石井 孝
税務大学校
研究科第50期研究員


要約

1 研究の目的

外国子会社合算税制は、租税回避防止を目的とした制度であり、特定外国子会社等(以下「CFC」という。)の決算に基づく所得を基礎として基準所得金額を算出し、それに繰越欠損金等の調整及び持株割合による按分を行って算出される課税対象金額相当額を当該CFCの10%以上の持分を有する内国法人の収益の額とみなして、その内国法人の益金の額に算入する制度である。
 上記の基準所得金額は、CFCの決算に基づく所得を基礎として、原則として、法人税法の規定及び租税特別措置法の規定のうち、一定の規定(以下「本邦法令の規定」という。)の例に準じて計算することとされている。
 本邦法令の規定の例に準じて基準所得金額の計算をする場合に、法令解釈通達(措通66の6−10)で明らかにされている取扱い(青色申告要件、損金経理要件及び評価方法等の届出要件)を除くと、例えば、「国内」、「国外」、「内国法人」又は「外国法人」といった地理的な事実関係に基づき定義される用語や我が国の保険業法や船舶法といった税法以外の法令に基づく適用要件をどのように当てはめることとなるのかについて、法令・通達等では明らかにされていない。
 本研究は、本邦法令の規定の例に準じてCFCに係る基準所得金額の計算をする場合に、上記のような疑義が生じる規定をどのような解釈に基づいて実際に当てはめるべきかについて考察することを目的とするものである。

2 研究の概要

(1)本邦法令の規定の当てはめにおいて生ずる具体的問題

本邦法令の規定をCFCの所得計算に当てはめる際に生ずる具体的問題については、下記のイからハが考えられる。

イ 法令解釈通達(措通66の6−10)に規定されている要件
 具体的問題の1つ目としては、青色申告要件、損金経理要件及び評価方法等の届出要件についてどのように当てはめを行うのかということが挙げられる。
 これらの要件は、我が国の税制、会計制度に基づく要件のうち、法人税法等で広く課されている要件であるということができる。CFCが我が国法人税の納税義務を有しない又は我が国会計制度の適用を受けない場合には、当該要件を満たすことができないことから問題が生ずることとなる。
 法令解釈通達(措通66の6−10)においては、本邦法令の規定をCFCの所得計算に当てはめる際にこれらの要件をどのように取り扱うかが定められている。
 具体的には、青色申告要件についてはCFCは青色申告要件を満たすものとして取り扱われ、損金経理要件については内国法人がCFCの決算を修正して作成した損益計算書において行った経理についても損金経理として認められ、評価方法等の届出要件については内国法人が確定申告書に添付するCFCの損益計算書等に評価方法等を付記するものとされている。

ロ 地理的事実関係に基づき定義される用語を用いた要件
 具体的問題の2つ目としては、基準所得金額の計算において、「国内」、「国外」、「内国法人」又は「外国法人」といった地理的な事実関係に基づき定義される用語を、法人税法の定義どおり「国内」を我が国として当てはめることとなるのか、それとも「国内」をCFCの本店所在地国と修正して当てはめることとなるのかという問題が挙げられる。
 具体的には、適格現物出資に係る被現物出資法人、資産等の所在(法法2十二の十四)及び国外関連者寄附に係る国外関連者の所在(措法66の43)について、「国内」を我が国と捉えるのか、それとも「国内」をCFCの本店所在地国と捉えるのかによりこれらの事実に基づく規定を適用する場合の計算結果が異なることとなる。

ハ 我が国の業法・規制法を根拠とした要件
 具体的問題の3つ目としては、基準所得金額の計算において、我が国の業法・規制法を根拠とした要件をどのように解釈するかという問題が挙げられる。これは、CFCが我が国で事業を行わない限り、我が国の業法・規制法の適用を受けることはないため、これらを根拠とした要件を満たすことはできず、その計算をどのように行うことになるのかという問題が生じることとなる。
 具体的には、保険業法による免許を要件としている異常危険準備金の規定(措法57の51一)、船舶法に規定する日本船舶であることを要件としている船舶の買換え時の圧縮記帳の規定(措法65の71十)等が挙げられる。
 なお、上記ロ及びハの問題については、法令・通達等においてその取扱いが明らかにされていない。

(2)本邦法令の規定の例に準じた計算の基本的解釈指針

基準所得金額の計算は、本邦法令の規定の例に準じて計算することとされているが、この「準じて」とは、準じられるものを基準、手本として当てはめるということを意味している。また、「準じて」には若干の修正を要するという意味も含まれているが、修正を要する場合には法令等でどのような修正を要するのかについて定められることとされている(吉国一郎ほか編『法令用語辞典〈第9次改定版〉』392頁(学陽書房、2009))。
 このことからすると、法令等で修正の定めのない場合には、文理解釈により、原規定をそのまま当てはめるのが原則になると考えられる。
 ただし、文理解釈の結果、1計算が全く行えない(適用があり得ない)場合又は2計算を行えたとしても原規定の趣旨に反する結果となる場合には、基準所得金額の計算上、原規定を当てはめることとした意味がなく、不適当であると考えられる。
 そこで、文理解釈によると1計算が全く行えない(適用があり得ない)場合又は2計算を行えたとして原規定の趣旨に反する結果となる場合には、基準所得金額の計算上、原規定を当てはめることとした趣旨を踏まえつつ、原規定そのものの趣旨及び外国子会社合算税制の租税回避防止という趣旨を著しく損なうことのない範囲で、要件の修正を行うことが本邦法令の規定の例に準じた計算の基本的解釈指針として考えられる。

(3)上記(1)ロの規定に関する上記(2)の基本的解釈指針の当てはめ

イ 適格現物出資に係る被現物出資法人、資産等の所在
 適格現物出資に係る被現物出資法人、資産等の所在について、文理解釈による場合には、法人税法の定義どおり、「国内」を我が国、「国外」をCFCの本店所在地国又は第三国として原規定をCFCの所得計算に当てはめることとなる。その結果として、CFCが我が国以外の国に本店を有する法人に我が国にある資産の移転を行う現物出資及びCFCが我が国に本店を有する法人に我が国以外にある資産の移転を行う現物出資が、それぞれ非適格となる。
 この結果は、含み益のある国内資産の国外移転及び含み損のある国外資産の国内移転による課税上の弊害を排除するという原規定の趣旨に合致するものであり、基本的解釈指針の1計算が全く行えない(適用があり得ない)場合又は2計算を行えたとしても原規定の趣旨に反する結果となる場合のいずれにも該当しない結果であるといえる。
 よって、要件の修正は不要である、つまり、「国内」を我が国、「国外」をCFCの本店所在地国又は第三国として当てはめを行えばよいと考えられる。

ロ 国外関連者寄附金に係る国外関連者の所在
 国外関連者寄附金に係る国外関連者の所在について、文理解釈による場合には、法人税法の定義どおり、「国内」を我が国、「国外」をCFCの本店所在地国又は第三国として原規定をCFCの所得計算に当てはめることとなる。その結果として、CFCが自己に係る国外関連者(我が国以外の国に本店を有する法人)に対して支払った寄附金が全額損金不算入となる。
 この結果は、国外への所得移転に対処する移転価格税制とのバランスを図るという原規定の趣旨に合致し、基本的解釈指針の1計算が全く行えない(適用があり得ない)場合又は2計算を行えたとしても原規定の趣旨に反する結果となる場合のいずれにも該当しない結果であるといえる。
 よって、適格現物出資の場合と同様、要件の修正は不要であり、「国内」を我が国、「国外」をCFCの本店所在地国又は第三国として当てはめを行えばよいと考えられる。

(4)上記(1)ハの規定に関する上記(2)の基本的解釈指針の当てはめ

イ 文理解釈の結果
 文理解釈による場合には、保険業法による免許及び船舶法に規定する日本船舶という要件のいずれについても、我が国で事業を行わないCFC、つまりCFC一般に我が国の保険業法又は船舶法の適用はあり得ないことから、当該要件を満たすことはできない。この結果は、基本的解釈指針の1計算が全く行えない(適用があり得ない)場合に該当するから、要件の修正を要するということになる。

ロ 要件の修正

(イ) 保険業法による免許
 保険業法による免許という要件についてどのような修正を行うのかについては、基準所得金額の計算上、保険会社等の異常危険準備金の規定を当てはめることとした趣旨を踏まえると、CFCが保険業を営む場合に、異常災害損失の発生が想定されることから、我が国における異常危険準備金と同様の範囲で、これに相当する準備金等の損金算入を認めるものであると考えられる。
 このことを踏まえて、原規定そのものの趣旨及び外国子会社合算税制の租税回避防止という趣旨を著しく損なうことのない範囲での要件の修正を考えると、原規定が、保険業法の適用・規制を前提に異常危険準備金の損金算入を認めるものである以上、CFCの本店所在地国の法令の適用・規制の下で繰り入れられているものに限って一定の損金算入を認めることが適当であると考えられる。

(ロ) 船舶法に規定する日本船舶
 船舶法に規定する日本船舶という要件についてどのような修正を行うのかについては、基準所得金額の計算上、船舶の買換え時の圧縮記帳の規定を当てはめることとした趣旨を踏まえると、CFCが海運業を営む場合に、便宜置籍船であっても老朽化等による買換えが想定されることから、原規定と同様の効果を与える計算(圧縮記帳による買換え時の課税の繰延べ)を認めるものであると考えられる。
 このことを踏まえて、原規定そのものの趣旨及び外国子会社合算税制の租税回避防止という趣旨を著しく損なうことのない範囲での要件の修正を考えると、原規定の趣旨・適用範囲が、船舶法の規定による日本船籍の船舶のみを対象とし、更に用途、船齢等の要件を課して、非常に限定的なものとされていることからすると、CFCの本店所在地国の法令の適用・規制の下で同国船籍として登録がされる船舶の買換えに限り、また、外国における法令の違いを考慮する必要はないと認められる船舶の用途、船齢等の要件については、原規定どおり適用して、課税繰延べを認めることが適当であると考えられる。

(ハ) 上記(イ)及び(ロ)以外の我が国の業法・規制法を根拠とした要件
 上記(イ)及び(ロ)以外の我が国の業法・規制法を根拠とした要件についても、CFCが我が国で事業を行わない限り当該要件を満たすことができないことは共通しており、その場合に行う要件の修正については、これらの要件が我が国の業法・規制法の適用を前提としている以上、CFCの本店所在地国の業法・規制法の適用を要件とすることが最低限必要であると考えられる。

3 結論

本邦法令の規定の例に準じて基準所得金額の計算をする場合には、原則、文理解釈によることになる。ただし、文理解釈による場合には、計算が行えない場合等が生じる一定の規定は、原規定の趣旨及び外国子会社合算税制の租税回避防止という趣旨を著しく損なうことのない範囲で要件の修正を行った上で当てはめることが適当であると考える。
 この要件の修正及び現行通達(措通66の6−10)で定められている取扱いについては、法令で定められた要件の修正である以上、租税法律主義及び統一的な解釈・適用の観点からは、法令で定められることが望ましいと考える。


目次

項目 ページ
はじめに472
第1章 外国子会社合算税制の趣旨・目的475
第1節 立法経緯・立法趣旨475
第2節 外国子会社合算税制が課税対象とする所得の金額477
第3節 課税対象金額の計算に係る法令の構造480
1 基準所得金額480
2 適用対象金額484
3 課税対象金額485
第2章 本邦法令の規定の例に準じて計算する方法486
第1節 趣旨486
第2節 本邦法令の規定に含まれる法人税法の規定487
1 法人税法の規定487
2 21の規定が除かれているそれぞれの理由488
第3節 本邦法令の規定に含まれる租税特別措置法の規定493
第4節 法令解釈通達の定め494
1 租税特別措置法関係通達(法人税編)66の6−10494
2 租税特別措置法関係通達(法人税編)66の6−10における考え方495
第5節 本邦法令の規定の例に準じた計算の基本的解釈指針499
1 文理解釈の原則500
2 法令等に定めのない修正の必要性502
3 原規定をそのまま当てはめようとした場合に生じる具体的問題点503
第3章 地理的要件に係る規定の取扱い506
第1節 適格現物出資の規定506
1 適格現物出資の規定506
2 国内、国外、内国法人及び外国法人の意義507
3 適格現物出資の規定に関する基本的解釈指針の当てはめ508
4 「国内」をCFCの本店所在地国と解する場合512
第2節 国外関連者に対する寄附金の規定516
1 国外関連者に対する寄附金516
2 国外関連者の判定を誰との間の資本関係等に基づき行うか517
3 国外関連者に対する寄附金の規定に関する基本的解釈指針の当てはめ519
4 「国内」をCFCの本店所在地国と解する場合522
第4章 我が国の業法・規制法の適用を要件とする規定の取扱い524
第1節 保険会社等の異常危険準備金の規定524
1 保険会社等の異常危険準備金524
2 適用対象について525
3 CFCの本店所在地国の法令の規定により計算する場合527
4 保険会社等の異常危険準備金の規定に関する基本的解釈指針の当てはめ528
第2節 船舶の買換え時の圧縮記帳の規定531
1 特定資産の買換えの場合等の課税の特例531
2 船舶の国籍について532
3 便宜置籍船について534
4 船舶の買換え時の圧縮記帳の規定に関する基本的解釈指針の当てはめ535
第3節 他の規定の取扱い537
おわりに540

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