中村 秀利
税務大学校
研究部教授


要約

1 研究の目的(問題の所在)

通則法23年改正により、国税に関する処分について、行手法8条《理由の提示》及び14条《不利益処分の理由の提示》の各規定が適用されることとなったことから、平成25年1月1日以降は、白色更正についても理由の提示が義務付けられるなど、理由提示の必要とされる処分の範囲が拡大した。
 青色更正に関しては、理由附記制度の趣旨目的、附記すべき理由の程度等について数多くの裁判例等が存するが、白色更正の理由提示に関しては、いまだ十分な議論はされていないため、白色更正を行うに当たり、更正通知書にどの程度の理由を記載すべきかは必ずしも明らかとはいえない状況にある。
 そこで、本研究においては、行手法所定の理由提示及び各個別法所定の理由附記に関し、制度の趣旨目的や記載すべき理由の程度等を検討した上で、白色更正に求められる理由の程度を中心に考察する。また、白色更正に係る取消訴訟において、通則法23年改正前までは格別問題視されなかった処分理由の差替えについて、上記改正を踏まえ、その可否や許容範囲についても考察する。

2 研究の概要

(1)最高裁平成23年判決の検討

行手法が平成6年10月1日に施行された後、同法所定の理由の提示に関する下級審の裁判例が相当数蓄積されてきた中、最高裁平成23年判決は、建築士法に基づき行われた一級建築士免許取消処分の適否が争われた事案において、以下のとおり、同法14条の解釈等につき最高裁として初めての判断を示した。

イ 行手法14条1項が理由提示を命じた趣旨
 行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。

ロ 提示すべき理由の程度の判断枠組み(考慮要素)
 当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである。

ハ 建築士懲戒処分において提示すべき理由の程度
 処分の原因となる事実及び処分の根拠法条に加えて、本件処分基準の適用関係が示されなければ、処分の名宛人において、上記事実及び根拠法条の提示によって処分要件の該当性に係る理由は知り得るとしても、いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって当該処分が選択されたのかを知ることは困難であるのが通例と考えられる。

このように、最高裁平成23年判決は、建築士法に基づき行われた建築士免許取消処分について、本件処分基準の下での当否という事例判断をしたものではあるが、一般論として、行手法14条所定の理由提示の趣旨・目的や、提示すべき理由の程度の判断枠組みについて判示していることから、白色更正における理由提示を考察する上で、非常に重要な意義を有するものといえる。

(2)行手法制定前の理由附記に関する判例法理

行手法制定前は、行政処分全般に対して理由提示を命じる法律はなく、所得税法などの個別法において、理由附記を義務付ける規定が存するのみであった。
 こうした中、個別法に基づく理由附記に関する判例法理は、青色更正に関する事案で発展し、青色申告承認取消処分に関する事案によって不利益処分一般に拡張される可能性を開き、一般旅券発給拒否処分や公文書非開示決定処分に関する事案によって不利益処分一般に通づるものとして形成されてきた。
 このように、行手法制定前において、累次の最高裁判決により形成されてきた理由附記に関する判例法理を整理すると、以下のようなものとなる。

イ 理由附記の趣旨及び理由不備の法的効果
 処分庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであり、その記載を欠くにおいては処分自体の取消しを免れない。

ロ 理由の程度の判断枠組み(考慮要素)
 処分の性質と理由附記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである。

ハ 附記すべき理由の程度
 上記イの理由附記の趣旨からすれば、特段の理由のない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのかを、処分の相手方においてその記載自体から了知し得るものでなければならない。

(3)最高裁平成23年判決と従前の判例法理の異同等

行手法所定の理由提示の解釈に当たり、理由附記に関する従前の判例法理は、積極的に否定されるものではなく、原則として妥当し、行手法によって新たに導入された手続と従前の判例法理との間の調整は、判例学説に委ねられたものと解されることから、最高裁23年判決と従前の判例法理の異同等を検討する。

イ 理由提示の趣旨及び理由不備の法的効果
 最高裁平成23年判決は、行手法14条1項が理由提示を命じた趣旨として、処分適正化機能及び争点明確化機能の二つの機能を示しており、これは、従前の判例法理が妥当することを確認したものと解される。
 また、従前の判例法理は、理由附記に関する瑕疵について、処分の内容的適否とは一応無関係に独立の取消原因となると構成した。最高裁平成23年判決は、この点を明確には判示していないものの、従前の判例法理同様、単独で取消原因となることを確認したものと看取し得る。

ロ 理由の程度の判断枠組み(考慮要素)
 最高裁平成23年判決と従前の判例法理とを対比してみると、最も注目されるのは、「当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無」を考慮要素に組み入れたことである。これは、行手法12条1項が行政庁に対して処分基準の設定及び公表の努力義務を課したことを重視し、これを反映させることにより、理由附記に関する従前の判例法理を深化させたものと解される。
 また、同判決は、「当該処分の原因となる事実関係の内容」を考慮要素に組み入れているが、これは、理由の程度を判断する上で考慮要素となることを改めて明確にしたものと思われる。

ハ 提示すべき理由の程度
 最高裁平成23年判決は、建築士懲戒処分においては処分基準の適用関係を提示すべきとした。この点、従前の判例法理では、「…いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのかを…」とされていたことから、従来は処分基準の提示は必要ないと考えられていたが、行手法の制定に伴い処分基準の設定・公表が努力義務化されたことから、その後の学説や下級審判決においては、処分基準の具体的適用関係も示すべきとされてきた。
 このような状況の下、同判決は、建築士懲戒処分の裁量性等を重視し、処分基準の適用関係も提示すべき旨判示したものと解される。

(4)白色更正における理由提示の考察

国税に関する処分については、行手法が定める理由提示に関する規定以外の各規定は依然として適用されないことから、一般行政処分とはその適用範囲が大きく異なる。そのため、行手法所定の理由提示に関する解釈が、白色更正の理由提示においてもそのまま妥当すると解し得るか否かを検討する。

イ 理由提示の趣旨及び理由不備の法的効果
 行手法14条1項が理由提示を命じた趣旨及び理由提示に瑕疵があった場合の法的効果については、理由附記に関する従前の判例法理が妥当することを確認したものと解され、白色更正の理由提示に関しても、これと別異に解する格別の事情は見当たらない。
 したがって、白色更正における理由提示の趣旨及び理由不備の法的効果については、「行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであり、その記載を欠くにおいては処分自体の取消しを免れない」と解するのが相当と思料する。

ロ 理由の程度の判断枠組み(考慮要素)
 最高裁平成23年判決は、理由附記に関する従前の判例法理に加え、1「当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無」、2「当該処分の原因となる事実関係の内容」も考慮すべきとしたが、白色更正における理由の程度を判断する上でも、これらの要素を考慮すべきとされるのかが問題となる。
 上記1について、国税に関する処分においては、処分基準の設定・公表の努力義務を命じる行手法12条は今般の改正によっても依然として適用除外とされていることから、白色更正における理由の程度を判断する上では、「処分基準の存否等」を考慮要素とする必要はないと解するのが相当であり、このように解することは、青色更正の理由附記において「処分基準の存否等」を考慮要素とされていないことと整合的といえよう。
 そして、上記2については、最高裁平成23年判決がこの点を改めて明確にしたものと推し量れることに鑑みれば、白色更正に係る理由の程度を判断する上で、一般行政処分同様、考慮要素の一つと解すべきと考える。
 以上のことから、白色更正における理由の程度の判断枠組みとしては、「当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべき」と解するのが相当であり、処分基準の存否等を考慮要素とする必要はないものと思料する。

ハ 提示すべき理由の程度

(イ)処分基準の適用関係について
 最高裁平成23年判決は、建築士懲戒処分においては処分基準の適用関係も提示すべき旨判示したが、白色更正における理由の程度を判断する上で処分基準の存否等を考慮要素とする必要はないと解されることから、白色更正に係る理由提示においては、原則として、処分基準の適用関係を提示すべき必要はないものと考える。
 仮に、白色更正における理由の程度を判断する上で処分基準の存否等が考慮要素となり得るとしても、租税行政庁は、課税要件が充足されている限り、租税の減免の自由はなく、法律で定められたとおりの税額を徴収しなければならない(合法性の原則)し、各税法においては、建築士法のような裁量性を有する規定は存しないのであるから、いずれにしても処分基準の適用関係を提示すべき必要はないものと思われる。
 もっとも、法令解釈基準である基本通達が処分基準に当たるかは必ずしも明らかではないが、白色更正を行うに当たり、基本通達の適用等に関して納税者との間で争いがあるような場合には、理由提示の趣旨目的に鑑み、その適用関係についても提示すべき必要があるであろう。

(ロ)青色更正に係る理由附記との異同について
 青色更正に係る理由附記に関しては、帳簿否認と評価否認とを区分し、前者の場合には、更正をした根拠を帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示することが要求される(帳簿否認の法理)のに対し、後者の場合には、帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示するものでないとしても、理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示すれば足りる(評価否認の法理)とされている。
 しかし、白色申告者に義務付けられた記帳・記録保存に関する制度においては、青色申告制度とは異なり、納税者の帳簿書類について、一定の基準の充足と一定の水準の維持を要求するものとは解せず、その記載内容等に高い信頼性を置くものと解することもできないのであるから、簡易な方法により記帳・記録義務が課された白色申告者においては、帳簿否認の法理は妥当しないと解するのが相当であり、その更正に当たっては、帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料の摘示を要するものではないと解される。

(ハ)以上の検討を踏まえると、白色更正において提示すべき理由の程度としては、従前の判例法理に従い、「特段の理由のない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのかを、処分の相手方においてその記載自体から了知し得るものでなければならない」と解するのが相当であり、原則として処分基準の適用関係を提示する必要はなく、また、青色更正における帳簿否認の法理は妥当しないものと解される。

(5)白色更正に求められる提示理由の検討

白色更正で提示すべき理由は、処分根拠規定や処分原因事実の内容等を総合考慮して決定すべきと解されることから、実際に白色更正を行うに当たって提示すべき理由については、個々の事案に即して決定せざるを得ず、これを一般論として定式化することは困難といわざるを得ないが、納税者の記帳等の状況によっては、提示すべき理由の程度に一定程度の差異が生じるものと思われる。
 そこで、十分な記帳等の状況にある事業者と、そうではない事業者に対する更正を想定した場合、記帳等の有無が提示理由に与える影響として考え得るのは、更正の対象となった取引(ないしは項目)を特定することが可能か否かであり、これらの者に対する提示理由においては、更正対象取引の記載の有無といった差異が生じるのではないかと考える。
 また、白色更正における理由提示に当たり、納税者が知しつしていると認められる事実について、どの程度提示すべきかといった問題も考えられるが、理由提示の趣旨に鑑みると、その提示が欠けても問題視されないと考えられるのは、いわゆる公知の事実や、その納税者が知り得ていたであろうと第三者をして容易に認められる事実などであり、たとえこれらの事実の提示がなかったとしても、違法性を帯びるものではないと思われる。

(6)白色更正における処分理由の差替え

イ 白色更正における処分理由の差替えの可否
 白色更正に係る取消訴訟に関しては、理由提示が義務付けられていなかった通則法23年改正前において、処分理由の差替えは許されると解されていた。
 これに対し、青色更正に関しては、理由附記の趣旨との関係で処分理由の差替えが制限されるか否かについて、非制限説と制限説とが対立しており、下級審の裁判例も分かれている。こうした中、最高裁昭和56年判決は、青色更正処分取消訴訟における処分理由の差替えの可否に関する一般的な判断は明確に留保しつつ、処分理由の差替えを是認した原審の判断を結論において正当と判示していることから、青色更正の場合にいかなる基準、要件の下で処分理由の差替えが許されるかについては、依然として判例上未確定の状態にあるとされている。
 通則法23年改正後の白色更正においては、青色更正の理由附記に比して求められる理由の程度に一定程度の差は認められるが、青色更正の理由附記と同様の趣旨の下、理由提示が義務付けられたのであるから、そうである以上、同改正後の白色更正に係る取消訴訟においては、青色更正の場合と同様、いかなる場合においても処分理由の差替えが許されると解することは困難であろう。

ロ 処分理由差替えの許容範囲
 処分理由の差替えが許容される範囲を検討するに当たっては、上記最高裁昭和56年判決が参考になると思われる。
 本判決に係る訴訟において課税庁は、更正理由とは異なる主張を追加しているが、その追加主張は、もともと更正の対象となっていた不動産の販売価額に関するものであり、更正理由と追加主張は、同一物件の譲渡益に関するものであって、これに対して同判決が、「このような場合に被上告人に本件追加主張の提出を許しても、……上告人に格別の不利益を与えるものではない」と判示したことに鑑みると、処分理由と新たな主張との間に基本的な課税要件事実の同一性が認められ、その新たな主張によって処分の相手方に格別の不利益を与えるものでないと認められる場合には、処分理由の差替えは許容されると解してよいものと思われる。

3 結論

白色更正の理由提示においては、理由附記に関する従前の判例法理は基本的に妥当し、最高裁平成23年判決が示した処分基準の適用関係については原則として提示を要せず、青色更正における帳簿否認の法理は妥当しないとの結論を得るに至った。
 なお、実際に白色更正を行うに当たって提示すべき理由については、一般論として定式化することは困難といわざるを得ないが、納税者の記帳等の有無が提示理由に与える影響として考え得るのは、更正の対象となった取引(ないしは項目)の特定の可否であると考える。
 また、通則法23年改正後の白色更正に係る取消訴訟においては、そこに理由提示が義務付けられた以上、青色更正の場合と同様、いかなる場合においても処分理由の差替えが許されると解することは困難であり、処分理由と新たな主張との間に基本的な課税要件事実の同一性が認められ、その新たな主張によって処分の相手方に格別の不利益を与えるものでないと認められる場合には、処分理由の差替えは許容されるであろうとの結論を得た。
 国税に関する処分について、その適正化と納税者の予見可能性確保の観点から通則法23年改正が行われた現状においては、これまでにも増して詳細な理由提示ないし理由附記を求める声が上がることも推測されるが、今後数多くの裁判例が集積されていく中で、更なる議論が展開されるであろうと思われる。


目次

項目 ページ
はじめに15
第1章 国税通則法改正に伴う論点整理19
第1節 通則法23年改正の経緯等19
1 通則法23年改正前における行手法の適用関係19
2 通則法23年改正による行手法の適用関係等20
第2節 行政手続法の概要22
1 行政手続法制定の経緯22
2 行政手続法の概要23
第3節 通則法23年改正に伴い新たに生じる論点25
1 行政手続法が要求する理由の程度25
2 処分理由の差替えの可否26
第2章 行政手続法所定の理由提示28
第1節 理由提示の適否を巡る最高裁判例28
1 事案の概要等29
2 判示事項31
第2節 最高裁平成23年判決の検討33
1 最高裁平成23年判決の位置付け33
2 理由提示に関する最高裁平成23年判決の判断34
第3節 行政手続法制定前の理由附記に関する判例法理35
1 理由附記に関する主要な裁判例35
2 理由附記に関する判例法理43
第4節 行政手続法所定の理由提示44
1 行手法制定後における従前の判例法理の位置付け45
2 最高裁平成23年判決と従前の判例法理の異同等45
3 小括50
第3章 白色更正における理由提示52
第1節 白色更正における理由提示の考察52
1 白色更正における理由提示と行手法所定の理由提示の異同等52
2 白色更正に求められる提示理由の検討62
第2節 白色更正の理由提示が争われた事案の検証66
1 平成26年9月1日裁決66
2 平成26年11月18日裁決70
3 平成26年12月10日裁決73
第3節 大阪高裁平成25年判決の検証78
1 事案の概要等78
2 大阪高裁平成25年判決の検証79
第4章 白色更正における処分理由の差替え84
第1節 処分理由の差替え84
1 問題の所在84
2 取消訴訟の訴訟物及び一般的な主張制限との関係85
3 課税処分の同一性(総額主義又は争点主義)との関係86
第2節 更正処分における処分理由差替えの可否89
1 通則法23年改正前の白色更正に係る取消訴訟89
2 青色更正処分取消訴訟90
第3節 白色更正における処分理由の差替え92
1 白色更正における処分理由差替えの可否93
2 処分理由差替えの許容範囲94
結びに代えて96

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