畠山 大悟
税務大学校
研究科研究員
企業は、事業活動を行う際に「任意組合等」を用いるケースがある。任意組合等が組合事業により稼得した損益については、任意組合等の段階では課税されずに任意組合等の組合員の段階でのみ課税されること(パス・スルー課税)となるが、このことは税法において直接規定されておらず、通達においていくつかの取扱いが示されている状況である。
これまで、パス・スルー課税の適用に関しては、主に、個人組合員の所得税法上の所得区分の問題を論点とした研究及び裁判例の蓄積がなされてきた。一方、法人税法に目を向けてみると、法人税法上の所得の金額の計算において所得区分の概念は存在しないものの、「公正処理基準」、「確定決算主義」及び「損金経理要件」のように企業会計及び会社法会計と密接な結び付きが見られるところである。
本稿は、このような現状を踏まえ、現行の法令・通達・企業会計、学説、裁判例などの内容について法人税法の観点から整理を行い、法人組合員のパス・スルー課税の適用に関する論点のうち法人税基本通達14‐1‐2[任意組合等の組合事業から分配を受ける利益等の額の計算]において示されている取扱い、すなわち、帰属損益額の計算方式及び「別段の定め」の適用制限の根拠等について、法人税法の解釈により検討を行うものである。
(1)パス・スルー課税の適用に関するこれまでの議論の状況
これまで、パス・スルー課税の適用に関しては、主に、任意組合等の個人組合員において組合事業損益に係る所得の性質をどのように捉えるかによる所得税法上の所得の金額の計算の違い、すなわち、個人組合員の所得税法における所得区分の問題を論点とした研究及び裁判例の蓄積がなされてきたところである。
任意組合等の法的性質等及び個人組合員におけるパス・スルー課税の適用に関する学説等を確認したところ、パス・スルー課税の適用根拠は、任意組合等側の特徴に基づくものであり、法人組合員におけるパス・スルー課税の適用根拠についても同様に考えることが可能である。
このような状況を踏まえると、法人組合員にパス・スルー課税が適用されるための重要な要素は、@任意組合等が法人格を有さず法人税法上の納税義務者とならないこと、A任意組合等の組合財産は民法その他の法律の規定により総組合員の共有(合有)とされることであると考えられる。したがって、所得税法と同様、現行の法人税法は、特別の規定を設けるまでもなく法人組合員においてパス・スルー課税が適用される構造になっているものと捉えることができる。
(2)帰属損益額の計算方式に関する検討
イ 帰属損益額の計算方式に関する法人税基本通達の定め
法人税基本通達14‐1‐2においては、次のとおり、法人組合員における帰属損益額の計算方式が示されている。
また、同通達においては、総額方式が原則とされており、中間方式又は純額方式の適用は、「継続して」、かつ、これらの方式による帰属損益額の計算が「課税上弊害がない」ものである場合に限り認められている。
ロ 帰属損益額の計算に関する企業会計
企業会計における任意組合等に対する出資持分に係る帰属損益額の計算は、金融商品取引法の適用を受けないものと同法の適用を受けるものとに大別されたところで行われることになる。前者については企業会計原則に従い、後者においては金融商品会計基準及び同実務指針に従うことになる。
ハ 公正処理基準の該当性の判断
益金の額及び損金の額は、別段の定めがあるものを除き、「公正処理基準」に従って計算することとされている。公正処理基準は、企業会計原則・同注解や、会社法、金融商品取引法の計算規定・会計処理基準等のほか、確立した会計慣行を広く含むと解されているが、これらの全てが該当するとは限らないと考えられている。
この点、[ビックカメラ事件]においては、公正処理基準の該当性は、法人税法が要請する「公平な所得計算」に適合するか否かにより判断すべきであり、これに適合する会計処理の基準として「税会計処理基準」という考え方が示された。そして、税会計処理基準は「企業会計上の公正妥当な会計処理の基準(公正会計基準)とされるものと常に一致することを規定するものではない」とした上で、企業会計上の不動産流動化実務指針に基づく会計処理の公正処理基準の該当性が否定されている。
(3)帰属損益額の計算における「別段の定め」の適用等に関する検討
イ 帰属損益額の計算方式に関する法人税基本通達の定め
(イ) 法人税基本通達の定め
法人税基本通達14‐1‐2においては、次のとおり、法人組合員が採用する帰属損益額の計算方式と「別段の定め」の規定の適用の関係について示されている。
(ロ) 帰属損益額の計算と「別段の定め」
法人の各事業年度の所得の金額は、その事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額とされている。また、益金の額及び損金の額については、それぞれ、「別段の定め」の規定がある場合にはその規定を適用して計算することとされている。
益金の額の「別段の定め」の1つである法人税法22条の2及び法人税基本通達14‐1‐2において適用の制限を受け、又は適用がなされることとされている「別段の定め」の制度趣旨等について、例えば、受取配当等の益金不算入は、支払法人の段階において課税済の金額について受取法人の段階で法人税の課税対象から除外し法人段階における二重課税を含む多重課税を排除するという考えの下、法人が保有する株式について受け取る配当等の額を、法人税法では原則として益金算入しないこととされたものである。
ロ 組合事業損益の性質の維持
例えば、任意組合が新株予約権の行使により得た経済的利益の個人組合員における所得区分が争われた事案においては、任意組合の段階における組合事業損益の性質は、個人組合員において帰属損益額を計算する際にも維持されるとの考え方が示されている。そして、このことは任意組合等の法的性質等に基因するものであることから、法人組合員の場合においても異なるものではないと考えることができる。
ハ 確定決算主義及び損金経理要件
法人税法が採用する「確定決算主義」の下、法人は、「確定した決算」に基づき確定申告書を提出しなければならないという手続的なルールに従う必要がある。また、それと同時に、会社法上の手続において示された「法人の意思」は法人税法上の所得の金額の計算においてもその法人を拘束し、決算で示した内容と異なる計算を法人税法上の所得の金額の計算において主張することが制限されることになる。
このことは、「損金経理要件」において具体的に示されていると考えられており、その趣旨は、内部取引のように法人の主観的・恣意的判断により自由に決定し得る性質のものについては、その法人の最高機関である株主総会や社員総会などによる意思決定に依拠するとされたものである。
ニ 任意組合等の会計
任意組合の会計等に関して統一的な体系は作られてこなかったが、投資事業有限責任組合及び有限責任事業組合については、法令において組合の会計に関するルールが定められている。とりわけ、有限責任事業組合については、総額方式により帰属損益額を計算するのに必要な項目を記載した会計帳簿を作成し、その会計帳簿を各組合員に交付することが、法令上規定されている。
(1)帰属損益額の計算方式について(上記2(2))
イ 法人組合員における帰属損益額の計算方式について
企業会計上、「総額方式」、「中間方式」及び「純額方式」のいずれの計算方式も適正な会計処理として認められており、法人組合員は、自らの経済実態や各組合契約の内容等を考慮していずれかの計算方式を選択することになる。また、「総額方式」、「中間方式」及び「純額方式」のいずれの計算方式を採用した場合でも、法人組合員に取り込まれる利益又は損失の金額は異ならないため、その限りにおいては、いずれの計算方式も法人税法の「公平な所得計算の要請」を害するものではない。
したがって、法人組合員における帰属損益額の計算方式については、「総額方式」、「中間方式」及び「純額方式」のいずれも公正処理基準に従った会計処理として妥当し、また、いずれの計算方式も法人組合員の経済実態等に応じて原則・例外のような区別なく並列的な関係の下で適用されることが相当であると考えられる。
ロ 中間方式又は純額方式の適用要件の根拠等について
法人税基本通達14‐1‐2において定められている中間方式又は純額方式により帰属損益額を計算する場合の要件について、「継続して」(適用)という要件は企業会計において継続性の原則が要求されていることに依拠するものであることを、「課税上弊害がない限り」という要件は課税上弊害がある帰属損益額の計算方式は公正処理基準に該当しないことを、それぞれ公正処理基準との関係において確認的に定めたものであると考えられる。
(2)帰属損益額の計算における「別段の定め」の適用等について(上記2(3))
イ 帰属損益額の計算と法人税法22条の2の適用について
任意組合等の収益の額で資産の販売等に係るものについては、収益認識会計基準の適用の有無にかかわらず、法人税法22条の2の規定に基づき法人組合員の益金算入時期の確定及び益金算入額の計算をすることになると考えられる。
ロ 「別段の定め」の適用の制限等に関する根拠等について
(イ) 貸倒引当金の繰入れ及び準備金の積立ての適用の制限
法人組合員が中間方式又は純額方式により帰属損益額を計算する場合には、貸倒引当金の繰入れ及び準備金の積立ての適用に当たり要求されている損金経理要件が充足されないため、これらの制度の適用は認められないものと考えられる。
(ロ) 受取配当等の益金不算入及び所得税額の控除
法人組合員が純額方式により帰属損益額を計算する場合には、法人税法が採用する確定決算主義との関係において受取配当等の益金不算入及び所得税額の控除の適用はできないものと考えられる。一方で、「組合会計帳簿による補完措置」を講じた上で株主総会の承認又は総社員の同意を得ているときには、法人税法上の所得の金額の計算における「法人の意思」が明らかであるといえ、法人税法が採用する確定決算主義との関係においても受取配当等の益金不算入及び所得税額の控除の適用が認められるものと考えられる。
(ハ) 寄附金の損金不算入及び交際費等の損金不算入の適用
法人組合員が純額方式により帰属損益額を計算する場合に法人組合員において寄附金の損金不算入及び交際費等の損金不算入を適用するという取扱いは、法人税法及び租税特別措置法の解釈として妥当せず、本来は立法上の手当てを要するものであると考えられる。
| 項目 | ページ |
|---|---|
| はじめに | 346 |
| 第1章 パス・スルー課税の適用に関するこれまでの議論の状況 | 349 |
| 第1節 任意組合等の法的性質等 | 349 |
| 1 民法上の組合(任意組合) | 350 |
| 2 投資事業有限責任組合 | 351 |
| 3 有限責任事業組合 | 353 |
| 4 外国のパス・スルー・エンティティ | 354 |
| 第2節 個人組合員におけるパス・スルー課税の適用根拠に関する学説等 | 356 |
| 第3節 小括 | 358 |
| 第2章 帰属損益額の計算方式に関する検討 | 359 |
| 第1節 帰属損益額の計算方式に関する法人税基本通達の定め | 359 |
| 第2節 帰属損益額の計算に関する企業会計 | 360 |
| 第3節 公正処理基準の該当性の判断 | 362 |
| 第4節 結論 | 364 |
| 1 法人組合員における帰属損益額の計算方式について | 364 |
| 2 中間方式又は純額方式の適用要件の根拠等について | 365 |
| 第3章 帰属損益額の計算における「別段の定め」の適用等に関する検討 | 367 |
| 第1節 採用する計算方式と「別段の定め」の適用等に関する現行の定め | 367 |
| 1 法人税基本通達の定め | 367 |
| 2 帰属損益額の計算と「別段の定め」 | 369 |
| 第2節 組合事業損益の性質の維持 | 374 |
| 第3節 確定決算主義及び損金経理要件 | 375 |
| 第4節 任意組合等の会計 | 376 |
| 第5節 結論 | 377 |
| 1 帰属損益額の計算と法人税法22条の2の適用について | 377 |
| 2 「別段の定め」の適用の制限等に関する根拠等について | 378 |
| おわりに | 383 |
PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。Adobe Readerをお持ちでない方は、Adobeのダウンロードサイトからダウンロードしてください。