竹本 英孝
税務大学校
研究科第50期研究員


要約

1 研究の目的(問題の所在)

指定管理者制度とは、地方公共団体が設置する公の施設の管理を、地方公共団体が指定する「法人その他の団体」に行わせる制度であり、平成15年の地方自治法の一部改正により、従前の管理委託制度に代わって導入された制度である。
 この指定管理者制度の導入により、公の施設の管理の外部委託に際して地方公共団体と当該施設の管理受託者とが公法上の管理委託契約を結ぶという従前の方式は、地方公共団体が管理を委ねる者を指定するという方式に改められた。
 ここで、法人税法上の公益法人等が指定管理者として公の施設の管理を行い、これに関連して金員(地方公共団体からの委託料及び公の施設利用者からの利用料)を得る事業を行う場合の課税関係について考えると、当該事業が法人税法上の収益事業に該当する場合に限り当該公益法人等に納税義務が発生することとなる。従前の制度の下では、公益法人等は地方公共団体と公法上の管理委託契約を結び、公の施設の管理という地方公共団体に属する事務の処理を行っていたことから、一般的には、法人税法上の「請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)」に該当するものとして比較的容易に収益事業判定を行えるケースが多かったものと考えられる。しかしながら、指定管理者制度の下では、指定管理者となった公益法人等と地方公共団体との間に従前のような公法上の契約関係はなくなり、公の施設の管理の性質も単なる事務処理から指定管理者の裁量に基づく主体的かつ包括的な管理に変わったため、指定管理者が行う公の施設の管理の内容を個々に見てみると、そこには指定管理者自らが公の施設の種類や目的に応じた事業を主体的に行っていると認められるケースも存在しており、そのようなケースであっても果たしてこれまでどおり単なる事務処理の委託としての「請負業」に該当するものと容易に判定し得るのか疑義が生じるところである。
 本研究は、このような状況の下、制度導入から10年余りが経過した指定管理者制度の下での収益事業判定のポイント等について考察を行うことを目的とする。

2 研究の概要

(1)指定管理者制度と管理委託制度(旧制度)の主要な相違点

指定管理者制度と従前の管理委託制度は、大小様々な違いがあるものの、極めて重要で、かつ大きな違いは、次の3点であると考えられる。

1 従前の制度の下で地方公共団体と管理受託者とを関係付けていた公法上の契約関係が指定管理者制度においてはなくなり、代わりに「指定」と「協定」によって地方公共団体と指定管理者が関係付けられた。

2 公の施設の管理を行い得る者の制限がほぼなくなった。

3 公の施設の管理権限が地方公共団体から指定管理者に移ることで、従前の制度の下で不可能とされていた行政処分たる使用許可権限を付与することも可能となった。

(2)指定管理者制度の本質

指定管理者制度は、原則として、法上できない業務を除き、本来地方公共団体が行うべき業務の全てを指定管理者に任せることを基本とする制度であり、従前の制度との大きな違いの一つである上記(1)3の特徴からは、指定管理者が従前よりも広い裁量を有し、主体性を持って公の施設の管理に当たることが制度の本質であると解することができる。

(3)「指定」及び「協定」の法的性質

指定管理者制度の下では、地方公共団体と指定管理者との間に従前のような公法上の契約関係はなくなり、代わりに両者を関係付ける行為として、「指定」と「協定」が存在することとなった。指定の法的性質は行政処分であるとするのが通説であるが、協定の法的性質は、1契約、2行政処分の付款、312の両者を含むとする諸説が存在している。
 行政処分の付款とは、行政処分に付せられた従たる意思表示(条件、期限、負担等)のことである。指定の法的性質が行政処分であれば、その後に結ぶ協定は、指定を許可するための条件、すなわち、行政処分の付款と見ることもできるが、そもそも協定が、当事者間の自由な協議により取り決められる意思の合致を本質とするものであることを考えると、行政機関の単独の意思表示により権利を与える行政処分の付款(条件)と見るよりも、条例等では明確に規定されない管理業務の詳細につき、指定管理者との合意により締結する行政上の契約と見るのが自然であると考えられる。

(4)「指定」及び「協定」の法的性質に着目した収益事業判定とその問題点

イ 「指定」及び「協定」の法的性質に着目した収益事業判定
 地方公共団体と指定管理者とを関係付ける「指定」と「協定」の法的性質に着目して収益事業判定を行うならば、指定という行政処分によって公の施設の管理権限が地方公共団体から指定管理者に移り、指定管理者が行うべき事務の詳細について、地方公共団体と指定管理者との合意により契約の一種と解することができる協定を締結するという一連の流れは、「公の施設の管理」という本来地方公共団体が行う事務を指定管理者に行わせる旨の契約ということにほかならず、それは民法上の委任の性質と何ら変わらないことから、「事務処理の委託を受ける業」として法人税法上の「請負業」に該当するものと考えられる。

ロ 上記イの収益事業判定の問題点
 しかしながら、指定管理者が従前よりも広い裁量を有し、主体性を持って公の施設の管理に当たるという指定管理者制度の本質を考慮すると、「指定」と「協定」の法的性質のみに着目するという形式面重視の上記イの方法は適当ではない。そもそも、指定管理者制度を採用するか否かは地方公共団体の任意であることに鑑みると、本制度を採用することは、地方公共団体が指定管理者に対して公の施設の経営を委ねたものとの解釈が可能であるし、本制度の性質を分析する限りにおいては、公の施設の管理は、他人から委託されて行う事務というよりも、むしろ指定管理者自身が公の施設の設置者であるかのごとく行う事務の性質を有するものと認められる。そのような性質が認められるにもかかわらず、公の施設の管理が地方公共団体の事務の委託であることだけを理由とし、一律に「請負業」と判定することとした場合には、例えば、公益法人等が認可保育所を自ら設置して事業を行う場合は非収益事業と判定されるにもかかわらず、指定管理者となって地方公共団体が設置した公立保育所の管理に当たる場合は一律収益事業として課税される結果となり、課税の公平維持から問題であると言わざるを得ない。

(5)指定管理者制度の下での収益事業判定の在り方

昭和25年の法人税法改正により、長く非課税扱いとされてきた公益法人等全般に対して課税を行うこととした理由が、一般の営利法人と公益法人等が同種の経済活動を行っているにもかかわらず、一方は課税、一方は非課税となってしまう課税の不均衡を解消し、競争条件の平等化を図ることにあった点を踏まえれば、収益事業判定を行うに当たっては、公益法人等が実際にどのような経済活動を行っているのかが重視されてしかるべきであり、このような観点は、従来からの課税実務上の取扱いである法人税基本通達15−1−2においても如実に表れている。すなわち、同通達は、公益法人等が収益事業に該当する事業に係る業務の全部又は一部を委託契約に基づいて他の者に行わせている場合、その公益法人等が自ら収益事業を行うものとして取り扱うこととしているが、これは、収益事業判定に当たり、事業の実態に即した実質的な面を重視して行うことが明らかにされているものと考えられる。
 さらに、法人税基本通達15−1−29は、公益法人等の行う事業が請負又は事務処理の受託としての性質を有するものであったとしても、事業の性格からみて、法人税法施行令第5条第1項各号に収益事業の種類として列挙された事業(以下「特掲事業」という。)のうち、「請負業」以外の特掲事業に該当するかどうかにより判定をなすべきものである場合には、それらの事業は「請負業」には該当しないものとして取り扱うこととしており、同通達においても、事業の実態に即して収益事業判定を行うことが明らかにされているものと考えられる。
 そこで、先に述べた保育所の例をこの通達に当てはめてみると、指定管理者が行う公立保育所の管理が、地方公共団体から委託されて行う性質のものであったとしても、自らが設置した認可保育所の運営のように、指定管理者が自ら行う事業と実質的に同じであるならば、「請負業」以外の特掲事業に該当するかどうかにより判定をすることとなるのであるから、その事業は「請負業」に該当せず、非収益事業と判定されなければならないこととなり、上記(4)ロで述べた課税の公平維持の観点からの問題は解消されるはずである。
 このようなことから、指定管理者制度の下では、公の施設の管理に関する事業の実態が「指定管理者が自ら行う事業」と認められるならば、その実態に即して実質的な面から収益事業判定を行うべきであり、すなわちこれは、地方公共団体と指定管理者とを関係付ける「指定」と「協定」の法的性質に着目する以前に、「公の施設の管理」を「指定管理者が自ら行う事業」と解せるか否かの判断を行わなければならないことを意味する。そして、その判断に当たっては、地方公共団体と指定管理者との間で締結される協定等の内容を詳細に分析する必要があると考える。

(6)指定管理者制度の下での収益事業判定の留意点

「公の施設の管理」を「指定管理者が自ら行う事業」と解することができる場合には、あとはそこで行われる公の施設の管理に関する事業について特掲事業に該当するか否かを判定することとなるが、その際には次の2点に留意する必要があると考える。

イ 収益事業判定の対象
 指定管理者制度の下では、指定管理者が公の施設の管理に関して得る収入は、地方公共団体から支払われる「指定管理料」と公の施設の利用者から収受する「利用料金」の2種類となるケースが一般的である。「利用料金」とは、公の施設の利用者が支払う施設利用の対価であり、公の施設の利用の対価として地方公共団体にその徴収が認められている「使用料」(自治225)に相応するものである。利用料金制は地方公共団体がその採否を決定するが、公の施設の管理に関して利用料金制が採用された場合、指定管理者は「利用料金」を自らの収入として直接収受できることとなる。ただし、公の施設には独立採算が困難な施設が多く、利用料金収入だけでは公の施設の管理に要する経費を全て賄えるとは限らないため、地方公共団体は、指定管理者に「利用料金」を収受させることに加えて、「指定管理料」を支払うことが多い。このような状況の下において収益事業判定の対象として捉えるべきものは、「利用料金」あるいは「指定管理料」といったそれぞれの収入を得る行為ではなく、公の施設の管理に関する事業活動そのものとすべきである。これは、指定管理者の収入が2種類となるのは、独立採算が困難な施設において利用料金制が採用された場合であるが、本研究の結果、独立採算が困難な施設において利用料金制が採用されず指定管理者の収入が「指定管理料」の1種類のみとなる場合と、利用料金制が採用されて指定管理者の収入が「指定管理料」+「利用料金」となる場合の主たる差異は、地方公共団体と指定管理者の会計上の手間の差でしかないことが認められたことを根拠としている。

ロ 公の施設の管理が複数の業務から構成される場合の収益事業判定の在り方
 法人税法上の収益事業の要件は、そこで行われる事業が、1特掲事業のいずれかに該当すること、2継続して行われること、3事業場を設けて行われることの三つのみであるから、「公の施設の管理」を「指定管理者が自ら行う事業」と解することができる場合において、公の施設の管理を構成する複数の業務が個々に独立した事業としてそれらの要件を満たす限りは、複数の業務を一つの事業に括って34種の特掲事業のいずれか一つに対応させる必然性はないと考える。したがって、「公の施設の管理」を「指定管理者が自ら行う事業」と解することができるならば、公の施設の管理を構成する複数の業務について、個々に収益事業判定を行う必要がある。
 なお、上記のような考え方を踏まえれば、一つの公の施設の管理の中には複数の収益事業が、あるいは収益事業と非収益事業の両事業が混在することが有り得ることとなる。

3 結論(まとめ)

(1)指定管理者制度の下での収益事業判定においては、まず、「公の施設の管理」の事業実態が「指定管理者が自ら行う」と認められるか否かを判断することが重要であり、この点を無視して、地方公共団体と指定管理者とを関係付ける「指定」と「協定」の法的性質のみに着目して一律に「請負業」とするのは適当ではないと考える。そして、指定管理者が自ら行う事業と認められるかの判断に当たっては、本研究において、協定の内容及び指定管理者の収入形態等の分析を行った結果、次表に示す標準的な判断要素を用いることを提案する。

「指定管理者が自ら行う事業」の性質の助長・阻害要素
区分 助長要素 阻害要素 ポイント・留意点
使用許可
権限の付与
 利用に際して利用者からの申請を要するタイプの施設を前提とする。
使用許可権限
の部分的制限
 部分的制限とは、事前に地方公共団体の承認を必要としていることなどを意味する。
利用料金
制の採用
 利用料金が発生するタイプの施設を前提とする。そもそも利用料金が発生しない場合や個別法の規定により利用料金制を採用できない場合等には、阻害要素とはしない。
地方公共団体
への利益の返還
全部  利益の一部を返還する必要があるとしても、それは、公の施設の性質上、議会や住民からの批判への対処策として許容すべきであり、指定管理者に利益を残す仕組みを制限付きで認めていることを重視する。
一部
指定管理者
のリスク負担
 固定資産等を賃借して経済活動を行う場合と同等のリスクを負担しているか。
物価等変動  燃料の高騰、人件費の増加、金利の上昇等による運営経費の増加に関するリスクを負担しているか。
需要減  利用料金制を採用した場合において、需要の見込み違いによる利用者減・収入減に関するリスクを負担しているか。
修繕・改修等  施設、設備、備品等の損傷に関するリスクの全部又は一部を負担しているか。
損害賠償等  一般的に、保険付保によりリスク回避が行われるため、当該保険費用を指定管理者が負担しているか。

(2)また、指定管理者制度の下で収益事業判定を行うに当たっては、公の施設の管理に関する指定管理者の収入が地方公共団体と施設利用者の双方から発生するとしても、それぞれの収入を得る行為をそれぞれ別個の行為と捉えて行うのではなく、その対象は、指定管理者が行っている公の施設の管理に関する事業活動そのものとして捉えるべきと考える。

(3)さらに、公の施設の管理が複数の業務から構成されたとしても、収益事業判定の入り口段階で「公の施設の管理」の事業実態が「指定管理者が自ら行う事業」と認められた場合には、複数の業務を全体として一つの事業と捉えることなく、それら複数の業務について個々に収益事業判定を行う必要があると考える。


目次

項目 ページ
序章 はじめに139
第1章 指定管理者制度142
第1節 公の施設の管理方法の変遷142
1 地方自治法制定時(昭和22年)143
2 「公の施設」概念の誕生と管理委託制度の導入(昭和38年改正)144
3 管理受託者の範囲の拡大と利用料金制の導入(平成3年改正)145
4 指定管理者制度の導入(平成15年改正)147
第2節 指定管理者制度の導入経緯147
第3節 公の施設とは何か151
1 公の施設であるための5要件152
2 公の施設の例示153
第4節 指定管理者制度の概要154
1 指定管理者の範囲155
2 指定管理者の権限155
3 条例で定めるべき事項156
4 指定の期間157
5 指定に当たっての議会の議決158
6 事業報告書の提出158
7 利用料金制158
8 指定管理者に対する監督162
9 公の施設を利用する権利に関する処分についての不服申立て等163
10 施設利用者に生じた損害への対応164
11 個別法との関係165
12 指定のプロセス166
第5節 小括168
第2章 収益事業課税制度172
第1節 収益事業課税制度の歴史的沿革172
1 シャウプ勧告以前(昭和24年以前)172
2 シャウプ勧告(昭和24年)175
3 収益事業課税制度の創設(昭和25年)176
4 その後の改正(昭和26年以降)178
5 公益法人制度の改革(平成20年)178
第2節 現行の収益事業課税制度180
1 公益法人等の範囲180
2 納税義務及び課税所得の範囲182
3 収益事業の意義と要件182
4 収益事業の種類183
5 政策的理由により収益事業から除外されているもの184
第3節 法人税基本通達の取扱い185
1 公益法人等の本来の事業と収益事業の関係(法基通15−1−1)186
2 委託契約等による事業の取扱い(法基通15−1−2)186
3 共済事業の取扱い(法基通15−1−3)187
4 「事業場を設けて行われるもの」の意義(法基通15−1−4)188
5 「継続して行われるもの」の意義(法基通15−1−5)188
6 付随行為の取扱い(法基通15−1−6)189
7 実費弁償方式による事業の取扱い(法基通15−1−28)190
8 請負業と請負業以外の特掲事業との関係(法基通15−1−29)191
第4節 小括192
第3章 指定管理者制度の下での収益事業判定に関する考察193
第1節 「指定」及び「協定」の法的性質193
1 指定の法的性質193
2 協定の法的性質194
3 検討196
第2節 指定管理者制度の下での収益事業判定の在り方197
1 指定管理者制度の性質198
2 検討199
第3節 協定の内容202
1 協定の締結方法202
2 協定で定められる事項203
3 管理委託契約書と協定書の条項の比較207
4 検討209
第4節 指定管理者制度の下での収益事業判定の対象211
1 利用料金制の採用有無に応じた収入形態の比較211
2 検討213
第5節 指定管理者の収入形態と利益の取扱いに関する分析214
1 指定管理者の収入形態と利益の取扱い215
2 検討217
第6節 公の施設の管理が複数の業務から構成される場合の収益事業判定221
1 公の施設の管理を構成する業務の具体例222
2 検討225
第7節 小括229
第4章 結論と今後の課題231
1 本稿の結論231
2 今後の課題239

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