山下 とく

税務大学校
研究部教授


要約

1 研究の目的、問題点等

 平成13年6月に成立した「中間法人法」において新たな「中間法人」という概念が創設された。
従来の法人税法における法人の概念は、公共法人、公益法人等、協同組合等、人格のない社団等及び普通法人に区分されており、新たな「中間法人」という概念区分は、税制上設けられていなかったが、今回の中間法人制度創設に伴い、法人税法上の整理としては、普通法人に該当するものとされている。
本研究においては、創設された「中間法人」の具体的仕組みや内容を概念的に隣接する人格のない社団等と比較分析して、相違点を抽出し、今後、想定される課税上の問題点や、課税上の相違点に関する原因分析を行い、公益法人課税の在り方の問題として提言した。
また、現在、検討作業が行われている行政改革の一環としての「特殊法人等改革」の方向性を踏まえた公益法人課税の在り方、特に、収益事業課税の課税根拠等の解析を行い、「特殊法人等改革」後における法人課税の在り方とも関連して、公益事業非課税の具体的判定基準の考察にも言及し、OR解析手法の一種としてのAHP(Analytic Hierarchy Process=階層分析法)の手法を応用した具体的判定基準の測定を行った。

2 研究の内容等

(1) 中間法人創設に伴う現行法人税法上の問題点を抽出し、また、現在行われている行政改革の動向を踏まえ、見直し後存続する法人に対する課税の在り方に対する考え方の整理。

(2) 公益事業非課税の再考

1 従来からある公益事業非課税根拠の検討。

2 各種法人の存在と一元的課税根拠設定の可否の有無。

(3) 非課税決定方法の検討

1 行政改革の見直し基準を非課税決定方法計算要素として仮採用して説明。

2 階層分析法による意思決定法(OR手法の一つでAHP(Analytic Hierarchy Process =階層分析法。)と呼ばれている。)を用いて分析。

3 結論

(1) 新しい法人概念の形成
 この新たな法人創設の観点からは、現行法人税法上の法人概念とは異なる新たな概念構築が必要と考えられ、この概念に沿った課税方法を検討する必要がある。

(2) 法人課税の基本的在り方
 現在の社会経済情勢の実態からすれば、多種多様の法人の存在があり、これらの法人全てに適合する最大公約数的な一元化された考え方を見出すことは、困難である。

(3) 原則課税の考え方
 最近の行政改革等の状況から、公益法人等の存続の有無が検討されており、これらの検討推移と方向を踏まえて、今後の公益法人等に対する課税の在り方を考察した。
そこで、公益法人等は、その公益事業などに対し「競争を制限する独占力」などが付与されていることから、これらに対して担税力を見出し原則課税という考え方が採用できないものかと考えた。
なお、原則課税という考え方を採用するに際しても、例外的に非課税措置の必要もあり得ると考えられることから、この非課税基準の選定方法もあわせて考察した。

(4) 個別非課税基準の考察
 本稿記述時点における行政改革の進捗状況から、平成12年12月1日の「行政改革大綱」の10項目の見直し基準を、仮に、行政改革見直し後の存続する公益法人の存続理由と仮定し、その公益法人の課税・非課税判定の基準の要因として採用して考察した。
課税・非課税判定の決定方法としては、OR手法のうちの「AHP(階層分析法)」を用いて判定を行う方法をこれらの基準に当てはめ算出した。
このような算出方法は、今後の個別の存続する公益法人の非課税判定にも使用することが可能である。

(5) 非課税審査等の方法
 また、「AHP(階層分析法)」による非課税判定方法は、その判定者は、1人ではなく、複数の判定者が存在しても算定可能である。むしろ、複数の判定者に基づく方がより公正である。
このような特質を生かして、税務立法当局や執行当局において、公正な審議会などを設置し、ここで、判定を行うという対応も可能である。

(6) その他の検討課題
 なお、中間法人の設立から清算までの過程におけるその他の固有の問題としては、

  •  基金の拠出時における拠出者への課税関係の整備(資本取引または寄付金とみるかにより、課税関係での相違が生じる。)
  •  「有限責任中間法人」における基金増額に関する課税関係の整備(増額の算定方法の仕方により持分加算に対して利益配分という方法も考えられることから、これらの課税関係を整備する必要がある。)
  •  清算に係る課税関係の整備(中間法人の特質から「無限責任中間法人」と「有限責任中間法人」の類型別による清算の組み合わせ制限に関連する規定を整備する必要がある。)
  •  公益法人等から中間法人への組織変更に伴う課税関係の整備(中間法人法においては、組織変更の規定は設けておらず、今後の検討課題とされているが、この組織変更に関しての課税関係の整備が必要となる。)
    等が考えられるが、これらは、今後の検討課題として問題提起に留めた。

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