岡本 勝秀

税務大学校研究部教授


はじめに

 本件は、個人病院の経営者が死亡し、その病院の従業員(医師)であった長男が相続人として病院の経営を承継したことに起因して、その承継した相続人が自己及び妻(薬剤師)に退職金を支給したが、この退職金が被相続人の所得計算上必要経費に算入されるかどうかが争われた事件である。
個人の事業経営は、事業主の死亡により相続人に承継される場合が多いが、これまでは事業承継退職金を支給する例はあるものの、経営者となった相続人が自己に退職金を支払うという例はあまり見当たらない。少なくとも、そのような場合の課税関係が問題とされた事例は、裁判事例・裁決事例にはなく、課税庁サイドから一般の質疑事例として公表したものはないと思われる。したがって、今回の判決は、新たな事例として注目される。
判決は本件退職金につき被相続人の必要経費性を否定したが、その判断は、被告である国の主張を全面的に認めたものではなく、また、原告は控訴したことから、判決は確定していない。そこで、今後の控訴審判決も注目されるが、本稿においては、今回の事件について必要経費性の判断という観点から改めて検討し、判決の内容について考察することとしたものである。
なお、本件退職金は、相続税における債務控除の対象とされるかどうかについても別件により争われ、先に判断が示されている(この別件判決の判旨については、本稿の最後に「参考」として掲げる)。

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