米村 忠司
税務大学校
研究部教授


要約

1 研究の目的(問題の所在)

 延滞税は、納付の確定した国税の全部又は一部について法定納期限までに納付されなかった場合に、原則として法定納期限の翌日を起算日として、納付がされるまでの期間について、納付の遅延した税額に対して課されるものである。
そして、延滞税は、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税であることから、何らかの事由により延滞税を課さないとするならば、免除等についての法令の規定が必要となる。
このように、延滞税は、国税の納付の遅延に対して法定納期限の経過により一律に課すこととした上で、法令の定める場合において免除するという制度設計がなされていることについては、延滞税の課税は徴収に関する対応の一環であることからこのような制度になることは首肯できるものの、延滞税の免除ができる場合を具体的に明らかにしておかなければ、本来は免除できる対象について適切な延滞税の免除が行われず、税務行政の円滑な執行に支障をきたすこととなる。しかしながら、これまで延滞税に関しては、詳しく記述された文献がほとんど存在しなかった。
ところで、延滞税免除の検討にあたっては、延滞税のそもそもの性格、すなわち、どのような目的で延滞税が課されるのか、そして、どのような場合に延滞税の免除ができるのかについて、合理的に整理しておく必要がある。
そこで、本稿においては、税務行政の円滑な執行の一助となること、また、その裏返しとして納税者の権利保護となることを念頭に、法令の規定に対して中立的な立場から、延滞税の制度全般について整理するとともに、延滞税の免除できる場合について具体的に事実認定をする際の留意事項について整理を試みることとしたい。

2 研究の概要

(1)延滞税の意義

イ 延滞税の歴史
延滞税の前身となる制度について概略を述べると、まず延滞金の制度が明治44年に設けられたが、その内容は、国税を滞納し、督促を受けたが、なおその指定期限までに完納されない場合に、その納期限の翌日から税金完納又は財産差押えの日の前日までの期間について日歩3銭の割合により徴収するものであった。その後、昭和19年4月に、この延滞金の負担割合が日歩4銭に引き上げられた。
昭和22年4月から所得税、法人税及び相続税について申告納税方式を一般的に採用することに伴い、申告納税方式を採る直接税について期限後申告書若しくは修正申告書が提出され、又は更正若しくは決定があった場合には、その法定納期限の翌日からこれらの申告書を提出した日又は更正若しくは決定についての納税告知書の指定納期限までの期間につき日歩3銭の割合で加算税を徴収する制度が創設された。また、源泉徴収所得税等の徴収義務者が法定納期限までに納付しない場合にも同様の加算税が課された。この場合、従来からの延滞金制度は維持され、また、加算税は税の一種とされた。その後、昭和22年12月から加算税及び延滞金ともに日歩5銭(源泉所得税等については日歩10銭)の割合に、昭和23年7月には加算税額は日歩10銭、延滞金は日歩20銭にその負担割合が引き上げられたが、昭和25年1月には加算税は日歩4銭、延滞金は日歩8銭にその負担割合は引き下げられた。
昭和25年4月には、シャウプ勧告に基づく税制改正の一環として、加算税及び延滞金を廃止し、利子税額及び延滞加算税額が創設された。その内容は、1加算税の名称を利子税額に改め、その課される期間を法定納期限から実際に納付する日までの日数によって計算することとし、その負担割合を日歩4銭に引き下げたこと、2延滞金については、まず遅延利子的性格を有する部分を利子税額に統合し、滞納に対する制裁に相当する部分を新たに延滞加算税額とした。この延滞加算税額、滞納税額のうち、督促状の指定期限までに完納されない税額につき、その指定期限の翌日から納付の日までの期間に応じ日歩4銭の割合で徴収されるが、その最高額は、その指定期限における滞納税額の5%となっていた。その後、昭和30年7月に、利子税額及び延滞加算税額の負担割合は、金利水準の低下などの事情を勘案して日歩3銭に引き下げられた。

ロ 延滞税等の性質
昭和37年に国税通則法が制定され、附帯税制度は全面的な整備が行われ、利子税額及び延滞加算税額については、延滞税及び利子税に改められた。その際に整理された延滞税と利子税の考え方は次のとおりである。

1)延滞税
利子税額の意義は、1私法上の債権債務における遅延利息すなわち債務不履行に伴う損害賠償とみられること、2滞納者と期限内納付者との間の負担の公平を図る意義をもつこと、3間接的に期限内納付を促す効果をもつこと、と考えられていた。
これに対して、延滞加算税額は、一種の行政罰的なものであると考えられていたが、これも、国税の納付を促進する作用をもち、またこれを期待しているほか、利子税額と同じく負担の公平を図り、損害賠償としての意義をもつことを否定できないことから、利子税額と延滞加算税額は実質的には同様の目的をもっていると考えられた。
そこで、簡素化の見地からこれらを統合して新たに一本の制度を設けることが適当であると考えられ、延滞税が創設された。

2)利子税
通常の納付遅延の場合には、本来納付すべき期限を経過しているにもかかわらず納付が行われていないことから、その遅延に対して延滞税が課されるのであるが、延納等が認められた場合には、本来納付すべき期限は経過していても、法律の規定によりそれらが認められているのであるから、納税者はまだ履行遅滞の状態にはなっていないことから、延滞税が課される場合とは異なっているところ、いずれの場合においても、従前は利子税額が課されることとされていた。
そこで、延納等が認められた場合には、新たに利子税が課せられることとなった。

(2)納税の緩和制度の概要
延滞税の免除は、各種の納税の緩和制度の適用を受けた場合に延滞税の免除を行うといったように密接に関係があることから、納税の緩和制度についてその主なものは次のとおり。

イ 災害等の場合の期限の延長

ロ 納期限の延長

1 間接諸税における納期限の延長

2 法人税における確定申告書の提出期限の延長

i 災害その他やむを得ない理由により決算が確定しない場合

ii 会計監査人の監査を受けなければならないこと等により決算が確定しない場合

3 延納

ハ 納税の猶予

ニ 換価の猶予

ホ 滞納処分の停止

ヘ 徴収の猶予

(3)延滞税の免除制度

イ 国税通則法による延滞税の免除
国税通則法による免除の規定は、国税通則法63条に規定しているところであるが、その目的とするところは大きく分けて3つに分類される。
すなわち、1災害等による期限の延長、納税の猶予及び滞納処分の停止という国税通則法及び国税徴収法の規定の適用に伴って延滞税を免除するもの、2一般的に督促後の滞納処分ができる状況であっても納付を強制する必要性の乏しいものに対する年7.3%を超える部分の延滞税を免除するもの、3納税の緩和措置を受けない滞納のうちでも滞納の基因ないしその状態にあることが真にやむを得ない事由に基づく場合における延滞税の免除である。
これらのうち、国税通則法制定当初に存在していたのは1のみであって、2及び3については、その後の改正により順次拡張されてきたものである。

ロ 国税通則法の免除規定以外での延滞税の免除等
国税通則法63条以外においても、延滞税の免除に関係する規定が存在しており、その主なものは次のとおり。

1 国税通則法以外の法律の規定による延滞税の免除

2 国税通則法の規定による納期限に関する特例

i 口座振替の場合の特例

ii コンビニエンスストアでの納付の場合の特例

3 延滞税の計算期間に関する特例

例)所得税法における予定納税額に関する特例
相続税法における後発的事由等による納付額に関する特例

4 起算日の特例

(4)国税通則法63条6項4号の規定による延滞税の免除

イ 国税通則法施行令26条の2第2号
国税通則法63条6項3号及び国税通則法施行令26条の2第2号の規定は、国税通則法11条の納期限の延長を受けなかった場合の延滞税の免除規定であると説明されているが、その内容はその範囲にとどまらない。
そして、「天災及び火災」による国税の納付ができない事由が生じた場合には、国税通則法63条6項3号の規定により、納付すべき税額の確定後の延滞税を免除できることとするのに対し、国税通則法施行令26条の2第2号においては、「人災(火災を除く。)」及び「事故」により国税を納付することができない場合に加えて、「納付すべき税額の全部若しくは一部につき申告をすることができ」ない場合、すなわち、これらの原因により期限後申告、修正申告、更正又は決定により税額が確定した場合、すなわち、納付すべき税額の確定が遅延した場合に、納付すべき税額の確定以前の期間に対応する部分についても延滞税の免除ができることとしている。この場合、延滞税の免除の対象を納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな事由による場合に限定するために、「その災害又は事故が生じたことにつき納税者の責めに帰すべき事由がある場合を除く。」との文言が追加して規定されていると思料する。

ロ 誤指導等による延滞税免除通達について
国税通則法施行令26条の2第2号の規定の「人為による異常な災害又は事故」に関する法令解釈通達である、平成13年6月22日徴管2-35ほか「人為による異常な災害又は事故による延滞税の免除について(法令解釈通達)」について、その内容はおおむね妥当であると考えられる。
そこで掲げられたもののうち「申告期限時における課税標準等の計算不能」について裁決事例を参考に同号の規定に基づく延滞税の免除の対象となる可能性のある事例について検討したところ、例えば「法定申告期限後に過年度分の課税所得が把握された場合において、その所得の把握の遅延について納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな場合、すなわち、その所得の対象となる収入の支払をする第三者に問題があったために、納税者が所得の帰属等を正しく把握できず、結果として法定申告期限までに正しい納税申告書の提出ができなかった場合」といったものが考えられる

3 結論

 国税通則法施行令26条の2第2号による延滞税の免除を適用する場合の事実認定にあたって留意すべき事項は次のようになる。

イ 人為による異常な災害又は事故を原因として次のいずれかの結果が生じたこと

1 納付すべき税額が確定したものについて、国税の納付ができなかったこと

2 期限内申告又は早期の期限後申告若しくは修正申告ができなかったことにより、納付すべき税額の確定が遅延した結果、納付すべき税額の確定前の期間についても延滞税を課せられたこと

ロ 人為による異常な災害又は事故が生じたことについて、納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかであり、納税者は責任を負わないこと

 つまり、事実認定にあたっては、国税の納付や納税申告書の提出ができなかったことについて、人為による異常な災害又は事故との関連性とその災害等の発生についての責任の所在を十分検討する必要がある。
そして、その際は、税務署長等が延滞税の免除の要件に該当することについて確認ができるよう、納税者の側においても事実関係の説明や証拠資料等の提出等において積極的な協力が望まれる。


目次

項目 ページ
はじめに 127
第1章 延滞税の意義 128
第1節 延滞税等の概要 128
1 総論 128
2 延滞税 128
3 延滞税の額の計算の基礎となる期間の特例 131
4 一部納付が行われた場合の延滞税の額の計算等 132
5 納税の猶予等の場合の延滞税の免除 138
6 利子税 139
第2節 延滞税の歴史 140
1 国税通則法制定前まで 140
2 国税通則法制定時の政府税制調査会での検討 142
3 延滞税の課税に係る主な改正事項 151
4 利子税等の割合の特例制度 153
5 小括 154
第2章 納税の緩和制度の概要 156
1 災害等の場合の期限の延長 156
2 納期限の延長 157
3 納税の猶予 160
4 換価の猶予 164
5 滞納処分の停止 166
6 徴収の猶予 169
第3章 延滞税の免除制度 170
第1節 現行の国税通則法による延滞税の免除 170
第2節 国税通則法の延滞税の免除規定以外での延滞税の免除等 173
第3節 制定当初の国税通則法63条の規定とその後の制度改正 182
1 制定当初の国税通則法63条 182
2 その後の制度改正 183
3 小括 190
第4章 国税通則法63条6項4号の規定による延滞税の免除 192
第1節 国税通則法63条6項の趣旨 192
1 概説 192
2 災害及び事故の定義について 193
第2節 国税通則法63条6項3号について 194
1 国税通則法11条との関係 194
2 国税通則法63条6項3号の規定について 195
第3節 国税通則法63条6項4号について 196
1 国税通則法63条6項4号の規定について 196
2 国税通則法施行令26条の2第2号の規定について 197
3 誤指導等による延滞税免除通達について 198
4 裁決事例の検討 199
5 国税通則法施行令26条の2第2号が適用できる事例 202
第4節 まとめ 203
1 国税通則法施行令26条の2第2号の本質及び事実認定について 203
2 誤指導等による延滞税免除通達の合理性 205
3 延滞税の制裁的意義の有無について 205
4 延滞税免除の範囲の拡張についての私見 206
おわりに 208

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