福田 善行
税務大学校
研究部教育官


要約

1 研究の目的(問題の所在)

所得の帰属に関して、所得税法12条は、「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する」と規定し、いわゆる実質所得者課税の原則を定めている。このような通則規定は、規定の文言の意味内容が必ずしも明確ではなく、その解釈も統一されていない。
 更に、所得税基本通達は、収益を享受する者の判定基準について定めているものの、具体的な判断要素を示していないため、課税実務においては、所得の帰属の判定に困難を伴うことが多い。
 本稿は、このような問題意識から、まず、実質所得者課税についての基本的考えを整理した上で、所得の帰属が争われた近年の裁判例において、どのような判断要素が重要であるかを確認することにより、所得税における所得の帰属の考え方を研究するものである。
 なお、事業所得については、帰属の判断要素のみならず、親族間あるいは個人法人間の帰属判定における留意点、共同事業要件についても考察する。

2 研究の概要

(1)実質所得者課税の原則〔第1章〕

イ 沿革及び立法趣旨
 昭和24年に制定された中小企業等協同組合法によって、多数の企業組合が作られたのであるが、中小企業が財産と勤労とを結合して大企業に対抗するという同法の精神に反し、企業組合という形式を隠れ蓑にして、事業所得課税を免れるといった例も多かった。このような事例に対処するため、課税庁は、昭和25年10月24日付「企業組合の組合員が当該組合から受ける所得に対する所得税等の取扱について」(いわゆる9原則通達)により、企業組合自体が有名無実で、その名義の下に生ずる所得を個人の所得とすべきものについて、個人の所得として扱う場合の例を示した。
 しかしながら、法律上の規定がないため、企業組合に係る所得の帰属に関して訴訟が提起されることも多くなったことから、昭和28年の改正所得税法(昭和28年法律173号)により、実質課税の原則を定めた所得税法3条の2が設けられた。その後、昭和40年改正(昭和40年法律33号)により、現行所得税法12条《実質所得者課税の原則》として、「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。」と規定された。

ロ 解釈
 所得税法12条の解釈については、規定の文言が不明確であるがゆえに、その解釈は統一されているとはいえない。すなわち、「課税物件の法律上(私法上)の帰属につき、その形式と実質とが相違している場合には、実質に即して帰属を判定すべき」と解する法律的帰属説と、「課税物件の法律上(私法上)の帰属と経済上の帰属が相違している場合には、経済上の帰属に即して課税物件の帰属を判定すべき」と解する経済的帰属説の2説の対立がある。
 法律的帰属説が通説とされるが、法律的帰属説の立場を採る論者においても、「担税力を欠く者に課税する結果となるような場合」など、一定の場合には経済的実質により所得の帰属を決定する余地もあるとの見解も少なくない。
 このように、実質所得者課税の規定の解釈を法律的帰属説と経済的帰属説の二者択一とするならば、法律的帰属説が通説とされるのであろうが、両説の枠組みを超えて見てみると、所得の帰属を決するに当たっては、法的実質により判断することを原則としつつ、例外的に経済的実質による判断がされる余地があるとするのが有力であるといえる。
 また、近年の下級審裁判例では、法律的帰属説による解釈を明示的に述べているものが散見されるが、千葉地裁昭和62年5月6日判決(税資158号503頁)が、「法律的形式と経済的実質との不一致が明らかに立証された場合において初めて右の推定を覆し、右立証された経済的実質に従って」所得の帰属を確定するとしたのは、一定の場合に経済的実質により判定をする余地があるとする学説と同様の趣旨であると思われる。

ハ 所得の帰属の考え方
 課税の対象となる種々の経済活動ないし経済現象は、第一次的には私法によって規律されており、法的安定性を確保するためには、課税は、原則として私法上の法律関係に即して行われるべきであることからすると、法的実質により実質所得者を判断するのが原則であろう。しかしながら、経済活動ないし経済現象の私法による規律が第一次的であるとするのは、全ての経済活動ないし経済現象が私法によって規律されているとは言い切れないためであり、また、違法取引などによる所得についても課税対象とされることからすると、私法上の法律関係に即して課税することが相当でない場合も生じ得る。
 租税公平主義の観点からすると、税負担は担税力に即して配分されなければならず、画一的な解釈をすることで、担税力を欠く者に課税することは相当ではない。したがって、実質所得者課税における実質とは、法的実質あるいは経済的実質のいずれか一方を指すと解するのではなく、年度帰属における管理支配基準のように、法的実質を原則としながらも、法的実質で判断すると不合理となるような場合には、経済的実質により判断すべきと解するのが妥当ではないだろうか。

(2)資産性所得に係る帰属の判断要素〔第2章〕

イ 利子所得
 預金利子の帰属については、預金の真実の権利者、すなわち、預金者が誰であるかが問題となる。民事法上、預金者の認定については、出捐者を預金者とする客観説と、預入行為者を預金者とする主観説があるとされる。最高裁平成15年6月12日第一小法廷判決(民集57巻6号563頁)では、それまで、判例・通説とされていた客観説ではなく、主観説、すなわち、一般的な民法理論に従った判断がされており、現在では、預入行為者に預金が帰属するとの考え方が有力となっている。
 客観説が判例・通説とされていたのは、元々、無記名定期預金における預金者が問題となったためであり、客観説は、無記名定期預金の匿名性という特質を踏まえて、一般的な民法理論を離れ、銀行と出捐者の利益衡量の観点から、契約当事者を認定するものである。そうであるならば、租税法、とりわけ、所得の帰属判定については、客観説を積極的に採用する理由はなく、上記の最高裁平成15年判決で示されたような、一般的な民法理論に従って判断すべきであろう。
 預金利子の帰属が争われた裁判例では、預金原資の出捐が誰であるかという点から判断がされているが、結果的に、出捐者と預入行為者が同一である事例であった。仮に、出捐者と預入行為者が異なる事例においては、利子所得の帰属についても、預入行為者が誰であるかという点が重要な要素となる。なお、現在では、無記名定期預金が廃止され、口座開設時の本人確認が厳格化されているため、他人名義の口座を開設することが困難であることからすると、預入行為者と預金口座の名義人が同一となる可能性が高く、名義人が誰であるかということも重要になる。また、違法ではあるが、他人の預金口座を譲り受けて利用した場合などは、契約当事者の地位が契約締結後に変化したことになるから、そのような場合には、口座の管理を誰が行っているかという点も判断要素となろう。

ロ 配当所得
 法人から受ける剰余金の配当は、法人への出資に対する配当であり、配当を受ける権利は、株主(出資者)にある(会社1051)。また、株主名簿上の名義は、株式譲渡の対抗要件にすぎない(会社1301)ことからすると、出資者が誰であるか、すなわち、株式取得原資の出捐者が誰であるかということが重要な判断要素となる。真実の株主であれば、株券の保管や配当金の受領・管理を行うのは当然であろうし、株式の売買に関しても、売買の意思決定、譲渡代金の受領・管理を行うはずである。したがって、これらの点も判断要素となるが、飽くまで、真実の株主を推認する事実に過ぎない。なお、証券会社を通して株式を取得する場合には、取引口座の管理状況なども考慮する必要があろう。
 裁判例では、譲渡所得の帰属を主たる争点としたものに付随して配当所得の帰属が争われることが多い。そのため、株式取引の意思決定、取引や資金調達の手続を誰が行っているかという点についても判断要素とされているが、配当所得の帰属という点に限れば、必須の要素とはいえないのであろう。

ハ 不動産所得
 不動産所得の帰属が争われた裁判例では、不動産の所有権者という要素を重視しつつ、賃貸人の地位という要素も考慮されている。このように不動産所得は不動産の所有権者に帰属するという考え方(所有権基準)は、一般的な理解であると考えられる。しかしながら、所有権基準では説明できない場合もある。
 不動産譲渡担保は、形式上は所有権が移転しているものの、その実質は債権の担保であるとされており、その法的構成については、大別すると、法的形式を尊重する所有権的構成と、実質的な目的を重視する担保権的構成に分けられる。譲渡担保は形式と実質との間に齟齬があるため、目的物について第三者が法律上の利害を有するに至った場合に、設定当事者と第三者との利害をどのように調整するかについて、いずれの法的構成を採るかによって、結論が異なることになる。外部からは担保権者が真実の所有者であるかのように見えるため、これを前提として目的物について利害関係を持つに至った第三者を保護するためには、法形式を尊重した解釈が必要となるが、当事者間の利害を適正に調整するためには、実質的目的に即して担保権的に構成することが望ましいとされる。
 実質所得者課税の原則からすると、法的実質により判断することとなり、また、担保権設定者に対して租税債権を持つ国(譲渡担保契約においては第三者)が、当該担保権設定者の財産を差し押さえる場合などとは異なり、所得の帰属判定に関しては、第三者の利害を調整する必要がないことからすると、実質的目的を重視する担保権的構成により譲渡担保を解釈すべきであろう。したがって、不動産譲渡担保においては、担保権設定者から担保権者への所有権移転は形式的なものであって、不動産の所有権を実質的に有しているのは担保権設定者であると考えるのが相当である。そうすると、担保権設定者が不動産を賃貸している場合の不動産所得の帰属については、所有権基準によることとした場合であっても、説明が可能である。
 転貸借の場合、転貸に係る賃料収入が転貸人に帰属することには問題はないであろうが、転貸人が所有権を有していないのは明らかである。賃借人である転貸人は、賃貸人との間の賃貸借契約に基づき、目的物を使用収益することができるため、賃貸人の承諾があれば、転貸人と転借人との間の賃貸借契約に基づく賃料収入を得ることができる。つまり、転貸人は、所有権は有していないが、収益する権利を法的に有しているといえる。
 所得税法12条が、所得の帰属に関する規定であることからすると、通達でいう「資産の真実の権利者」の「権利」とは、「収益を享受する権利」と解すべきであり、上述のとおり、賃借権でも良いことからすると、全面的支配権である所有権で判断する必要はなく、所有権よりも小さい単位である収益権を真実に有する者が、所得の帰属における「資産の真実の権利者」であるということができる(収益権基準)。
 一方、賃借した不動産を無断で転貸した場合でも、転貸借は有効であるが、無断転貸の場合にまで、賃借人(無断転貸人)が転借人から得た賃料を不動産の所有者である賃貸人に帰属させるのは相当ではない。不動産所得が「不動産の貸付けによる所得」と規定されている点を重視して、不動産所得の帰属に関しては、貸付行為の主体が誰であるかということが重要な要素となり得るとする見解もあるように(行為者基準)、法的に収益権を有しない無断転貸人に賃料収入が帰属するためには、収益権基準では説明がつかないことを考えると、行為者基準も無視できない。ただし、この場合には、単に貸付行為を行ったというだけではなく、収益を自ら費消したということが必須の要素になるものと考えられる。なぜなら、無断で転貸したとしても、その賃料収入を所有者(賃貸人)のために費消しているのであれば、事後的に所有者から承諾を受ける場合と異ならないのであり、その場合、無断転貸人は、所有者(賃貸人)の代理人として、あるいは所有者(賃貸人)から委任を受けて賃貸しているとみることも可能であるからである。そうすると、行為者基準を採る場合には、賃貸借契約上の賃貸人の地位を有する者のみならず、収益の費消という経済的実質をも考慮する必要があるが、法律的帰属説を原則とするならば、行為者基準は、無断転貸のようなケースに限って適用すべきであろう。
 以上のことから、不動産所得の帰属判定に当たっては、不動産に関しての収益権が誰にあるかで判断することを原則とし、それが適当でない場合(無断転貸などの場合)には、行為者基準(貸付行為+収益の無断費消)で判断すると考えるのが相当である。

ニ 譲渡所得
 譲渡所得課税の本質が、「資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のもの」、すなわち、単に譲渡収入から取得費と譲渡費用を控除した利益に対して課税するものではなく、資産の所有者に帰属するキャピタルゲインに対する課税であることからすると、所有者と実際の譲渡者が異なっている場合であっても、譲渡時点での資産の所有者を真実の権利者とすべきである。したがって、取得の経緯、取得資金の出捐、固定資産税の負担、譲渡までの使用管理状況などが判断要素となる。

(3)事業所得に係る帰属の判断要素〔第3章〕

イ 総合的判断の必要性
 事業所得の帰属が争われた裁判例では、店舗の賃借や営業許可、クレジット加盟店契約などの名義に加え、出資の状況、資金の調達、収支の管理、従業員に対する指揮監督などを判断要素として、経営主体としての実体を有する者あるいは事業の経営方針につき支配的影響力を有する者に帰属するとしており、様々な要素から総合的に判断されている。一般的に、資産や勤労といった要素を含み、様々な取引が反復継続して行われ、これらが一体となって「事業」を構成するものであることからすると、このような総合的判断がされるのは相当である。
 なお、店舗の賃借人(あるいは連帯保証人)であるという要素を重視した事例もあるが、事業所得が資産勤労結合所得であることからすると、事業用資産の取得者、店舗の賃借人という点も重要な判断要素となるのであろう。いずれの要素を重視するかは事案に応じて判断されるものと思われる。

ロ 親族間の帰属判定(所基通12−5)について
 所得税基本通達12−5は、生計を一にする親族間の帰属について、事業の経営方針の決定につき支配的影響力を有すると認められる者を事業主と推定すると定めている。
 夫婦間の帰属が争われた裁判例においても、同通達に沿った判断がされているが、「誰が経営方針の決定につき支配的影響力を有するかという点は、事業許可等の名義のみならず、事業資産や事業資金の調達・管理、利益の管理・処分状況、従業員の雇用等を総合的に勘案すべき」とされていることからすると、上記イ同様、総合的判断が必要であるということができる。
 更に、同通達は、支配的影響力を有する者が明らかでない場合、一定の場合を除いて、生計主宰者を事業主と推定することとしている。実質所得者課税の原則が、名義と実質とが一致していることが通常であることを前提として、それが不一致の場合に、実質により判断することを原則とするものであることからすると、実質が不明な場合には名義により判断すれば良いのであって、同通達が、最終的に実質でも名義でもない生計主宰者という基準によることとしていることには、疑問を感じる。
 この生計主宰者基準は、昭和26年の旧基本通達において既に定められており、岐阜地裁昭和32年1月30日判決(行集8巻1号100頁)も、「一般に、社会的にみて家族を扶養すべき地位にある生計の主宰者がある場合、その家族構成員の生計を支える重要な事業は、如何に家族構成員の協力があったとしても他に特段の事情のない限り右生計の主宰者がその家族を扶養すべき地位との関連においてこれを主宰しているものと解するを相当とする」としているとおり、古くからの考え方が現行基本通達にも引き継がれているものといえる。
 このように、原則として生計主宰者が家業主宰者(事業主)であるという判断は、当時の時代背景を反映したものと考えられるが、現在も同じような状況にあるとは言い切れず、更に、生計主宰者であるという理由で事業主と判断された近年の裁判例も見当たらないことからすると、生計主宰者基準は、時代の変化に合わせて見直す必要があるのではないかと考える。

ハ 個人法人間の帰属判定について
 個人法人間の帰属判定についても、前述のように総合的な判断がなされるべきであるが、法人を利用して個人の所得税を免れたなどとして課税して、争われるケースなどでは、法人の実体の有無が問題とされることがある。
 裁判例では、法人設立の経緯、役員や従業員の業務内容、事業及び人事等の指揮管理、計算書類等の作成・決算・社員総会などの法人としての手続の有無、収益の管理処分の点から、法人に収益が帰属するものとしての実体がない、あるいは、法人に事業実体がないとして、個人に所得が帰属するとされた事例があるが、いずれも、実質所得者の観点からの総合的判断の中で、収益が帰属するものとしての実体を有しないと認定されたものであり、法人格自体を否認するものではない。
 なお、法人格否認の法理は、取引における相手方の保護を図るための民事法上の法理であるが、課税の場面においてその適用が認められた裁判例はない。これは、課税庁が同法理を援用して課税したケースがないというだけであって、裁判所が課税の場面における適用自体を明確に否定しているわけではない。ただし、「この法理は基本的には一般条項的な性質をもつために他に救済手段がなく、これを放置することが租税公平負担を著しく害する場合に限って用いられるべき補充的なものであると解すべき」との見解もあるように、安易な適用は慎むべきであろう。

ニ 共同事業要件について
 事業主は必ずしも一人であるとは限らず、共同事業が認められる場合には、民法上の組合契約に該当すると解されるとし、その要件として、1経済活動を行うことについて相互に意思の連絡があること、2その意思決定に各人が主体的に関与すること、3これを実現するためにそれぞれの役割分担を遂行すること、4所得に対する各人の持分割合が合理的に算出できることを挙げている裁判例が散見される。
 上記1ないし4の要件を満たす限りにおいては、各人がその役割ないし所得持分に応じて等しく経営方針決定の影響力を有していると考えられるため、共同事業主として、持分割合に応じた所得が各人に帰属することになる。
 親族間においても共同事業主の可能性を否定する理由はなく、これを消極に解する学説も見受けられない。親族経営の場合、誰か一人の意思決定が重視される傾向が強いことから、共同事業が認められるケースが少ないだけであろう。近年における家族形態や働き方の変化を考慮すると、今後は、親族間での共同事業も増えるものと思われる。

(4)その他の所得の帰属判定〔第4章〕

イ 雑所得
 雑所得は、他の所得に分類されない所得であり、その内容も様々であることから、収入の態様に応じ、所得税基本通達12−1又は12−2に準じて、所得の帰属を判定することとなる。
 裁判例では、継続的な株式取引に係る所得について、「一回的な株式の売却による収益とは異なり、本件のような継続的な株式取引による収益の性質は利子・配当・不動産・山林・譲渡所得のような資産性所得ではなく、事業所得と同様の資産勤労結合所得であるというべきであり……その収益の帰属については、前記基本通達12−2を参考にして判断するのが相当である。」として、取引原資の出捐、取引手続、取引口座の管理、取引方針の決定などを総合的に勘案して、取引主体に帰属するとした事例がある。

ロ 給与所得
 所得税法12条が、「資産又は事業から生ずる収益の……」と規定していることからすると、給与所得などの勤労性所得については、同条の射程外としているようにも見えるが、同条が、所得税法に内在する条理として是認された実質課税の原則をそのまま成文化した確認的規定であるとされていることからすると、勤労性所得についても実質所得者に帰属するという考え方は、当然に当てはまるのであろう。
 なお、給与所得については、雇用契約において被用者となっている者に帰属することになるため、名義人と収益を享受する者が異なるケースはあまり想定されない。

(5)所得の帰属の判断要素〔まとめ〕

本稿で整理した所得分類毎の具体的な判断要素等をまとめると、次頁の表のとおりとなる。なお、詳細は本文を参照されたい。

判定基準 判断要素
利子所得
(預金利子)
預入行為者 預金口座の名義、預入行為、預金口座の管理
配当所得
(株式配当)
出資者(株主) 株式所得原資の出損(出資)、配当金の管理処分、取引口座の管理
不動産所得 収益権者 不動産取得に関する契約の締結、代金の支払、(承諾転貸の場合)賃貸借契約等の有無
(無断転貸の場合)
貸付行為者
貸付行為+収益の無断費消
譲渡所得
(不動産)
譲渡時点での所有者 資産取得の経緯、取得資金の出損、固定資産税の負担、譲渡までの使用管理
事業所得 支配的影響力を有する者、経営主体としての実体を有する者 (総合的判断)店舗の賃借・営業許可・クレジット加盟店契約等の名義、出資、資金調達、収支の管理、従業員に対する指揮監督など
(法人との関係)
法人に収益の帰属主体としての実体があるか
(総合的判断の中で)法人設立の経緯、事業実態、指揮監督、法人としての手続の有無、収益の管理処分なども検討
(共同事業要件) 相互の意思連絡、意思決定に各人が主体的に関与、各人が役割分担を遂行、所得の持分割合が合理的に算出
雑所得 収入の態様による 所基通12-1、12-2に準じて判定
(継続的な株式取引の場合)
取引主体
取引原資の出損、取引手続、取引口座の管理、取引方針の決定などを総合的に勘案
給与所得 被用者 雇用契約における被用者

※ 裁判例では、名義人以外の者に収益が帰属するとして争われることが多く、名義が誰であるかは前提事実とされているため、表中にはあえて記載していないが、資産性所得についても、当然、登記などの名義は重要な判断要素となる。


目次

項目 ページ
はじめに353
第1章 実質所得者課税の原則(所得税法12条)355
第1節 沿革及び立法趣旨355
1 沿革355
2 立法趣旨358
第2節 解釈360
1 学説360
2 裁判例366
3 通達367
第3節 所得の帰属の考え方372
第2章 資産性所得に係る帰属の判断要素376
第1節 利子所得376
1 裁判例にみる判断要素376
2 預金者の認定377
3 預金の利子に係る所得の帰属判定382
第2節 配当所得385
1 裁判例にみる判断要素385
2 株式配当に係る所得の帰属判定387
第3節 不動産所得389
1 裁判例にみる判断要素389
2 不動産の権利者391
3 不動産所得の帰属判定398
第4節 譲渡所得399
1 裁判例にみる判断要素399
2 譲渡所得の帰属判定399
第3章 事業所得に係る帰属の判断要素401
第1節 裁判例にみる判断要素401
1 個人間で帰属が争われた事例401
2 親族間で帰属が争われた事例403
3 個人法人間で帰属が争われた事例406
4 収益の性質を重視して判断された事例411
第2節 親族経営事業に関する諸問題413
1 事業主判定と基本通達413
2 親族間における共同事業主の可能性415
第3節 法人名義を仮装している場合421
1 実質所得者課税の原則と法人格否認の法理421
2 参考法令等424
第4節 事業所得の帰属判定426
1 事業所得の帰属判定426
2 所得税法12条と事業主判定428
第4章 その他の所得に係る帰属の判断要素430
第1節 雑所得430
1 雑所得の帰属判定430
2 雑所得の帰属に関する裁判例430
第2節 給与所得434
1 給与所得の帰属に関する裁判例434
2 所得税法12条と勤労性所得435
おわりに437

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