上村 和紀
税務大学校
研究部教授
(1)検討事例について
本稿では、法人が措置法第42条の4に基づき「試験研究費の額が増加した場合等の法人税額の特別控除」を適用した事例を検討する。当該法人は一般法人として別表六(九)を添付し控除を適用していたが、後に中小企業者に該当することが判明したため、別表六(十)を添付した更正請求書を提出し控除額の増額を求めた事例に基づいて、平成23年12月の税制改正により、税額控除の計算は「特定事項」(例:試験研究費の額)を基礎とすることとされ、特定事項以外の変更がある場合には更正請求による控除額の増額が可能となった。本稿では、「当初申告要件」の趣旨や「控除額の制限」に関する取扱いには議論の余地があるのではないかとして考察を行うものである。
租税特別措置法における「当初申告要件」とは、納税者が制度適用を受ける意思表示として、確定申告書に所定の記載や書類添付を行うことを要件とする制度です。本事例では、試験研究費の特別控除について、初回申告と更正請求でそれぞれ異なる別表(一般法人様式・中小企業様式)を添付した場合に、要件充足や適用限度額の基礎費用額がどのように判断されるかが焦点となっている。
「当初申告要件」とは、納税者にとって有利になる制度の適用を受けるために、当初申告において制度の適用を受けることの「意思表示」を要求しているものをいう。この「意思表示」とは具体的には、当初の確定申告書において、申告書に一定事項の記載や一定書類を添付することをいう。
例えば、租税特別措置法第42条の4第1項又は第4項《試験研究を行った場合の法人税額の特別控除》の規定の適用を受けるためには、同条第21項前段の試験研究費の額及び控除を受ける金額等を記載した書類の添付要件を満たす必要がある。
(2)事例の概要説明
例えば、法人が中小企業者等の該当判定を誤って確定申告書に試験研究費の額、控除額及び控除額の計算明細を記載した書類(別表六(九)【中小企業非該当様式】)を添付していたことが判明したため、控除額を増加させる更正請求書に試験研究費の額、控除額及び控除額の計算明細を記載した書類(別表六(十)【中小企業該当様式】)を添付した場合、前段の各要件は満たしているが、確定申告書に試験研究費の額を記載した別表六(九)は添付しているものの別表六(十)の添付はなく、更正請求書には、確定申告書に添付した別表六(九)の試験研究費の額と同一の試験研究費の額を記載した別表六(十)を添付しているため、後段の適用限度額における当初申告記載額をどのように考えるべきか疑義が生じる。
また、上記において、租税特別措置法上の当初申告要件を充足し、適用限度額は満たしていると考える場合であっても、国税通則法第23条第1項第1号《更正の請求》において、更正の請求ができる場合として規定されている「当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるとき」に該当することとして、当該請求が認められるか疑義が生じる。
(3)論点について
ここでは、次の2点について論点として検討したい。
@ 租税特別措置法を適用する上で明細書として「確定申告書等に添付された書類」とは何か。その波及する論点として別表番号にかかわらず他の租税特別措置法の適用が可能か
A 租税特別措置法の特例制度を変更することが更正の請求(通則法第23条)「法律の規定に従っていないこと又は当該計算に誤りがあること」に該当するか
上記の論点の内@租税特別措置法を適用する上で明細書として「確定申告書等に添付された書類」とは何か。その波及する論点として別表番号にかかわらず他の租税特別措置法の適用が可能かである。
(1)「当初申告要件」及び「適用額の制限」制度について
租税法の諸規定の中には、一般に納税者にとって有利となる制度についてその適用を受けるために、当初の確定申告書において制度の適用を受ける旨の意思表示をしておかないとその後においてその規定の適用を受けられないものとする「当初申告要件」が設けられているものがある。
また、これに加えて、納税者にとって有利となる制度の適用を受けることができる金額について、当初申告書に記載された金額を限度とする「適用額の制限」が設けられている規定もある。
問題点の検討を行うに当たり、法人税法と租税特別措置法に区分した上で当初申告要件等に関する改正及びその経緯について確認する。
(2)「当初申告要件」及び「適用額の制限」に関する改正の経緯と現行制度
イ 法人税法上の当初申告要件
法人税法上の「当初申告要件」については、平成23年12月の税制改正で「当初申告要件」がある措置の中には、その措置の目的・効果や課税の公平の視点からみて、事後的な適用を認めても問題がないものも含まれていた。こうしたことを踏まえ、当初申告要件を求める必要がない措置については、当初申告要件を廃止し、更正の請求を認める範囲を拡大することとした(平成24年度税制改正の解説)趣旨を踏まえた改正が行われている。
この改正によりこれまで法人税法において「当初申告要件」が付されていたもののうち、受取配当の益金不算入制度、所得税額控除及び外国税額控除制度などの適用例が多い制度を含めその大部分について「当初申告要件」が廃止され、当初申告で適用を失念した場合でも事後的に「更正の請求」等により適用を受けることができる途が広げられている。
ロ 租税特別措置法上の当初申告要件
上記平成23年12月の税制改正において、租税特別措置法上の当初申告要件については改正が行われてない状況である。租税特別措置法上の各措置については現在も改正が行われていなければ更正の請求等によって事後的にその適用を受けることはできないものとされている。租税特別措置法上の当初申告要件の改正が行われていないのは、特定の政策誘導を図ることを目的とする措置について、更正の請求を含め実質的にその事後的な選択適用を認めることは、「税負担の軽減を通じ政策目的の達成を図る」との当該措置の趣旨そのものを没却するするおそれがあることがその理由とされる。
(3)「適用額の制限」措置
イ 法人税法上の「適用額の制限」に関する改正
上記「当初申告要件」の改正と同時に「適用額の制限」が付されていた以下の措置については修正申告又は更正の請求により、当初申告に記載された金額の制約を受けることなく適正に計算された正当額まで増額させることができるものとする改正が行われている。
ロ 租税特別措置法上の「適用額の制限」に関する改正
租税特別措置法における適用額の制度についてもいくつかの制度に見直しが行われている。平成23年12月改正前は確定申告書等に記載されたすべての事項を基礎として計算する場合に控除を受けることができる正当額が限度とされていたので、修正申告や更正の請求によって適用金額を増額させることができなかったが、平成23年12月改正においてこれらの税額控除制度については、上述のとおり、控除を受けることができる正当額を計算する場合の基礎となる事項が確定申告書等に添付された書類に記載された試験研究費の額とされたため、試験研究費の額以外の事項として記載された金額に変更がある場合には、修正申告や更正の請求によって適用金額を増額させることが可能となった。
ただし、引き続き当初申告要件が課されているので、当初申告でこれらの制度を適用していない場合には、修正申告や更正の請求においてこれらの税額控除制度を適用することはできない。
上記の@試験研究を行った場合の法人税額の特別控除、A中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除及び確定申告書等、修正申告書又は更正の請求書に、控除の対象となる試験研究費の額又は特別試験研究費の額、控除を受ける金額及び控除を受ける金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、確定申告書等に添付された書類に記載された試験研究費の額及び特別試験研究費の額を基礎として計算した金額を限度として控除を受けることができることとされた(措法第42条の4 第21項)。
そのため、確定申告等に添付された書類に記載された試験研究費の額及び特別試験研究費の額以外の事項に変更がある場合には、修正申告や更正の請求によって適正に計算された正当額まで特別控除税額を増額させることができるのではないかと考えられる。
(4)平成23年12月改正の背景とされる判例について
ここで、平成23年12月改正の背景といわれている判例について検討する。確定申告において控除を受ける所得税額を過少に記載したため法人税額を過大に申告したことが、国税通則法23条1項1号所定の要件に該当することは明らかあり、法人税法68条3項の趣旨に反しないと判示した、清涼飲料等の製造及び販売を行う原告による事件判決(最判平成21年7月10日(民集63巻6号1092頁(以下「本件判決」という。)を確認する 。
本件判決は従前の法人税法におけるいわゆる所得税額控除の当初申告要件に係るものであり、平成23年12月改正において、現行法では所得税額控除に係る当初申告要件は廃止され、更正の請求範囲が拡大されている。本件事件は、法人税法上の当初申告要件を争った事例であり、本事件の射程が今回の研究テーマである租税特別措置法の事例に及ぶか否かを検討 する。
(1)試験研究費の税額控除制度が導入された経緯(措置法42条の4第1項及び4項)は次のとおりであるが、その目的・趣旨は類似しており、試験研究費の額に変更はないため同条1項と4項でその趣旨が異なるとはいえない。
また、最大の政策税制であり、かつ重要度の高い研究開発税制については(中略)政策の重点分野への集中投入を図る観点から研究開発税制を大幅に拡充するものとして、試験研究費に税額控除割合を乗じて計算した金額を控除することができるという税額控除制度が導入された経緯があり(一般法人用):措置法42条の4第1項)」、中小企業に関して、中小企業も技術開発を促進する必要性の高まりと大企業と異なり恒常的に試験研究活動を行うことは少ないため(中略)インセンティブとしての機能強化として中小企業者等が支出する試験研究費の額を税額控除対象とすることとし、試験研究費額の12%相当額を控除することができるとする規定とされている((中小企業者用)措置法42条の4第4項)。
(2)本事例において前提とする事実関係
本事例の法人は中小企業者等にも該当するのであるが、一般法人にも該当するのである。そのため、当初申告書の提出時に添付した計算明細書は単なる提出誤りではなく、措置法の要件を充足した有効な計算明細書の添付である。したがって、同法人が明細書の添付を怠った場合と状況を異にしている。また、試験研究費の額を限度として正当に計算した計算明細書を更正請求書に添付していることから適法であると認められる。
しかしながら、当初確定申告書のその記載された金額と同額又はその金額が限度であることを法は要求しているものと考えられる。
本事例の対象法人は一般法人に該当するが、同時に対象法人は中小事業者にも該当する。当初申告書に添付した計算明細書に記載した試験研究費と更正請求書に添付した計算明細書に記載した試験研究費とは同額である。
(3)当初確定申告書の添付書類の記載事項について
法人税法施行規則34条の別表の規定(大阪高裁平21.7.30、神戸地裁平21.1.14)について
イ 法人税法では、施行規則第34条において、法人税法74条第1項第6号(確定申告書の記載事項)に規定する財務省令で定める事項として別表の書式を定めている。そして、法人税法施行規則第34条2項において「確定申告書(当該申告書に係る修正申告書及び更正請求書を含む。)の記載事項及びこれに添付すべき書類の記載事項のうち、…別表二から別表六(三十一)まで(更正請求書にあっては、別表一を除く。)に定めるものの記載については、これらの表の書式によらなければならない。」と規定する(以下、同項の規定する書類を「法人税法規則書式」という。)。
また、租税特別措置法第42条の4第21項においては次のように規定されている。確定申告書等(これらの規定により控除を受ける額を増加させる修正申告書又は更正請求書を提出する場合には、当該修正申告書又は更正請求書を含む。)にこれらの規定による控除の対象となる試験研究費の額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用することとされている。すなわち、「確定申告書等に試験研究費の額から控除を受ける金額までの計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する」旨規定する(以下、同項が規定する書類を「措置法書類」という。)のである。
この文言からすると、法人税法規則書式を規定し、他に添付書類が必要であることを示したものに過ぎないと解される。
したがって、本件の場合、計算に関する明細の添付は措置法書類として必ずしも法人税法規則書式が添付されていないからといって、租税特別措置法第42条の4第21項に規定する措置法書類(明細書)の添付がないということはできないと考えられる。
ロ 言い換えると、当初申告要件の適用を受けるために、確定申告書に適法な明細書の添付が行われていることを前提として、同一の内容の書式が記載された明細書の「試験研究費の額」を追加で増額していなければ、計算誤りに過ぎないともいえ、控除税額を10%から12%に増額させることは可能であると解される。
ハ 本税額控除の趣旨
本件においては、法人税法規則書式である別表6(9)に係る「試験研究費の額」「控除対象試験研究費の額」「法人税額の特別控除額」が記載され確定申告書に明細書として添付されているが、添付すべき明細書に記載すべき事項を記載していると考えられる。
一方、法人税法規則書式である別表6(10)に係る「試験研究費の額」「控除対象試験研究費の額」「法人税額の特別控除額」が記載され更正請求書に明細書として添付されているが、添付すべき明細書の記載要件を充足しているものと考えられる。
また、当初申告書と更正請求書のいずれの明細書も適法に添付されており、計算の基礎とされる「試験研究費の額」の変更もなされていないことからこの点に関しても租税特別措置法第42条の4第21項に規定する件を充足しているといえる。
他方、確定申告書に明細書として添付されている「法人税額の特別控除額」の計算が10%として計算されているが、そこには計算誤りがあったのであるから、中小企業者等で試験研究費額の12%に相当する額を当期の法人税の額から控除することとして法人税額の特別控除税額を増加させることができると解するのが相当である。
(4)裁判例にみる租税特別措置法第42条の4第21項(後段)の「確定申告書等」の意義
イ 本事例は、「別表六(九)」を添付し、試験研究を行った場合の法人税の特別控除の規定の適用を受けていた法人で、試験研究を行った場合の法人税の特別控除制度において、租税特別措置法42条の4第1項の規定は、試験研究費の額がある場合には、当該試験研究費額の10%に相当する額を当期の法人税の額から控除することとしている。
一方、租税特別措置法42条の4第4項の規定は、中小企業者等で試験研究費の額がある場合には当該試験研究費額の12%に相当する額を当期の法人税の額から控除することとしているが、確定申告後に中小企業者等該当判定によって12%に相当する額の適用が可能であったことが判明したが、更正の請求により12%の税額控除を受けることが可能であるのかどうかが問題となる。
ロ まず、当初確定申告書へ10%(一般用)の計算明細書を添付することで、法が要求する明細書を添付したといえるか否かについてであるが、「一般試験研究費の額に係る法人税法の特別控除に関する明細書」を当初確定申告書に添付して申告を行っており、対象法人が一般法人の要件を具備していることから、法が要求する明細書を添付していると考えられる。
そして、中小企業者等の12%の税額控除についてであるが、文理上は、租税特別措置法第42条の4第21項前段において、「確定申告書等(これらの規定により控除を受ける額を増加させる修正申告書又は更正請求書を提出する場合には、当該修正申告書又は更正請求書を含む。)にこれらの規定による控除の対象となる試験研究費の額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。」と規定されていることからすれば、控除を受ける額を増加させる更正請求書を提出する場合に該当することなど、法が要求する明細書を添付していると考えられる。さらに同条後段で「この場合において、これらの規定により控除される金額の計算の基礎となる試験研究費の額は、確定申告書等に添付された書類に記載された試験研究費の額を限度とする。」と規定されており、本件においては、計算の基礎となる試験研究費の額(試験研究費の額)には変更がないため、更正の請求によって適正に計算された正当額まで適用金額を増額させることができるとする法が要求する明細書を添付していると考えられる。
ハ なお、租税特別措置法第42条の4第1項については、平成23年12月の税法改正以後も引き続き当初申告要件が課されている制度であるため、当初確定申告書に明細書が添付されなかった場合の制限に重点を置いた規定であるとの見方があるのではないかとも考えられる、すなわち本件のように当初申告に添付された明細書が適法に提出された場合は例外であって、同項が予定する状況には当たらない可能性も考えられる。
ニ そこで、雇用者給与等支給増加額の特別税額控除について争われた訴訟(東京地裁平成28年7月8日判決)について検討しておきたい。当該判決においては、「確定申告書等」の意義が争点の一つとされ、その判決の中で、旧措置法第42条の12の4第4項後段の意義について、(措置法42条の4第21項に類似する規定ぶりである)判決において次のように触れている「同項後段の『確定申告書等』が中間申告書及び確定申告書をいうものであることからすれば、(省略)中間申告書及び確定申告書に控除明細書の添付がなければ中間申告書及び確定申告書に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額がないこととなり、本件特別控除の適用を受けることはできないことになる。このように本件特別控除の制度については、いわゆる当初申告要件が設けられたものというべきところ、これは納税者である法人が、中間申告及び確定申告において同制度の適用を受けることを選択しなかった以上、後になってこれを覆し、同制度の適用を受けることを追加的に選択する趣旨で更正の請求等をすることを許さないこととしたものと解される。」と判示している。確定申告書に試験研究費の額を記載した別表六(九)は添付しているものの別表六(十)の添付はなく、更正請求書には、確定申告書に添付した別表六(九)の試験研究費の額と同一の試験研究費の額を記載した別表六(十)を添付しているため、後段の適用額限度要件における当初申告記載額をどのように考えるべきかについて、制度の適用を受ける範囲を追加的に選択する趣旨で更正の請求を行ったわけではないと解される。
一方で、租税特別措置法第42条の4第1項と同条第4項とは別の制度として規定されている以上、1項の制度の適用を選択しながらこれを覆し、4項の制度の適用を受けることは、範囲を追加的に拡張する趣旨であったとも解され、平成23年12月税法改正後も当初申告要件が維持されているのは、厳格に制度を運用するためであったと考えられる。
(5)小 括
これまで検討してきたが、論点の@租税特別措置法を適用する上で明細書として「確定申告書等に添付された書類」とは何か。その波及する論点として別表番号にかかわらず他の租税特別措置法の適用が可能か。という点について、次のように考えられる。
本事例においては、「確定申告書等に添付された書類」のうち確定申告書等については措置法2条2項28号に規定する確定申告書及び中間申告書のことであり、「添付された書類」とは「確定申告書等に試験研究費の額から控除を受ける金額までの計算に関する明細を記載した書類」を示している。
また、本件事例においては、当初申告要件の適用を受けるために、確定申告書等に適法な明細書の添付が行われていることを前提として、すなわち当初申告要件が充足されているとして、同一の内容の書式が記載された明細書の「試験研究費の額」を追加で増額していなければ、別表番号にかかわらず他の租税特別措置法の適用が可能ではないかと考えられる。
しかしながら、波及する点として別表番号にかかわらず他の租税特別措置法の適用が可能かという点においては、「当初確定申告書の添付書類の記載事項について」のとおり、「法人税法規則書式」の記載項目が同一であることを前提として特定事項である試験研究費に追加して増額することがなく当初申告がなされていたとしても、事実関係が異なる場合まで別表番号にかかわらず他の租税特別措置法の適用が可能であるとは言い切れない。
(1)本件に関する条文解説
国税通則法23条1項1号は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準等もしくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより税額が過大であるときは、更正の請求をすることができる旨規定している。
当該規定の趣旨に関しては、これまで更正の請求が認められなかった裁判例では「当初した選択を後になって覆しこれを変更することを認めない趣旨だと解され、当初の選択を変更しようとするものと評価されたために更正の請求が認められなかった。」という裁判例が見受けられる。
(2)札幌地裁(平成29年6月22日)判決の概要
イ 事案の概要
所得税・復興特別所得税における「雇用者給与等支給額が増加した場合の特別控除」に関して、納税者は確定申告時に控除明細書を添付しないまま申告し、後日控除明細書を添付した更正請求を提出。しかし、税務当局は「当初申告に控除明細書の添付がなかったため、特別控除の基礎となる増加額は存在しない」と判断し、更正理由なしとの通知処分を下した。原告はこの処分の取消しを求め提訴した。
ロ 争点と裁判所の判断
裁判所は、「文理解釈上、控除対象額は確定申告書に添付された書類に記載されたものに限る」と明示し、更正請求書への添付では要件を満たさないと判断し、インセンティブ措置としての制度趣旨からも、事後的適用の認容は政策効果を減殺する懸念があるとされ、当初申告要件の厳格な適用が支持された。
ハ 札幌地裁判決の検討
本判決は確定申告書や本件明細書の記載から、納税者が本件特別控除を受ける意思が読み取れる場合にも、適用されるべき本件特別控除の額は本件規定4項後段の文言どおり、当初確定申告書に添付された書類に記載されていた雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限られると解釈すべきことを明らかにした。
この判断を前提とすると、仮に雇用者給与等支給増加額を基礎として計算された金額が当初確定申告書に添付された書類に記載されていた場合、更正請求書に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額(本件事例にいう試験研究費の額)は当初確定申告書のその記載された金額と同額又はその金額が限度であることを法は要求しているものと考えられる。
(3) 東京地裁平成28年7月8日判決の概要について
イ 東京地裁平成28年7月8日判決の概要
東京地裁平成28年7月8日判決において、旧措置法42条の12の4第4項は、その前段において、同条1項の規定は、確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に控除明細書の添付がある場合に限り適用する旨を規定し、また、その後段において、この場合において、同項の規定により控除される金額は、当該確定申告書等に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限るものとする旨を規定する。
ロ 租税法規の原則的な解釈
租税法規は、多数の納税者間の税負担の公平を図る観点から、法的安定性の要請が強く働くのであって、その解釈は、原則として文理解釈によるべきであり、文理解釈によっては規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合に初めて、規定の趣旨・目的等に照らしてその意味内容を明らかにする目的論的解釈によるべきであるところ、前記(1)のとおりの各規定によれば、措置法42条の12の4第4項後段の「確定申告書等」は、中間申告書及び確定申告書をいうものであることが明らかであるというべきである。
そして、同項後段の「確定申告書等」が中間申告書及び確定申告書をいうものであることからすれば、同項後段の規定により、本件特別控除の適用により控除される金額は、中間申告書及び確定申告書に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限られることになる。
ハ 当初申告要件が課せられている趣旨と国税通則法との関連
中間申告書及び確定申告書に控除明細書の添付がなければ、中間申告書及び確定申告書に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額がないことになり、本件特別控除の適用を受けることはできないことになる。このように、本件特別控除の制度については、いわゆる当初申告要件が設けられているものというべきところ、これは、納税者である法人が、中間申告及び確定申告において同制度の適用を受けることを選択しなかった以上、後になってこれを覆し、同制度の適用を受けることを追加的に選択する趣旨で更正の請求等をすることを許さないこととしたものと解される。
以上により、本件特別控除によって控除される金額は、中間申告書及び確定申告書に添付された書類に記載された雇用者給与等支給額を基礎として計算した金額に限られることとなり、中間申告書及び確定申告書に控除明細書の添付がなければ、本件特別控除の適用はできないということになる。
すなわち、本判決においては、原告が、本件法人税確定申告書に控除明細書を添付せず、本件各更正の請求をするに至って初めて控除明細書を添付したのであるから、本件法人税確定申告書に記載した課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法令の規定に従っていなかったことにより当該申告書の提出により納付すべき税額が過大である場合(通則法23条1項)ということはできないこととされた。
なお、本判決において更正の請求ができる場合を示されてはいないが、個別税法の適用額制限の緩和された平成23年12月税法改正後においても、継続して当初申告書に、計算明細書の添付要件が課されている制度においては、当初申告書に更正の請求の適用要件である計算明細書の添付がなければ計算の基礎となる金額(本件事例においては試験研究費の額)がないこととなり、特別税額控除を受けることはできない。
また、更正請求事由である「法律の規定に従っていない又は計算誤りがある」ことが必要とされ、「平成23年12月税法改正における適用額制限の緩和により、国税通則法が規定する更正の請求事由自体の改正は行われていないものの、実質的に更正の請求が認められる範囲が拡大されている 」。
(4)《納税者による選択と更正の請求(国税通則法23条1項1号関係)》
イ 租税法規は、納税者が申告するに当たり、一定の方法を選択して課税標準等及び税額等を計算して申告することを認めているが、納税者が一定の方法を選択して申告した場合、更正の請求により、このような選択を変更することは一般的には認められていないと解される。
この点につき最高判昭62.11.10(以下「昭和62年判決」という。)において、租税特別措置法は医師の社会保険診療に係る必要経費につき、実際に要した個々の経費の積上げに基づく実額計算の方法によるか、一定の標準率に基づく概算による経費控除の方法によるかを納税者の選択に委ねていたが、昭和62年判決は、納税者が必要経費の概算控除の方法を選択して確定申告をした場合には「たとえ実際に要した経費の額が右概算による控除額を超えるため右規定を選択しなかった場合に比して納付すべき税額が多額になったとしても、納税者としては、そのことを理由に国税通則法23条1項1号に基づく更正の請求をすることはできない」とした。当該措置法の規定により事業所得の金額を計算した旨を記載して確定申告をしている場合には、当該措置法の規定が適用される限りは、「もはや実際に要した経費の額がどうであるかを問題とする余地はないのであって、納税者が措置法の右規定に従って計算に誤りなく申告している以上、仮に実際に要した経費の額が右概算による控除額を超えているとしても、そのことは、右にいう[国税通則法23条1項1号の]『国税に関する法律の規定に従っていなかったこと』又は『当該計算に誤りがあったこと』のいずれにも該当しない」とした 。
ロ 本件は税額控除の範囲を追加的に拡張するものでなく、当初から税額控除を受けようとする意思があったことは明らかであるため、更正の請求による正当額への是正を認めるべきと判示した。
本件は、「当初から税額控除を受けようとする意思があったことは明らか」というかなり限定的なケースであるため直ちに引用することはできないが、国税通則法精解18版(令和7年2月14日版大蔵財務協会357−378頁)によると、この判決が平成23年12月改正に影響を与えたと考えられる。
ハ 「適用額制限の見直し」と更正の請求との関係について
「試験研究を行った場合の特別税額控除」については租税特別措置法の改正により、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に、適用対象となる費用の額、控除を受ける金額及びその計算に関する明細を記載した書類を添付した場合に限り、当該確定申告書(当初申告書を指す。)に添付された書類に記載された適用対象となる費用の額を基礎として計算した金額に係る控除を受けることができることが記述された。この結果、更正の請求により、適正に計算された正当額まで当初申告時の控除額を増額することができることとされた(「平成23年12月改正の解説」172頁)。
また、国税通則法精解18版によると、国税通則法23条第1項1号につき更正の請求の当初申告要件の緩和に関する記述に続いて、「(2)控除額の制限の緩和として益金不算入額・控除金額はその金額として確定申告書(当初申告書を指す。)に記載された金額を限度とする旨の定めがある「受取配当等の損金不算入制度」や「試験研究を行った場合の特別税額控除」など、控除等の金額が当初申告の際に記載された金額に限定される控除額の制限がある措置については、当初申告で計算誤りがある場合でも、国税通則法23条第1項1号の規定に従い、更正の請求により控除額の制限を超えての増額はできないこととされていた。」として従前の取扱いに触れた上で、こうした控除額の制限がある措置については、「近年、更正の請求により控除額の増額を認めてもよい場合がある旨の最高裁判決(最高裁平成21年7月10日判決)も出されていたことから、平成23年12月の改正においては更正の請求により、適正に計算された正当額まで当初申告時の控除額を増額することができる」こととされている 。
このように、平成23年12月改正における当初申告要件の廃止又は適用額制限の緩和により、国税通則法が規定する更正の請求事由である「法律の規定に従っていない又は計算誤りがある」(国税通則法23条1項)という点に関する改正は行われていないものの、上述のような取扱いからすれば、個別税法の改正によって、実質的に更正の請求が認められる範囲が拡大されたとも考えられる。
ニ 特別控除の制度の趣旨と本事例へのあてはめ
措置法第42条の4第1項及び第4項の税額控除制度が導入された経緯として、政策の重点分野への集中投入を図る観点から試験研究費の税額控除制度(一般用)が導入され、中小企業も技術基盤の強化に資するために導入された(中小企業用)。これは、いずれも試験研究活動に対するインセンティブ措置として機能することを目的とするものである。
本件特別控除の制度は試験研究活動に対するインセンティブ措置であり特定の政策誘導を図ることを目的とするものであるところ、このような「インセンティブ措置」については、更正の請求を含めその事後的な選択的適用を認めることは税負担の軽減を通じ政策目的の達成を図るとの当該措置の趣旨を没却するおそれがあることから、当初申告要件を廃止することは適当でないと考えられ、当初申告要件が課されているものである。
また、本事例においては当初申告書提出前から、対象法人が一般法人にも中小企業者にも該当することや当初申告書に添付した計算明細書に記載した試験研究費と更正請求書に添付した計算明細書に記載した試験研究費とが同額であることからすると、
追加的な試験研究費関連支出を計算の基礎に取り込むような事実は無いということがうかがえ、「更正の請求を認めたとしても、インセンティブ措置について、事後的な選択適用を認めることにはならず、税負担の軽減を通じ政策目的の達成を図るとの趣旨に反することはない」 とも考えられる。
(1)当初申告要件の充足性について
本事例の場合、計算に関する明細の添付は措置法書類として必ずしも法人税法規則書式が添付されていないからといって、租税特別措置法第42条の4第21項に規定する措置法書類(明細書)の添付がないということはできないと考えられる。
そのように考えると控除税額の計算誤り(10%→12%)に過ぎないともいえ、控除税額を中小企業者として12%の税額控除額の適用も可能であったことが明確であること。文理上この再計算を制限する規定も認められず、その趣旨から検討したとしても、類似する目的・趣旨するものであり試験研究費の増額は行っていないため、事後的な選択適用を認めることにはならず、控除税額の計算誤り(10%→12%)であると解することもできる。
(2)国税通則法第23条第1項第1号《更正の請求》に関し、本件事例が「更正の請求ができる場合」に該当するか否かについて
平成23年12月の個別税法の改正によって、更正の請求が認められる範囲が実質的に拡大され、個別税法で計算項目に誤り等がある場合には、更正の請求が可能とされた。「試験研究を行った場合の特別税額控除制度」についても対象となり得ることとされ、更正の請求により、適正に計算された正当額まで控除額を増額可能とされた。
そのため、本事例に限定すると、更正の請求が認められるのではないかとも考えられるが、措置法上、仮にその様な考え方が成立するとした場合であっても、国税通則法23条1項1号に規定する更正の請求の要件に該当するか否かについて、本事例のように見方によっては選択適用ともとれる場合においても「法令の規定に従っていない」又は「計算に誤りがある」として判断すべきか否かは法令上明確であるとはいえないことから、法令の明確化が望まれる。
| 項目 | ページ |
|---|---|
| はじめに | 26 |
| 第1章 当初申告要件に係る検討事例について | 29 |
| 第1節 当初申告要件の概要 | 29 |
| 第2節 事例の概要及び論点 | 29 |
| 1 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除の当初申告要件等 | 29 |
| 2 事例の概要説明 | 30 |
| 3 論点について | 30 |
| 第2章 当初申告要件の充足性 | 32 |
| 第1節 「当初申告要件」及び「適用額の制限」制度 | 32 |
| 1「当初申告要件」等に関する改正の経緯と現行制度 | 32 |
| 2 租税特別措置法上の当初申告要件 | 33 |
| 3「適用額の制限」措置 | 33 |
| 第2節 平成23年12月改正の背景とされる判例 | 35 |
| 1 事案の概要 | 35 |
| 2 一審・二審判決の状況について | 36 |
| 3 法令の定め | 36 |
| 4 最高裁判決要旨 | 37 |
| 5 改正後の動向等 | 38 |
| 6 最高裁平成21年判決の射程に関する判断について | 39 |
| 第3章 試験研究費の税額控除制度の導入経緯等 | 41 |
| 第1節 試験研究費を行った場合の法人税額の特別控除 | 41 |
| 1《試験研究を行った場合の法人税額の特別控除》の規定について | 41 |
| 2《試験研究を行った場合の法人税額の特別控除》の趣旨について | 42 |
| 3 本事例において前提とする事実関係 | 43 |
| 第2節 当初確定申告書の添付書類の記載事項について | 43 |
| 1 いわゆる「法人税法規則書式」と「措置法書類」について | 43 |
| 2 本事例において | 44 |
| 第3節 本税額控除の充足性 | 45 |
| 第4節 裁判例にみる租税特別措置法第42条の4第21項(後段)の「確定申告書等」の意義 | 45 |
| 1 12%の税額控除を受けることは可能か | 45 |
| 2 当初申告要件を充足しているか | 46 |
| 3 引き続き当初申告要件が課されている制度も同様であるのか | 47 |
| 4 東京地裁平成28年7月8日判決の検討 | 47 |
| 5 制度の適用を受ける範囲を追加的に選択する趣旨 | 48 |
| 第4節 小 括 | 49 |
| 第4章 更正の請求の趣旨等について | 51 |
| 第1節 更正の請求の趣旨等 | 51 |
| 1 更正の請求に関する規定 | 51 |
| 2 国税通則法23条1項1号の趣旨について | 51 |
| 第2節 札幌地裁(平成29年6月22日)判決の概要 | 53 |
| 1 事案の概要 | 53 |
| 2 争点及び争点に関する当事者の主張 | 54 |
| 3 原告の主張 | 54 |
| 4 被告(国側)の主張 | 55 |
| 5 札幌地方裁判所の判断 | 56 |
| 6 札幌地裁判決について | 57 |
| 第3節 東京地裁平成28年7月8日判決の概要について | 57 |
| 1 東京地裁平成28年7月8日判決の概要 | 58 |
| 2 租税法規の原則的な解釈の方法 | 58 |
| 3 当初申告要件が課せられている趣旨と国税通則法との関連 | 59 |
| 第4節 納税者による選択と更正の請求(国税通則法23条1項1号関係) | 60 |
| 1 社会保険診療に係る必要経費の選択の変更 | 60 |
| 2 最高裁平成21年7月10日判決について | 61 |
| 3「適用額制限の見直し」と更正の請求との関係について | 62 |
| 第5節 特別控除の制度の趣旨と本事例へのあてはめ | 63 |
| 第6節 結びに代えて | 64 |
| 1 当初申告要件の充足性について | 64 |
| 2 国税通則法第23条第1項第1号《更正の請求》に関し、本件事例が「更正の請求ができる場合」に該当するか否かについて | 65 |
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