対して贈与税が課されないとすると、法人を利用した相続税の租税回避が図られるおそれがある。このような租税回避を防止するために9条の規定は置かれていると考えられる。
 当該9条の趣旨について述べた判決については、最近のものとして、東京高裁平成27年4月22日判決がある。当該判決において、「相続税法9条は、贈与契約の履行により取得したものとはいえないが、関係する者の間の事情に照らし、実質的にみて、贈与があったのと同様の経済的利益の移転の事実がある場合に、租税回避行為を防止するため、税負担の公平の見地から、その取得した経済的利益を贈与により取得したものとみなして、贈与税を課税することとしたものであると考えられる」と判示されている。

(2)相続税法9条の適用要件について

次に、相続税法9条の条文の規定及び趣旨からその適用要件について、9条の条文からは、その適用に当たって「対価を支払わないで」又は「著しく低い価額の対価で」「利益を受けた場合」であり、そこには「利益を受けた者」と「利益を受けさせた者」が存在し、その者の間で利益の授受があったことが必要であると考えられる。また、9条の趣旨からは、贈与契約の有無や租税回避の意図・目的の有無が問題となる。

イ 「対価を支払わないで」について
 対価については、相続税法に法文上定められていないことから、一般的に、ある人がその財産、労力などを他人に与え、また利用させる場合に、その報酬として受け取る利益であると考えられる。また、その対価の支払いの事実については、実質的に支払いがあるかどうかにより判断される。

ロ 「著しく低い価額の対価で」について
 相続税法には、7条から9条まで「著しく低い価額の対価」との用語があるが、その明確な判定基準については、現行の相続税法の法文上定められていない。所得税法では、著しく低い価額の対価により資産の譲渡がなされた時は、時価で譲渡したものとして譲渡所得を計算することとし、その場合の著しく低い価額の対価とは譲渡資産の2分の1に満たない額と定めている(所令169条)。相続税法においても、昭和33年までは7条の低額譲受けの場合に同様の判定基準が通達で定められていたが、このような画一的な基準を設けたことによって、明らかに贈与する意思で高額な利益が授受されるものであっても、対価の額が時価の2分の1以上であるという理由で、贈与税の課税ができないという課税上の不公平が生じたため、昭和34年の相続税法の改正を期に、この判定基準が廃止された。よって、「著しく低い価額の対価」に該当するかどうかについては、個々の具体的事案につき社会通念に従い、9条の課税の趣旨・目的に沿って合理的に判定すべきであると考えられる。

ハ 「利益を受けた場合」について
 「利益を受けた場合」についても、どのような場合に「利益を受けた」というのか相続税法の法文上定めはないが、相続税法9条の趣旨の「贈与があったのと同様の経済的利益の移転の事実がある場合」から検討すると、「利益を受けた」とは、積極財産の増加又は債務という消極財産の減少を指すことが考えられる。
 また、相続税法基本通達9−1においては、「おおむね利益を受けた者の財産の増加又は債務の減少があつた場合等をいい、労務の提供等を受けたような場合は、これに含まないものとする」との取扱いが定められており、裁判例においてもこのように解されている。
 なお、この「利益を受けた場合」には、含み益であっても課税対象に含まれていると解されている。なぜなら、相続税とは、相続時点におけるすべての財産について課税されるものであり、贈与税が相続税の補完税の性質があることの関係上、将来の相続財産を減少させるような財産・財産の価値の移転があれば、適切に贈与税を課税することが必要であるからである。

ニ 利益の授受があった(利益を受けた、受けさせた)関係について
 相続税法9条は、その利益を受けた者が、その利益の価額に相当する金額をその利益を受けさせた者から贈与又は遺贈により取得したものとみなすとしていることから、結果的に利益を受けさせた者と受けた者が存在するのみでは不十分で、両者の間で利益を受けさせ、受けたという関係(対立承継関係)の存在がある場合に限って適用されるとする説がある。これに対して、同条が租税回避行為を防止するため税負担の公平の見地から設けられた趣旨に照らして、結果的に利益を受けさせた者と利益を受けた者が存在すれば十分であるとする説もある。
 この二つの説については、東京高裁平成27年4月22日判決において、原告の納税者は、相続税法9条の規定は、「当該利益を受けさせた者」と「当該利益を受けた者」との間に、対立承継関係の存する場合に限って適用されるべきである旨の主張をしたが、裁判所は、「原告らの主張するように限定して解すべき根拠となる文言は見当たらない」とし、「同条の趣旨からすれば、『当該利益を受けさせた者』と『当該利益を受けた者』を含む関係する者の間の事情に照らし、同条の掲げる者の間での直接的な利益の授受がなくとも、実質的にみて、贈与があったのと同様の経済的利益の移転の事実がある場合には、同条の規定を適用することが許されると解するのが相当である」と判示した。
 また、「利益を受けさせた者」から「利益を受けた者」へ「贈与があったのと同様の経済的利益の移転の事実」がある場合について、相続税法9条の適用があると考えられるが、この「贈与があったのと同様の経済的利益の移転の事実」とは、大阪高裁平成26年6月18日判決において、「同法9条の趣旨に鑑みれば・・・一方当事者の何らかの財産が減少し、他方当事者について財産の増加や債務の減少があったというだけでは、およそ贈与と同じような経済的実質があるとは言い難いことは明らかであって、同条にいう『対価を支払わないで、・・・利益を受けた場合』というためには、贈与と同様の経済的利益の移転があったこと、すなわち、一方当事者が経済的利益を失うことによって、他方当事者が何らの対価を支払わないで当該経済的利益を享受したことを要する」と判示がされている。
 これらの裁判例から、まず、前述の二つの説については、利益を受けさせた者と利益を受けた者との間に、対立承継関係が必要との限定はされない。しかし、結果的に利益を受けさせた者と利益を受けた者が存在すれば十分であるともいい難い。
 特に、法人を介して、間接的に経済的利益が移転する場合には、相続税法9条の趣旨に鑑み、利益を受けさせた者と利益を受けた者との関係する者の間の事情に照らし、直接的な利益の授受はなくとも、贈与があったのと同様の経済的利益の移転の事実があれば、同法9条の適用があると考える。そして、ここで必要とされる「贈与があったのと同様の経済的利益の移転の事実」とは、一方当事者が経済的利益を失うことによって、他方当事者が、その一方当事者が失った経済的利益を享受することであろう。
 また、ここでいう関係する者の間の事情というのは、東京高裁平成27年4月22日判決からすれば、法人の資本取引等により、法人を介して株主間等で経済的利益の移転が起こり、相続税法9条が適用される場面においては、その経済的利益の移転について、利益を受けた者、利益を受けさせた者に、その経済的利益が移転されるのに見合うだけの特別の関係が存在することが、一般的にいえるということであろう。また、その特別の関係というのは、相続税法9条が適用された裁判例において、親族の間において、その適用が認められてきたことに鑑みれば、親族間に代表されるような経済的利益の移転があっても不自然ではない関係性であると思われる。

ホ 贈与契約の有無
 相続税法9条の適用に当たっては、贈与契約の有無を問わないのは、その趣旨からも窺われるところであるが、これに関して、裁判例においても同様の判示がされている。東京地裁昭和51年2月17日判決において、裁判所は、相続税法9条の規定の趣旨について、「私法上の贈与契約によって財産を取得したのでないが・・・実質的に対価を支払わないで経済的利益を受けた場合においては、贈与契約の有無に拘わらず贈与に因り取得したものとみなし、これを課税財産として贈与税を課税することとしたもの」と判示している。

ヘ 租税回避の意図・目的の有無
 相続税法9条の適用に当たって、同条の趣旨に租税回避行為の防止があると考えられることから、当事者に租税回避の意図・目的があったかどうかが問題となる場合がある。このことについて、条文上には、「税負担を不当に減少させる」等の文言は含まれておらず、また、相続税法9条の適用に対する裁判例ではないが、同じみなし贈与の規定である同法7条の適用に関する判断の中で、東京地裁平成19年8月23日判決は、贈与税が相続税の補完税の性質を持つことと同条の趣旨から、「租税負担の回避を目的とした財産の譲渡に同条が適用されるのは当然であるが、租税負担の公平の実現という同条の趣旨からすると、租税負担回避の意図・目的があったか否かを問わず、・・・同条の適用があるというべきである」と判示した。同判決は、9条の適用の際にも参考となろう。

ト 小括
 相続税法9条によって、贈与により取得したとみなされるには、贈与の申込みやそれに対する承諾(贈与契約)は必要ないが、一方当事者が経済的利益を失うことによって、他方当事者が何らの対価を支払わないで、若しくは、著しく低い価額の対価で、当該経済的利益を享受したことを要すると考えられる。
 また、経済的利益の移転に当たっては、贈与税が相続税の補完税である性質を持ち、相続税法9条が租税回避行為の防止のための規定の一つであることに鑑みれば、その適用に当たっては、租税回避の意図・目的の有無は問われないが、その行為によって、利益を受けさせた者の将来の相続財産を減少させるような財産・資産の価値の移転がされる場合であろう。
 なお、法人の資本取引等において、法人を介して、間接的に経済的利益が移転する場合には、相続税法9条の趣旨に鑑み、「利益を受けさせた者」と「利益を受けた者」を含む関係する者の間の事情に照らし、贈与があったのと同様の経済的利益の移転の事実があれば、同条の適用があるものと考える。

(3)相続税法9条の適用可能性

法人の資本取引等で、相続税法基本通達に取扱いの定めのない、高額増資、同族会社間の資産移動、会社の合併及び会社の自己株式の取得の場合について、相続税法9条の適用可能性について検討する。

イ 高額増資
 法人が増資を行う際に、1株当たりの時価よりも高い価額で発行価額を定めた場合、時価と払込金額との差額について、高額出資者から他の株主へ利益が移転すると考えられる。この高額増資については、相続税法基本通達9−2(2)の時価より著しく低い価額で現物出資があった場合と利益の移転が類似しており、相続税法9条の趣旨に鑑み、高額出資者と他の株主を含む関係する者の間の事情に照らし、高額出資者が経済的利益を失うことによって、他の株主が無償で経済的利益を得ることがいえれば、相続税法9条の適用があろう。

ロ 同族会社間の資産移動
 同族会社間での財産の無償又は低額譲渡が行われた時に、当該同族会社の個人株主間において、経済的利益の移転があると認められ、相続税法9条の適用があるか否かについて検討する。個人が同族会社に財産を無償又は低額で譲渡した場合には、当該財産を譲渡した者から同族会社の株主に対して、当該譲渡により、株式の価値の増加に相当する部分について、相続税法9条の適用があり、みなし贈与課税の対象となる。これに対して、法人間の無償等の財産の譲渡については、贈与税が個人から個人の贈与に対して課税されるものであり、相続税法9条が「当該利益を受けさせた者から」贈与により取得したものとみなすと規定されていることから、同族会社間での財産移転は、一義的には、当事者は同族会社であると考えられるため、両法人へ対する課税のみに留まり、受贈法人の個人株主には課税されていないと考えられる。
 ただし、特定の個人株主が完全支配している同族会社については、意図して株式を介して資産価値を移動することが可能であることから、当該同族会社の株主について、株主総会の決議に「利益を受けさせる」との行為を見出し、当該経済的利益の移転に相続税法9条を適用することが考えられる。このように考えると、一方当事者は、利益を移転させた同族会社の株主となり、他方当事者は、利益を受ける同族会社の株主と考えられるので、無償等の取引により、資産を移転した同族会社の同族株主と資産の移転を受けた同族会社の株主を含む関係する者の間の事情に照らし、一方当事者が経済的利益を失うことによって、他方当事者がその経済的利益を享受したといえれば、相続税法9条の適用があろう。しかし、この見解においても、株主総会の決議が必要なのは、事業の全部の譲渡又は一部の譲渡(会社467条)、会社分割(会社757条等)に限られることから、同族会社間での資産価値の移転があるすべての取引について網羅されているわけではないので何らかの立法措置が必要であろう。この立法措置としては、相続税法9条に「利益を受けさせた者」が同族会社に当たる場合は、当該同族会社の株主を「利益を受けさせた者」とみなす等との規定を加えることが考えられる。

ハ 合併
 会社が合併するに当たり、その合併条件において、交付される対価の種類・総額等や割当てに関する事項で、消滅会社の株式1株に対して存続会社の株式が何株割り当てられるかの比率(合併比率)は、一般的には合併当事会社のそれぞれの価値、すなわち企業価値の比較で算定されるものである。その企業価値の評価は、現実としては、合併当事会社の決算数値・将来計画数値などから導き出す純資産価値及び収益還元価値、他社との比較から算出する市場価値などが、企業評価の算定すなわち合併比率の根拠となっている。この合併比率の算定が適正に行われなかった場合、相続税法9条のみなし贈与の適用可能性があると考える。すなわち、消滅会社、もしくは、存続会社の企業評価(最終的には1株当たりの評価に当たる)が適正に行われなかった場合、合併比率がどちらかの株主に有利(反対側からすれば不利)に算出されることとなるため、有利に算出された分の利益が一方の株主から他方の株主に移転することが考えられる。この利益の移転は、合併の性質を消滅会社がすべての財産を現物出資し、存続会社が株式を発行し又は新設会社を設立されると考える見解(現物出資説)からすれば、相続税法基本通達9−2の(2)時価より著しく低い価額で現物出資があった場合の取扱いに準じるものと考えられるが、合併契約という会社間の行為により、合併がなされることから、一義的には、「利益を受けさせた者」が、一方の合併当事会社であることが考えられる。しかし、会社が合併するには、原則、各当事会社の株主総会の決議によって、合併契約の承認を受けなければならず(会社783条1項・同法795条1項、同法804条1項)、合併契約は、当該株主総会による承認を停止条件として成立する。このことから、前述のロの「同族会社間の資産移動」の場合と同様に、当該合併する一方の株主について、合併契約の承認に係る株主総会の決議に「利益を受けさせる」との行為を見出し、当該経済的利益の移転に相続税法9条を適用することが考えられる。
 なお、各当事会社の株主構成が全く同じであれば、合併比率がどのようであっても、経済的利益の移転は起こらない。そうすると、当事者の株主が個人であり、合併比率が不適正で、合併する各当事会社の株主構成が異なる場合には、各合併当事会社の株主等の間の事情に照らし、一方当事者(株主)が経済的利益を失うことによって、他方当事者(株主)が何ら対価を支払わないで、若しくは、著しく低い価額の対価で、当該経済的利益を享受したといえれば、相続税法9条の適用があると考える。

ニ 自己株式の取得
 自己株式とは、「株式会社が有する自己の株式」をいい(会社113条4項)、会社が自社の発行した株式を取得すると、その結果、その株式は自己株式となる。
 自己株式の取得及び保有については、平成13年6月の商法改正までは、会社の株主の相互間の平等を図るためや資本の維持等の理由により、原則禁止されていたが、平成13年6月改正において原則自由とされており、自己株式の取得等の弊害を防止するため、会社法上、手続及び分配可能額において規制が設けられている。
 自己株式の法的地位として、まず、自己株式には、議決権その他の共益権を行使することができない(会社308条2項)。次に、自己株式には剰余金の配当請求権は存在せず(会社453条括弧書)、株主に対し募集株式を割り当てる場合にも自己株式に対しては割当てをすることはできない(会社202条2項括弧書)。
 また、会計及び法人税法上においては、自己株式の取得により株主に対して交付した金銭等の帳簿価額相当額は、貸借対照表上、純資産の部(株主資本)から控除する形で表示され、保有自己株式は資産の部に計上されない。それは、自己株式の取得が剰余金の配当と並ぶ株主への財産分配の一方法であること、及び会社清算時まで自己株式を保有することも可能であることに鑑みると、上記株主に対して交付した帳簿価額相当額は、剰余金の配当と同様に株主資本を減少させる効果をもつと考えられる。
 このような自己株式の法的地位等から、発行会社へ株式を譲渡した株主からすれば資産の譲渡であるが、発行会社からすれば、自己株式の取得は資本等取引である。また、経済的な効果において、会社の純資産が減少させ、株主資本の減少を生ずることから有償減資に類似している。このことから、個人株主から時価より低い金額若しくは無償で発行会社へ自己株式を譲渡すれば、時価と譲渡価額の差額分の経済的利益が、譲渡した株主以外の株主へ移転することとなる。そして、発行会社へ株式を譲渡した株主と譲渡した株主以外の株主を含む関係する者の間の事情に照らし、一方当事者が経済的利益を失うことにより、他方当事者が何らの対価を支払わないで、当該経済的利益を享受したといえる場合には、相続税法9条の適用があろう。また、自己株式の取得に当たり、合理的な理由もなく時価より低い価額の対価等で発行会社が取得できるのは、株主間で利害関係が少ない同族会社を介した取引になるのではないかと考える。

3 結論

相続税法9条の適用要件として、その趣旨、法令の解釈及び裁判例等から検討したところ、相続税法9条により贈与により取得したとみなされるには、租税回避の意図・目的や贈与の申込み、それに対する承諾(贈与契約)は必要ないが、一方当事者が経済的利益を失うことによって、他方当事者が何らの対価を支払わないで、若しくは、著しく低い価額の対価で、当該経済的利益を享受したことを要し、法人の資本取引等において、間接的に経済的利益が移転する場合には、9条の趣旨に鑑み、「利益を受けさせた者」と「利益を受けた者」を含む関係する者の間の事情に照らし、贈与があったのと同様の経済的利益の移転があれば、相続税法9条の適用があるものと考える。
 そして、その適用要件から相続税法基本通達に取扱いが例示されていないケースで、法人の資本取引等である、高額増資、同族会社間の資産移動、合併及び自己株式の取得の場合について、相続税法9条の適用可能性を検討したところ、いずれのケースについても、株主間等で経済的利益が移転する場面が想定され、相続税法9条のみなし贈与が適用される可能性があるといえると考える。


目次

項目 ページ
はじめに122
1 研究の目的122
2 本稿の構成123
第1章 贈与税の意義と相続税法9条の概要124
第1節 贈与税の意義124
1 贈与税の概要124
2 贈与税の意義125
第2節 みなし贈与の概要125
1 租税法上のみなし規定125
2 みなし贈与の規定の概要126
第3節 沿革131
1 明治38年131
2 大正11年132
3 昭和13年133
4 昭和22年133
5 昭和25年135
6 小括136
第4節 相続税法9条の趣旨・適用要件137
1 趣旨137
2 適用要件について138
第5節 租税法律主義との関係について147
1 租税法律主義の意義147
2 租税法律主義に係る裁判例148
3 租税法律主義との関係について150
第2章 相続税法9条の適用を巡る裁判例等153
第1節 相続税法基本通達の取扱いについて153
1 相続税法基本通達9−2(株式又は出資の価額が増加した場合)154
2 相続税法基本通達9−4(同族会社の募集株式引受権)156
3 相続税法基本通達9−6(合同会社等の増資)158
4 相続税法基本通達9−7(同族会社の増資に伴う失権株に係る新株の発行が行われてなかった場合)159
5 小括160
第2節 相続税法9条の適用を巡る裁判例162
1 同族会社に対する低額譲渡等163
2 跛行増資等(同族会社の募集株式引受権・増資に伴う失権株関係)169
3 その他のみなし贈与に係る裁判例181
4 小括182
第3章 相続税法9条の適用可能性183
第1節 株式の高額発行による増資183
1 増資の概要183
2 相続税法9条が適用される場合について184
第2節 同族会社間の資産移動186
1 同族会社間の資産移動の問題点186
2 相続税法9条が適用される可能性について187
3 同族会社の行為計算否認(相続税法64条1項)の適用について189
4 立法での対処について191
第3節 会社の合併191
1 合併の概要191
2 相続税法9条が適用される場合について193
第4節 会社の自己株式の取得195
1 自己株式の概要195
2 自己株式取得に際しての規制196
3 自己株式の法的地位198
4 自己株式の消却・処分199
5 譲渡した株主・発行会社の課税関係200
6 相続税法9条が適用される場合について201
結びに代えて203

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