居波 邦泰

税務大学校
研究部教育官


要約

1 研究の目的(問題の所在)

 諸外国においては、タックス・アムネスティを利用し、納税者から自主的に秘匿資産等の情報について開示・申告をさせることで、海外に流出した所得等の回収に成功している例が見受けられるところである。
「タックス・アムネスティ」とは「租税特赦」とも訳され、資産や所得を正しく申告していなかった納税者が自主的に開示・申告を行った場合に、これに本来ならば課される加算税等を減免したり刑事告発を免除したりする制度のことである。なお、先進諸国においては、その表記として「ボランタリー・ディスクロージャー」等を用いており、「タックス・アムネスティ」の表記を避けている。
タックス・アムネスティは、加算税等の減免や刑事告発の免除等をすれば必ずしも成功するというものではなく、その国の情報報告制度や罰則制度等の在り方とのバランスに大きく関わっているものではないかと思慮され、我が国に導入するとすればその効果的な導入のために、現在の制度及び執行にどのような検討が必要かについて十分に考察を行うこととしたい。

2 研究の概要

(1)利用実態からのタックス・アムネスティの分類及び分析

イ 利用実態からのタックス・アムネスティの分類
諸外国におけるタックス・アムネスティの利用実態からタックス・アムネスティについて以下の類型に分類ができるものと考える。

丸1 臨時的税収の確保型(特赦型)
税収を一時的かつ短期的に増加させることを目的として実施するものであり、納税者のコンプライアンスの維持・向上は考慮外とされることが多い。多額の追加的税収を上げるために、加算税の減免や刑事告発の免除だけでなく、本税自体を減額することで、多くの納税者、特にコンプライアンスが低く多額の資産等を秘匿している納税者に自主的に応じてもらおうとする施策となっている。

丸2 申告誤り等の是正慫慂型(基本型)
実施期間を限定した上で、対象とする納税者を特に限定せずに、納税者が申告誤り等を自主的に修正してきたならば加算税を減免するものである。なお、実施期間を限定せずに申告誤り等の自主修正に対して加算税を付さないものとしてはカナダの制度があるが、これは利用回数を1回に制限することで、納税者ごとには期間限定的な効果を与えており、申告誤り等の是正慫慂型の範疇に入るものと思慮する。

丸3 規制強化への宥恕的利用型(規制導入型)
罰則や執行の規制強化策等の導入前に、当該規制強化策等について納税者が受け入れやすいようにあらかじめの一定の期間において宥恕的に加算税や刑事告発の免除を行っておくものである。

丸4 オフショア金融資産等の開示型(オフショア金融型)
2000年以降、個人富裕層をターゲットとしてOECDが加盟国に活用を奨励しているプログラムであり、オフショア金融口座に資産を秘匿している納税者を対象として、米国をはじめEU諸国において実施されている。最近においてはUBS事件等もあり、単に自主的な開示を待つのではなく、オフショア金融機関からの納税者情報を入手してその事実を公表すること等で、納税者に開示を迫るといった手法に移行してきている。

丸5 特定の租税回避スキームの利用開示型(租税回避スキーム型)
米国において実施されているプログラムであり、「報告義務のある取引」等のタックス・シェルターに係る情報開示制度やジョン・ドゥ・サモンズ等の活用により、特定の租税回避スキームに係る利用者リスト等をあらかじめ入手することで、実施期限内にこのプログラムに応じなければ査察を含む調査執行をすることをネットで公表又はダイレクトメール等で該当納税者へ直接通知を行うなど、対象とする納税者に開示を強く慫慂するプログラムとなっている。

ロ OECDのボランタリー・ディスクロージャー報告書における考え方
OECDでは、OECD税務長官会議の第5回パリ会議(2009年)及び第6回イスタンブール会議(2010年)において、「オフショア税務コンプライアンスの向上」をテーマにして、そのなかで個人富裕層をターゲットとした「ボランタリー・コンプライアンス・イニシアティブ」の活用及びその情報の共有についての議論がなされた。
その後、2010年9月に公表された「Offshore Voluntary Disclosure−Comparative Analysis, guidance and policy advice(オフショア・ボランタリー・ディスクロージャー−その比較分析、ガイダンス及び政策助言)」等で、ボランタリー・ディスクロージャーについて、「税の透明性と情報交換の向上に関する便益を最大限に高め、短期的に税収を増加させるとともに、中期的には税務コンプライアンスを向上させることに資するものであるとし、(その実施には)コンプライアンスの極めて低い一部の納税者とコンプライアンスがある大半の納税者とのバランスに十分に配慮する必要がある」との分析がなされ、「ボランタリー・コンプライアンス・プログラムを成功させる5つの原則」が示された。

〔成功プログラム5原則〕

丸1 プログラムに「目的」と「条件」が明確に規定されていること

丸2 明白かつコスト効率よく短期的税収を増加させるプログラムであること

丸3 それまでのコンプライアンスの施策や執行体制と整合がとれていること

丸4 特にプログラムの対象納税者のコンプライアンス水準を向上させ得ること

丸5 中期的なコンプライアンス向上策で補完されることで、納税者全体のコンプライアンスの向上が図られていること

(2)タックス・アムネスティを有効とさせ得る諸制度の分析

イ 国外情報報告制度及びタックス・シェルター情報開示制度
米国、英国、フランス、ドイツ、カナダ及びオーストラリアの先進諸国における国外情報報告制度及びタックス・シェルター情報開示制度の状況を基に、各国のボランタリー・ディスクロージャーとこれらの制度との関連については、以下のように考える。

丸1 米国
米国では、すべての国外情報報告制度やタックス・シェルター情報開示制度について、様式を策定して納税者等に報告義務を課しており、これらの義務違反に対しては高額な民事罰や刑事罰が法定されている。加えて、2013年には金融機関に対して米国人の国外金融資産に係る情報について提出義務を課す新たな制度が導入される。
各様式への情報記載も詳細なものが大半で、納税者等への負担もかなり重いものであることが推察される。タックス・シェルター情報開示制度では、「報告義務のある取引(Reportable Transactions)」の「指定取引(Listed Transactions)」に対する報告義務違反に対しては最高20万ドルに及ぶ民事罰が科されており、非常に厳しい対応がなされている。

丸2 英国、フランス、ドイツ
EUの主要国であるこれらの国々において、納税者に対する国外情報報告制度としては、フランスの個人の国外金融資産に関する報告制度やドイツの支配外国会社等の報告制度が上げられるだけであったが、2006年に英国で既存の税務手続法の「Tax Management Act」の解釈適用でオフショア金融口座情報の提出義務を銀行に負わせることが可能となったことで、この状況に大きな変化が認められたところである。2007年の英国のボランタリー・ディスクロージャーは、この大量のオフショア金融口座情報の入手を背景に実施されたものである。
加えて、英国では2004年にタックス・シェルター情報開示制度が導入されており、2006年にこれを強化して「Hallmark(特徴)」の概念を導入することで、米国の「報告義務のある取引」に近い制度になった。ただし、いまのところ英国では、この情報を利用した米国での租税回避スキーム型のボランタリー・ディスクロージャーを実施する様子はなさそうである。

丸3 カナダ、オーストラリア
カナダの国外情報報告制度で特徴的なこととして、国外資産に係る報告制度の様式Form T1135〔国外所得証明書(Foreign Income Verification Statement)〕では、資産の種類(丸1国外預金・投資ファンド、丸2国外関連会社以外の外国会社の株式、丸3非居住者への貸付金、丸4外国トラストの持分、丸5外国不動産、丸6その他の国外資産)ごとに100,000〜100万加ドル以上の6階層のボックスを用意し、加えて、所在国・地域について、米国、英国、それ以外の欧州等の6つのボックスを用意し、それぞれチェックを入れる報告方式を採用して、納税者への負担を低めている。
オーストラリアの国外資産に係る報告については、さらに簡略化されたものとなっており、確定申告書の付表の「20国外源泉所得及び国外資産又は財産(Foreign Source Income and Foreign Assets or Property)」のP欄で、50,000豪ドル以上の国外資産がある場合には「Yes」のボックスにチェックするだけで完了するものとなっている。

ロ 租税情報交換条約(TIEA)の積極的な締結
タックス・ヘイブン等との租税目的の情報交換に特化した租税条約を「租税情報交換条約(Tax Information Exchange Agreement:TIEA」というが、その新規の締結件数は、全世界において、2007年に12件、2008年に23件程度であったものが、2009年には197件、2010年には200件と爆発的な増加件数となっており、2011年3末現在で全世界で450件を超えるTIEAが締結されている。

ハ 租税に係る罰則制度の在り方とタックス・アムネスティ
我が国の租税に係る罰則制度は、納税申告に係る民事罰として加算税等の附帯税制度(課徴金制度)及び刑事罰として脱税犯への租税刑罰並びに申告書の不提出等に係る刑事罰として秩序犯への租税刑罰に大別できる。
これに対し、諸外国においては、納税申告に係る附帯税制度や脱税犯への租税刑罰並びに秩序犯への租税刑罰だけでなく、情報申告書の不提出・提出遅延・虚偽記載等に係る民事罰としての罰金制度があり、これにより税務行政の実効性を確保しようとしている。我が国には税務に係る民事罰としての罰金制度は存在していない。

(3)我が国へのタックス・アムネスティの導入に係る検討

イ タックス・アムネスティの誘因の設定に関する法令上の手当ての検討
タックス・アムネスティの誘因の設定として、丸1本税の減額、丸2加算税の減免、丸3延滞税の減免、丸4脱税犯の告発の免除、丸5単純無申告犯(秩序犯)の告発の免除が考えられるが、これらに係る法令上の手当てについては、以下のように考える。

  • ○ 法律の制定又は改正を行っても認められないタックス・アムネスティの誘因
    タックス・アムネスティによる本税の減額及び延滞税の全額免除(遅延利息としての性格部分を含めて)については、憲法14条の「法の下の平等」に抵触する惧れがあり、この憲法問題を解決しなければ我が国においては、そのようなタックス・アムネスティの導入を認めることは困難である。
  • ○ 導入可能なタックス・アムネスティの誘因
    現行法令で導入可能なタックス・アムネスティの誘因として、民事罰については、過少申告加算税は免除することが可能であり、無申告加算税は5%相当額までの軽減が可能である。延滞税に関しては減額することは可能であると考えるが、現行法令の改正が必要である。
    刑事罰については、脱税犯の告発の免除は、納税者全体のコンプライアンスの低下を招くことがないよう悪質な納税者であると判断された者についてタックス・アムネスティの利用を認めないなどの適切な対応をとった上であれば、現行法令での導入は可能であるとし、単純無申告犯の告発の免除は、現状の免除規定に鑑み可能であると考える。

ロ タックス・アムネスティの類型と我が国への導入
タックス・アムネスティの類型に関し、我が国の導入については以下のように考える。

  •  特赦型を含め、本税自体を減額するタックス・アムネスティについては、OECDやIMFもこれを認めておらず、我が国においても導入は有り得ないものと考える。
  •  オフショア金融型については、その実施目的がはっきりとしており、2000年以降OECDは、タックス・ヘイブン等に存在する個人富裕層の秘匿資産を開示させることを目的としたボランタリー・ディスクロージャーを加盟国に薦めており、我が国に導入する類型として望ましいものと考える(以下、我が国への導入に関し「ボランタリー・ディスクロージャー」の表記を用いる。)。
  •  租税回避スキーム型については、まずは税務当局が濫用的租税回避となるようなタックス・スキーム等を認知し、これが世の中に氾濫している又は氾濫しつつある実態があることを把握することが必須となる。また、租税回避スキーム型を導入するのであれば、争訟等の対応に入念な検討を要するものと思慮するところである。

(4)我が国への効果的なボランタリー・ディスクロージャーの導入に係る提言

イ ボランタリー・ディスクロージャーの誘因の設定
現行法令上で実施が可能な誘因の設定として、過少申告加算税の免除、無申告加算税の5%相当額までの軽減、脱税犯の告発の免除(悪質な者を除く)、単純無申告犯の告発の免除が可能であるが、これら以外の新たな誘因としては次のものが考えられる。

  • ○ 無申告加算税の全額免除
    無申告加算税については、それが更正を予知しない場合において、その基礎税額の5%相当額にまで軽減されることとされているが、これを全額免除とする。
  • ○ 延滞税の軽減
    延滞税については、その金額を算出する割合が年14.6%と高率であり、計算期間の特例がなければ経年により積算され高額になることから、この軽減は、ボランタリー・ディスクロージャーに応じるような納税者にとって、効果的な誘因になり得るものと思料され、次のような軽減策はどうかと考える。
    • ● 特例基準割合(商業手形の基準割引率+年4%)を遅延利息としての性格部分とみなして、ボランタリー・ディスクロージャーに関して全期間の計算割合として適用
    • ● 延滞税には負担軽減のための計算期間の特例の取扱いを、ボランタリー・ディスクロージャーに関して無申告であっても適用(隠蔽又は仮装を除く。)

 しかし、延滞税の免除については、イタリア以外の先進諸国では行われておらず、この導入について検討することよりも、各国のように情報収集を的確にできるようにすることでボランタリー・ディスクロージャーを効果的に実施することが、本来の対応であると思慮する。

ロ 情報報告に係る制度改正等

○ オフショア金融型を効果的に実施するための情報報告制度
オフショア金融型の効果的な実施のためには、国外に所在する納税者の金融口座等に係る情報を税務当局があらかじめ入手していることが要求される。

〔現行制度の改善策〕

  • ● 「財産債務明細書」には、国外資産について記載項目が特に規定されていないことから、国外資産について「保有している国・地域」、「関係の金融機関又はプロモーター等の名称」、「金融口座番号」等を財務省規則に例示列挙する。制度上で改善ができなければ、執行上においてそのような記載例等を作り、納税者に任意で提出してもらう。
  • ● 「国外送金等調書」には、法定記載項目として「送金先の国外金融口座の情報」又は「受金元の国外金融口座の情報」の項目が存在していないことから、これらを法定記載項目に追加する。制度上で改善ができなければ、「その他参考となるべき事項」の解釈として金融機関に任意で電磁的記録に追加出力をして提出してもらうよう要請する。

〔新制度の創設〕

  • ● 「国外資産の保有に関する報告」制度の創設
    • 丸1 確定申告書への「国外保有資産の存否に係る報告欄」の新設
      第一段階として、国外に総額で、例えば、500万円以上の国外保有資産(金融資産、不動産、権利等)を有している個人(扶養親族の保有を含む。)に、その存否をチェックさせる欄を確定申告書に新設する。この場合、総所得金額等を記載基準としない。
    • 丸2 「国外資産の保有に関する様式」の新設
      第二段階として、500万円以上の国外保有資産が存在することをチェックした納税者について、カナダのような国外資産の種類ごとの概算額及び所在国・地域等について、大まかにチェックする簡便な報告様式を策定して、その作成・提出を義務づける。

○ 租税回避スキーム型を効果的に実施するための情報報告制度
租税回避スキーム型の効果的な実施のためには、税務当局に新たなタックス・スキーム等に係る情報を的確に把握できる体制があることが望まれる。

〔中期的検討課題〕

  • ● 「タックス・スキーム等に関する報告」制度の導入に係る検討の開始
    米国や英国のタックス・シェルターの情報開示制度を参考として、タックス・スキーム等の定義・範囲や導入による納税者等への負担等の問題はあるが、2011年2月公表のOECDの「ディスクロージャー・イニシアティブ報告書」の提言からも、我が国においても「タックス・スキーム等に関する報告」制度導入の検討を開始すべきである。

〔執行的対応〕

  • ● 実地調査等によるタックス・スキーム等の把握
    現状においては、実地調査等においてタックス・スキーム等を把握するための運営体制を企画・立案するなどして、把握していくこともひとつの方法である。

ハ 新たな民事罰制度(罰金制度)の導入
我が国での租税に係る罰則制度を考えるに、諸外国との大きな違いは、民事罰としての「税務行為に係る義務違反に対する罰金制度」が存在しないことである。
我が国では、申告書や支払調書の提出などの義務違反について、秩序犯として刑事罰は存在していても、このような簡易な違反行為に刑事罰を適用することは現実的ではなく、弾力的かつ実効的な処罰を可能とするためにも、今後、上記の「国外資産の保有に関する様式」や「タックス・スキーム等に関する報告書」を創設するのであれば、その提出義務違反には民事罰として「定額の罰金」を賦課することを提言する。この罰金制度であれば、加算税とは異なり非違税額がなくとも民事上の処罰ができることになる。

(5)ボランタリー・ディスクロージャーと効果的な執行の在り方
我が国では調査事務に投入する人的資源として、総職員数約56,200人のうち約38,500人が当てられており、その割合は68%程度にも及んでいる。OECD主要国において調査事務に投入している人的資源は、多くて1万人程度(割合30%台)であることと比較しても抜きん出たものとなっているが、実調率等からみてこの人員で決して余裕があるというわけではない。
そのような中で、この人的資源を有効に活用するためには、ボランタリー・ディスクロージャーを実施することで得られる以下のようなメリットを実地調査等に活かすことで、ボランタリー・ディスクロージャーと実地調査等との相乗効果を得ていくことが望ましいことと考える。

〔ボランタリー・ディスクロージャーのメリット〕

  •  ボランタリー・ディスクロージャーの実施後において、これに応じてこなかったことで問題が潜在している可能性の高い納税者(潜在的問題納税者)を抽出することが可能となる。これをボランタリー・ディスクロージャーの持つ「自動的分類機能」と言うことができよう。例えば、租税回避スキーム型では、問題となるタックス・スキーム等を利用した納税者すべてに実地調査をかけるというのは効率的ではなく、ボランタリー・ディスクロージャーを実施することで、潜在的問題納税者のみに対して集中的に有能な人的資源を投入することが可能となり、的確な調査選定かつ有効な人的資源の活用ということが可能になる。つまり、「自動的分類機能」の後であれば、より効果的かつ効率的な実地調査等ができるわけである。
  •  ボランタリー・ディスクロージャーに応じてきた場合には、通常、納税者は争ってこないことが想定され、不用意な納税者との争議を回避することに役立つ(ただし、潜在的問題納税者に実地調査を行った場合には争議に発展することはあり得る。)。
  •  入手情報にある納税者以外の者であっても、心当たりのある者は自発的に名乗り出てくるので、未把握の納税者への接触が可能となる。
  •  応じてきた納税者からの提出資料及び潜在的問題納税者への実地調査等により、効率的な情報の把握が可能であり、かつ、これらの情報からコンプライアンスが再び低下することがないよう個人富裕層を中心とした納税者の中長期的管理が可能になる。

 以上のことから、我が国におけるボランタリー・ディスクロージャーの実施については、従来からの実地調査等を補完する施策であるとの位置づけでとらえるべきものであり、実地調査等の有用性を高めることを意識して、オフショア金融口座等又はタックス・スキーム等の利用者等の情報から潜在的問題納税者を抽出する「自動的分類機能」の有効活用を図るなど、実地調査等との相乗効果を念頭に置いて行うべきものである。
具体的には、「ボランタリー・ディスクロージャーと実地調査等との相乗効果を高める手順」の図表に示した実施手順でボランタリー・ディスクロージャー及び実地調査等を展開することで、それらの相乗効果を得ることができるものと思慮する。なお、この実施手順は、一つの考え方を示したものである。

3 結論

 我が国においてボランタリー・ディスクロージャーを効果的に実施するためには、実地調査等との相乗効果を活かすことが最も重要なポイントであり、そのためには如何に有用な情報をあらかじめ入手するかということに掛かってくる。したがって、今後において我が国の情報報告に係る制度改正等が的確になされていくことが大いに希求されるところである。


目次

項目 ページ
はじめに 254
第1章 諸外国におけるタックス・アムネスティの利用実態 257
第1節 途上国における利用実態 258
1.フィリピン 258
2.インドネシア 260
第2節 OECDでの報告内容と先進国における利用実態 261
1.OECDのボランタリー・ディスクロージャー報告書 261
2.米国 262
(1)オフショア金融資産に係るボランタリー・ディスクロージャー 263
● 2003 Offshore Voluntary Compliance Initiative 263
● 2009 Offshore Voluntary Disclosure Program 264
● 2011 Offshore Voluntary Disclosure Initiative 266
(2)タックス・スキーム等に係るボランタリー・ディスクロージャー 267
● “Son of BOSS” Settlement Initiative 267
● “LILO/SILO” Settlement Initiative 269
(3)州政府によるタックス・アムネスティ 271
3.英国 272
● 2007 Offshore Disclosure Facility 272
● 2009 New Disclosure Opportunity 274
● Liechtenstein Disclosure Facility 275
4.フランス 277
5.イタリア 278
6.ドイツ 279
7.オーストラリア 280
8.カナダ 281
第2章 利用実態からのタックス・アムネスティの分析及び分類 283
第1節 OECDのボランタリー・コンプライアンス・プログラムに関する分析 283
1.ボランタリー・コンプライアンス・プログラムを成功させる基本的コンセプト 284
2.ボランタリー・コンプライアンス・プログラムを成功させる5つの原則 285
丸1 プログラムに「目的」と「条件」が明確に規定されていること 285
丸2 明白かつコスト効率よく短期的税収を増加させるプログラムであること 285
丸3 それまでのコンプライアンスの施策や執行体制と整合がとれていること 286
丸4 特にプログラムの対象納税者のコンプライアンス水準を向上させ得ること 287
丸5 中期的なコンプライアンス向上策で補完されることで、納税者全体のコンプライアンスの向上が図られていること 287
第2節 利用実態からのタックス・アムネスティの分析 288
1.タックス・アムネスティの目的 289
丸1 税収の確保 289
丸2 コンプライアンスの向上 289
丸3 納税者情報の把握 289
2.タックス・アムネスティの基本構造 290
(1)根拠法 290
(2)対象者(利用適格判定) 290
(3)対象税目及び遡及期間 291
(4)実施期間 292
(5)適用要件 294
丸1 開示情報や修正申告書の真正性及び完全性の確認について 295
丸2 修正申告書に重大な非違が想定されたときの対応について 295
丸3 開示情報や修正申告書に対する事後的な税務調査について 296
(6)誘因設定(民事罰及び刑事罰の減免等) 297
〔民事罰〕 297
〔刑事罰〕 299
〔執行上の誘因〕 300
第3節 利用実態からのタックス・アムネスティの分類 301
1.臨時的税収の確保型(特赦型) 301
2.申告誤り等の是正慫慂型(基本型) 302
3.規制強化等への宥恕的利用型(規制導入型) 302
4.オフショア金融資産等の開示型(オフショア金融型) 303
5.特定の租税回避スキームの利用開示型(租税回避スキーム型) 303
第3章 タックス・アムネスティを効果的にさせ得る情報報告等の諸制度 305
第1節 国外情報報告制度 305
1.国外情報報告制度の分類 305
2.国外銀行口座等情報に係る報告制度 306
(1)米国 307
● 国外銀行口座等の保有事実に係る申告制度 307
● 国外銀行口座等に係る報告制度(FBAR) 307
● 外国口座税務コンプライアンス法(FATCA) 308
(2)英国 310
(3)フランス 311
(4)カナダ 312
(5)オーストラリア 313
3.国外資産に係る報告制度 314
(1)米国 314
● 納税者に対する外国金融資産に関する申告制度 314
● 特定の外国法人に関する米国人の情報申告制度 315
● 特定の外国パートナーシップに関する米国人の情報申告制度 317
● 外国信託に関する米国所有者の年次情報申告制度 318
(2)フランス 318
(3)ドイツ 318
(4)カナダ 319
● 国外関連会社に関する情報申告制度 319
(5)オーストラリア 320
4.国外取引に係る報告制度 321
(1)米国 321
● 現金等取引報告制度(FinCENの所管制度でIRSに提出) 322
● 現金等国外送付等報告制度(FinCENの所管制度で関税当局に提出) 322
● 外国会社等への資産の移転に関する報告制度 323
● 外国信託からの分配に関する報告制度 324
● 外国人からの贈与及び遺産に関する報告制度 324
● 外国パートナーシップの持分の取得、売却及び交換に関する報告制度 325
(2)フランス 325
(3)カナダ 326
● 個人に対する国境を越える現金又は通貨代替物に関する報告制度 326
● 非居住者である信託に係る送金、貸付、配当又は借入に関する報告制度 327
(4)オーストラリア 328
5.各国における国外情報報告制度に係る小括 329
【国外情報報告制度及びタックス・シェルター開示制度に係る小括表】 329
第2節 タックス・シェルター情報開示制度 330
1.タックス・シェルター情報開示制度とは 330
2.各国のタックス・シェルター情報開示制度 330
(1)米国 330
〔開示対象の範囲〕 331
丸1 指定取引(Listed Transactions) 332
丸2 守秘義務を要する取引(Confidential Transactions) 333
丸3 結果補償付取引(Transactions with Contractual Protection) 333
丸4 損失取引(Loss Transactions) 334
丸5 潜在的租税回避取引(Transactions of Interest) 334
〔開示方法、開示内容等〕 334
● 納税者に対する報告義務のある取引の開示制度 334
● 重要なアドバイザーに対する報告義務のある取引の開示制度 335
○ タックス・シェルター担当部署 337
(2)英国 337
〔開示対象の範囲〕 338
〔開示方法、開示内容等〕 339
● プロモーターに対する租税回避スキームの開示制度 339
● スキームユーザーに対するスキーム参照番号の申告制度 341
○ タックス・シェルター担当部署 342
(3)カナダ 342
〔開示対象の範囲〕 342
〔開示方法、開示内容等〕 343
● プロモーターに対するタックス・シェルターの開示制度 343
● プロモーターに対する登録タックス・シェルターの販売結果に係る報告制度 345
● 投資家に対するタックス・シェルターに係る損失又は控除に係る申立制度 345
○ タックス・シェルター担当部署 346
第3節 コンプライアンスの低い納税者に対する情報収集制度 347
1.サモンズ制度におけるジョン・ドゥ・サモンズの活用 347
(1)サモンズ制度とは 347
(2)ジョン・ドゥ・サモンズ 349
○ クレジットカード会社に対するジョン・ドゥ・サモンズの例 350
○ 事業会社に対するジョン・ドゥ・サモンズの例 351
2.脱税通報に係る報奨金制度 352
(1)報奨金制度のタックス・アムネスティへの有用性 352
(2)米国の脱税通報報奨金制度 353
第4節 租税情報交換条約(TIEA)の積極的な締結 354
1.TIEAが急激に締結されるようになった経緯 355
丸1 サブプライム・ローン問題に端を発する世界的金融危機の発生 358
丸2 リヒテンシュタインの銀行顧客情報の流出事件によるドイツの課税執行等 359
丸3 スイスのUBS銀行の米国納税者口座に係る米国の執行 360
2.各国におけるTIEAの締結状況 361
○ 主要国のTIEAの締結件数の推移 362
第5節 罰則制度 363
1.租税に係る罰則制度の在り方とタックス・アムネスティ 363
2.各国の罰則制度の比較 365
(1)納税申告に係る民事罰 365
● 米国 365
● 英国 368
● フランス 370
● ドイツ 370
(2)情報申告等に係る民事罰(罰金制度) 371
● 米国 371
● 英国 374
● フランス 375
● ドイツ 375
● カナダ 375
● オーストラリア 376
(3)脱税犯に係る刑事罰 377
● 米国 377
● 英国 377
● フランス 377
● ドイツ 377
第6節 税務専門家制度 378
1.各国の税務専門家制度 378
(1)米国 378
(2)ドイツ 379
(3)オーストラリア 380
2.タックス・アムネスティに係る税務専門家への対応 380
第4章 我が国へのタックス・アムネスティの導入に係る検討 383
第1節 我が国へのタックス・アムネスティの導入の意義及び必要性 383
1.タックス・アムネスティの意義及び必要性 383
(1)タックス・アムネスティの意義 383
(2)タックス・アムネスティの必要性 384
2.我が国におけるタックス・アムネスティの意義及び必要性 384
第2節 タックス・アムネスティの導入に係る法令上の手当て及び経済実態からの検討 385
1.タックス・アムネスティの導入に係る法令上の手当ての要否 385
(1)タックス・アムネスティの誘因と我が国の制度及び法令規定 385
(2)我が国の制度及び法令規定の改正等の要否 386
丸1 本税の減額 386
丸2 加算税の減免 387
丸3 延滞税の減免 389
丸4 脱税犯の告発の免除 390
丸5 単純無申告犯(秩序犯)の告発の免除 392
● 法律の制定又は改正を行っても認められない誘因 393
● 現行法令で導入可能な誘因 393
2.我が国の個人富裕層の海外金融資産等の保有実態の検討 394
(1)OECDの個人富裕層のコンプライアンスに係る報告 394
(2)我が国の個人富裕層の規模及び資産の保有傾向 395
(3)我が国の個人富裕層の国外資産の保有とタックス・アムネスティ 396
第3節 タックス・アムネスティの類型ごとの我が国への導入の分析 398
1.類型ごとの導入の分析 398
(1)臨時的税収の確保型(特赦型)の導入 398
(2)申告誤り等の是正慫慂型(基本型)の導入 398
(3)規制強化への宥恕的利用型(規制導入型)の導入 400
(4)オフショア金融資産等の開示型(オフショア金融型)の導入 400
(5)特定の租税回避スキームの利用開示型(租税回避スキーム型)の導入 403
2.我が国への導入が望ましいタックス・アムネスティの類型 405
第4節 我が国におけるタックス・アムネスティの効果的な実施のための対応等の検討 407
1.国外情報やタックス・スキーム等に係る情報報告制度 408
(1)我が国の国外情報報告制度の実情 408
● 「財産債務明細書」の提出義務 408
● 「国外送金等調書」の提出義務 409
(2)タックス・アムネスティの導入に係る現状の国外情報報告制度の改善 410
● 「財産債務明細書」の提出義務への改善事項 410
● 「国外送金等調書」の提出義務への改善事項 411
(3)タックス・アムネスティを効果的とする新制度の創設 412
イ 「国外資産の保有に関する報告」制度の創設 412
丸1 第一段階:確定申告書への「国外保有資産の存否の報告欄」の新設 412
丸2 第二段階:「国外資産の保有に関する様式」の新設 414
○ カナダの国外所得証明書(部分) 415
ロ 「タックス・スキーム等に関する報告」制度の導入に係る検討の開始 416
ハ 金融機関に対する国外口座情報の提出義務の法制化の検討 420
2.TIEA等の積極的な推進等とオフショア金融口座等の情報の集積 420
3.我が国の罰則制度とタックス・アムネスティの検討 422
(1)現状の罰則制度とタックス・アムネスティ 422
イ 我が国の民事罰とタックス・アムネスティ 422
ロ 我が国の刑事罰とタックス・アムネスティ 424
(2)税務における新たな民事罰制度としての罰金制度の必要性 425
4.タックス・アムネスティと我が国における税理士制度への対応 426
第5章 ボランタリー・ディスクロージャーの導入と効果的な執行体制の在り方 429
第1節 我が国に導入するタックス・アムネスティの実施要件等と効果的な制度改正等 429
〔成功プログラム5原則〕 429
1.タックス・アムネスティの誘因の設定 430
(1)我が国において認められない誘因の設定 430
● 本税自体の減額の禁止 430
● 延滞税の全額免除の禁止 430
(2)我が国におけるボランタリー・ディスクロージャーの誘因の設定 431
〔民事上の誘因〕 431
〔刑事上の誘因〕 431
〔追加的な誘因として考えられるもの〕 431
● 無申告加算税の全額免除 431
● 延滞税の軽減 432
2.ボランタリー・ディスクロージャーを効果的にする情報報告に係る制度改正等 434
(1)オフショア金融型を効果的に実施するための情報報告制度 434
〔現行制度の改善策〕 434
● 「財産債務明細書」の提出義務の改善 434
● 「国外送金等調書」の提出義務の改善 434
〔新制度の創設〕 435
● 「国外資産の保有に関する報告」制度の創設 435
丸1 確定申告書への「国外保有資産の存否の報告欄」の新設 435
丸2 「国外資産の保有に関する様式」の新設 435
〔中長期的検討課題〕 436
● 金融機関に対する国外口座情報の提出義務の新設の検討 436
(2)租税回避スキーム型を効果的に実施するための情報報告制度 436
〔中期的検討課題〕 436
● 「タックス・スキーム等に関する報告」制度の導入に係る検討の開始 436
〔執行的対応〕 436
● 実地調査等によるタックス・スキーム等の把握 436
3.TIEA等の積極的な推進による有用情報の集積 437
4.新たな民事罰制度の導入等 437
第2節 ボランタリー・ディスクロージャーと効果的な執行の在り方 438
1.我が国の実地調査体制とボランタリー・ディスクロージャー 438
(1)ボランタリー・ディスクロージャーと人的資源の有効活用 438
○ OECD主要国の調査担当職員数及び全体に占める割合 439
〔実地調査+文書照会のデメリット〕 441
〔ボランタリー・ディスクロージャーのメリット〕 442
(2)ボランタリー・ディスクロージャーと実地調査等との相乗効果 444
【ボランタリー・ディスクロージャーと実地調査等との相乗効果を高める手順】 446
○ ボランタリー・ディスクロージャーの実施に係る取極め 447
○ ボランタリー・ディスクロージャーの結果の集約等に係る取極め 447
○ 納税者情報の中長期的管理に係る取極め 448
2.コンプライアンスに基づく個人富裕層に係る納税者の中長期的管理 448
〔ボランタリー・ディスクロージャーの実施による把握情報〕 449
● 潜在的問題納税者のコンプライアンスの把握 449
● 潜在的問題納税者に対する実地調査等の結果 449
● 関与プロモーター及びオフショア金融機関等の情報の把握 449
● 未把握納税者からの追加的な情報入手 450
第3節 ボランタリー・ディスクロージャーからの納税者の除外手続の検討 450
1.2011 OVDIにおける納税者の除外手続 451
(1)2011 OVDIに係る「オフショア自主的情報開示レター」の記載内容 451
【オフショア自主的情報開示レターの仮訳】 453
(2)「Voluntary Disclosure Practice」の規定内容 457
【Voluntary Disclosure Practiceの仮訳】 458
2.米国のボランタリー・ディスクロージャーに係る除外手続から参考とすべき事項 463
【悪質な納税者等を除外するために必要な情報】 463
【悪質な納税者等を除外するための判断基準等】 464
〔自発的情報開示と刑事告発に係る考え方〕 464
〔自発的情報開示が刑事告発において考慮されるための要件〕 464
〔自発的情報開示が「適時」であるとされる要件〕 464
結びに代えて 466

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