小林 武廣

税務大学校
研究部教授


はじめに

 最近、破産法の諸規定のうち国税徴収法に関連する規定の解釈が大きな変容を見せつつある。
例えば手続き面では破産法47条の財団債権に関する規定の解釈、破産法71条の解釈上破産宣告後においても許される滞納処分の範囲、破産法51条の財団不足に陥ったときの国税債権の取扱、破産法95条の別除権の行使があった場合と国税債権との関係等多岐にわたる問題について争点が顕在化している。
また実体的な面では土地重課課税における財団債権の処遇に関して裁判所の判断に変遷が見られるところである(注1)
これらの問題のうち、手続き的な問題のうちには破産法47条の財団債権に関する規定の解釈にみられる裁判例のように、この10年間に一定の解決・定着を見ているものもある(注2)。けれども、破産法71条の破産宣告後において許される滞納処分の範囲に関しては、これまで潜在していた諸問題がようやく争点を明らかにしてきた感がある。このことは滞納処分や私法秩序の法的安定性の確保のために喜ぶべきことである。
ただ、これらの解決に際しては、昨今の倒産処理の実態をみると国税債権の有する優先権を制限し、その上で一定の破産法秩序を構築しようという試みがなされているのではないかという懸念がある。
この懸念は、従前の先例的裁判例の判示部分の意味するところが裁判所の執行手続き等において拡大されつつあることから感ずるものであり、少しく関心を抱くに至った。この傾向が、滞納処分ならば殊更に制限しようということなら到底黙過できないところである。
若し、筆者と同じ懸念を覚える論者が他にあるならば、それは先例的裁判例の判示部分がその説示したところを越えて一人歩きしているに等しく、関係者は今一度この先例的裁判例の原点を踏まえたところから考察を行うべきであると考える。
租税債権については従前から、破産法において優遇され過ぎているという批判が耐えないところである。その論稿は枚挙にいとまがない。しかし、現在、国税の滞納は平成6年度末で2兆円を越える巨額に上っている。しかも国債残高は200兆円を大幅に越える。このような状況の中、前述の様な批判は現実に妥当性を欠きつつあり、正に立法 の際の考慮が実際に重要性を増してきていると思われる。租税債権には納期限があり、納期限内に完納している多くの国民との負担公平の見地からも、法律の規定に基づく早期の収納乃至は徴収が欠かせないところである。そのためにも滞納処分を担当する者は滞納租税の早期徴収に努力しているところであり、このことは滞納者(というより滞納法人が多い)が破産法人であっても少しも変わることがない。したがって、破産手続きにおいても破産法上の規定が的確に解釈・適用され、滞納処分の促進に寄与されるべきものと思っている

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