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團野 正浩

第12回税務理論研修生
現・広島国税局直税部
所得税課実査官


序論

 累進課税(progressive taxation)は、今日、所得税の最も一般的な課税方法であり、世界的に見ても多くの国が採用しているものである。このように多くの国で採用されている理由は、所得再分配機能など経済政策の面で優れていることにあるとされてきた。
しかし、1970年代末頃から、アメリカやイギリスなど欧米先進国において累進課税を見直す動きが始まり、現実にフラットな税率構造への転換が図られてきた。(1)わが国においても、近年の税制改革で税率の累進度の緩和(2)が行われてきたところである。
この動きの背景には、累進課税の副作用ともいうべき問題が多くの分野で表面化してきたことがあるとされている。具体的には、労働インセンティブに対する悪影響、投資意欲の減退などがあげられる。また、市場経済への政府の介入を望まない経済思想(3)が広がってきていることも見逃せない。
オーストリア出身でアメリカの経済学者であるF・A・ハイエク(Friedrich A.Hayek)は、1950年代(4)に、累進課税の問題を自由主義との関係で取り上げ、その後の累進課税の議論に少なからず影響を及ぼしてきた。
彼は、累進課税の問題点について、主に、導入の根拠、社会的経済的な影響、民主主義との関係の3つの面から指摘している。そして、その解決方法として、比例税(proportional taxation)の導入、合理的な税制のためのルールの確立、議会制度の改革などを提案している。
本論文では、ハイエクの租税論について累進課税の問題を中心に紹介し、彼が主張する合理的な税制のための諸施策について検討し、今日の税制の現状を踏まえて、その意義と実現可能性を検討する。(5)

〔注]

(1) イギリスでは、1979年のサッチャー政権による税制改革、アメリカでは、1985年のレーガン政権による税制改革から累進度の緩和が始まった。本文に戻る

(2)  1988年の税制改革で税率が12段階から5段階へと一挙に減らされた。しかし、国際的に見るとまだ累進度は高いと言われている。本文に戻る

(3) このような思想を唱える代表的なグループには、M・フリードマン(Milton Friedman)らマネタリストと呼ばれる経済学者たちがいる。本文に戻る

(4) ハイエクは、累進課税の問題を1952年のHayek(2)で論じていたが、その主張は1960年に発刊されたHayek(3)で知られるようになった。なお、(2)などの番号は、文末の参考文献の番号である。以下、同じ。本文に戻る

(5) 本論文作成にあたり、慶応大学の飯野靖四教授から貴重なコメントをいただいた。記して感謝したい。本文に戻る

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