矢内 一好

税務大学校
研究部教育官


はじめに

 政府の税制調査会は昭和61年10月に「税制の抜本的見直しについての答申」を行ったがそこで外国税額控除制虔について述べている要旨は次の通りである。

(1) 現行の一括限度方式による控除限度額の算定は簡明ではあるが日本より実効税率が高い国の外国税まで日本で控除されるために、本来の趣旨を起えた控除が行われるほか、企業が控除枠を創出するための投資行動をとる誘因となる。

(2) 国外所得算定の現行のルールが企業の活動実態を反映していない。

 以上の問題点の見直しについて、控除限度額の一括限度方式を存続させながら改善するとしている。さらに、外国税額控除についても税負担公平の立場を逸脱しないことが必要であるとしている。
この政府税調の答申の背景には外国税額控除の金額の増大と同制度の操作的利用があることは明らかである。

 わが国の外国税額控除額の推移は次の通りである。

(年分) (外国税額控除額)(単位‥100万円) (指数)
昭和50年 152,476 100
昭和55年 343,129 225
昭和59年 484,190 317

 また、この制度に関して控除限度額計算における国外所得を意識的に増加させ、外国税額の控除限度額の金額を増額するように、企業が操作していると騒がれた事例として一つの新聞報道がある(昭和59年1月1日‥読売新聞)
この記事は「大手7大商社法人税ゼロ」の見出しの下に58年3月期の申告額等を掲載している。

(売上高) (申告額) (法人税額) (法人税納付額)
三菱商事 148854 684 76 0
三井物産 141473 494 138 0
住友商事 113539 486 235 117
伊藤忠商事 124902 124 40 0

(以下略)   (単位=億円)

この記事により外国税額控除制度が社会一般に一躍クローズアップされたともいえよう。
日本の外国税額控除制度は、戦後の経済復興期の昭和28年に導入され、日本経済が高度成長期を迎えた昭和37、38年に整備され現行制度となった経緯がある。しかしながら、昨今においては企業の海外取引を税制面から促進する効果よりも同制度の過度の乱用が一部で指摘されるようになり、同制度の改善が叫ばれるようになった。そのため昭和58年の税制改正及び法人税基本通達の改正により相当の整備が行われたが、61年の政府税調の答申では一段の改善が必要であると述べられている。
本論では、日本、英国及び米国の外国税額控除制度、特に控除限度額を中心に比較、検討することとする。
最初に、日本と英国の外国税額控除制度の比較を行い、その後に、米国の1985年法(以下「現行法」という)から同1986年改正法(以下「改正法」という)への動向を検討するために、現行法から始まって、レーガン大統領の税制改革案(THE PRESIDENT'S TAX PROPOSAL TO THE CONGRESS FOR FAIRNESS, GROWTH AND SIMPLICITY)大統領の税制改革案の議会審議に先立って作成された上下院の議会スタッフによる検討会の資料及び86年改正法までを検討する。今回の米国の税制改革における外国税額控除制度の整備の最大の焦点は控除限度額の問題であることから、その意義を考えることとする。
最後に、日本の政府税調の答申に盛り込まれた外国税額控除の改正について触れて、控除限度額を中心とする外国税額控除の整備の方向について考えてみるつもりである。
(注) 「会社標本調査結果報告」(国税庁)による。

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