上田 正勝
税務大学校
研究部教育官


要約

1 研究の目的(問題の所在)

企業が消費者に対してポイントを発行し、消費者がそのポイントを特典(景品や代金支払いへの充当等)に利用できる仕組み(以下「ポイントプログラム」という。)は、企業の販売促進や顧客囲込み等のツールとして、近年急速に発展してきた。最近では、提携している他の企業が発行するポイントと交換することが可能なものや、現金、電子マネー、商品券等へ交換が可能なもの、さらには、複数の企業で共通のポイントが発行され、それらの企業における代金支払いへの充当や特典の交換が行われるものも現れてきている。このように、ポイントは企業間での連携が急速に進み、決済手段としての性質も帯びてきている。
現在、ポイントを体系的に対象にした法的制度(規制)は存在していないが、ポイントを利用する消費者が、従前に増してポイントを財産的な価値があるものとして認識してきていることや、ポイントが決済手段として利用される機会が増えてきたことから、その信用性を確保するための制度整備をすべきではないかという問題意識も高まってきており、経済産業省の研究会や金融庁のWG等において数々の議論が重ねられている。
このように、現在、ポイントの財産的価値に関する法制度についての議論が行われている上、ポイントプログラムに加入している消費者は現にポイントを利用している実態があるところ、ポイントプログラムの利用により課税関係が生じるのか、課税関係が生じるとすればどのような取扱いとなるのかを整理することが必要な時期にきているといえる。
そこで、現行の法制度を前提として、ポイントの法的性質等を整理するとともに、当該整理に基づき、ポイントプログラムの加入者(個人)に係る所得税の課税関係を検討した上で、将来に向けた展望や課題を明らかにする。

2 研究の概要

(1)ポイントとは

イ ポイントサービスのルーツ
ポイントサービスの原点は「スタンプサービス」だと言われている。
「スタンプサービス」は、1850年頃から始まったとされており、1800年代末には、スタンプを専用の台紙に貼り付けて、一定枚数を貯めるとカタログに掲載された商品と交換するというサービスが始まり、これが1950年代以降、スーパーマーケットの普及とともに隆盛をみたサービスである。また、わが国においても、1960年代以降、ポイント・スタンプ制度が発展した。
これは、古くからあった、買い物の度に、商品の値段を変えずに別のものを添える「おまけ」を発展させ、「お客さまへのお礼」として購買の証明となる券を発行し、貯まった券でより価値の高い特典と交換するという新しい手法が開発されたものである。この新しい手法によって、貯めたスタンプを特典の商品に交換した人は、このことを他者に自慢したため、大きな口コミ効果を生じたと言われている。
さらに、1989年にヨドバシカメラがITシステム管理型のポイントカードを発行して以来、多くの企業がITシステム管理型のポイントを発行するようになり、最近では、1年間に発行されたポイント・マイレージを現金換算した年間最少発行額は約9千億円と推計されている。
このような、ポイントカードも、「買い物額に応じて購買の証明となるものを発行し、これを貯めてもらって特典を差し上げる」という基本的な構成は、スタンプサービスと同じであると考えられている。

ロ ポイントの定義
ポイントについては様々な定義がなされているが、例えば、経済産業省の企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会報告書は、以下の3点の特徴を有するものをポイントとして検討を行っている。

(イ) 発行企業は、ポイントプログラムに加入した消費者に対し、商品・サービスの購入や店舗への来店、ウェブページへのアクセス、アンケートへの回答等を契機として、付与条件や有効期限、利用条件などの条件付きでポイントを付与する。

(ロ) 消費者は、ポイントプログラムの条件の中で、貯めたポイントを活用することで、ポイント発行企業や提携企業等から特典の提供を受ける。

(ハ) 消費者は、金銭によるポイント購入ができない。

  ここで、使い方が類似しているとして同様のものではないかと指摘されることも多い、電子マネーであるが、ポイントの原資は事業者が負担するのに対し、電子マネーは「金額・数量に応ずる対価を得て発行される」という違いを受けて、ポイントについては、電子マネーのように資金決済法による法的な消費者保護を行うのではなく、経済産業省や事業者団体等において作成されたガイドラインによる利用者保護を行うこととなっている。

(2)ポイントの法的性質と経済的性質

イ 法的性質
企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会報告書によれば、ポイントプログラムは事業者と消費者との間の民法上の契約と評価され、ポイントの権利性や法的性質は当事者間の合意によって決定されるとされている。そのため、ポイントの法的性質は、個々の契約ごとに検討する必要があるが、少なくとも、契約当事者である事業者と消費者がポイントに関して共通して有している意思は、ポイント付与の元になった取引きとは別の何らかの給付を請求できる権利が付与されたものである、ということはできると思われる。つまり、ポイントプログラムの法的性質は、まず、対価を支払うことなく給付を受けることができるということから、贈与契約であるといえるであろう。
一方、贈与契約としてのポイントプログラムの契約が成立しても、具体的に、いつどのような給付が行われるかについては、何ポイント貯まった段階で、どのような給付を受けるのかにつき、受贈者である消費者の意思表示(特典の請求等)があって初めて贈与契約の目的物が確定することとなる 。つまり、受贈者である消費者の意思表示が停止条件として機能しているといえる。他方、約款による規定により、贈与者である事業者は、受贈者からの特典の請求等の意思表示により目的物が確定するまでは、受贈者が選択できる贈与の目的物を変更する権利、さらには、贈与契約を解除する約定解除権が与えられている。
これらを総合すると、ポイントプログラム契約により消費者が得る債権とは、法的には、(受贈者による意思表示という停止条件が成就するまでは、贈与者により行使可能な約定解除権等を付与した)停止条件付き贈与契約による債権であると評価できる。

ロ 経済的性質
法律的にはポイントは対価を得ずに発行されていると捉えるべきであるが、経済的実質という意味では、1000円の商品購入時に次回以降の商品購入時に「1ポイント1円」で代金決済に充てることができるポイント100ポイントを発行した場合であれば、商品代金を900円に値引きするとともに、100円という対価を得て100ポイントを発行しているという、商品代金の値引きの上、対価を得てポイントを発行したものであると捉えることは十分可能であると思われる。

(3)所得の意義と経済的利益

現在の我が国の個人に対する所得課税は、包括的所得概念を原則とし、人の担税力を増加させる利得はすべて所得を構成すると解されている。すなわち、第1に、所得はいかなる源泉から生じたものであるかを問わず課税の対象となると解すべきであり、第2に、現金の形をとった利得のみでなく、現物給付・債務免除益等の経済的利得も課税の対象となると解すべきであり(所得税法36条1項2項)、第3に、合法な利得のみでなく、不法な利得も課税の対象となると解すべきである。
さらに、所得税基本通達36−15において、所得税法36条に規定する「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」(以下「経済的利益」という。)が例示されている。
その中で、ポイントによって得られる特典は、資産の無償または低額譲渡、用益の無償または低額提供、債務負担等に当たり、課税されるべき経済的利益となると考えられる。

(4)「値引き」と「経済的利益」

経済的利益となる資産の低額譲渡に類似するものに「値引き」があり、値引きに関しては、通常、課税されるべき経済的利益とはされていない。
これは、商品の販売価額は事業者の経営判断によって随時決定されるものであるため、通常の商行為としての値引き等の販売価格改定の結果、安く販売した事業者と安く購入できた消費者は、通常の商取引をしたにすぎず、課税されるべき経済的利益は発生しないと考えるべきであろう。つまり、所得を構成しない「値引き」に当たるための重要な要素は、事業者の経営判断に基づく通常の商取引としての価額の変更に当たるかどうかであると考えられる。

(5)所得該当性

イ 法的性質からの検討
ポイントの法的性質とは、停止条件付き贈与契約であった。その贈与の目的物は、特典として用意されている物品もしくはサービスの提供を受けるか、次回以降の商品等の購入時に支払代金の全部または一部を負担させる、または、支払代金を減額させるサービスの提供を受けることなどである。
ここで、債務負担または低額譲渡が「値引き」に当たらないかが問題となるが、ポイントプログラムにおいては、どれだけのポイントを使って売価をいくらとするかについて、販売者である事業者の意思の関与する余地がないため、課税されるべき所得を構成しない「値引き」には当たらず、全て課税される経済的利益となると考えられる。

ロ 経済的実質からの検討
ポイントの経済的実質は、売買代金の値引きを行った上で、その値引き分の金銭を以ってポイントを販売したと考えることもできる。この考え方に基づいて課税を検討すると、「値引き」に相当する売買代金に対するポイント付与率は、通常の商取引における「値引き」と同様、事前に事業者が決定し、その条件を受け入れた消費者が当該商品と一定のポイントを購入するという取り引きとなり、課税所得を構成しない「値引き」に当たるものと考えられる。

ハ 租税法の適用の原則と所得該当性
租税法を適用するための課税要件事実の認定にあたっては、「真実に存在する法律関係からはなれて、その経済的成果なり目的なりに即して法律要件の存否を判断することを許容するものではない」ので、これに基づいてポイントを検討すると、(多くの条件が付されているものの)贈与契約が真実に存在する法律関係であり、そこからはなれて、経済的実質に着目して、「商品代金の値引きの上、対価を得てポイントを発行したものである」と捉えて法律要件の存否を判断するのは適当ではないといえる。つまり、ポイントは課税されるべき経済的利益となると考えられる。

(6)所得の発生時期

ポイントプログラムは、受贈者たるポイント保有者の特典の請求等の意思表示を停止条件とする贈与契約と考えられるので、ポイントによる経済的利益は、停止条件が成就した時、即ち、ポイント保有者がポイントを使用して特典の請求等をした時に得られることから、課税されるべき所得としての認識時期はポイントの使用時であると考えられる。

(7)所得区分

所得税法において課税されるべき所得は、所得区分を決定する必要がある。ほとんどのポイントプログラムは、物品等の購買を起因として、売買等の目的物とは別の経済的利益を与えるという、法人から消費者への贈与契約であることから、一時所得となる。
しかし、ポイントが付与される起因となった取り引きの内容または当事者の状況によっては、他の所得となる場合がある。

イ 事業所得等となる場合
事業所得等の業務に関して資産等を購入した際に獲得したポイントについては、その業務の付随収入に該当し、事業所得等となる。

ロ 雑所得となる場合
質問やアンケートへの回答等の役務提供の対価として付与されるポイントは対価性があるため雑所得となる。
ここで問題となるのは、上述のように所得区分の異なるはずのポイントが同一のポイント制度の中に混在することが今では珍しいことではないことである。異なる所得区分となるべきポイントが合算された後、所得として実現することになる使用時に、どのポイントが使われたかを決定してそれに応じて申告をするというのは困難な場合も多いであろうと思われる。
とはいえ、個人が獲得するポイントの大半は一時所得となるものであり、一時所得については一時所得の特別控除額があるため、ほとんどの納税者は申告する必要は生じず、他方、必ず申告が必要となる事業所得等となるポイントについては、記帳義務がある事業所得等を有する納税者においてポイントに関して記帳をすることが適当であり、記帳の際のルールを手引きや記帳指導等で示すことにより、実務上の困難の多くも解消されると思われる。

3 結論

ポイントの法律関係は、少なくともポイント付与の元になった取引きとは別の何らかの給付を、対価を支払うことなく請求できる権利が付与されたものであると捉えることが適当であり、課税されるべき経済的利益にあたる。
ポイントプログラムの法律関係は贈与契約といえるが、贈与の目的物はポイント保有者の意思表示(請求等)によって初めて確定するという停止条件付贈与契約であり、さらに、請求等によって停止条件が成就するまでは、ポイント付与者に解除権等が与えられているという契約関係といえる。
停止条件付贈与契約であるので、停止条件の成就、すなわち、ポイントが実際に使用された時に贈与契約は効力を生じ、その時点で課税されるべき所得となると考えられる。
所得区分に関しては、多くの場合は法人からの贈与として一時所得となるが、業務に関連して取得したポイントについては事業所得等に、役務提供の対価として獲得したポイントについては雑所得となる。その結果、所得区分の異なるポイントが合算された後に使用された時、どの所得区分のポイントが使われたかを決定してそれに応じて申告をするというのは困難な場合も多いであろうと思われる。
それでも、一時所得については、一時所得の特別控除額によって、ほとんどの納税者は申告する必要は生じないであろう。そのため、事業所得等となる場合のポイントの記帳方法が定着すれば、実務上の困難の多くは解消すると思われる。


目次

項目 ページ
はじめに248
第1章 ポイントプログラムの概要249
第1節 ポイントプログラムのルーツ249
1 スタンプサービス249
2 ITシステム管理型のポイントカード250
第2節 ポイントプログラムの現状250
1 ポイントプログラムの市場規模250
2 ポイント発行企業にとっての有効性251
第3節 ポイントの定義及び性質254
1 ポイントの定義254
2 前払式支払手段(電子マネー)との違い255
3 ポイントの法的性質と経済的性質256
第2章 経済的利益に対する課税264
第1節 経済的利益に対する課税264
1 包括的所得概念264
2 経済的利益265
第2節 「経済的利益」と「値引き」266
1 値引きに対する課税266
2 「値引き」が所得を構成しない理由267
第3章 ポイントに対する課税268
第1節 所得該当性268
1 ポイントの法的性質を重視した場合268
2 ポイントの経済的性質を重視した場合270
3 課税要件事実の認定の際の原則272
4 所得該当性273
第2節 所得の発生時期と所得区分274
1 所得の発生時期274
2 所得区分の検討274
3 所得区分に関する執行上の困難275
結論277

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