二宮 誠
税務大学校
研究部教授

要約

1 研究の目的(問題の所在)

ICT(情報通信技術)の進歩はデジタル経済を発展させ、経済活動のグローバル化の進展など、経済活動に大きな変化をもたらしている。フリーランス、シェアリングエコノミー、ギグエコノミーなど人の働き方も変化し、Fintech事業者による新たな決済サービスの登場は、国際送金に要する時間や費用など利用者のニーズに合うサービスの選択を可能としている。
 我が国においても、EC市場規模は増加を続け、労働者人口の流出入も増加しており、今後の国際課税に関する議論の進展によっては、国外居住者でありながら我が国への申告義務が生じる者の増加は想像に難くない。
 我が国の納税制度は納付手段の多様化が図られており、国外からの納付手段として、納税者本人が国外金融機関を通じて納税専用口座に直接送金する「国外納付」が導入されたが、新たな国外納付の手段として銀行以外で為替取引が可能な「資金移動業」の活用も期待できるほか、「デジタル通貨」は国外からの納付手段に適している可能性がある。
 本稿においては、我が国の納付手段に関する法令等を整理し、具体的な納付手続を理解したうえで、諸外国の納付手段を参考に国外納税者及び国税組織の双方にとって有用な国外からの納付手段について検討する。

2 研究の概要

(1)国庫収納手続の概要

国の行政活動の基礎となる租税や行政手数料などの国の収入は国庫に収納されるが、その取扱基準及び細部手続は法令により統一的な処理を行うこととしている。

イ 国税収納金整理資金

国税収入に関する経理の合理化と過誤納金の還付金等の支払いに係る事務処理の合理化を目的に設置された特別な資金である。

(イ) 資金法規制定の経緯

資金法の制定以前は、国税等は歳入として受入れ、還付金等は歳出として支払われていたが、財政会計制度の諸制約による還付金の支払処理遅延に対処するため、国税収納金整理資金が設置された。

(ロ) 資金法規の性質

国税収納金整理資金は特別な資金であり、一般的な歳入金と区分して管理されるが、歳入歳出に準ずるものとされている。ただし、資金法規には国外又は外貨による収納手続に関する規定は設けられておらず、納付に用いられる金銭の範囲を本邦通貨に限定している。

ロ 国庫制度

財政活動により、国が所有する多様な財産を保管・運用する管理体を「国庫」と呼び、国庫に属する現金を「国庫金」と称している。「国庫制度」とは、国庫金の出納や経理の仕組みを指す国の財務の一制度である。

(イ) 国庫金の経理

「資金計理」と「国庫計理」の2つが同時並行的に行われ、かつ各官庁が行う経理と照合されることで、国の会計の厳格性と財政運営の円滑性が確保され、統一的かつ効率的運用を図ることが可能となっている。

(ロ) 国庫金の出納機関

出納機関は日本銀行のほか各省各庁に所属する出納官吏等があたり、日本銀行は国庫金の出納事務に関する原則的かつ統括的取扱機関と位置付けられている。

(ハ) 政府預金

政府預金は日本銀行本店のみに設置され、「当座預金」、「別口預金」、「指定預金」、「小額紙幣引換準備預金」の4種類があり、現金による受払いは当座預金勘定に計上される。

ハ 日本銀行の役割

日本銀行が受け入れた国庫金は日本銀行に対する国の預金とされ、国庫金の効率的ないし統一的運用を図るとともに、あらゆる種類の国庫金を日本銀行本店に集中させて計理事務を行わせている。

(イ) 組織

日本銀行は、国内に本店のほか32か所の支店と14か所の事務所が設置され、7か所の海外駐在員事務所が設置されている。

(ロ) 代理店制度

日本銀行は、全国各地にある民間金融機関と代理店契約を締結し、金融機関の特定の店舗が国庫金の出納事務を行っている。

ニ 収納手続

国税の収納手続の執行は、徴収と収納の二つの行為に区分して組織的に運営することとしている。

(イ) 実施機関

徴収及び収納を司る収入機関は、事務を総括管理する管理機関と実施機関に大別され、実施機関には徴収行為権限を有する徴収機関と、実際に領収する機関である収納機関がある。

(ロ) 国税等の徴収

歳入を徴収しようとするときは、調査決定を行い、徴収簿を作成するとともに納税の告知を行うが、申告納税方式の国税は、申告書の提出があった時に調査決定が行われ、納税の告知は不要とされている。

(ハ) 国税等の収納

納税者は収納機関において現金に納付書等を添えて支払い、収納機関は領収証書を納税者に渡すとともに、領収済通知書を国税収納命令官に送付し、領収控を日本銀行取りまとめ店に送付する。

(ニ) 納付書等

納付書及び納税告知書には、領収済通知書、領収控及び領収証書の3枚複写となっており、納付書には納税者自身で氏名などの納付情報を記載する必要がある。

ホ 小括

政府預金への資金受入は、日本銀行の決済システムを通じて各金融機関の日銀当預から政府預金への資金振替によって行われ、納税情報は日本銀行から国税庁にデータとして送信されることから、納付手段は納税者が収納機関において本邦通貨での資金払込みと納税情報の伝達を可能とする方法でなければならない。

(2)納付手段の概要

国税の納付手段は、納税者が収納機関に税額相当の現金と納付情報を引渡す方法であり、納税者の利便性と市場決済の動向を踏まえ、適時、新たな手段を導入し納付手段の多様化を図っている。

イ 代用納付

支払が確実で取立てが容易な預金口座振替小切手や郵便普通為替証書等で納付することも認められているが、ペーパーレス化が進められた結果、使用実態と法令等に乖離が生じている。

ロ 電子納付

インターネットを通じてパソコン等で納税手続を電子的に行う方法であり、MPN運営機構が提供する「Pay-easy」サービスを利用して預貯金から国庫金への振替手続が行われる。「インターネットバンキング等納付手続」と「ダイレクト納付手続」があるが、金融機関が提供するサービスによってそれぞれに課題がある。

ハ 口座振替納付制度

利用可能税目は申告所得税及と個人事業者の消費税に限られ、国が事務手数料を負担する。納税者が依頼書を提出することで、預貯金から国税収納金への振替が自動的に行われる。国税庁と金融機関の間でデータ処理は進んでいるが、システム未対応の金融機関等への事務処理などの個別対応は残っている。

ニ 納付受託者に対する納付

(イ) コンビニ納付制度

コンビニエンスストアの店舗窓口において、現金通貨に納付書を添えて納付委託する方法であり、国が手数料を負担する。納付税額が30万円以下の者に限られ、バーコード付納付書を使用しなければならないほか、キャッシュレス納付利用割合を引き下げる要因でもある。

(ロ) クレジットカード納付制度

インターネット上でクレジットカードの支払機能を利用して、納付受託者に国税の立替払いを委託する方法であり、納税者は納付税額に応じた手数料を負担する。納税者が納付受託者の運営する外部サイトにアクセスして、納付受託者が委託者に代わって立替払いする方法で行われる。利用可能額は1,000万円未満、かつクレジットカードの決済可能額以下であり、利用可能額には決済手数料が含まれる。納付手段としての利用割合は低調であり、手数料の納税者負担が利用割合低調の要因と推察される。

(ハ) スマホアプリ納付制度

インターネット上のスマートフォンアプリの支払機能を利用して、納付受託者に電子マネーで国税の支払いを委託することにより国税を納付する方法であり、国が手数料を負担している。納税者が納付受託者の運営する外部サイトへアクセスして、決済アプリを選択し「納付」ボタンをタップすることで納付手続は完了する。利用可能額は30万円以下、かつ利用者が使用するアプリの決済可能額以下である。納付手段としての利用割合は低いが、次年度以降の利用割合の増加が見込まれる。

ホ その他の納付手段

税法では国外納税者のような収納機関を利用する方法が限られる者のための納付手段が定められている。

(イ) 納税管理人制度

納税地での申告等手続できない者が、自身に代わって税務手続を処理させるために、納税者の選任により置かれる代理人制度である。ただし、滞納が発生した際は、納税管理人に対しては督促等による国税債権の請求行為までしか行えない。

(ロ) 国外納付制度

銀行の国際送金を利用して納付する方法であり、送金に必要な費用はすべて納税者が負担する。納税者は国外納付専用窓口に電話連絡した後、居住国の金融機関を通じて送金手続を行い、送金したことを証する書類を担当職員に電子メールで送信しなければならず、納税者には不便な手続となっている。

ヘ 小括

納付手段とは、各種決済方法を利用して収納機関に資金と情報を引渡す方法であり、国外居住者でキャッシュレス納付が利用できない者は、納税管理人制度又は国外納付制度に頼ることになる。

(3)諸外国における納付手段

イ 各国市場の決済動向

(イ) アメリカ

クレジットカードやデビットカードによる支払いが一般的であり、近年はデジタルウォレットやモバイル決済のほか、個人間送金アプリの利用が拡大している。

(ロ) カナダ

クレジットカードやデビットカードによる支払いが一般的であり、デジタルウォレットはスマートフォンで安全かつ非接触での支払いを行う方法として人気を集めている。

(ハ) イギリス

最も利用されている決済方法はデビットカードであり、モバイルウォレットや非接触型カードを用いた非接触型決済も急速に普及している。

(ニ) スウェーデン

クレジットカードとデビットカードおよびモバイル決済が一般的であるが、「Swish」、「Klarna」「iZettle」などの新たな支払手段が決済手段の利用割合に与える影響は大きい。

(ホ) シンガポール

クレジットカードが主要な決済手段として広く利用されているが、生体認証を用いた非接触型決済などのデジタルウォレットやモバイル決済の利用も拡大している。

(ヘ) 韓国

政府によるカードの普及推進策が実施され、韓国のキャッシュレス決済比率は世界でも最も高い水準となっている。ここ数年はモバイル決済やバーコード・QRコード等を利用した非接触型決済へと移りつつある。

ロ 諸外国の納付手段

(イ) アメリカ

国外からの納付手段として国際銀行送金が利用できる。一般的な納付手段としては、電子納付、各種カード、送金サービス、小切手、現金通貨が利用できる。

(ロ) カナダ

国外からの納付手段として国際銀行送金が利用できる。一般的な納付手段としては、電子納付、各種カード、送金サービス、小切手、現金通貨が利用できる。

(ハ) イギリス

国外からの納付手段として国際銀行送金が利用できる。一般的な納付手段としては、電子納付、口座振込、各種カード、小切手、現金通貨が利用できる。

(ニ) スウェーデン

国外からの納付手段として国際銀行送金が利用できる。一般的な納付手段としては、電子納付、送金サービス、小切手、現金通貨が利用できる。

(ホ) シンガポール

国外からの納付手段として国際銀行送金が利用できる。一般的な納付手段としては、電子納付、口座振込、口座振替、各種カード、送金サービス、現金通貨が利用できる。

(ヘ) 韓国

国際銀行送金の利用案内はない。一般的な納付手段としては、電子納付、各種カード、小切手、現金通貨が利用できる。

ハ 小括

国外からの納付手段としてクレジットカードを推奨しているが、国際銀行送金での納付手段が整備され、送金サービスも納付手段に取り入れられている。

(4)国外からの納付手段の検討

イ 現行の納付手段の活用

(イ) 電子納付、振替納税制度

納税者が国内銀行等に預貯金を有することを前提としているため、国外からの納付手段としての利用は出国者に限られる。

(ロ) 納付受託者

クレジットカード納付は利用可能であるが、スマホアプリ納付は現状での活用は難しい。

(ハ) 国外納付制度

国外納税者の利便性向上に向けた手続の改善が必要である。

ロ 新たな納付手段の検討

(イ) 資金移動業

銀行の固有業務であった為替取引が資金移動業者に解禁され、送金上限額に応じて3つの類型が設けられている。我が国における送金サービスの認知度は低く一般的な送金手段とは言えないが、資金移動業者の活用には、「価値の安定性」と「収納機関へ払込」を考慮する必要がある。

(ロ) デジタル通貨

電子マネー、暗号資産、中央銀行デジタル通貨(CBDC)に分類され、電子マネーは納付手段として導入済みである。
 暗号資産は、24時間365日取引可能であり、他の法定通貨や暗号資産との交換も可能ではあるが、価値に安定性がない。我が国において暗号資産は投資対象としての認識が広まっており、利用者保護とイノベーションの促進のバランスの取れた環境整備が求められる。  CBDCは、流通形態でホールセール型と一般利用型(直接型と間接型)に分かれ、発行形態で口座型とトークン型に分けられる。我が国においてもCBDCの導入に向け実証実験を開始したところではあるが、金融政策や民間銀行への影響、運用コストの負担、ネットワーク障害が発生した場合の代替決済手段の確保など、解決しなければならない制度設計及び技術的課題がある。

ハ 小括

国外からの納付手段として、積極的にクレジットカード納付に誘導するべきである。新たな納付手段として、資金移動業者の送金サービスは認知度が低く 効果的とは言い難く、暗号資産やCBDCは、国際協力のもと規制や環境整備が必要な状況にあり、現時点では納付手段として利用することは難しい。

3 結論

利用件数から見ても、直ちに新たな国外からの納付手段が必要な状況とは言えないが、国外納付制度は納税者利便の観点から手続の簡略化を図るべきである。資金移動業やデジタル通貨を利用した決済手段は、納付手段に導入すべきタイミングに至っていない。
 納付制度の整備には、納付手段の法的・技術的安全性に加え、国(日本銀行を含む)の管理運用の側面から業務コストの検討が不可欠であり、国が負担すべき手数料の在り方についても改めて整理が必要である。
 今後、新たな納付手段を導入するための制度設計では、多様化する決済サービスの展開に注目しつつ、納税者の利便性向上と適正・公平な徴収の実現に向けた継続的な検討に加え、行政機関として費用対効果についても十分な検討が行われるべきである。


目次

項目 ページ
はじめに 117
第1章 国庫収納手続の概要 122
第1節 国税収納金整理資金 122
1 資金法規制定の経緯 122
2 資金法規の性質 123
第2節 国庫制度 124
1 国庫金の経理 125
2 国庫金の出納機関 125
3 政府預金 125
第3節 日本銀行の役割 126
1 組織 126
2 代理店制度 128
第4節 収納手続 130
1 実施機関 130
2 国税等の徴収 131
3 国税等の収納 132
4 納付書等 135
小括 137
第2章 納付手段の概要 138
第1節 代用納付 139
1 使用できる有価証券 140
2 現状と課題 141
第2節 電子納付 142
1 インターネットバンキング等納付手続 143
2 ダイレクト納付手続 144
3 現状と課題 144
第3節 口座振替納付制度 145
1 口座振替納付手続 146
2 現状と課題 147
第4節 納付受託者に対する納付 147
1 コンビニ納付制度 148
2 クレジットカード納付制度 150
3 スマホアプリ納付制度 152
第5節 その他の納付手段 154
1 納税管理人制度 155
2 国外納付制度 156
小括 158
第3章 諸外国における納付手段 161
第1節 各国市場の決済動向 161
1 アメリカ 162
2 カナダ 163
3 イギリス 164
4 スウェーデン 165
5 シンガポール 166
6 韓国 167
第2節 諸外国の納付手段 168
1 アメリカ 168
2 カナダ 171
3 イギリス 174
4 スウェーデン 176
5 シンガポール 177
6 韓国 180
小括 182
第4章 国外からの納付手段の検討 184
第1節 現行の納付手段の活用 184
1 電子納付、振替納税制度 184
2 納付受託者 185
3 国外納付制度 185
第2節 新たな納付手段の検討 186
1 資金移動業 187
2 デジタル通貨 192
小括 196
結びに代えて 198

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