普家 弘行
税務大学校
研究部教授


要約

1 研究の目的(問題の所在)

 消費税が導入されて20年以上が経過したが、消費税は税収面でも基幹税として重要なものになってきている。また、社会保障と税の一体改革により、消費税率の引き上げが決定されており、消費税の重要度は今後、さらに増していくものと考えられる。
ところで、情報通信技術の進展と経済の国際化により、様々な新しい財やサービスが提供されてきている。特に近年においては、インターネット等電子的手段により提供されるサービスが、急速に拡大してきている。例えば、携帯電話からスマートフォンへの移行が進む中で、アプリ課金システムと呼ばれるものが急速に拡大してきているし、従来の紙媒体に代えて電子書籍の販売、オンラインゲームの提供などが挙げられる。
一方で、消費税の基本的構造は、創設以来、特段の変更がなされていない。このため、電子的サービス取引、特に国境を越えて行われるものに対する措置がとられていないのではないかとの懸念が持たれている。
そこで、電子的サービス取引に関する現行消費課税の問題点を整理するとともに、海外の動向を踏まえつつ、対応策を検討することとしたい。

2 研究の概要

(1) 日本の電子商取引の現状等

イ 日本の電子商取引の規模
経済産業省の調査によると、日本の電子商取引市場規模(2011年)は、B2B(広義)257兆7,680億円、B2B(狭義)171兆4,070億円、B2Cは8兆4,590億円となっている。

ロ スマートフォン・エコノミー
電子商取引に関するトピックとしては、スマートフォンの普及がある。
消費課税との関係では、アプリケーションソフト(アプリ)が重要であると考えられる。
今後も、アプリを含めた電子的サービス取引の規模は拡大していくことが見込まれる。

ハ デジタル財取引の逸失消費税額の推計
2007年時点のデータを用いて行われた推計によれば、次のとおりである。

デジタル財の分類 年間逸失消費税額(千円)
図書・画像・テキスト 1,357,695
音楽・音声 1,057,320
オンラインゲーム 897,120
映像 692,865
合計 4,005,000

 この推計からは、逸失消費税額はさほど大きいものではないといえるが、税率の引き上げ、電子商取引の更なる進展等により、そのインパクトは変化していくものと考えられる。
平成24年版の情報通信白書では、スマートフォン・タブレット端末の普及に伴う経済波及効果として、直接効果が36,567億円、経済波及効果(生産誘発額合計)が71,778億円と推計されている。全てが課税取引であると仮定するならば、これに消費税率(現行5%)を乗じた金額だけ、税収増の効果が生まれるであろう。しかし、これらのうち、最終的に生産されるのが物品ではなくサービスとなるものがどの程度か、そしてその生産地がどの程度海外に移転するかによって、その効果は変わってくることになる。現状においては、さほど大きな影響があるとは思われないが、状況次第では、数千億円程度の影響が消費税収に生じる可能性があることは、留意しておくべきではないだろうか。

(2) 国際間電子的サービス取引に対する消費課税の現状と問題点

イ 消費税の課税システムの概要
課税対象となる行為(取引)は、資産の譲渡等である。資産の譲渡等とは、「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(消費税法2条1項8号)」とされている。
納税義務者は、国内取引については「事業者」、輸入取引については「外国貨物を引き取る者」である。
課税対象となる取引は、国内取引「国内において事業者が行った資産の譲渡等」、輸入取引「保税地域から引き取られる外国貨物」である。国内取引については、ある取引が国内で行われたかどうかの判定(内外判定)である。資産の譲渡、貸付けの場合には、基本的に、取引される資産の所在地が国内であれば国内取引とされる。ただし、登録がされるような資産についてはその登録が行われた場所が判断基準とされ、登録がない資産の場合は事業者の事務所等の所在地が判断基準とされている。輸入取引について、課税対象となる外国貨物は関税法2条1項3号の定義に従うことになり、消費者が納税義務者になる。また、課税はもっぱら財貨の取引が対象となる。

ロ 消費税の課税区分の問題及び国際取引に対する課税原則
そもそも、付加価値税では、物品の販売に限らずサービスの提供についても一般的に課税の対象に含まれ、課税上の取扱いについても基本的には差異がないのであって、物品の販売(資産の譲渡)とサービスの提供(役務の提供)を区分する意味はないように考えられるが、内外判定の仕方がそれぞれ違うために、課税区分をする必要が生じてくる。しかしながら、最終消費者に至るまでの全ての事業者が国内に存在するならば、付加価値税においては、最終消費にうまく課税できるようにできている。結局、この問題は専ら国際取引において生じてくるものと考えられる。
国際取引に対する課税原則を確認しておくと、国境を越えて財・サービスの取引に対する消費課税については、政策論として二つの考え方がある。取引される財産の原産地である生産・製造地(the origin)を課税管轄地とする「原産地原則」、その取引により財産の移転される地(the destination)を課税管轄地とする「仕向地原則」である。国際的競争条件の中立性の観点から、仕向地原則の採用が望ましいと考えられている。消費税法は、輸入品に対して国内で製造・販売される物品と同様に課税が行われる一方、輸出免税の規定がおかれていることから、物品に関しては、仕向地原則を取り入れていると考えられる。

ハ 国際的財貨取引に関する消費課税
消費税法では、「保税地域」、「外国貨物」といったように関税法の枠組みに従い、国際取引に係る課税の枠組みを定めていると考えられ、消費税の行政が関税業と関連している。輸入取引については、納税者は税関長に申告を行い、税関長が徴収を行うこととされている。
結局、財貨に関する国際取引については、「税関の機能に頼ること(つまり、税関による関税徴収の機能を利用すること)によって、概ね正確な仕向地課税を行うことができる」のであって、関税や個別消費税と同様に、消費税についても、税関による徴収が期待できる。これを裏返しにすると、税関の機能が利用できない場合には、課税上の困難が生じうることにつながる。このような問題が生じうるのは、「まる1取引に外国企業が関与している場合であり、さらに、まる2取引の対象とされる資産の譲渡等が貨物以外のものであり、税関を通過しないで取引できる場合」である。また、「納税義務者である外国企業が消費税を納付するかどうかは、その企業が固定した施設を有するかどうかに依存するように思われる。固定した施設を有さず国内との結びつきが少ない企業に租税の納付を期待することは事実上難しい」と考えられる。

ニ 国際間電子的サービス取引に関する消費課税の問題点
消費税法の規定では、役務の提供に関する内外判定については、役務の提供が行われた場所が基本とされている。国際間電子的サービス取引については、特段の規定は置かれていないため、役務提供が行われた場所によって内外判定を行うことになる。仕向地原則の考え方によれば、本来消費者の所在地となるはずであるが、そもそも、電子的サービス取引においてはサービスの提供場所がどこであるかは重要性がなく、外国に所在する事業者であっても何の制約もなくサービスの提供が可能である。このような取引は、外国貨物の引き取りに該当しないことは明らかであり、引取課税の対象にはならない。また、特段の規定が置かれている取引ではないため、結局、施行令6条2項7号により「事業所等の所在地」により判定されるほかなく、外国企業の場合、その場所は外国であり、課税対象外とならざるをえない。

(3) 欧州連合(EU)の付加価値税に関する動向

イ 市場統合とVAT
1992年までは、EU域内取引と非EU加盟国との取引の間で、特段の差異はなく、物品については税関による国境調整が実施されていた。しかし、1993年の市場統合により、EU域内の租税国境が廃止され、税関による物理的な監視体制が撤廃された。結局、EU域内のクロスボーダー取引は、物品であれサービスであれ、税関の機能を利用できない状況が生まれた。これに対して、当初欧州委員会が想定し、かつ、最終目標とされるのは、原産地原則を適用するということであった。つまり、事業者は顧客が国内であるか否か、課税事業者が最終消費者であるかを問わず、自国のVAT法に基づく申告と納税を行うものである。しかし、最終的な税収が消費地国のものとなるように、清算機構(クリアリングハウス)を設け、消費統計などを用いて税額調整を行うこととされた。しかしながら、税制の決定権を各国が放棄することは政治的にも難しく、数次にわたるEU拡大によって税制の調和はますます難しくなった。そこで、EUにおける付加価値税の議論は、調和よりも、現行制度を所与とした現実的な簡素化(simplification)、現代化(modernization)を目指す方向となっており、将来実現されるべき確定方法としての原産地原則を標榜しつつ、仕向地原則を取り入れていくという動きになっている。

ロ EU指令改正の動き

(従来のルール:第6次指令)
従来のルールにおいては、原産地原則と仕向地原則が混在していたといえる。財の取引の場合、仕向地原則が適用となり、輸入財は課税され、輸出免税が適用される。なお、財の場合、税関の機能が利用できるので、オンライン注文で海外から発送されたとしても、通関の際に課税される。サービス取引では、B2Bは仕向地原則が適用される一方、B2Cは原産地原則が適用されて、輸出は課税で輸入は課税されていなかった。B2Cの取扱いについて、課税の中立性を阻害していること、タックスプランニングの問題が認識されるようになり、課税システムの変更が検討されるようになった。

(近年の改正の動き)
Council Directive 2002/38/ECにより、B2C取引についても、仕向地原則によることとされ、EU域内事業者がEU域外へサービス提供した場合には、課税されないこととなった。また、この指令により、EU域外事業者はEUのうち1カ国を選んで事業者登録を行いVATの申告納付をすることとなり(ワン・ストップ・ショップ制度)、VAT総額は消費国(買い手の所在地)の税率で計算することとなった。これは、課税の中立性を確保すること、すなわち、EU域外事業者が税率の低い国を選んで登録するインセンティブを持たないようにすることが目的であった。さらに、EU域外事業者からEU域内に提供されるサービスの供給地について、消費者が「設立され(is established)、固定的な住所を持つ(permanent address)又は通常居住する(usually resides)」ところとされた。

 引き続き、VATパッケージ(2008)と呼ばれる改正がなされた。これにおいて、B2B、B2C取引の双方に、新たなルールが示されたが、次のように整理できる。

(B2Bクロスボーダー取引:電子的サービス、2010年以降)
供給者 購入者 課税地
EU域内事業者 EU域内事業者 EU域内消費地国 ドイツの事業者がベルギーの事業者にサービスを提供した場合、課税地はベルギーである。ベルギーの事業者(購入者)は、リバースチャージの下、VAT申告する。
EU域内事業者 EU域外事業者 課税なし ドイツの事業者がアメリカの事業者にサービスを提供した場合、課税地はアメリカ(VATは課税されない)。
EU域外事業者 EU域内事業者 EU域内消費地国 豪州の事業者がフランスの事業者にサービスを提供した場合、フランスのVAT課税システムに従い、リバースチャージが適用される。
(B2Cクロスボーダー取引:電子的サービス、2010年以降)
供給者 購入者 課税地
EU域内事業者 EU域内最終消費者 購入者の所在国に関係なく、供給者の所在国(2015年以前) ドイツの事業者がイタリアの消費者にサービスを提供する場合、2015年1月以前にあっては、ドイツの課税システムに従う。
    購入者の所在国(2015年以降) ドイツの事業者がイタリアの消費者にサービスを提供する場合、2015年1月以降にあっては、イタリアの課税システムに従う。
EU域内事業者 EU域外最終消費者 課税なし EU域内事業者がアメリカの消費者にサービス提供する場合であり、VAT課税なし。
EU域外事業者 EU域内最終消費者 購入者の所在国 豪州の事業者がフランスの消費者にサービスを提供する場合、フランスの課税ルールに従う。

 さらに、2015年1月以降、いわゆる「ワン・ストップ・ショップスキーム(one-stop-shop scheme)」が、EU域内の事業者に拡大適用されることとなる。これにより、EU域内の事業者は、1カ国への登録とその国への申告納付を行うことで、EU全体にまたがるVAT申告納付を行うこととなる。このスキームは、これがなければ、複数国に事業者登録が必要となることを不要にすることで、コンプライアンスコストを下げることを意図している。
なお、ワン・ストップ・ショップスキームは現在のところ、EU域外の事業者に限定して適用されているものである。また、電子的サービス取引のみならず遠距離通信事業(telecommunications)、放送サービス(broadcasting services)にも適用されることになる。

ハ 検討の状況
以上のように、2015年にはVATの課税システムは、仕向地原則に全面的に転換されることになるが、2014年上半期には、確定制度を定めた改正案が提示される予定となっており、現在様々な検討が行われているところである。

 2010年12月、欧州委員会は「より簡素で、より強力かつ効率的なVAT制度に向けた、VATの将来に関するグリーンペーパー」を発表した。これは、「EUのVATが現時点で抱えている課題の全てを棚卸ししたもの」であり、パブリックコメントに付された。欧州委員会は、寄せられた意見を集約し、今後の活動の優先順位を決定するとしていたが、これが、2011年末に出された「単一市場に適合したより簡素で、より強靭かつ効率的なVATシステムに向けたVATの将来に関する欧州委員会から欧州議会、理事会および欧州経済社会評議会へのコミュニケ」である。ここで取り上げられたものは多岐にわたるが、国際間電子的サービス取引に関連する部分としては、原産地原則の完全な放棄、仕向地原則の適切な実施に向けた取り組みが示されている。具体的な対策として、ワン・ストップ・ショップが挙げられている。

 国際間サービス取引について、仕向地原則の全面適用に向けた検討の中で、欧州議会域内市場及び消費者保護委員会(Committee on Internal Market and Consumer Protection)の検討ペーパー、Simplifying and Modernising VAT in the Digital Marketが2012年9月に公表されている。これは、欧州連合としての正式見解ではないが、今後の議論を考えていく上で、大変参考になる。電子的サービス取引へのVAT課税にあたり、克服すべき主な課題として、VAT税率の問題、顧客の特定(identification)の問題、コンプライアンスの問題が掲げられている。税率については、最終的な目標としては単一税率が望ましいといえるが、その実現は難しい。そこで、電子商取引で扱われる物品とデジタルサービスの間(例:書籍と電子書籍)で中立的な取扱いとすること、教育や文化といった政策目的のために軽減税率を有効に設定することなどが、検討課題であるとされる。顧客の特定の問題では、その取引が、「誰に」、「どこに」対して行われるのかが、重要である。現在、顧客の自己申告、支払方法のデータ(クレジットカード情報など)、地理的情報追跡ソフトウェア(IPアドレス)の活用、電子認証等が検討されている。コンプライアンスコストの問題では、「ワン・ストップ・ショップの実施が、重要な一里塚(milestone)」と考えられている。今後は、ワン・ストップ・ショップの適用拡大が検討されることになる。また、納付の方法として、区分納付(split payment)も検討課題とされるようである。

(4) 米国の小売売上税(RST)の動向について
米国においては、連邦レベルでの消費税は存在しないが、州税として小売売上税が存在している。米国においては、州をまたぐ取引に関する課税問題がある。米国のRSTの特徴として、州際取引に対して、売主に対する税である「売上税」とともに、「使用税」が課されていることがある。使用税は、州売上税が課されていない物品等の保管、使用および消費に対して課されるものであり、購入者が納税義務を負う。州際取引についても、売主に課税できるならば、それが望ましい。しかし、米国では憲法上の制約、最高裁判決により、ある州が小売業者に課税権を行使できるのは、その小売業者がその州内にネクサス(substantial nexus)を有する場合のみ、とされている。このため、EU域内のクロスボーダー取引と同じような状況が発生しているのである。
使用税は、執行の困難性に最大の問題がある、供給者のネクサスが州内に存在しない限り、使用税が課されることになるが、その執行は容易ではない。特に、顧客が個人消費者である場合には、納税はほとんど望めない状況にあるとされる。
このような状況への対応策として、各州は、小売売上税と使用税の徴収と執行を簡素化し、近代化することを目的として、売上税簡素化プロジェクト(Streamlined Sales Tax Project : SSTP)を2000年にスタートさせている。このプロジェクト推進機関が、Streamlined Sales Tax Governing Board, Inc.である。その成果が、売上・使用税簡素化協定(Streamlined Sales and Use Tax Agreement : SSUTA)であり、44州、ワシントンD.C、その他の地方政府や産業界が協力している。この協定を州法に取り込んでいるのは、今のところ24州であり、非課税範囲に関する定義の統一、税率構造の簡素化、州内での事務処理の一元化などに取り組んでいる。このシステムでは、遠距離販売者(remote sellers : 顧客所在の州内にネクサスを有していない業者)に対して、徴収と納税を自発的に行うよう求めている。このシステムに参加している業者数は、2013年6月1日現在で1953とされているが、ごく一部であると考えられる。

3 若干の政策提言

(1) 仕向地原則の適用について
国際的競争条件の中立性の観点、タックスプランニングの問題、国際的な動向を踏まえると、仕向地原則による課税システムを構築していくべきである。わが国の消費税法においても、役務提供の場所の内外判定の規定を改正し、海外からの電子的サービス取引を課税に取り込むことが必要である。

(2) 顧客(サービスの買い手)に納税義務、連帯納付義務を課すことについて
海外からのサービス提供取引に対し、仕向地原則による課税を適用するにあたり、顧客(サービスの買い手)に納税義務を課す方式が考えられる。現行の消費税法においても、財貨の輸入取引については、この方式が取られおり、米国においても、使用税が導入されているところである。また、欧州においては、顧客に連帯納付義務を課すことが検討されている。
しかしながら、理論的にはともかくとして、実際には大変な困難が伴い、現実的な対策になることは、あまり考えにくいと言わざるをえない。

(3) 海外事業者登録制度の導入
海外からのサービス提供取引に対し、仕向地原則による課税を適用するにあたり、供給者(サービスの売り手)に納税義務を課す方式が考えられる。欧州連合においては、EU域外事業者に対するワン・ストップ・ショップ制度が導入されており、EU内の一カ国を選択して事業者登録し、VAT総額は消費国(買い手の所在国)の税率に従い計算し、EU全体にまたがるVAT申告納付を行うこととなっている。米国の州税である小売売上税においても、売上税・使用税簡素化協定により、州外事業者の登録制度が導入されている。
海外事業者に自発的な納税を求めることについては、海外事業者登録制度を導入し、コンプライアンスコストを下げていくような施策が必要であると考える。

(4) 税率の設定、課税区分の問題
欧州連合でも、税率設定が課題とされている。わが国の消費税は、現状のところ、単一税率であり、軽減税率はない。税制の中立性の観点からは、単一税率の維持が望ましいと考えられる。また、海外事業者に申告納税を求めるならば、できるだけ簡素な税制が望ましいことは、いうまでもない。しかしながら、文化、教育、環境といった分野に関連して、欧州においても軽減税率の有効な設定が議論されているところであり、わが国においても経済社会政策の観点から、複数税率(軽減税率)を導入すること自体が否定されるものではないと考える。その際にも、税制の中立性、コンプライアンスコストが過度に上昇しないよう、配意すべきである。

(5) 地方消費税について
現状の地方消費税は、結果として、EUの最終目標、すなわち、「原産地原則による課税を行い、税収が消費地に帰属するよう調整される」ものとなっている。これは、国税としての消費税があり、徴収を国が実行していること、課税内容が国税と同じである、といったことから、可能となっているものである。今後、地方分権が進み、地方消費税についても、各地方自治体が独自に設定するようになった場合には、まさにEU域内のクロスボーダー取引、米国の州際取引と同じような状況が生まれることになる。今後の議論において、検討されるべき問題の一つではないかと思われる。

(6) 結びに代えて
クロスボーダー取引に対して、間接税を適切に執行することは、容易ではない。また、欧州や米国の状況をみても、解決の糸口がつかめているとはいいがたい。税関の機能を利用した閉鎖的な課税管轄で各国が自国のみの都合で税制を構築できた時代は終わり、租税国境のない開放的な世界で、各国の連携を前提とした税制を追及することが必要となってきている。税制の標準化、手続きの共通化に向けた努力が必要である。


目次

項目 ページ
はじめに 298
第1章 日本の電子商取引の現状等 300
第1節 日本の電子商取引の規模 300
第2節 「スマートフォン・エコノミー」 302
第3節 デジタル財取引に関する消費税収への影響について 303
第2章 国際間電子的サービス取引に対する消費課税の現状と問題点 306
第1節 消費税の課税システムの概要 306
1 納税義務者 306
2 課税対象取引(国内取引) 307
3 課税対象取引(輸入取引) 311
4 輸出について(免税取引) 312
第2節 消費税の課税区分の問題及び国際取引に対する課税原則 315
1 はじめに 315
2 消費税の課税区分の問題 315
3 国際取引に関する消費課税原則 317
第3節 国際的財貨取引に関する消費課税 319
第4節 国際間電子的サービス取引の消費課税の問題点 321
1 はじめに 321
2 内外判定における特別の規定 322
3 国際間電子的サービス取引への消費課税 323
第5節 小括 324
第3章 欧州連合(EU)の付加価値税に関する動向 326
第1節 はじめに 326
第2節 EU指令改正の動き 328
1 従来の付加価値課税ルールについて 328
2 Council Directive 2002/38/ECについて 329
3 VATパッケージ(2008)について 333
第3節 検討の状況 337
1 グリーンペーパーによる問題提起 337
2 グリーンペーパーへの回答としてのコミュニケ 340
3 問題点の整理と対処方法 341
4 小括 350
第4章 米国の小売売上税(RST)の動向について 352
第1節 小売売上税の概要等 352
第2節 使用税の概要 353
第3節 州際取引に係る問題 354
第4節 売上・使用税簡素化プロジェクトについて 356
第5節 小括 358
第5章 若干の政策提言 360
第1節 仕向地原則の適用について 360
第2節 顧客(サービスの買い手)に納税義務、連帯納付義務を課すことについて 362
第3節 海外事業者登録制度の導入 364
第4節 税率の設定、課税区分の問題について 366
第5節 地方消費税について 368
第6節 その他 369
結びに代えて 371

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