西岡 太一
税務大学校
研究部教育官

要約

1 研究の目的(問題の所在)

「租税徴収制度」を構成する要素は、強制徴収(滞納処分)に留まらない。
 現在、我が国においては、ダイレクト納付等の多様な納付手段を提供した上で、後に述べる様々な施策により滞納の未然防止に取り組んでおり、これらの動きも租税徴収制度の整備の一つといえよう。
 このように、納税者の自主納付態勢の確立にまで影響を与える租税徴収制度を整備するためには、近年著しい進展を見せる経済社会の国際化及びデジタル化への対応は欠かせず、また、徴収共助制度により租税債権を回収する可能性は、納税者の資産が所在する法域(国等)の徴収権限に大きく左右されるということを踏まえても、諸外国の租税徴収制度を調査及び研究する必要性は、以前よりも増していると考えられる。
 以上のことを踏まえ、本稿においては、諸外国における各国内の租税徴収制度、その中でも、納期限前後における納税者の自主納付態勢の確立を図る施策から強制徴収手続までを取り上げるとともに、その根幹となる租税債権の位置付けを確認し、これらを一覧化した上で、我が国の租税徴収制度に示唆を与える制度について考察する。
 なお、本研究において取り上げる諸外国は、米国、英国、独国及び仏国の4か国に、一部制度について、韓国、豪州及びシンガポールの3か国を加えた7か国とした。

2 研究の概要

(1)我が国

イ 執行概要

国税庁が、国税のみの徴収を担っている。直接納税者に接触の上、催告等を実施する徴収事務に係る民間債権回収業者への委託(以下「民間委託」という。)は行われていない。
 租税徴収に関する計数として、国家規模からみる滞納割合を量る観点から取り上げた、OECD報告書で公表されている総純収入に対する年末滞納総額の割合(以下「収入比滞納割合」という。)は、1.4%である。

ロ 租税債権の位置付け

国税は、納税者の全財産について、原則、すべての公課その他の債権(私債権)に優先することが規定されている(国税優先の原則)。
 破産法上の位置付けについても、国税は一定の優先的地位を保持しているが、平成16(2004)年の破産法改正により、その優先性が一部否定され、相対的に地位が低下している。
 なお、国税の徴収権の消滅時効は5年間であり、私債権に係る消滅時効と同等ないし短いものとなっている。

ハ 徴収手続

納税コールセンターを活用し、効果的かつ効率的な納税者への接触が図られているほか、予納ダイレクトの導入及び周知、期限前・督促前納付指導といった滞納の未然防止に繋がる施策が実施されている。
 財産調査権としては、罰則規定により間接強制がなされている質問検査権のほか、捜索による強制調査権も与えられている。
 滞納処分に関しては、完全な自力執行権が認められており、司法的執行によらず差押え及び換価を行うことができる。差押えに係る要件は、督促状の送達及び10日間の猶予のみであるが、滞納者個々の実情を十分に把握した上で処理方針を決定することとなっており、適正運用が図られている。
 納税緩和制度としては、オンラインで申請可能な換価の猶予のほか、法定猶予制度適用時の延滞税免除等が挙げられる。
 第三者責任規定は、第二次納税義務のほか、連帯納付義務(責任)について、具体的なケースごとに規定されている。

ニ 出国・財産隠蔽等対策

納税管理人制度及び滞納処分免脱罪の規定があり、これに「無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務」を加えた3つの規定については、令和3(2021)年度税制改正において、国内に拠点を有しない非居住者等及び国際的徴収回避行為への対応に係る改正が施されている。

ホ 徴収実効性確保策

延滞税があり、納期限後2か月間は、早期納付を奨励するための措置として軽減税率が適用されている。

(2)米国

イ 執行概要

内国歳入庁(IRS)が、国税に当たる連邦税のほか、社会保障税及びメディケア税について徴収を担っており、その民間委託が実施されているが、非効率(高コスト)、納税者権利侵害等の批判があり、一度廃止された後、再導入されて現在に至る。
 収入比滞納割合は9.1%と、我が国よりも著しく高い比率である。

ロ 租税債権の位置付け

先取特権として自動成立する「連邦租税リーエン」により租税優先権が構成されており、差押禁止財産を含め滞納者の全財産に効力が及ぶ。
 一方で、倒産法上は、1867年に租税債権に優先権が付与されて以来、徐々にその優先順位が低下している。
 なお、租税徴収権の消滅時効は10年間と、我が国に比して長く、州法に定めのある私債権の消滅時効よりも長い期間となっている。

ハ 徴収手続

自動徴収システム(以下「ACS」という。)を駆使したコールセンターによる催告が行われており、その応答には、音声・チャットボットが活用されている。また、行動洞察に基づく効率化が図られている。
 財産調査権としては、法的強制力を伴うサモンズが特徴的であり、召喚に応じない者に対しては、裁判所を介した拘束が可能である。
 滞納処分に関しては、上記ロで述べた連邦租税リーエンの実行訴訟により、その対象財産から強制徴収を行うことができるほか、通常の債権者が行使し得る民事訴訟上のあらゆる手段をとることが可能である。また、自力執行権も認められているが、一定の適正手続に関する権利を納税者に認めていることから、差押えに至るまでの手続・期間が厳格に定められている。これら強力な執行権限に対しては、ACSアルゴリズムの判断による個別事情を勘案しない自動的な差押えや、連邦租税リーエンの実行訴訟は、差押制限規定の対象にならないという「抜け穴」を利用した自宅不動産売却等が問題となっている。
 納税緩和制度としては、オンライン完結可能な猶予制度があるほか、滞納税額免除の申立て制度も整備されている。
 第三者責任規定は、「譲受人」の責任や、「受託資金税」の滞納に係る、源泉徴収義務者たる雇用主の役員等に対して100%民事罰(加算税)の責任を負わせる「責任を負うべき者」の責任等の規定がある。

ニ 出国・財産隠蔽等対策

パスポートの発行取消・拒否を行う権限、民事訴訟を通じて離国禁止令状を取得する手段及び滞納処分免脱罪がある。

ホ 徴収実効性確保策

遅延利息及び義務不履行罰(加算税)がある。
 また、連邦租税リーエンの登記を基因とする信用情報機関を介した信用スコアへの影響が、徴収実効性確保に繋がっていると考えられるほか、法令違反者の通報に係る報奨金制度も整備されている。

(3)英国(イングランド及びウェールズを中心とする。)

イ 執行概要

歳入関税庁(以下「HMRC」という。)が、国税及び社会保険料の徴収を担っており、その民間委託が実施されているところ、これは、非常に効率的と評価されているようである。
 収入比滞納割合は9.3%と、我が国よりも著しく高い比率である。

ロ 租税債権の位置付け

租税法及び倒産法上の双方において、租税優先権が認められる範囲は限定的なものとなっている。倒産法上の租税優先権については、かつて最優先の地位が与えられていたところ、一度その優先権は剥奪されたが、現在は、一部租税等に限定して優先権が回復している。
 なお、租税債権の徴収に係る出訴期限は、それを定める法律の適用外となっており、原則、租税徴収に期間制限はないと解される。

ハ 徴収手続

債務管理電話センター(DMTC)と呼ばれるコールセンターを活用した催告が行われているほか、行動洞察に基づく効率化が図られている。
 オンラインチャット又は電話による納付相談窓口が設けられているが、対面による相談については、2014年に廃止されている。
 財産調査権としては、我が国と同様に罰則規定により間接強制がなされている質問検査権があるが、自力執行による捜索については、現在、北アイルランドでしか認められていない。
 滞納処分に関しては、司法的執行による強制徴収を原則とする制度の中、債権にのみ、「債務の直接回収権(DRD)」と呼ばれる自力執行権が認められている。また、英国における源泉徴収システム(PAYE)は、HMRCが算定した税コードを基に源泉徴収税額が計算される仕組みであるところ、当該税コードをHMRCが変更する権限(以下「PAYEのCoding out」という。)により、滞納者の滞納税額を、毎月の源泉徴収税額に均等割りで上乗せして回収することもできる。
 納税緩和制度としては、Time to pay(TTP)と呼ばれる猶予制度が整備されており、オンライン完結が可能な場合もある。
 第三者責任規定は、我が国における令和6(2024)年度税制改正においても参考とされた、度重なる倒産を用いた徴収回避スキーム「フェニックス主義」に対応して、会社の取締役等に対する連帯納付に係る責任を追及する規定及び、オンラインマーケットプレイスの管理者に対する連帯納付に係る責任を追及する規定が挙げられる。

ニ 徴収実効性確保策

その公表内容が、氏名・住所にまで及ぶ「意図的な税務不履行者リスト」や、故意のコンプライアンス違反者を、最大5年間厳密に監視する「深刻な義務不履行者管理プログラム」等がある。
 また、延滞利子税があるほか、租税徴収の最終的な手段として、裁判所への「倒産の申立て」の権限を持つ。

(4)独国

イ 執行概要

連邦の所掌範囲は、連邦税(関税等)に留まり、税収の大部分を占める共有税(所得税、法人税及び付加価値税)の徴収は州が担っているところ、その民間委託は把握されていない。
 収入比滞納割合は2.6%であり、我が国と大差はない。

ロ 租税債権の位置付け

租税法及び倒産法上の双方において、基本的に租税債権の優先権が認められていない。倒産法上は、かつて租税債権は優先的破産債権の地位にあったが、1999年の法改正により、優先的破産債権制度そのものが廃止され、すべての債権が等しく取り扱われることとなった。
 なお、租税徴収権の消滅時効は「特別な支払制限期間」として5年間とされており、私債権に係る消滅時効よりも長いものとなっている。

ハ 徴収手続

連邦及び州ホームページにおいて、徴収手続や納付相談の流れについての案内が、他国と比して少ない印象を受ける。州の税務署ホームページにおいては、@電子税務システム「ELSTER」を通じて行うオンライン、A電話、B対面の各方法による納付相談が案内されていた。
 財産調査権としては、滞納者に対して、滞納発生時にその所有資産を開示する義務を負わせていることに加え、強制徴収のために納税者等関係者及び第三者に情報提供義務を課すことができる。また、捜索の権限も与えられている。さらに、各種履行強制手段が規定されているほか、情報提供義務を補完する制度として、宣誓供述(書)を求める権限を持ち、これに対して真摯な回答を行わなかった者については、刑法上の刑罰が科されることとなる。
 滞納処分に関しては、基本的に自力執行権が認められているが、不動産のみ司法的執行によることとされている。現在、司法的執行における執行通知の電子化を義務化する法案について、施行に向けた検討が行われており、今後、税務行政への影響も想定される。
 納税緩和制度としては、申請に基づく猶予制度のほか、申請又は職権による税額減免制度があり、それぞれ、その徴収が「不衡平(耐え難いほど過酷なこと)」であると認められる場合に適用される。これは、内容の不明確さが問題視される一方で、柔軟な対応が可能になると評価されている。
 第三者責任規定としては、故意又は重大な過失により納税義務を果たさなかった「代表者」が責任を負う規定や、「逋脱犯及びその共犯」が責任を負う規定のほか、我が国における第二次納税義務の類似規定等もあり、数多く存在する。また、私法上の規定を根拠とした第三者責任の追及が可能であることが示唆されている。

ニ 出国・財産隠蔽等対策

パスポートの発行拒否・没収を行う権限のほか、滞納処分の場面においても適用可能と解される逋脱罪の規定がある。

ホ 徴収実効性確保策

遅延利息及び延滞加算金(加算税)がある。
 また、租税等の不履行情報まで収集している信用情報機関を介した信用スコアへの影響が、徴収実効性確保に繋がっていると考えられる。

(5)仏国

イ 執行概要

公共財政総局(以下「DGFiP」という。)が、国税に加え、地方税の徴収も担っている。その民間委託は実施されていないようであるが、動産等の強制徴収は、原則、「執行吏」が実施する。
 収入比滞納割合は4.3%と、我が国よりも多少高い比率である。

ロ 租税債権の位置付け

動産及び一部の不動産に対してのみ、先取特権(Privilège)と呼ばれる租税優先権が与えられている。また、倒産法においても、当該先取特権の範囲で租税優先権が認められている。
 なお、租税徴収権の消滅時効は4年間であり、私債権に係る消滅時効よりも短いものとなっている。

ハ 徴収手続

滞納者への接触に際しては、その個々の滞納リスクに応じた戦略をとっており、新規滞納者等に対しては丁寧なアプローチを図り、その後、自力執行権による簡易・安価な措置を行い、最終的には、裁判所を介した厳しい措置を行うものとされている。このような対応は、督促手続においても採用されており、初回滞納者と呼ばれる者に対しては、「段階的督促手続」がとられ、高額滞納者等一定の者に対しては、「直接督促手続」がとられており、その旨が公表されている。
なお、電話、対面及びオンラインによる納付相談が可能である。
 財産調査権としては、罰則による間接強制がなされている通信の権利が与えられているほか、DGFiPに対する銀行口座の届出義務によりまとめられた銀行口座ファイル等を確認することが可能である。
 滞納処分に関しては、債権にのみ「第三債務者に対する行政差押え(SATD)」と呼ばれる自力執行権が認められており、電子的な通知で執行可能である。また、執行吏を介した司法的執行によることとなる、その他の財産からの強制徴収についても、これに対する裁判所の関与が少ないとされているため、実質的には、自力執行権が認められていると解すこともできると、筆者は考えている。
 納税緩和制度としては、オンライン申請が可能な猶予制度及び税額減免制度があるほか、不服申立中の納期限が延期される納税の猶予規定も存在する。
 第三者責任規定は、「詐欺的行為等を行った取締役の連帯納付に係る責任」のほか、「脱税(共犯)者等の連帯納付に係る責任」等、詐欺的行為に係る規定が多くみられ、また、我が国における第二次納税義務の類似規定も存在する。さらに、「民法上のパートナーシップにおけるパートナーの連帯納付に係る責任」等、私法上の規定を根拠とした第三者責任について、裁判所を介さずに追及できることも示唆されている。

ニ 出国・財産隠蔽等対策

滞納処分の場面においても適用可能と解される逋脱罪の規定がある。

ホ 徴収実効性確保策

遅延利息及び延滞加算金(加算税)がある。
 また、罰則ではなく、強制執行の手段として、逋脱罪の有罪判決を受けた者等に対して身柄拘束命令を出す権限が与えられているとされる。

(6)比較法的考察

租税債権の位置付けについては、特に倒産法上の位置付けについて、多くの国で、かつて優先的地位にあったものが相対的に引き下げられている傾向がみられるものの、独国を除いて一定の優先権を持つといえる。
 他方、租税徴収制度については、共通の問題意識がみられるものの、その国家が持つ文化的・歴史的背景を伴って、各国それぞれが異なる特徴を持つものとなっている。ここでいう文化的・歴史的背景の大きな要素となる諸外国の法体系は、英米法又は大陸法に分けられるところ、英米法に属する米国及び英国、大陸法に属する独国及び仏国、そして、その両者の性質を併せ持つとされる我が国において、様々な違いと特徴が確認された。

イ 英米法国

国税徴収機関の所掌範囲が社会保険料等にまで及び、行動洞察や民間委託、オンライン完結可能な猶予制度等により効率化が図られているものの、収入比滞納割合は比較的高い。
 租税徴収の期間制限が大陸法国よりも長期間である傾向がみられる中、司法的執行を原則とした制度構成となっており、必要な手順を経ることにより、より強力広範な権限を行使することができる。その一方で、迅速な強制徴収を可能とする自力執行権には、制限が設けられている。

ロ 大陸法国

滞納者との接触拠点として各地方に税務署を持ち、国税の徴収機関が地方税についても徴収を担っている。民間委託の活用は把握されておらず、滞納者個々の実情による柔軟な対応が重視されており、収入比滞納割合が比較的低い。
 基本的に自力執行権が認められており、それを補完する形で、民事訴訟を通じ裁判所を介した手続も実施されている。

ハ 我が国

数々の納期限前後の早期接触・滞納未然防止策が実施され、初期段階で解決が図れなかった滞納者については、税務署において、その個々の実情に基づく対応がとられており、収入比滞納割合が非常に低い。
 大陸法国同様に、徴収事務の民間委託はされていないが、それは滞納者個々の実情を正確に推し量るためでもあると考えられ、ひいては、強力な自力執行権の適正運用に繋がっていると解される。
 英米法国同様に、コールセンターの活用及び行動洞察に基づく効率化が実施されている。自力執行権が広い範囲で認められているが、その反面、司法的執行による手続は限られたものとなっており、各規定は、その適用要件も含め、基本的に税務当局の判断のみにより妥当性ある執行が可能となるよう、詳細かつ具体的に定められている。

ニ 我が国の租税徴収制度に対する評価

租税優先権及び自力執行権については、諸外国と比しても非常に制限が少ない形で認められているが、適正運用が図られている。
 その反面、民事訴訟を通じ裁判所を介してカバーできる範囲は限られているともいえるが、必要に応じた税制改正により対応されている。
 総括すると、我が国の租税徴収制度は、滞納者との早期接触を図り、個々の実情に合わせた対応方針を速やかに決定する中で、強力かつ迅速な権限を適正運用するというバランスのとれたものとなっており、また、それを構成する各規定の適用範囲及び要件が、詳細かつ具体的に定められており、明確なものであることから、滞納者の予測可能性を高めることもできている。その結果として、長年、根本的な制度変更を強いられることなく、適正公平な租税徴収に寄与し、適切な租税徴収が実現され、収入比滞納割合を低く良好に保つことができていると解される。
 よって、我が国の租税徴収制度は、税務当局及び納税者双方の視点からみて、諸外国と比しても、非常に優れたものであると評価できると考えられる。

ホ 我が国が参考とすべき制度の方向性

以下の3つの方向性を提示する。

(イ) 悪質滞納者に対する制度

経済社会の国際化及びデジタル化が進む世界において、徴収回避の方法は、より複雑・悪質化しているところ、適正公平な租税徴収を実現するためには、それらを確実に把握し、厳正に対処する必要がある。

(ロ) 効率性に寄与する制度

上記(イ)のような対応を行うには、税務当局における限られた事務量を効率的に活用する方法について、検討する必要がある。

(ハ) ソフトな納付促進制度

「納税者の自主納付態勢の確立」を念頭に置くに当たり、期限内納付若しくはそれが困難な場合に自主的に解決を図ろうとする納税者に何かしらのインセンティブを与えてはどうかという観点。

(7)その他諸外国の制度

以下の3か国における租税徴収制度のうち、上記(6)ホに掲げた、我が国が参考とすべき制度の方向性に当てはまり得ると思われる制度を紹介する。

イ 韓国

(イ) 悪質滞納者に対する制度
@ 出国禁止
A 高額・常習滞納者の名簿公開
B 高額・常習滞納者の監置
C 常習滞納者隠匿財産の通報に係る報奨金制度

(ロ) 効率性に寄与する制度

韓国資産管理公社に対する徴収事務の外部委託

(ハ) ソフトな納付促進制度
@ タックスポイント制度
A 模範納税者制度

ロ 豪州

(イ) 悪質滞納者に対する制度
@ 取締役の罰則(第三者責任規定)
A 非居住者からの金銭を受領又は管理する者からの徴収
  第三債務者に第三者責任を負わせているとも考えられる規定。
B 出国禁止命令
C 事業者の租税滞納情報の開示
D 倒産・清算の申立て

(ロ) 効率性に寄与する制度
@ 民間委託
A 行動経済学に基づく徴収事務の改善
B 自動的な差押え(差押通知の電子化、電子支払チャネル整備)

(ハ) ソフトな納付促進制度
 以下に掲げるいずれも、オンライン完結が可能と解される。
@ オンライン申請が可能な猶予制度
A 無利息納付計画

ハ シンガポール

(イ) 悪質滞納者に対する制度
@ 外国人労働者納税清算制度

雇用主が、その従業員たる外国人労働者の出国予定を認識したときから、その者に支払うべき給与等を差し止め、当該外国人労働者に代わって、差し止めた給与等から納税を行う制度。

A 渡航制限命令

(ロ) 効率性に寄与する制度

行動洞察に基づく徴収事務の改善

(ハ) ソフトな納付促進制度
@ 執行プロセスのデジタル変革

デジタルツールの活用により、自発的に納税義務を遵守する納税者と、そうでない者(頑固な違反者)へのアプローチを差別化。

A GIRO(自動銀行口座引落制度)の活用による猶予制度

遅延利息の負担なく分割納付が認められる場合がある制度。

(8)我が国の租税徴収制度に示唆を与える制度

イ 悪質滞納者に対する制度

(イ) 第三者責任の拡充

多くの諸外国において、英国の「フェニックス主義」に代表されるような徴収回避に対応するため、第三者責任規定を設けている。我が国においても、同様の趣旨により令和6(2024)年度税制改正で手が加えられており、このような方向性は維持すべきものであると考えられるところ、その方法は、大きく分けて3つあると考える。

A 現行規定における適用範囲の拡充

適用範囲が広い規定の制度構成及び適用例を参考に、我が国における現行規定の適用範囲を必要な程度拡充する方法。

B 具体的なケースを念頭に置いた規定の追加

多くの諸外国で問題意識が共有されている具体的なケースを念頭に置いて、これに対処するための規定を追加する方法。
「源泉徴収税に係る源泉徴収義務者たる法人の役員等に対する責任」についても、その導入に係る検討の俎上に上げることはできるのではないかと考えられるが、慎重な検討を要する。

C 私法上の規定を根拠とした第三者責任の追及方法の検討

我が国において、私法上の規定を根拠とした第三者責任を追及することができるか否かは必ずしも明確化されていないため、これについて、整理及び検討する余地はあるものと解される。

(ロ) 詐欺的行為者の管理

管理対象者に、滞納処分免脱行為の有無など一定の基準を満たした滞納者を加え、継続的に管理するとともに、そのようなリストの存在を公表することを検討する余地はあるものと解される。

(ハ) 納付遅延に対する罰則金(加算税)

期限内納付若しくはそれが困難な場合に自主的に解決を図ろうとする納税者にインセンティブを与えることにも繋がるのではないかと考えられるが、緊急性は低いものであると解される。

(ニ) 滞納者等の出国制限

我が国の先行研究において、行政手続のデジタル化を前提としたパスポートの発行制限の導入が論じられているが、導入に当たり対処すべき課題は多いものと考えられる。

(ホ) 滞納者等情報の公表

我が国の先行研究においては、現行の行政法上の枠組みを前提として、行政コストの観点等から導入に消極的な立場がとられているが、その導入について、引き続き検討していくべきであると考えられる。

ロ 効率性に寄与する制度

(イ) 滞納処分のデジタル化

本施策による効率化は、税務当局のみならず、第三債務者及び一定の滞納者にもメリットを与えると考えられる。

(ロ) 行動洞察に基づく徴収事務の改善及び効率化

行動経済学(ナッジ)の考え方を取り入れた本施策は、少しの工夫により、大きな効果をもたらす可能性のあるものであると解される。
 我が国においても、本施策によるものと思われる改善がみられるところ、引き続き、幅広く活用していくべきものであると考えられる。

ハ ソフトな納付促進制度

(イ) オンライン完結可能な猶予制度

本制度は、各種要件を設けることにより、税務職員との接触を最小限に留め、猶予手続をオンラインで完結可能とするものである。本制度の導入は、セルフサービスが充実され、期限内納付が困難な場合に自主的に解決を図ろうとする納税者にインセンティブを与えることに繋がるとともに、効率性にも寄与すると考えられる。ただし、本制度を持つ英米法国の大半が、我が国よりも収入比滞納割合が高いということは、無視できない事実である。
 なお、これは単に納税緩和制度の拡充を主張するものではなく、例えば、滞納者の本税をも対象とした税額減免制度については、本稿において、導入に対して積極的に解する考察には至らなかった。

(ロ) 韓国の諸制度

非対価性があるともいわれる租税債権、その納税という行動に対して、直接的にインセンティブを与えるものであり、稀有なものであるが、これまで検討・実施されてきた納付促進策及び徴収実効性確保策とは一線を画す制度ではないかと考え、参考として取り上げた。

ニ その他

本稿において、諸外国の特徴的な制度として取り上げながら、上記イからハで提示しなかった主な制度及びその理由は以下のとおりである。

(イ) 民間委託

米国において高圧的な徴収等に対する批判が多く、また、我が国における滞納者個々の実情把握を重要視する制度設計には馴染まないと考えられる。

(ロ) サモンズ

我が国においては、自力執行権を、民事訴訟を通じ裁判所を介したより強い権限で補完・補強するような制度設計はとられていないと考えられるため、当該制度を導入した場合、現状、既存権限のみで完結可能であるはずの、その実効性が、相対的に低下し、その他の自力執行権にも一定の影響を及ぼすことが懸念される。
 なお、我が国における質問検査権の実効性を高める方策としては、その間接強制力となっている罰則規定の積極適用及び適用実績の公表等を推進することも一案ではないだろうか。

(ハ) 詐欺的行為の通報に係る報奨金制度

我が国においても、かつて存在した制度であったが、妬み嫉みを背景とした通報が行われるなど、本来の趣旨から逸脱していると判断されたこと等により、昭和29(1954)年に廃止されている。このような経過を辿る可能性は、現在においても高いものと考えられる。

(ニ) 倒産等の申立て

滞納処分の停止制度や倒産法制等、納付資力を失っている者を取り巻く法制やその有無・違い等により、本制度の趣旨及び効果が変わると考えられるところ、本稿においては、その検討まで至らなかった。

(ホ) 源泉徴収制度を活用した各種徴収手段

PAYEのCoding outや外国人労働者納税清算制度等の源泉徴収制度を活用した各種徴収手段については、前提となる源泉徴収制度を取り巻く法制やその背景の違い等により、本制度の趣旨及び効果が変わると考えられるところ、本稿においては、その検討まで至らなかった。
 しかし、我が国における今後の源泉徴収制度のあり方にも示唆を与えるものとして、今後も同様の制度には注目していくべきである。

3 結論

本稿においては、諸外国の租税徴収制度及び租税債権の位置付けについて調査を行い、我が国の租税徴収制度に示唆を与える制度の提示を試みた。
 その結果、租税優先権及び自力執行権は、各国において、それぞれの文化的・歴史的背景から異なる成立を経て、各々の強度及び運用方法をもって、今日においても、少なからず租税徴収制度の根幹を担っており、必要不可欠なものであることを確認することができた。また、その中でも、我が国の租税徴収制度は非常に優れたものであるという証左も得た。
 かつて米国においては、強権的な賦課徴収に対する批判の高まりの中で、大規模な制度改正が行われたというような過去もある。我々は、このような諸外国の反省も踏まえ、我が国の租税徴収制度における「強さ」と「速さ」を今後も維持していくために、その執行において、各制度の趣旨に則った適正運用を行うことにより、国民の信頼を確保し続けることに努めなければならないであろう。また、不利益処分を伴う制度導入の検討に当たっては、本研究が及ばなかった各種救済措置の整備についても念頭に置く必要がある。
 なお、我が国の租税徴収制度に示唆を与える制度の提示については、私見に留まるものとなってしまったため、今後の研究に譲りたい。
 最後に、昨今、SNSの普及などにより価値観等の多様化が進み、租税徴収制度の土台ともいえる「背景」そのものが変化を遂げる可能性もあると考えられる。その際には、より多くの異なる「背景」を持った諸外国の租税徴収制度に関するデータベースを構築していることが大きな武器となり得ると考えられることから、引き続き、本稿のように諸外国の租税徴収制度における動向に目を向けた調査を継続していくべきである。


目次

項目 ページ
はじめに 325
第1章 我が国 329
第1節 執行概要 329
1 所掌範囲 330
2 民間委託 330
3 滞納状況 330
第2節 租税債権の位置付け 331
1 租税優先権 332
2 倒産法上の位置付け 332
3 期間制限 333
第3節 徴収手続 333
1 催告 333
2 納付相談 334
3 財産調査 334
4 滞納処分 335
5 納税緩和制度 337
6 第三者責任 338
第4節 出国・財産隠蔽等対策 340
1 納税管理人 341
2 「無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務」の改正 342
3 滞納処分免脱罪 342
第5節 徴収実効性確保策 343
第2章 米国 344
第1節 租税徴収に係る執行状況 344
1 所掌範囲 345
2 民間委託 345
3 滞納状況 346
第2節 租税債権の位置付け 346
1 租税優先権 346
2 倒産法上の位置付け 347
3 期間制限 348
第3節 徴収手続 348
1 催告 348
2 納付相談 349
3 財産調査 349
4 滞納処分 351
5 納税緩和制度 354
6 第三者責任 357
第4節 出国・財産隠蔽等対策 359
1 パスポート発行の取消又は拒否等の権限 359
2 民事訴訟を通じた離国禁止令状の取得 359
3 滞納処分免脱罪 360
第5節 徴収実効性確保策 360
1 延滞利子税 360
2 義務不履行罰(加算税) 361
3 連邦租税リーエンの公示による信用スコアへの影響 361
4 法令違反者の通報に係る報奨金制度 362
第3章 英国 363
第1節 租税徴収に係る執行状況 363
1 所掌範囲 364
2 民間委託 364
3 滞納状況 365
第2節 租税債権の位置付け 365
1 租税優先権 365
2 倒産法上の位置付け 365
3 期間制限 366
第3節 徴収手続 366
1 催告 367
2 納付相談 367
3 財産調査 368
4 滞納処分 368
5 納税緩和制度 371
6 第三者責任 373
第4節 出国・財産隠蔽等対策 376
第5節 徴収実効性確保策 377
1 延滞利子税 377
2 意図的な税務不履行者リスト 377
3 深刻な不履行者管理プログラム 378
4 倒産の申立て 378
第4章 独国 380
第1節 租税徴収に係る執行状況 380
1 所掌範囲 381
2 民間委託 381
3 滞納状況 381
第2節 租税債権の位置付け 381
1 租税優先権 381
2 倒産法上の位置付け 382
3 期間制限 382
第3節 徴収手続 383
1 催告 383
2 納付相談 383
3 財産調査 384
4 滞納処分 386
5 納税緩和制度 387
6 第三者責任 389
第4節 出国・財産隠蔽等対策 392
1 パスポート発行拒否又は没収の権限 392
2 租税徴収手続における逋脱罪 392
第5節 徴収実効性確保策 392
1 遅延利息 392
2 延滞加算金 393
3 信用情報機関を介した信用スコアへの影響 393
第5章 仏国 394
第1節 租税徴収に係る執行状況 394
1 所掌範囲 395
2 民間委託 395
3 滞納状況 395
第2節 租税債権の位置付け 396
1 租税優先権 396
2 倒産法上の位置付け 396
3 期間制限 397
第3節 徴収手続 397
1 催告 397
2 納付相談 398
3 財産調査 398
4 滞納処分 399
5 納税緩和制度 403
6 第三者責任 405
第4節 出国・財産隠蔽等対策 407
第5節 徴収実効性確保策 407
1 遅延利息 407
2 延滞加算金 408
3 身柄拘束命令 408
第6章 比較法的考察 409
第1節 英米法国 410
1 租税徴収に係る執行状況 410
2 租税債権の位置付け 410
3 租税徴収制度 411
第2節 大陸法国 412
1 租税徴収に係る執行状況 412
2 租税債権の位置付け 412
3 租税徴収制度 413
第3節 我が国 414
1 租税徴収に係る執行状況 414
2 租税債権の位置付け 414
3 租税徴収制度 415
第4節 我が国の租税徴収制度等に対する評価 415
第5節 我が国が参考とすべき制度の方向性 416
1 悪質滞納者に対する制度 417
2 効率性に寄与する制度 417
3 ソフトな納付促進制度 417
第7章 その他諸外国の制度 419
第1節 韓国 419
1 悪質滞納者に対する制度 420
2 効率性に寄与する制度 421
3 ソフトな納付促進制度 421
第2節 豪州 423
1 悪質滞納者に対する制度 424
2 効率性に寄与する制度 426
3 ソフトな納付促進制度 427
第3節 シンガポール 428
1 悪質滞納者に対する制度 429
2 効率性に寄与する制度 430
3 ソフトな納付促進制度 431
第8章 我が国の租税徴収制度に示唆を与える制度 432
第1節 悪質滞納者に対する制度 432
1 第三者責任の拡充 432
2 詐欺的行為者の管理 435
3 納付遅延に対する罰則金(加算税) 435
4 滞納者等の出国制限 436
5 滞納者等情報の公表 436
第2節 効率性に寄与する制度 437
1 滞納処分のデジタル化 437
2 行動経済学に基づく徴収事務の改善及び効率化 438
第3節 ソフトな納付促進制度 438
1 オンライン完結可能な猶予制度 438
2 韓国における諸制度 439
第4節 その他の租税徴収制度 440
1 民間委託 440
2 サモンズ 442
3 詐欺的行為の通報に係る報奨金制度 443
4 倒産等の申立て 444
5 源泉徴収制度を活用した各種徴収手段 445
結びに代えて 446
別紙 諸外国における租税徴収制度と租税債権の位置付け(一覧表) 448

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