井上 一郎

租税資料室
研究調査員


はしがき

 昭和21年11月24日、連合軍最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)からの覚書「戦時利得ノ除去及財政ノ再建」に接して以来、戦時利得の没収措置について、その具体化を大蔵省は鋭意検討を重ねていた。勿論、わが政府においても、戦時財政から平時の財政への転換は、急務であり、財政再建の方途を「取るものはとり、払うものは払う」方式で先ず考慮されるところであったことは既に明らかにしたところである。
とは言え、敗戦の特殊事情にもとづいて、即ち軍需産業の突然の停止、それに伴う企業の人員整理に始まる退職金の支払い、陸海軍の解体とともに軍人、兵士の帰還業務、それに係る諸費用は、戦争の停止とは関係なく増嵩することとなる。これらの諸原因により、臨時軍事費特別会計は、遺憾なく回転し貨幣の増発が続いた。右のように貨幣の増発は必然的にインフレの悪性化を将来せしめることとなり、その鎮静化更には昭和20年産米の不作から絶対的不足を示していた食料の全般的確保の要請並びに政府が8月15日に軍官民の離反の恐れを配慮した軍保有の民需物資の緊急処分品の生産再開への回帰を意図して、これが、社会経済秩序の面から「経済危機突破緊急対策」として、昭和21年2月17日、緊急勅令により金融緊急措置令、日本銀行券預入令、臨時財産調査令、食糧緊急措置令及び隠匿物資等緊急令が公布施行されることとなった。
本誌25号及び26号では、この緊急対策のうち、金融緊急措置令、日本銀行券預入令及び臨時財産調査令を取り上げ、事態の進展に対応して法令の推移を軸として関連資料を紹介したところである。
本号では、その後の事態の進展をうけて戦時利得の没収措置の政策的動揺を克服して戦時利得の没収が、戦時補償の打切りと財産税の課税によって達せられることとなり、これを巡って課税環境の整備が行われることとなる。
勿論、連合軍給司令部の絶え間ないサデッションを受けながら、しかも、没収措置の最良の方法を模索しながら、課税環境の整備を行ったということができる。即ち、税制の分野ではないが、戦時補償の打切り(その方法として戦時補償請求権を課税物件として、税率100%による課税によって、請求権の消滅を図る)及び財産税をターゲットとした法領域−それは、金融緊急措置令施行規則の改正を始めとして、金融機関経理応急措置法、会社経理応急措置法並びに復興金融金庫法、金融機関再建整備法、企業再建整備法を全体として見ようと思う。本稿では、紙数の関係もあるので、金融機関再建整備法及び企業再建整備法については、次回戦時補償特別措置法及び財産税法を取り上げるさいに見ようと思う。

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