池本 征男

税務大学校研究部主任教授


はじめに

 我が国の所得税法や法人税法は、納税義務の確定手続として、納税者自らが税法に従って所得や税額を計算して国に申告し、これを納付することを建前とする申告納税制度を採用している。この申告納税制度の下では、納税者のする申告により第1次的に納税義務が確定し、その申告が誤っている場合や申告がない場合については、税務署長のする更正又は決定により第2次的に納税義務が確定する(国税通則法16条1項1号)。納税申告書に記載した課税標準等又は税額等が過少である場合には、納税者は修正申告をすることにより、その是正をすることができる(国税通則法19条1項)、その課税標準等又は税額等が過大である場合には、納税者自らは是正ができず、税務署長の職権発動を促す更正の請求制度が設けられており(国税通則法23条1項)、更正の請求があった場合には、税務署長が課税標準等又は税額等を調査した上で、これを更正し又は更正をすべき理由のない旨を通知することとされている(同条4項)。この場合の「更正をすべき理由のない旨の通知処分」の法的性質については必ずしも明らかでない。
本件の裁決事例の主たる争点は、1売買契約を取り消し、不法行為に基づく損害賠償請求権を取得した場合の課税関係、及び、2資産の譲渡代金が回収不能と認められるか否かの事実認定に関するものであるが、裁決事例を詳細に検討すると、3更正の請求をした後に請求額を増額することは新たな更正の請求か又は理由の追加か、適法な更正の請求と不適法な更正の請求(請求期限の徒過等)とがある場合にされた「更正をすべき理由がない旨の通知処分」の性質とその処分に対する不服審査の審理の範囲及び違法性判断の基準時など、更正をすべき理由がない旨の通知処分」の不服審査における審理上の難しい問題が含まれている。
そこで本稿では、本件裁決事例を素材にして、「更正をすべき理由がない旨の通知処分」の法的性質を論じた上、右処分に対して不服申立てがされた場合の審理上の問題を考察することとし、1及び2の実体法の問題については要点を述べるにとどめたい。

Adobe Readerのダウンロードページへ

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。Adobe Readerをお持ちでない方は、Adobeのダウンロードサイトからダウンロードしてください。

論叢本文(PDF)・・・・・・982KB